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第2章〜白草四葉センセイの超恋愛学概論〜⑤
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「あっ! もうこんな時間だ!!」
オレが壁掛け時計に目を向けたのと強うに、自身のスマホを確認した壮馬が声を上げ、
「そろそろ三時のおやつタイムだね~」
と、小学生のように無邪気な表情を見せる。
壮馬のテンションが上がっているのにも、理由があった。
「《例のヤツ》、行っとく!?」
オレは、その提案に
「あぁ、そうだな! 白草も来てくれたし!」
と、快活に応じる。
オレたちの会話に、反応した白草は
「《例のヤツ》ってナニ?」
と、疑問を口にし、その問いには、壮馬が答えた。
「ベーカリー・ショップで買ってきたアップル・パイをあたためた上に、アイスクリーム・ショップで買ったアイスをのせるんだ!」
この返答に、白草の頬もゆるむ。
「ナニ、その響き! 超・素敵なんですけど!!」
表情をほころばせて反応する女子に対して、
「まさに、禁断の組み合わせだぜ!? もちろん、カロリーを気にしなければ、な……」
と、オレは、不敵に笑ってみせた。
その一言に、表情を一変させ、白草はムッとした口調で壮馬に問いかける。
「こういうことを言う男子をどう思う黄瀬クン? 黒田クンには、恋愛指南の前に、女子に対する気遣いから、ミッチリとレクチャーすべきかな、と思うだけど……」
「たしかに、その通りだね」
苦笑する壮馬の同意を得られたことに満足しつつ、彼女は、啖呵を切ってきた。
「それに、わたしは、食べても脂肪にならないタイプだから、気を遣っていただかなくても結構です!」
そんな自分と白草の様子を眺めながら、壮馬が、
「それこそ、白草さんが、女子の前で言っちゃイケないセリフなんじゃないの?」
と、小声でつぶやくのをオレは聞き逃さなかった。
そして、親友は、さらに苦笑の度合いを高めながら、
「ほら! 竜司、早く準備してきてよ!」
そう言って、客人へのスイーツの提供をうながす。
その後、編集ルームの隣りにあるオレの部屋の電子レンジで温められたアップルパイと冷凍庫に保管されていたアイスクリームの夢のコラボレーションを堪能したオレたち三人は、企画の成功を誓いあい、話しを終えた白草四葉は、新居が決まるまで居候しているという伯父夫婦の家に戻ることを告げた。
オレと壮馬は、自分たちの《編集スタジオ》のあるマンションから徒歩十数分の場所にあるという伯父さんの家の近くまで彼女を送ることにする。
その道すがら、壮馬が会話を切り出した。
「でも、良かったじゃん、竜司! 二年になって早くも、高校生活の夢のうちの一つ『なぜか学園一の美少女が休み時間のたびに、チーズ牛丼が好物のオレに話しかけて来る件』ってヤツが叶って……」
長い付き合いの友は、すっとボケた表情で、話しを振ってくる。
「あっ!? 誰の好物が、三色チーズ牛丼温玉のせだって!?」
幼なじみのフリに、反応良く切り返すオレに対し、なぜか機嫌を良くしている様子の白草が、ノリノリで、会話に加わってくる。
「黒田クン、可哀想に…………春休みにフラれちゃった上に、そんな非モテ男子特有の妄想までこじらせてしまって……明日からも、学園一の美少女が、休み時間のたびに話しかけてあげるから、元気を出して!」
彼女は、表面上だけの同情と励ましの言葉を掛けながら、肩を震わせ、こみ上げる笑いをこらえている。
「誰が、非モテ男子だ!? しかし、転校早々、自分で学園一の美少女と言い切るとか、スゴい自信だな、白草四葉……」
「確かに……ボクが話しを振った手前、白草さんの言うことを否定するつもりはないけど……変身口上で、『愛と正義の美少女戦士』って、自分で言っちゃうセーラー戦士並みの凄まじい自尊心だね」
「壮馬……言いたいことはわかるが、おまえの話しは、毎回、例えが古すぎる……」
彼女の自己評価高めの発言に、オレたちは、ツッコミを入れつつ、あきれながら感想を述べ合うしか術がない。
一方の白草は、オレたちの言動を塩対応と受け取ったのか、一転して拗ねた表情を見せている。
「ふ~ん……高校生活の夢を叶えてあげようって言ってる相手に、そんな態度を取るんだ、黒田クンは……」
「それは、壮馬の捏造だ……」
そんな彼女に、オレが反論すると、今度は壮馬が口をはさむ。
「なに言ってんの? 某大手通販サイトのレコメンド機能公認で、竜司のアカウントには、同じようなタイトルのラノベがオススメされたんでしょ?」
「アレは、ア◯ゾンで、おまえに頼まれて流行りのライトノベルのタイトルを適当に検索してたら、表示されただけだろう!?」
「いや、きっと、アマ◯ンの人工知能が、『ラブコメばかり検索してる陰キャなおまえは、どうせ、こんな妄想を抱いてるんだろう!? この非モテ野郎!』と、竜司に気を利かせて推薦してくれたんだよ」
「それが事実だとすれば、アマ◯ンのシステムを組んでるエンジニアは、おまえと同じくらいの性格の悪さだってことだな……あのラノベのタイトルが、オススメに表示された時は、思わずスマホを壁に投げつけそうになったわ!」
即興で始まった二人の掛け合いに、白草はあきれつつ、オレにこんなことをたずねてきた。
「二人の仲が良いのはわかったけど……黒田クンが高校生活で本当に叶えたいことって、なんなの?」
「よく聞いてくれた! やっぱり、『校舎の屋上で昼寝をしてたら、校内が謎のテロリスト集団に占拠される』だ! これに勝る内容はないだろう!?」
「普段、校舎の屋上は施錠されて立入禁止だけどね、ウチの学校……ところで、竜司、武器や防具はどうするのさ?」
「防御は、教室内の机を盾にすればイイだろ? 攻勢に出る時の椅子の使い方は、壮馬と一緒に観たジャッ◯ー・チェンの映画で予習済みだ! 問題ない」
オレたち二人の会話のノリについて来れなくなったのか、白草は偏頭痛を感じたかのような仕草をしながら、深いため息をつく。
「ハァ……男子って、こんな非現実的なことしか考えられないの? もっと、周りを見渡して、考えられることがあるんじゃない?」
「現実的なことか……と、すると、学園祭でケガした軽音部の代理で舞台に立って、超絶テクのギターソロで観衆を熱狂させる的なアレか……?」
「そこで、ブレイクダンスじゃなくて、バンドを選ぶ竜司に、ボクのセンスを古いなんて言われたくないなぁ……」
「ミーハーな一般学生共に、ギター演奏の素晴らしさを教えてやるのも目的なんだよ! ラスト・ナンバーは、もちろん、G◯d knows…」
「「それ、あのアニメの曲じゃん!?」」
ギターを弾く技術など持ち合わせていないオレが、漫才初心者にもわかりやすいように、ツッコミどころ満載のお約束のボケを提供すると、声を重ねた壮馬と白草の二人は、お互いに顔を見合わせる。
(いや、今の流れで、ツッコミを入れるべき箇所は、そこじゃないだろう……)
そんなこちらの思いをよそに、壮馬が転入生に問いかけた。
「白草さん、アニメ好きなの?」
「うん……最近は、あまり観ないけど、小学生の頃は、よく観てた……」
彼女はそう答える。
他愛ない会話が一段落し、同世代女子のカリスマになりつつあるインフルエンサーの意外な趣味が判明したところで、オレたちは、白草が仮住まいをしているという伯父さん宅の最寄り駅に到着した。
そして、転入してきてから、わずか半日ほどで親しく話すようになった同級生は、
「ありがとう! ここから伯父さんのお家はすぐだから……」
そう告げたあと、
「ところで……二人は、明日なにか予定はある?」
と、予想もしなかったことをたずねてきた。
オレが壁掛け時計に目を向けたのと強うに、自身のスマホを確認した壮馬が声を上げ、
「そろそろ三時のおやつタイムだね~」
と、小学生のように無邪気な表情を見せる。
壮馬のテンションが上がっているのにも、理由があった。
「《例のヤツ》、行っとく!?」
オレは、その提案に
「あぁ、そうだな! 白草も来てくれたし!」
と、快活に応じる。
オレたちの会話に、反応した白草は
「《例のヤツ》ってナニ?」
と、疑問を口にし、その問いには、壮馬が答えた。
「ベーカリー・ショップで買ってきたアップル・パイをあたためた上に、アイスクリーム・ショップで買ったアイスをのせるんだ!」
この返答に、白草の頬もゆるむ。
「ナニ、その響き! 超・素敵なんですけど!!」
表情をほころばせて反応する女子に対して、
「まさに、禁断の組み合わせだぜ!? もちろん、カロリーを気にしなければ、な……」
と、オレは、不敵に笑ってみせた。
その一言に、表情を一変させ、白草はムッとした口調で壮馬に問いかける。
「こういうことを言う男子をどう思う黄瀬クン? 黒田クンには、恋愛指南の前に、女子に対する気遣いから、ミッチリとレクチャーすべきかな、と思うだけど……」
「たしかに、その通りだね」
苦笑する壮馬の同意を得られたことに満足しつつ、彼女は、啖呵を切ってきた。
「それに、わたしは、食べても脂肪にならないタイプだから、気を遣っていただかなくても結構です!」
そんな自分と白草の様子を眺めながら、壮馬が、
「それこそ、白草さんが、女子の前で言っちゃイケないセリフなんじゃないの?」
と、小声でつぶやくのをオレは聞き逃さなかった。
そして、親友は、さらに苦笑の度合いを高めながら、
「ほら! 竜司、早く準備してきてよ!」
そう言って、客人へのスイーツの提供をうながす。
その後、編集ルームの隣りにあるオレの部屋の電子レンジで温められたアップルパイと冷凍庫に保管されていたアイスクリームの夢のコラボレーションを堪能したオレたち三人は、企画の成功を誓いあい、話しを終えた白草四葉は、新居が決まるまで居候しているという伯父夫婦の家に戻ることを告げた。
オレと壮馬は、自分たちの《編集スタジオ》のあるマンションから徒歩十数分の場所にあるという伯父さんの家の近くまで彼女を送ることにする。
その道すがら、壮馬が会話を切り出した。
「でも、良かったじゃん、竜司! 二年になって早くも、高校生活の夢のうちの一つ『なぜか学園一の美少女が休み時間のたびに、チーズ牛丼が好物のオレに話しかけて来る件』ってヤツが叶って……」
長い付き合いの友は、すっとボケた表情で、話しを振ってくる。
「あっ!? 誰の好物が、三色チーズ牛丼温玉のせだって!?」
幼なじみのフリに、反応良く切り返すオレに対し、なぜか機嫌を良くしている様子の白草が、ノリノリで、会話に加わってくる。
「黒田クン、可哀想に…………春休みにフラれちゃった上に、そんな非モテ男子特有の妄想までこじらせてしまって……明日からも、学園一の美少女が、休み時間のたびに話しかけてあげるから、元気を出して!」
彼女は、表面上だけの同情と励ましの言葉を掛けながら、肩を震わせ、こみ上げる笑いをこらえている。
「誰が、非モテ男子だ!? しかし、転校早々、自分で学園一の美少女と言い切るとか、スゴい自信だな、白草四葉……」
「確かに……ボクが話しを振った手前、白草さんの言うことを否定するつもりはないけど……変身口上で、『愛と正義の美少女戦士』って、自分で言っちゃうセーラー戦士並みの凄まじい自尊心だね」
「壮馬……言いたいことはわかるが、おまえの話しは、毎回、例えが古すぎる……」
彼女の自己評価高めの発言に、オレたちは、ツッコミを入れつつ、あきれながら感想を述べ合うしか術がない。
一方の白草は、オレたちの言動を塩対応と受け取ったのか、一転して拗ねた表情を見せている。
「ふ~ん……高校生活の夢を叶えてあげようって言ってる相手に、そんな態度を取るんだ、黒田クンは……」
「それは、壮馬の捏造だ……」
そんな彼女に、オレが反論すると、今度は壮馬が口をはさむ。
「なに言ってんの? 某大手通販サイトのレコメンド機能公認で、竜司のアカウントには、同じようなタイトルのラノベがオススメされたんでしょ?」
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「いや、きっと、アマ◯ンの人工知能が、『ラブコメばかり検索してる陰キャなおまえは、どうせ、こんな妄想を抱いてるんだろう!? この非モテ野郎!』と、竜司に気を利かせて推薦してくれたんだよ」
「それが事実だとすれば、アマ◯ンのシステムを組んでるエンジニアは、おまえと同じくらいの性格の悪さだってことだな……あのラノベのタイトルが、オススメに表示された時は、思わずスマホを壁に投げつけそうになったわ!」
即興で始まった二人の掛け合いに、白草はあきれつつ、オレにこんなことをたずねてきた。
「二人の仲が良いのはわかったけど……黒田クンが高校生活で本当に叶えたいことって、なんなの?」
「よく聞いてくれた! やっぱり、『校舎の屋上で昼寝をしてたら、校内が謎のテロリスト集団に占拠される』だ! これに勝る内容はないだろう!?」
「普段、校舎の屋上は施錠されて立入禁止だけどね、ウチの学校……ところで、竜司、武器や防具はどうするのさ?」
「防御は、教室内の机を盾にすればイイだろ? 攻勢に出る時の椅子の使い方は、壮馬と一緒に観たジャッ◯ー・チェンの映画で予習済みだ! 問題ない」
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「ハァ……男子って、こんな非現実的なことしか考えられないの? もっと、周りを見渡して、考えられることがあるんじゃない?」
「現実的なことか……と、すると、学園祭でケガした軽音部の代理で舞台に立って、超絶テクのギターソロで観衆を熱狂させる的なアレか……?」
「そこで、ブレイクダンスじゃなくて、バンドを選ぶ竜司に、ボクのセンスを古いなんて言われたくないなぁ……」
「ミーハーな一般学生共に、ギター演奏の素晴らしさを教えてやるのも目的なんだよ! ラスト・ナンバーは、もちろん、G◯d knows…」
「「それ、あのアニメの曲じゃん!?」」
ギターを弾く技術など持ち合わせていないオレが、漫才初心者にもわかりやすいように、ツッコミどころ満載のお約束のボケを提供すると、声を重ねた壮馬と白草の二人は、お互いに顔を見合わせる。
(いや、今の流れで、ツッコミを入れるべき箇所は、そこじゃないだろう……)
そんなこちらの思いをよそに、壮馬が転入生に問いかけた。
「白草さん、アニメ好きなの?」
「うん……最近は、あまり観ないけど、小学生の頃は、よく観てた……」
彼女はそう答える。
他愛ない会話が一段落し、同世代女子のカリスマになりつつあるインフルエンサーの意外な趣味が判明したところで、オレたちは、白草が仮住まいをしているという伯父さん宅の最寄り駅に到着した。
そして、転入してきてから、わずか半日ほどで親しく話すようになった同級生は、
「ありがとう! ここから伯父さんのお家はすぐだから……」
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