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第四章〜⑲〜
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それは、中嶋由香にしても同様のようで、
「私、ここのところ、自分の話しばかりして、ナツミの話しを全然聞けてなかったんだな、って、それがショックで……」
「そう、か……」
今の自分に答えられるのは、それだけだった。
それに、中嶋の気持ちを慰めてあげられるのは、自分ではない気がする。
そんなことを考えていると、電話の向こうの相手は、
「ねぇ、ナツミのことを気使えていなかった私が言う資格はないのかも知れないけど……坂井は、どうするの?」
と、唐突に問い掛けてきた。
(どうするの? と、聞かれても……)
他人の家庭の事情に、ただのクラスメートが、口を挟めるものではない。
そんなことくらいは、中嶋も理解できていると思うのだが……。
「いや、『どうする?』と、言われてもな……小嶋の家のことだから、オレにできることなんて……」
そう答えると、中嶋由香は、めずらしく声を張り上げた。
「そういうことじゃなくて! 坂井は、このまま……『自分の気持ちを伝えないまま、ナツミと離ればなれになることになっても良いのか?』って聞いてるの!」
見た目に反して……と、言っては申し訳ないが、華があって、気の強そうな容姿とは反対に、周囲に気を使うタイプ(だということが夏休みの間にわかった)である彼女の意外な主張に戸惑い、
「いや、それは、その……」
そう言ったあとの言葉が続かない。
困惑するこちらのようすが伝わったのか、中嶋は、普段の調子にもどり、
「あっ、ゴメン……坂井を責めたいわけじゃないんだけど……」
と、気づかう言葉を掛けてくれた。
そんな、自分への配慮に感謝しつつ、
「いや、中嶋の言いたいことはわかったから、気にしないでくれ……」
そう伝えると、「うん、ありがとう……」と、答えたあと、
「でも、坂井は、本当にこのままで良いの?私は、想いを伝えないまま、坂井に後悔して欲しくないし……それに、いまのナツミの気持ちを救ってあげられるのは、坂井だけだと思うからーーーーーー」
彼女の持論を展開した。
中嶋由香が、『オレ自身の想いを伝えろ』と、背中を押してくれているのは理解できた。
ただ、『小嶋夏海の気持ちを救う』というのは、どういうことなのだろうか?
そんな疑問を感じながら、
「そっか。応援してくれて、ありがとな」
彼女の言葉のうち、理解できた部分について、礼を述べる。
すると、スピーカーからは、寂しそうな声が聞こえた。
「ううん……私には、もうナツミのために出来ることはないかも知れないから……」
客観的にみて、彼女が責任を感じる必要はないと思うが……中嶋由香としては、やはり、友人として思うところがあるのだろう。
そんな風に、彼女の想いを想像して、何か、フォローできるように話し掛けねば……と考えるが、適当な言葉が見つからない。
そうして、語り掛けるべき言葉を探しあぐねて、沈黙していると、
「あっ、ゴメンね。なんだか、重たい感じになっちゃって……」
耳元に苦笑するような声が聞こえた。
そして、通話の相手は、「ちょっと、話題を変えるね」と、さらに言葉を続ける。
「ねぇ、この際だから、聞いて置きたいんだけど……坂井は、ナツミのドコに惚れてるの?」
「ふぁっ!?はっ!?」
先ほどまでのしんみりとした空気とは打って変わって、予想外の質問に、思わずおかしな擬音が口をついて出てしまった。
「えっと……そんなに、変なことを聞いたつもりはないんだけど……答えにくい質問だった?」
「いや、そういうことじゃなくて、いきなり聞かれたから、驚いただけだ……」
動揺を抑えつつ、なんとかそれだけ答えると、
「そっか……良かった。ただ、興味本位で聞いてるんじゃなくて、ナツミにとって、大事なことだから……坂井が良ければ……聞かせてほしい、と思う」
中嶋由香は、慎重に、言葉を選ぶようにしながら、そうたずねてきた。
彼女の真剣な口調に、こちらも、「う~ん」と、うなりつつ、自分が感じていることを確認しながら答える。
「私、ここのところ、自分の話しばかりして、ナツミの話しを全然聞けてなかったんだな、って、それがショックで……」
「そう、か……」
今の自分に答えられるのは、それだけだった。
それに、中嶋の気持ちを慰めてあげられるのは、自分ではない気がする。
そんなことを考えていると、電話の向こうの相手は、
「ねぇ、ナツミのことを気使えていなかった私が言う資格はないのかも知れないけど……坂井は、どうするの?」
と、唐突に問い掛けてきた。
(どうするの? と、聞かれても……)
他人の家庭の事情に、ただのクラスメートが、口を挟めるものではない。
そんなことくらいは、中嶋も理解できていると思うのだが……。
「いや、『どうする?』と、言われてもな……小嶋の家のことだから、オレにできることなんて……」
そう答えると、中嶋由香は、めずらしく声を張り上げた。
「そういうことじゃなくて! 坂井は、このまま……『自分の気持ちを伝えないまま、ナツミと離ればなれになることになっても良いのか?』って聞いてるの!」
見た目に反して……と、言っては申し訳ないが、華があって、気の強そうな容姿とは反対に、周囲に気を使うタイプ(だということが夏休みの間にわかった)である彼女の意外な主張に戸惑い、
「いや、それは、その……」
そう言ったあとの言葉が続かない。
困惑するこちらのようすが伝わったのか、中嶋は、普段の調子にもどり、
「あっ、ゴメン……坂井を責めたいわけじゃないんだけど……」
と、気づかう言葉を掛けてくれた。
そんな、自分への配慮に感謝しつつ、
「いや、中嶋の言いたいことはわかったから、気にしないでくれ……」
そう伝えると、「うん、ありがとう……」と、答えたあと、
「でも、坂井は、本当にこのままで良いの?私は、想いを伝えないまま、坂井に後悔して欲しくないし……それに、いまのナツミの気持ちを救ってあげられるのは、坂井だけだと思うからーーーーーー」
彼女の持論を展開した。
中嶋由香が、『オレ自身の想いを伝えろ』と、背中を押してくれているのは理解できた。
ただ、『小嶋夏海の気持ちを救う』というのは、どういうことなのだろうか?
そんな疑問を感じながら、
「そっか。応援してくれて、ありがとな」
彼女の言葉のうち、理解できた部分について、礼を述べる。
すると、スピーカーからは、寂しそうな声が聞こえた。
「ううん……私には、もうナツミのために出来ることはないかも知れないから……」
客観的にみて、彼女が責任を感じる必要はないと思うが……中嶋由香としては、やはり、友人として思うところがあるのだろう。
そんな風に、彼女の想いを想像して、何か、フォローできるように話し掛けねば……と考えるが、適当な言葉が見つからない。
そうして、語り掛けるべき言葉を探しあぐねて、沈黙していると、
「あっ、ゴメンね。なんだか、重たい感じになっちゃって……」
耳元に苦笑するような声が聞こえた。
そして、通話の相手は、「ちょっと、話題を変えるね」と、さらに言葉を続ける。
「ねぇ、この際だから、聞いて置きたいんだけど……坂井は、ナツミのドコに惚れてるの?」
「ふぁっ!?はっ!?」
先ほどまでのしんみりとした空気とは打って変わって、予想外の質問に、思わずおかしな擬音が口をついて出てしまった。
「えっと……そんなに、変なことを聞いたつもりはないんだけど……答えにくい質問だった?」
「いや、そういうことじゃなくて、いきなり聞かれたから、驚いただけだ……」
動揺を抑えつつ、なんとかそれだけ答えると、
「そっか……良かった。ただ、興味本位で聞いてるんじゃなくて、ナツミにとって、大事なことだから……坂井が良ければ……聞かせてほしい、と思う」
中嶋由香は、慎重に、言葉を選ぶようにしながら、そうたずねてきた。
彼女の真剣な口調に、こちらも、「う~ん」と、うなりつつ、自分が感じていることを確認しながら答える。
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