21 / 331
第3章〜白草四葉センセイの超恋愛学演習・基礎〜④
しおりを挟む
4月11日(月)
週明けの月曜日――――――。
土曜日の午前中から、白草四葉のレクチャーをみっちりと受けたオレは、彼女が語った『最初に取るべき行動』に関する内容を頭のなかで整理しながら、一日を過ごしていた。
教職員の離任式や対面式、春休みの課題考査など新学期らしい重要イベントがあったような気がするのだが……。
いずれも上の空に近い状態の中で時間が過ぎて行ってしまったため、まともに記憶に残っていない(課題考査の結果については、考えないことにした)。
こんな風に、午前中の時間を過ごしてしまったのは、自称・恋愛アドバイザーが、週明けに達成するべきタスクを課してきたからだ。
白草四葉は、今回の企画の最初のミッションとして、こんな課題を提示してきた。
「今回みたいなケースの場合、黒田クンが、最初にするべきことは、紅野サンとの関係を再構築すること」
「まずは、春休み前に、彼女の気持ちを考えずに、急に告白したこと、それから、出来れば動画の件について、キッチリと謝罪しておいてね」
「そして、最後に『これからも、クラスメートとして、委員の仕事を一緒に行う共同作業者として、変わらずに接してもらいたい』と告げること」
先週末の始業式当日は、よりによって、紅野アザミと同じクラスで同じ委員を任されるという最悪の事態に遭遇しながらも、なんとか平穏に過ごすことができたが……。
二年のクラスになって、教室の座席が離れたとは言え、クラス委員として、ともに仕事をしていく上で、会話を交わさないということはあり得ない。
白草の助言の有無に関わらず、少しでも早く紅野との関係を以前と同じように、気さくに語り合える仲に戻すのが必要であることくらい、頭では理解できている。
しかし――――――。
いざとなると、二週間前、彼女に告白をした時以上の緊張感を覚えている自分に気付いた。
(このままじゃダメなことは、わかっているが……)
(なにせ、一度、告白に失敗しているからなぁ……)
白草から与えられたミッションと春休み前の失態による煩悶の板挟みに合いながら、進路希望調査と、前年度の成績および課題考査の結果を元にした進路相談に関するアンケートを収集するというクラス委員の仕事をユリちゃん先生に任されたオレと紅野アザミは、今日も放課後に二人して教室に居残りをしている。
(さて、どうやって、この問題を切り出すべきか……)
そんなことを延々と考えていると、紅野の方から話しかけてきた。
「ねぇ、黒田くん……金曜日にも言ったかもだけど、また、同じ委員の仕事になったね」
不意を突かれたようなカタチになり、「あ、あぁ、そうだな……」と、上ずった声で相槌を返すことになってしまったが、
(せっかく、紅野から話しかけて来てくれたんだ……この機会に、伝えておくか)
そう思い直し、思い切って、「そのこと、なんだけどさ……」と、懸案の問題を切り出す。紅野アザミは、少し小首をかしげたような仕草で、こちらの言葉を待ってくれているようだ。
「春休みの直前に、紅野と二人になった時にオレが言ったことなんだけど……紅野の気持ちを考えずに、一方的に自分の気持ちを押し付けるカタチになって、本当に申し訳なかった……あのあと、紅野が残してくれたメモを見て考え直したんだ」
慎重に言葉を選びながら、紅野に対する今の自分の気持を伝える。
「随分、自分勝手なコトをしてしまったなって……あんな情けないトコロを見せてしまったうえで、言えるコトじゃないかも知れないが……これからも、クラスメートとして、クラス委員の仕事を一緒にするペアとして、一年の時と変わらずに接してもらえると嬉しい」
なるべく、早口にならないように気をつけながらも、一気にそこまで話し終えた。
こちらの言葉に、彼女はどんな反応を示すのだろう――――――。
緊張で、脇から汗が伝うのが感じられる。
すると、紅野は、少し目線を下げ、かわいく作った拳を口元に当てながら、「フッ」と、柔らかな笑みを見せ、つぶやくように語った。
「あっ、ゴメンね! 黒田くんが、あまりに真剣な表情だったから……だって、春休みの前の時よりも、緊張してるみたいなんだもの……でも、ありがとう」
彼女の口からこぼれた感謝を意味する言葉に、不思議そうな表情をしたためだろうか、紅野アザミは、言葉を付け足す。
「あ、『ありがとう』っていうのは、ちゃんと、私のコトを考えてくれていたんだな、ってわかったから……私の方も、キッチリと返事ができた訳じゃなかったから、どうしようかな、って悩んでたんだ……」
紅野は、そう言って、少しだけ顔を伏せた後、もう一度、こちらに視線を向ける。
「でも、黒田くんからそんな風に言ってもらえて、気持ちがスゴく楽になった。だから、『ありがとう』って、伝えたいなって……」
微かに、はにかみながら語るクラスメートの表情は、クラス委員として、教師とクラスの連中から信頼されている紅野アザミとしてのものとは、少しだけ違って見えた。
その仕草と表情には、オレの鼓動を早める効果があったが、そのことは、なるべく顔色に出さないように努めて、
「オレの方こそ、そう言ってもらえると助かる。ありがとう」
と、感謝の気持だけは素直に伝えたあと、もう一つ、謝罪しておかなければならない点について、再び切り出す。
「あと、もしかしたら、紅野もすでに知っているかもしれないが……オレは、春休み中に、自分たちのアカウントで、自分が失恋したことを語る動画をアゲてしまった。本当に申し訳ない」
目の前の彼女に対して、深々と頭を下げる。
「動画は、削除しているけど、校内でも視聴している人間がいると思う。もちろん、動画の中で、紅野の名前を出したりはしていないが……もし、このことで、紅野が、なにか言われるようなことがあったら、すべてオレの責任だ! だから、問題が起こったら、すぐに言ってくれないか? 自分が出来る限りのことをさせてもらうから……」
最初の問題は自分と紅野の二人で解決すべき内容だが、こちらは、第三者が絡んで来る可能性のある問題だ。さらに、この件で、彼女を巻き込んでしまったことは、完全に自分たちの落ち度だ。そのためか、さきほどまでとは変わって、紅野は伏し目がちになり、表情も曇ったものになる。
週明けの月曜日――――――。
土曜日の午前中から、白草四葉のレクチャーをみっちりと受けたオレは、彼女が語った『最初に取るべき行動』に関する内容を頭のなかで整理しながら、一日を過ごしていた。
教職員の離任式や対面式、春休みの課題考査など新学期らしい重要イベントがあったような気がするのだが……。
いずれも上の空に近い状態の中で時間が過ぎて行ってしまったため、まともに記憶に残っていない(課題考査の結果については、考えないことにした)。
こんな風に、午前中の時間を過ごしてしまったのは、自称・恋愛アドバイザーが、週明けに達成するべきタスクを課してきたからだ。
白草四葉は、今回の企画の最初のミッションとして、こんな課題を提示してきた。
「今回みたいなケースの場合、黒田クンが、最初にするべきことは、紅野サンとの関係を再構築すること」
「まずは、春休み前に、彼女の気持ちを考えずに、急に告白したこと、それから、出来れば動画の件について、キッチリと謝罪しておいてね」
「そして、最後に『これからも、クラスメートとして、委員の仕事を一緒に行う共同作業者として、変わらずに接してもらいたい』と告げること」
先週末の始業式当日は、よりによって、紅野アザミと同じクラスで同じ委員を任されるという最悪の事態に遭遇しながらも、なんとか平穏に過ごすことができたが……。
二年のクラスになって、教室の座席が離れたとは言え、クラス委員として、ともに仕事をしていく上で、会話を交わさないということはあり得ない。
白草の助言の有無に関わらず、少しでも早く紅野との関係を以前と同じように、気さくに語り合える仲に戻すのが必要であることくらい、頭では理解できている。
しかし――――――。
いざとなると、二週間前、彼女に告白をした時以上の緊張感を覚えている自分に気付いた。
(このままじゃダメなことは、わかっているが……)
(なにせ、一度、告白に失敗しているからなぁ……)
