初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁

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第5章〜白草四葉センセイの超恋愛学演習・応用〜⑥

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「自分たちには、演奏の細かな善し悪しはわからないので、吹奏楽部の納得がいくまでリテイクを続けて下さい。広報部は、最後までお付き合いしますので」

 オレは、吹奏楽部顧問に語りかける。

「――――――と、言っても、撮影した映像を編集する時間もあるので、なるべく早くOKテイクを出してもらえる方がありがたいですけどね……」

 微笑しながら、そう伝えると、顧問、部長、副部長の三名はコチラの笑みに応じるように、柔らかな表情でうなずいてくれた。
 撮影の方針を伝え終えたことで、コチラの準備は完了となる。
 壮馬の方に視線を向けると、引き続き、オレたちの会話を聞いていたのだろう、片目を閉じて、人差し指と親指で環を作って、準備OKのサインを送ってきた。

「カメラチェックも終わったみたいなんで、撮影の準備はできました! 演奏の準備ができたら、いつでも声を掛けて下さい」

 早見部長に、そう伝えると、彼女はおっとりとうなずいて、代わりに寿副部長が、

「撮影の準備は、オッケーだって~! みんな~、席について~!!」

と、声を掛ける。
 しかし、さっきも言ったように、部長・副部長・顧問の三人以外の部員は、みな自分自身の演奏の定位置に着いているようだった。
 気合が空回り気味の副部長さんのようすに、クラブ紹介用の撮影ということで、他の部員たちもムダに肩にチカラが入っていないか気になり、扇形に並んだ椅子に腰掛けている吹奏楽部員の方に目を向けると、一列目の中央やや右寄りに座っている紅野アザミと目が合った。
 彼女は、コチラに気付くと、少しはにかんだようすで、ニコリと微笑みかけてきた。その表情に、自分も小さくうなずき返す。
 演奏序盤のソロ・パートを担うということで、彼女自身、相当なプレッシャーを感じているのではないかと想像するのだが、撮影本番の直前でも自分に笑顔を向けてくれたことに、紅野アザミの人柄が表れているような気がした。
 そんなことを考えながら、自分が担当するカメラの位置にたどり着くと、ちょうど、早見部長と寿副部長も自分たちの席に着いたようだ。
 櫻井先生は、指揮台の隣に立っているが、指揮者や撮影係から見て右斜め前四十五度あたりの位置に設置した固定カメラでスタンバイをしていた壮馬から、

「録画スタートしま~す! いつでも、始めてもらって大丈夫で~す」

と、声が掛かると、穏やかにうなずいて指揮台に登り、演奏する部員たちに向き合って、ゆったりとした仕草で指揮の体勢に入った。
 指揮者の仕草の通り、優しい音色で演奏がスタートすると、しばらく櫻井先生の姿をカメラで追っていた壮馬が静かに移動を始め、演奏者たちを正面に見据えるコチラ側に歩いて来た。
 演奏開始から三十秒ほどして、演奏者を俯瞰するカメラの担当だったオレの真横まで来た壮馬は、隣に置かれたもう一台のカメラで、ソロ・パートに合わせたズーム・アップを行う手筈だ。
 それから程なくして、演奏者たちのほとんどが休止のポーズを取ると、いよいよ、紅野のソロ・パート部分がやってきた。
 壮馬は、カメラを彼女の方に向け、サックス演奏のワン・ショットを始めたようだ。
 全体を見渡すカメラを担当しているオレは、ビデオカメラの液晶モニターから目を離し、しばし、紅野アザミの演奏に見入ってしまう。
 軽やかなようすで演奏する彼女とは裏腹に、オレの方はハラハラと固唾を飲んで見守っていたのだが、紅野は、五十秒近くにおよぶソロ・パートを見事に演奏しきってみせた。
 彼女のソロ演奏が終わると思わず手を叩きそうになってしまったが、撮影中に余計な雑音を載せてはならない、と自重する。
 この辺りが、壮馬に

「打ち合わせ通り、シッカリ頼むよ」

と注意喚起されてしまうところなんだろうな、と考えつつ、代わりに、静かに息を吐きだして緊張を解くと、再びカメラの液晶モニターに目を向け、吹奏楽部全体の演奏に目を向ける。

「今日のために、みっちり練習してきた」

 そういった副部長の言葉に偽りはなかったようで、細かな演奏の善し悪しまではわからないものの、素人の自分には、紅野だけでなく、吹奏楽部自体の演奏が素晴らしいもののように感じられた。
 演奏が進むうちに、壮馬は、後方に位置する鍵盤楽器や打楽器の奏者にもクローズ・アップしているのか、タイミング良くカメラを左右に動かしている。
 五分半におよぶ演奏が終了し、しばらく余韻を持たせた後、オレと壮馬は録画を停止し、

「一回目の演奏の撮影は終了で~す!」

吹奏楽部のメンバーに向かって、声を掛ける。
 さらに、オレは指揮者の櫻井先生のもとに小走りで駆け寄り、

「どうですか先生? 撮影係としては、一発OKでも問題ないと思うんですが……」

と、たずねると、顧問の教師は丁寧な口調で、

「ご冗談を……今のは、スポーツで言うところの肩慣らしですよ? 広報部のお二人には、時間の許す限り付き合っていただきますから、覚悟して下さい」

などと、恐ろしいことを語った。

(なるほど……これが、紅野の言ってた『粘着イケメン妖怪』の本性か……)

感じたことを表情に出さないよう、注意しつつ、

「わかりました! 先生と部員サンたちが納得の行く演奏が出来たら教えて下さい。自分たちは、カメラワークを工夫したりして、より良い映像が撮れるようにしていくので……」

そう伝えて、再びカメラ位置に移動し、撮影の準備に入る。
 固定カメラの置かれた場所に戻ると、壮馬が苦笑交じりに話し掛けてきた。

「やっぱり、とことん付き合うしかないみたいだね~」

「まぁ、乗りかかった船ってヤツだ……気の済むまでやってもらおうぜ」

 そう返答すると、「そうだね!」と、さわやかに応じて、相棒は指揮者を撮影するため、向かって右側のカメラの方に移動して行った。
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