37 / 454
第5章〜白草四葉センセイの超恋愛学演習・応用〜⑥
しおりを挟む
「自分たちには、演奏の細かな善し悪しはわからないので、吹奏楽部の納得がいくまでリテイクを続けて下さい。広報部は、最後までお付き合いしますので」
オレは、吹奏楽部顧問に語りかける。
「――――――と、言っても、撮影した映像を編集する時間もあるので、なるべく早くOKテイクを出してもらえる方がありがたいですけどね……」
微笑しながら、そう伝えると、顧問、部長、副部長の三名はコチラの笑みに応じるように、柔らかな表情でうなずいてくれた。
撮影の方針を伝え終えたことで、コチラの準備は完了となる。
壮馬の方に視線を向けると、引き続き、オレたちの会話を聞いていたのだろう、片目を閉じて、人差し指と親指で環を作って、準備OKのサインを送ってきた。
「カメラチェックも終わったみたいなんで、撮影の準備はできました! 演奏の準備ができたら、いつでも声を掛けて下さい」
早見部長に、そう伝えると、彼女はおっとりとうなずいて、代わりに寿副部長が、
「撮影の準備は、オッケーだって~! みんな~、席について~!!」
と、声を掛ける。
しかし、さっきも言ったように、部長・副部長・顧問の三人以外の部員は、みな自分自身の演奏の定位置に着いているようだった。
気合が空回り気味の副部長さんのようすに、クラブ紹介用の撮影ということで、他の部員たちもムダに肩にチカラが入っていないか気になり、扇形に並んだ椅子に腰掛けている吹奏楽部員の方に目を向けると、一列目の中央やや右寄りに座っている紅野アザミと目が合った。
彼女は、コチラに気付くと、少しはにかんだようすで、ニコリと微笑みかけてきた。その表情に、自分も小さくうなずき返す。
演奏序盤のソロ・パートを担うということで、彼女自身、相当なプレッシャーを感じているのではないかと想像するのだが、撮影本番の直前でも自分に笑顔を向けてくれたことに、紅野アザミの人柄が表れているような気がした。
そんなことを考えながら、自分が担当するカメラの位置にたどり着くと、ちょうど、早見部長と寿副部長も自分たちの席に着いたようだ。
櫻井先生は、指揮台の隣に立っているが、指揮者や撮影係から見て右斜め前四十五度あたりの位置に設置した固定カメラでスタンバイをしていた壮馬から、
「録画スタートしま~す! いつでも、始めてもらって大丈夫で~す」
と、声が掛かると、穏やかにうなずいて指揮台に登り、演奏する部員たちに向き合って、ゆったりとした仕草で指揮の体勢に入った。
指揮者の仕草の通り、優しい音色で演奏がスタートすると、しばらく櫻井先生の姿をカメラで追っていた壮馬が静かに移動を始め、演奏者たちを正面に見据えるコチラ側に歩いて来た。
演奏開始から三十秒ほどして、演奏者を俯瞰するカメラの担当だったオレの真横まで来た壮馬は、隣に置かれたもう一台のカメラで、ソロ・パートに合わせたズーム・アップを行う手筈だ。
それから程なくして、演奏者たちのほとんどが休止のポーズを取ると、いよいよ、紅野のソロ・パート部分がやってきた。
壮馬は、カメラを彼女の方に向け、サックス演奏のワン・ショットを始めたようだ。
全体を見渡すカメラを担当しているオレは、ビデオカメラの液晶モニターから目を離し、しばし、紅野アザミの演奏に見入ってしまう。
軽やかなようすで演奏する彼女とは裏腹に、オレの方はハラハラと固唾を飲んで見守っていたのだが、紅野は、五十秒近くにおよぶソロ・パートを見事に演奏しきってみせた。
彼女のソロ演奏が終わると思わず手を叩きそうになってしまったが、撮影中に余計な雑音を載せてはならない、と自重する。
この辺りが、壮馬に
「打ち合わせ通り、シッカリ頼むよ」
と注意喚起されてしまうところなんだろうな、と考えつつ、代わりに、静かに息を吐きだして緊張を解くと、再びカメラの液晶モニターに目を向け、吹奏楽部全体の演奏に目を向ける。
「今日のために、みっちり練習してきた」
そういった副部長の言葉に偽りはなかったようで、細かな演奏の善し悪しまではわからないものの、素人の自分には、紅野だけでなく、吹奏楽部自体の演奏が素晴らしいもののように感じられた。
演奏が進むうちに、壮馬は、後方に位置する鍵盤楽器や打楽器の奏者にもクローズ・アップしているのか、タイミング良くカメラを左右に動かしている。
五分半におよぶ演奏が終了し、しばらく余韻を持たせた後、オレと壮馬は録画を停止し、
「一回目の演奏の撮影は終了で~す!」
吹奏楽部のメンバーに向かって、声を掛ける。
さらに、オレは指揮者の櫻井先生のもとに小走りで駆け寄り、
「どうですか先生? 撮影係としては、一発OKでも問題ないと思うんですが……」
と、たずねると、顧問の教師は丁寧な口調で、
「ご冗談を……今のは、スポーツで言うところの肩慣らしですよ? 広報部のお二人には、時間の許す限り付き合っていただきますから、覚悟して下さい」
などと、恐ろしいことを語った。
(なるほど……これが、紅野の言ってた『粘着イケメン妖怪』の本性か……)
感じたことを表情に出さないよう、注意しつつ、
「わかりました! 先生と部員サンたちが納得の行く演奏が出来たら教えて下さい。自分たちは、カメラワークを工夫したりして、より良い映像が撮れるようにしていくので……」
そう伝えて、再びカメラ位置に移動し、撮影の準備に入る。
固定カメラの置かれた場所に戻ると、壮馬が苦笑交じりに話し掛けてきた。
「やっぱり、とことん付き合うしかないみたいだね~」
「まぁ、乗りかかった船ってヤツだ……気の済むまでやってもらおうぜ」
そう返答すると、「そうだね!」と、さわやかに応じて、相棒は指揮者を撮影するため、向かって右側のカメラの方に移動して行った。
オレは、吹奏楽部顧問に語りかける。
「――――――と、言っても、撮影した映像を編集する時間もあるので、なるべく早くOKテイクを出してもらえる方がありがたいですけどね……」
微笑しながら、そう伝えると、顧問、部長、副部長の三名はコチラの笑みに応じるように、柔らかな表情でうなずいてくれた。
撮影の方針を伝え終えたことで、コチラの準備は完了となる。
壮馬の方に視線を向けると、引き続き、オレたちの会話を聞いていたのだろう、片目を閉じて、人差し指と親指で環を作って、準備OKのサインを送ってきた。
「カメラチェックも終わったみたいなんで、撮影の準備はできました! 演奏の準備ができたら、いつでも声を掛けて下さい」
早見部長に、そう伝えると、彼女はおっとりとうなずいて、代わりに寿副部長が、
「撮影の準備は、オッケーだって~! みんな~、席について~!!」
と、声を掛ける。
しかし、さっきも言ったように、部長・副部長・顧問の三人以外の部員は、みな自分自身の演奏の定位置に着いているようだった。
気合が空回り気味の副部長さんのようすに、クラブ紹介用の撮影ということで、他の部員たちもムダに肩にチカラが入っていないか気になり、扇形に並んだ椅子に腰掛けている吹奏楽部員の方に目を向けると、一列目の中央やや右寄りに座っている紅野アザミと目が合った。
彼女は、コチラに気付くと、少しはにかんだようすで、ニコリと微笑みかけてきた。その表情に、自分も小さくうなずき返す。
演奏序盤のソロ・パートを担うということで、彼女自身、相当なプレッシャーを感じているのではないかと想像するのだが、撮影本番の直前でも自分に笑顔を向けてくれたことに、紅野アザミの人柄が表れているような気がした。
そんなことを考えながら、自分が担当するカメラの位置にたどり着くと、ちょうど、早見部長と寿副部長も自分たちの席に着いたようだ。
櫻井先生は、指揮台の隣に立っているが、指揮者や撮影係から見て右斜め前四十五度あたりの位置に設置した固定カメラでスタンバイをしていた壮馬から、
「録画スタートしま~す! いつでも、始めてもらって大丈夫で~す」
と、声が掛かると、穏やかにうなずいて指揮台に登り、演奏する部員たちに向き合って、ゆったりとした仕草で指揮の体勢に入った。
指揮者の仕草の通り、優しい音色で演奏がスタートすると、しばらく櫻井先生の姿をカメラで追っていた壮馬が静かに移動を始め、演奏者たちを正面に見据えるコチラ側に歩いて来た。
演奏開始から三十秒ほどして、演奏者を俯瞰するカメラの担当だったオレの真横まで来た壮馬は、隣に置かれたもう一台のカメラで、ソロ・パートに合わせたズーム・アップを行う手筈だ。
それから程なくして、演奏者たちのほとんどが休止のポーズを取ると、いよいよ、紅野のソロ・パート部分がやってきた。
壮馬は、カメラを彼女の方に向け、サックス演奏のワン・ショットを始めたようだ。
全体を見渡すカメラを担当しているオレは、ビデオカメラの液晶モニターから目を離し、しばし、紅野アザミの演奏に見入ってしまう。
軽やかなようすで演奏する彼女とは裏腹に、オレの方はハラハラと固唾を飲んで見守っていたのだが、紅野は、五十秒近くにおよぶソロ・パートを見事に演奏しきってみせた。
彼女のソロ演奏が終わると思わず手を叩きそうになってしまったが、撮影中に余計な雑音を載せてはならない、と自重する。
この辺りが、壮馬に
「打ち合わせ通り、シッカリ頼むよ」
と注意喚起されてしまうところなんだろうな、と考えつつ、代わりに、静かに息を吐きだして緊張を解くと、再びカメラの液晶モニターに目を向け、吹奏楽部全体の演奏に目を向ける。
「今日のために、みっちり練習してきた」
そういった副部長の言葉に偽りはなかったようで、細かな演奏の善し悪しまではわからないものの、素人の自分には、紅野だけでなく、吹奏楽部自体の演奏が素晴らしいもののように感じられた。
演奏が進むうちに、壮馬は、後方に位置する鍵盤楽器や打楽器の奏者にもクローズ・アップしているのか、タイミング良くカメラを左右に動かしている。
五分半におよぶ演奏が終了し、しばらく余韻を持たせた後、オレと壮馬は録画を停止し、
「一回目の演奏の撮影は終了で~す!」
吹奏楽部のメンバーに向かって、声を掛ける。
さらに、オレは指揮者の櫻井先生のもとに小走りで駆け寄り、
「どうですか先生? 撮影係としては、一発OKでも問題ないと思うんですが……」
と、たずねると、顧問の教師は丁寧な口調で、
「ご冗談を……今のは、スポーツで言うところの肩慣らしですよ? 広報部のお二人には、時間の許す限り付き合っていただきますから、覚悟して下さい」
などと、恐ろしいことを語った。
(なるほど……これが、紅野の言ってた『粘着イケメン妖怪』の本性か……)
感じたことを表情に出さないよう、注意しつつ、
「わかりました! 先生と部員サンたちが納得の行く演奏が出来たら教えて下さい。自分たちは、カメラワークを工夫したりして、より良い映像が撮れるようにしていくので……」
そう伝えて、再びカメラ位置に移動し、撮影の準備に入る。
固定カメラの置かれた場所に戻ると、壮馬が苦笑交じりに話し掛けてきた。
「やっぱり、とことん付き合うしかないみたいだね~」
「まぁ、乗りかかった船ってヤツだ……気の済むまでやってもらおうぜ」
そう返答すると、「そうだね!」と、さわやかに応じて、相棒は指揮者を撮影するため、向かって右側のカメラの方に移動して行った。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話
頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。
綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。
だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。
中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。
とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。
高嶺の花。
そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。
だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。
しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。
それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。
他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。
存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。
両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。
拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。
そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。
それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。
イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。
付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる