84 / 107
第四章〜⑦〜
しおりを挟む
その雰囲気に、思いがけず目を奪われ、彼女に声を掛けそびれていると、視界の外から、
「ナツキ!」
という、声とともに、康之が腕をオレの首に絡ませてきた。
思わぬ不意打ちに、思わず仰け反って、咳き込むと、
「もう~! 今日の主役に対して、なにやってんの~!?」
大嶋が、康之を注意する。
「あっ、スマン! ナツキ……久々のイベントにテンションが上がり過ぎちまった」
「いや、気にするな! ちょっと、不意をつかれて驚いただけだ」
康之をフォローした訳ではないが、小嶋夏海に見惚れてしまっていたという事実にバツの悪さを感じ、そう返答する。
同じく、自分のハシャギぶりを反省したらしい康之が、
「そっか……それより、今日はサンキューな!」
と、気持ちを切り替えて、感謝の言葉を口にする。
それを皮切りに、今日の花火観賞に招待したことについて、他のメンバーも口々に謝辞を述べるが、今回のイベントは、自分が企画したことでなく、あくまで父親の知人の好意に甘えさせてもらったという面が大きいので、面映い気持ちがする。
「まぁ、感謝の言葉は、オレよりも花火観賞を企画した社長さんに伝えてくれ」
と、メンバーに伝えつつ、小嶋夏海に目を向けると、
「まだ、ちゃんとお礼を言ってなかったね……坂井、ありがとう」
彼女は、微笑をたたえて、こちらを見据えるようにして、そう言った。
その言葉を発するようすは、なぜだか淋しげに微笑んでいるように見える。
ただ、最初に彼女に言葉を掛けそびれたオレは、「あぁ……」と、うなずくだけで、電車とバスで乗り継いで待ち合わせ場所まで移動する間、その理由を確認することはできなかった。
※
電車とバスを乗り継ぎ、人工島内に作られた宿泊用ロッジ前のバス停に到着すると、時刻は午後六時を十五分ほど過ぎていた。夏の名残を感じさせる夕日の太陽も、水平線に近づいている。バス停から宿泊施設の入口から受付に向かうと、ちょうど、マイカーでロッジに到着した両親が駐車場から施設内に入ってくるところだった。
「夏生たちも、いま着いたところか?」
クラスメート六名と連れだっているところに、父親から声が掛かる。
「あ、ナツキのお父さん! 今日は、花火観賞に呼んでいただいて、ありがとうございます!」
真っ先に反応した哲夫が、体育会系らしい爽やかさで、父に向かって挨拶する。
他のメンバーも続いて、
「ありがとうございます!」
と、声を揃える。
「いやいや、夏生にも言っているけど、お礼は花火観賞を主催してくれるカワタさんに伝えてほしい」
父親は、苦笑しながら同級生に答え、「特に夏生は、しっかり挨拶するんだぞ」と付け加えた。
「わかってるよ!」
家を出る時に、玄関先で返したものと同じ言葉で応じると、
「それじゃ、受付に行くか」
と、本来の集合場所に先導した。
ロッジの建物に入り、受付に移動すると、同じ花火観賞のギャラリーなのだろうか、十数人の人たちが、受付前のロビーに集まっていた。
その中の一人、ウチの父親と同年代に見える、四十代くらいの男性が、
「いらっしゃい、坂井さん」
と、声を掛けてくる。
「カワタさん、お招きいただきありがとうございます。しかも、二家族分ということにしてもらって……」
そう応じた父親に、カワタさんと呼ばれた少し痩せ気味の男性は、
「いやいや、出来る範囲で親しい人に、なるべく多くの人に楽しんでもらいたいと思っていたので、たくさんの方に来てもらえて嬉しいですよ。ウチにも、高校と小学校に子どもがいるので、同じ世代の人たちに来てもらって大歓迎です」
柔和な顔で答え、父親の隣に立っているこちらに視線を向け、「坂井さんの息子さんですか?」と、たずねてきた。
父が答える前に、
「はい! 今日は、お招きいただいて、本当にありがとうございます。友達も、みんな楽しみにしていて……」
そこまで語ると、カワタさんは、
「そうですか……こちらこそ、たくさんお友達を呼んでくれて、ありがとう」
と、こちらが恐縮するくらい丁寧にお礼を言ってくれた。
そして、その言葉に、最初に反応したのは、意外な人物だった。
「あの……今年は、もう打ち上げ花火を観ることはできないと思っていたので、本当に感謝しています。ありがとうございます」
初対面の、しかも、かなり年齢の離れた人に自分から積極的に話し掛ける積極的なコミュニケーションを取るタイプだとは思っていなかったので、思わず、その言葉を発した小嶋夏海に視線を向ける。
彼女の表情は、それだけで、今日のイベントが、彼女自身にとって、とても重要な出来事であることが伝わってくる真剣なモノだった。
その雰囲気を察したのか、カワタさんも、感慨深げに、
「それだけ楽しみにしていてくれると、この催しを企画した甲斐があったな。今日は、みんなも楽しんで行ってね」
と、こちらに語りかける。カワタさんの言葉に、今度は、自分を含めた同級生全員で、
「はい、ありがとうございます!」
声を揃えた。
そして、あらためて、礼儀正しい級友たちに目を向けると、中嶋由香だけが、自分と同じく小嶋夏海のようすを気に掛けているようだった。
「ナツキ!」
という、声とともに、康之が腕をオレの首に絡ませてきた。
思わぬ不意打ちに、思わず仰け反って、咳き込むと、
「もう~! 今日の主役に対して、なにやってんの~!?」
大嶋が、康之を注意する。
「あっ、スマン! ナツキ……久々のイベントにテンションが上がり過ぎちまった」
「いや、気にするな! ちょっと、不意をつかれて驚いただけだ」
康之をフォローした訳ではないが、小嶋夏海に見惚れてしまっていたという事実にバツの悪さを感じ、そう返答する。
同じく、自分のハシャギぶりを反省したらしい康之が、
「そっか……それより、今日はサンキューな!」
と、気持ちを切り替えて、感謝の言葉を口にする。
それを皮切りに、今日の花火観賞に招待したことについて、他のメンバーも口々に謝辞を述べるが、今回のイベントは、自分が企画したことでなく、あくまで父親の知人の好意に甘えさせてもらったという面が大きいので、面映い気持ちがする。
「まぁ、感謝の言葉は、オレよりも花火観賞を企画した社長さんに伝えてくれ」
と、メンバーに伝えつつ、小嶋夏海に目を向けると、
「まだ、ちゃんとお礼を言ってなかったね……坂井、ありがとう」
彼女は、微笑をたたえて、こちらを見据えるようにして、そう言った。
その言葉を発するようすは、なぜだか淋しげに微笑んでいるように見える。
ただ、最初に彼女に言葉を掛けそびれたオレは、「あぁ……」と、うなずくだけで、電車とバスで乗り継いで待ち合わせ場所まで移動する間、その理由を確認することはできなかった。
※
電車とバスを乗り継ぎ、人工島内に作られた宿泊用ロッジ前のバス停に到着すると、時刻は午後六時を十五分ほど過ぎていた。夏の名残を感じさせる夕日の太陽も、水平線に近づいている。バス停から宿泊施設の入口から受付に向かうと、ちょうど、マイカーでロッジに到着した両親が駐車場から施設内に入ってくるところだった。
「夏生たちも、いま着いたところか?」
クラスメート六名と連れだっているところに、父親から声が掛かる。
「あ、ナツキのお父さん! 今日は、花火観賞に呼んでいただいて、ありがとうございます!」
真っ先に反応した哲夫が、体育会系らしい爽やかさで、父に向かって挨拶する。
他のメンバーも続いて、
「ありがとうございます!」
と、声を揃える。
「いやいや、夏生にも言っているけど、お礼は花火観賞を主催してくれるカワタさんに伝えてほしい」
父親は、苦笑しながら同級生に答え、「特に夏生は、しっかり挨拶するんだぞ」と付け加えた。
「わかってるよ!」
家を出る時に、玄関先で返したものと同じ言葉で応じると、
「それじゃ、受付に行くか」
と、本来の集合場所に先導した。
ロッジの建物に入り、受付に移動すると、同じ花火観賞のギャラリーなのだろうか、十数人の人たちが、受付前のロビーに集まっていた。
その中の一人、ウチの父親と同年代に見える、四十代くらいの男性が、
「いらっしゃい、坂井さん」
と、声を掛けてくる。
「カワタさん、お招きいただきありがとうございます。しかも、二家族分ということにしてもらって……」
そう応じた父親に、カワタさんと呼ばれた少し痩せ気味の男性は、
「いやいや、出来る範囲で親しい人に、なるべく多くの人に楽しんでもらいたいと思っていたので、たくさんの方に来てもらえて嬉しいですよ。ウチにも、高校と小学校に子どもがいるので、同じ世代の人たちに来てもらって大歓迎です」
柔和な顔で答え、父親の隣に立っているこちらに視線を向け、「坂井さんの息子さんですか?」と、たずねてきた。
父が答える前に、
「はい! 今日は、お招きいただいて、本当にありがとうございます。友達も、みんな楽しみにしていて……」
そこまで語ると、カワタさんは、
「そうですか……こちらこそ、たくさんお友達を呼んでくれて、ありがとう」
と、こちらが恐縮するくらい丁寧にお礼を言ってくれた。
そして、その言葉に、最初に反応したのは、意外な人物だった。
「あの……今年は、もう打ち上げ花火を観ることはできないと思っていたので、本当に感謝しています。ありがとうございます」
初対面の、しかも、かなり年齢の離れた人に自分から積極的に話し掛ける積極的なコミュニケーションを取るタイプだとは思っていなかったので、思わず、その言葉を発した小嶋夏海に視線を向ける。
彼女の表情は、それだけで、今日のイベントが、彼女自身にとって、とても重要な出来事であることが伝わってくる真剣なモノだった。
その雰囲気を察したのか、カワタさんも、感慨深げに、
「それだけ楽しみにしていてくれると、この催しを企画した甲斐があったな。今日は、みんなも楽しんで行ってね」
と、こちらに語りかける。カワタさんの言葉に、今度は、自分を含めた同級生全員で、
「はい、ありがとうございます!」
声を揃えた。
そして、あらためて、礼儀正しい級友たちに目を向けると、中嶋由香だけが、自分と同じく小嶋夏海のようすを気に掛けているようだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。
紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。
アルファポリスのインセンティブの仕組み。
ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。
どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。
実際に新人賞に応募していくまでの過程。
春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
シロと会計士悟のほんわか日常怪奇譚
菅原みやび
ライト文芸
短編完結済 第6回ほっこり・じんわり大賞【149位】作品!
公認会計士である栗原悟(くりはらさとる)は叔父の会計事務所から独立し、東京の高尾に借家にて、事務所を構えることに。会計士であるが故か、費用を抑える為に安い良物件を選んでしまう悟だったが、実はこの借家訳あり物件であった。
が、そんな事は気にもしない悟。
しばらくして初夏のある日、最寄りの公園で白い子猫を拾ってきてしまう悟。
1年間後、その愛猫のシロは突然行方不明になってしまう。
その心の穴を埋めるように、異性の白井心愛(しらいここあ)と付き合うことになった悟だが……。
実はその白井、愛猫のシロが人化した姿で……⁈ 更にはこの貸家には他にも色々秘密が……⁈
優しく真面目な好青年である公認会計士の悟と、天真爛漫で理屈なく一瞬で答えを探すチェック能力を持つ猫娘の白井が送る、ほっこり癒し系の怪奇譚! 今ここにゆるーく開幕!
※この作品は投稿サイト【ノベルデイズ・なろう・エブリスタ】様にも投稿している短編【ありがとうを君に……】を改良したものになります。
この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
罰ゲームから始まる恋
アマチュア作家
ライト文芸
ある日俺は放課後の教室に呼び出された。そこで瑠璃に告白されカップルになる。
しかしその告白には秘密があって罰ゲームだったのだ。
それ知った俺は別れようとするも今までの思い出が頭を駆け巡るように浮かび、俺は瑠璃を好きになってしまたことに気づく
そして俺は罰ゲームの期間内に惚れさせると決意する
罰ゲームで告られた男が罰ゲームで告白した女子を惚れさせるまでのラブコメディである。
ドリーム大賞12位になりました。
皆さんのおかげですありがとうございます
Unknown World
二郎マコト
ライト文芸
7月23日、日暮新を残して、世界から人が1人残らず消えた。
小さい頃から頭の中にあった「誰もいない世界でのボーイミーツガール」というのを設定を小説にしてみました。
桜の華 ― *艶やかに舞う* ―
設樂理沙
ライト文芸
水野俊と滝谷桃は社内恋愛で結婚。順風満帆なふたりの結婚生活が
桃の学生時代の友人、淡井恵子の出現で脅かされることになる。
学生時代に恋人に手酷く振られるという経験をした恵子は、友だちの
幸せが妬ましく許せないのだった。恵子は分かっていなかった。
お天道様はちゃんと見てらっしゃる、ということを。人を不幸にして
自分だけが幸せになれるとでも? そう、そのような痛いことを
仕出かしていても、恵子は幸せになれると思っていたのだった。
異動でやってきた新井賢一に好意を持つ恵子……の気持ちは
はたして―――彼に届くのだろうか?
そしてそんな恵子の様子を密かに、見ている2つの目があった。
夫の俊の裏切りで激しく心を傷付けられた妻の桃が、
夫を許せる日は来るのだろうか?
―――――――――――――――――――――――
2024.6.1~2024.6.5
ぽわんとどんなstoryにしようか、イメージ(30000字くらい)。
執筆開始
2024.6.7~2024.10.5 78400字 番外編2つ
❦イラストは、AI生成画像自作
頭取さん、さいごの物語~新米編集者・羽織屋、回顧録の担当を任されました
鏡野ゆう
ライト文芸
一人前の編集者にすらなれていないのに、なぜか編集長命令で、取引銀行頭取さんの回顧録担当を押しつけられてしまいました!
※カクヨムでも公開中です※
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる