時のコカリナ

遊馬友仁

文字の大きさ
上 下
99 / 107

第四章〜㉒〜

しおりを挟む
 さらに、オレの前方、数メートルの位置からは、こちらを振り返り、

「おい、ナツキ! どう言うことなんだ!?お まえ、このこと知ってたのか?」

数分前に、快活な笑顔を見せていた悪友が問い掛けてきた。

「あ、あぁ……」

 康之に、それだけ答えると、さらに、トーンを上げた声が響く。

「知ってて、ナニやってんだよ、オマエは!?」

大嶋や康之だけでなく、教室内のあちこちから漏れる声に、担任教師は、

「気持ちはわかるが、今から始業式だ! 校庭に移動するゾ~」

と、教師らしく教室内の空気の切り替えをうながす。

「しゃ~ねぇ。この話は、また後だ!」

 担任の一言に応じて、康之はそう言って、校庭に向かう。
 大嶋も、中嶋の元に駆け寄って、小嶋夏海の件を問おうとしていたが、

「詳しいことは、またあとで話すから……」

と、先送りにされたようだった。



 始業式の全校集会(校庭が広いので、全校生徒が一堂に会していた)と午前中二時間の授業、そして、クラスでの終礼が終了すると、時刻は、午前十一時半を回ろうとしていた。
 放課後の終礼が終わると、哲夫と康之、そして大嶋と中嶋が、自分の席に集まってきた。

「ユカに聞いたけど、坂井も知ってたの? ナツミのこと!」

 予想どおり、会話の口火を切ったのは、やはり、大嶋だった。

「あぁ……」

 始業前に康之に聞かれたときと同様に、短く返答すると、

「なんで、ナツミも、ユカも、坂井も、私に話してくれないの!?」

 憤まんやるかた無い、といった感じで、オレの席の机をバンッ、と両手で打った。
 大嶋の隣の中嶋は、困ったような表情で、

「ユカに話してなかったのは悪いと思うけど、ナツミの家のことでもあるから……」

と、友人を諭す。

「わかってる! だから、ナツミのことを話してもらえなかったことじゃなくて……気付けなかった自分に、腹が立ってるの!!」

 友人になだめられ、自身の想いを打ち明けた大嶋裕美子は、そう言ってうつむいた。
 中嶋や康之は、そんな彼女のようすを見て、掛ける言葉が見つからないようだった。
 メンバーの一同が沈黙に陥りそうになる、そんな中、哲夫が口を開く。

「ナツキ、オレとヤスユキの想いも、大嶋と同じだ……そこで、おまえに頼みたいことがあるんだが、いいか?」

 今まで口を開かなかった友人の意外な一言に、

「なんだ、哲夫? 頼みたいことって……」

と、応じると、男子バレーボール部の次期キャプテン候補は、こんな提案をしてきた。

「ナツキ自身も色々と考えているんじゃないかとは思うが……今の時点で、小嶋と向き合って話せるのは、ナツキ、おまえだけだ……オレたちが、小嶋に伝えられない想いを代わりに伝えて来てくれないか?」

「えっ!?」

 思わぬ申し入れに、次の言葉を探しあぐねていると、哲夫は、オレの机を取り囲んでいる二人にたずねる。

「ヤスユキ、大嶋……勝手に提案してしまって申し訳ないが、それでも良いか?」

「あぁ、いいぜ!」

 友人の言葉を快諾する康之。

「しょうがないな……確かに、夏休み中、ナツキと一番多く話してたのは坂井だしね……」

 大嶋も、クラスメートの提案に乗ることにしたようだ。
 一方のオレ自身は、朝一番に、放課後の予定について約束をしていた悪友の表情を確認しながら、

「いや、しかし……今日は、ヤスユキの話しを聞く約束が……」

と、口にするとーーーーーー。

「バカヤロー! 自分のヘタレさの言い訳にオレを使うんじゃねぇ! ツレの都合なんて関係なく、いま、自分のやるべきことを考えろ!」

 仲間内でジャレ合う時以外に、大声を出すことは滅多にない康之の強い語気に気圧され、

「あ、あぁ……わかった」

と、答える。
 康之は、こちらの返答に満足したような表情を見せ、大嶋と哲夫は、安堵した顔色で、胸をなでおろす。
 そんな自分たち四人のようすを黙って見ていた中嶋由香は、落ち着いた声で、

「坂井、覚悟は決まった?」

そうたずねてくる。
 メンバーの中で一人、冷静沈着なクラスメートの問い掛けに、

「お、おう……」

と、応じると、

「じゃ、時間もないし、ちょっと来て!」

そう言って、教室の外に移動するよう、うながした。
 そして、中嶋の後から廊下に向かおうとするオレに、

「ナツキ!」

と、呼び止める声がする。

「直接、バス停に向かうなら、この時期だし、水分補給も必要だろ? 昼飯代の代わりに、取っとけよ」

 ぶっきらぼうに言った康之は、百円玉と五十円玉を一枚ずつ手渡してきた。
 不意に提供された好意に、あらためて、友人の顔をマジマジと眺めると、悪友は、さらに言葉を続ける。

「なんだよ!? 昼飯は、あらためて奢ってやるから! ドリンクなら、それで足りるだろ?」

「ありがとう! 好意は遠慮なく受け取らせてもらう!」

 一言、感謝の言葉を述べ、オレは、通学カバンから財布とスマホを手に取り、さらに、を取り出し、首に掛けてから、中嶋のあとを追うことにした。
 廊下に向かって足を踏み出した背中からは、

「ヤスユキ、ちょうどタイミングが良かったんじゃないか? 大嶋に相談に乗ってもらったらどうだ?」

と、語る哲夫の声と、

「そうだな……先に、大嶋に話しを聞いてもらうか……」

と答える康之の声が聞こえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~

泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の 元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳  ×  敏腕だけど冷徹と噂されている 俺様部長 木沢彰吾34歳  ある朝、花梨が出社すると  異動の辞令が張り出されていた。  異動先は木沢部長率いる 〝ブランディング戦略部〟    なんでこんな時期に……  あまりの〝異例〟の辞令に  戸惑いを隠せない花梨。  しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!  花梨の前途多難な日々が、今始まる…… *** 元気いっぱい、はりきりガール花梨と ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。

ただいま冷徹上司を調・教・中!

伊吹美香
恋愛
同期から男を寝取られ棄てられた崖っぷちOL 久瀬千尋(くぜちひろ)28歳    × 容姿端麗で仕事もでき一目置かれる恋愛下手課長 平嶋凱莉(ひらしまかいり)35歳 二人はひょんなことから(仮)恋人になることに。 今まで知らなかった素顔を知るたびに、二人の関係は近くなる。 意地と恥から始まった(仮)恋人は(本)恋人になれるのか?

糖度高めな秘密の密会はいかが?

桜井 響華
恋愛
彩羽(いろは)コーポレーションで 雑貨デザイナー兼その他のデザインを 担当している、秋葉 紫です。 毎日のように 鬼畜な企画部長からガミガミ言われて、 日々、癒しを求めています。 ストレス解消法の一つは、 同じ系列のカフェに行く事。 そこには、 癒しの王子様が居るから───・・・・・ カフェのアルバイト店員? でも、本当は御曹司!? 年下王子様系か...Sな俺様上司か… 入社5年目、私にも恋のチャンスが 巡って来たけれど… 早くも波乱の予感───

嫁にするなら訳あり地味子に限る!

登夢
恋愛
ブランド好きの独身エリートの主人公にはほろ苦い恋愛の経験があった。ふとしたことがきっかけで地味な女子社員を部下にまわしてもらったが、地味子に惹かれた主人公は交際を申し込む。悲しい失恋をしたことのある地味子は躊躇するが、公私を分けてデートを休日に限る約束をして交際を受け入れる。主人公は一日一日を大切にしたいという地味子とデートをかさねてゆく。

処理中です...