白草から与えられたミッションと春休み前の失態による煩悶の板挟みに合いながら、進路希望調査と、前年度の成績および課題考査の結果を元にした進路相談に関するアンケートを収集するというクラス委員の仕事をユリちゃん先生に任されたオレと紅野アザミは、今日も放課後に二人して教室に居残りをしている。
(さて、どうやって、この問題を切り出すべきか……)
そんなことを延々と考えていると、紅野の方から話しかけてきた。
「ねぇ、黒田くん……金曜日にも言ったかもだけど、また、同じ委員の仕事になったね」
不意を突かれたようなカタチになり、「あ、あぁ、そうだな……」と、上ずった声で相槌を返すことになってしまったが、
(せっかく、紅野から話しかけて来てくれたんだ……この機会に、伝えておくか)
そう思い直し、思い切って、「そのこと、なんだけどさ……」と、懸案の問題を切り出す。紅野アザミは、少し小首をかしげたような仕草で、こちらの言葉を待ってくれているようだ。
「春休みの直前に、紅野と二人になった時にオレが言ったことなんだけど……紅野の気持ちを考えずに、一方的に自分の気持ちを押し付けるカタチになって、本当に申し訳なかった……あのあと、紅野が残してくれたメモを見て考え直したんだ」
慎重に言葉を選びながら、紅野に対する今の自分の気持を伝える。
「随分、自分勝手なコトをしてしまったなって……あんな情けないトコロを見せてしまったうえで、言えるコトじゃないかも知れないが……これからも、クラスメートとして、クラス委員の仕事を一緒にするペアとして、一年の時と変わらずに接してもらえると嬉しい」
なるべく、早口にならないように気をつけながらも、一気にそこまで話し終えた。
こちらの言葉に、彼女はどんな反応を示すのだろう――――――。
緊張で、脇から汗が伝うのが感じられる。
すると、紅野は、少し目線を下げ、かわいく作った拳を口元に当てながら、「フッ」と、柔らかな笑みを見せ、つぶやくように語った。
「あっ、ゴメンね! 黒田くんが、あまりに真剣な表情だったから……だって、春休みの前の時よりも、緊張してるみたいなんだもの……でも、ありがとう」
彼女の口からこぼれた感謝を意味する言葉に、不思議そうな表情をしたためだろうか、紅野アザミは、言葉を付け足す。
「あ、『ありがとう』っていうのは、ちゃんと、私のコトを考えてくれていたんだな、ってわかったから……私の方も、キッチリと返事ができた訳じゃなかったから、どうしようかな、って悩んでたんだ……」
紅野は、そう言って、少しだけ顔を伏せた後、もう一度、こちらに視線を向ける。
「でも、黒田くんからそんな風に言ってもらえて、気持ちがスゴく楽になった。だから、『ありがとう』って、伝えたいなって……」
微かに、はにかみながら語るクラスメートの表情は、クラス委員として、教師とクラスの連中から信頼されている紅野アザミとしてのものとは、少しだけ違って見えた。
その仕草と表情には、オレの鼓動を早める効果があったが、そのことは、なるべく顔色に出さないように努めて、
「オレの方こそ、そう言ってもらえると助かる。ありがとう」
と、感謝の気持だけは素直に伝えたあと、もう一つ、謝罪しておかなければならない点について、再び切り出す。
「あと、もしかしたら、紅野もすでに知っているかもしれないが……オレは、春休み中に、自分たちのアカウントで、自分が失恋したことを語る動画をアゲてしまった。本当に申し訳ない」
目の前の彼女に対して、深々と頭を下げる。
「動画は、削除しているけど、校内でも視聴している人間がいると思う。もちろん、動画の中で、紅野の名前を出したりはしていないが……もし、このことで、紅野が、なにか言われるようなことがあったら、すべてオレの責任だ! だから、問題が起こったら、すぐに言ってくれないか? 自分が出来る限りのことをさせてもらうから……」
最初の問題は自分と紅野の二人で解決すべき内容だが、こちらは、第三者が絡んで来る可能性のある問題だ。さらに、この件で、彼女を巻き込んでしまったことは、完全に自分たちの落ち度だ。そのためか、さきほどまでとは変わって、紅野は伏し目がちになり、表情も曇ったものになる。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる