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第三章〜③〜
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目的地のアミューズメント・プールが隣接するマリンパーク駅には、開園時間の十五分前に到着することができた。
入園口のメインゲート前には、開園間にも関わらず、すでに、数十人の家族連れ客らが並んでいる。
「お~、早めに来て正解だったな~」
と、話しかけてきた哲夫に、「確かに、これからヒトが増えてきそうだ」と同意する。
連日続いている早朝からの強烈な陽射しに照らされること十数分、開園時間になりゲート前にいた人々が次々と園内に吸い込まれていく。スムーズに入場手続きを終えたオレたちは、ロッカールームに近い『トリトンの噴水』と案内図に書かれた場所で待ち合わせすることを約束して、それぞれの更衣室に向かった。
十分足らずで着替えを終えたオレたち男子三人組は、強烈な陽射しの中、一定期間ごとに強烈に吹き上がる噴水を浴びながら、女子の到着を待つ。本来なら、チビっ子たち向けの場所なのだろうが、開園直後の時間帯ということもあってか、周りに小さな子どもの姿は、ほとんど見られなかった。
時おり吹き上げてくる噴水と戯れている友人に、
「入場早々、テンションが高いな康之!」
と、声を掛けると、
「当たり前だ! 今日は、オレの中で夏休み二大イベントのうちの一つだからな!」
そんな答えが返ってくる。
「二大イベント? 他にも、今日と同じくらい楽しみなことがあるのか?」
その中身が気になったので、聞いてみると、
「あぁ、ココだけの話しだがな……」
と、声を潜めたので、そばにいた哲夫も、「お、なんだなんだ!?」と、近寄ってきて耳をそばだてる。
そして、鳩首凝議よろしく集ったオレたちを相手に、康之はささやいた。
「来月末、数年ぶりに『トキを止められる男は実在した』のDVDが発売されるんだ……これを待望と言わずして、ナニを待望と言うのか!?」
頭がクラクラした。容赦なく照りつける太陽の陽射しのせいだけでは、モチロンない。その発言のあまりのアホらしさに、めまいを覚える。それでも、すかさず哲夫がツッコミを入れるの聞き、安堵しかけたのだが……。
「はぁ……ナニを言い出すかと思えば……。康之、あのテのビデオは、九十九パーセントがヤラセなんだぞ!ちゃんと、ホンモノを見極めてるだんろうな?」
石川哲夫よ、オマエもか――――――。
あまりに低レベルな会話に、卒倒しそうになりながら、ツッコミを入れる。
「オマエら、イイ加減にしろ! 時間を止められる人間なんて、存在するわけねぇだろ!?」
そして、あまりに無知蒙昧な悪友二名に、真実を教えてやることにした。
「時間を止めてるのは、あのオッサンじゃなくて、近くで動き回ってる犬の方だ!!」
「「な、なんだって~~~~~!!!!!」」
康之と哲夫が、揃って声をあげる。
「驚いたぜ……あのオッサンが時間を止める能力使いだと思いこんでいた」
と、康之。
「しかし、時間停止の能力を持っているのは、あの犬の方だったと?」
哲夫の言葉が続く。
「ああ……オッサンの方は、自分の能力だと勘違いしているようだがナ」
オレは、冷徹に彼らに現実を叩きつけた。
「だが、犬には能力があっても、人間を動かすことが出来ない。だから、あのオッサンを選んだのか……」
哲夫は、冷静に分析する。
「しかし、肝心のオッサンは、オンナに手を出すことしかしませんでしたってことか?」
康之も、理解が追いついたようだ。
二人の教養のなさには呆れるばかりだが、洞察力や頭の回転の速さには、一定の敬意を表したい。
悪友二名が素直にうなずくのを眺めながら、世の中の《真理》を伝えることができた喜びに浸っていると、康之の口から、こんな質問が投げかけられた。
「ナツキ! いや、センセイと呼ばせてもらおう! 時間停止系ビデオについて、もう一つ気になっていることを聞きたいんだが……」
「ン? どんなことだ?」
調子を合わせて返答する。
「時間停止している最中に蓄積された快感が、停止解除された途端にまとめて襲ってくる現象は、実際にあり得るのか?」
「そ、それは……学会でも見解が別れているらしい――――――今後のさらなる研究と観察が待たれるところだ……」
「そ、そうか……世の中には、まだまだ解明されていない謎があるんだな」
康之がつぶやき、哲夫もウンウンとうなずきながら、
「ナツキ、また何か新しいことが判ったら、教えてくれ」
と、言葉を続けた。
そんな男子にしか出来ない哲学的かつ高尚な会話を終えたあと、ふと、
(康之の疑問を解くための実証実験を申し出たとしたら、小嶋夏海は、どんな反応を示すだろうか?)
と、想像してみた――――――。
入園口のメインゲート前には、開園間にも関わらず、すでに、数十人の家族連れ客らが並んでいる。
「お~、早めに来て正解だったな~」
と、話しかけてきた哲夫に、「確かに、これからヒトが増えてきそうだ」と同意する。
連日続いている早朝からの強烈な陽射しに照らされること十数分、開園時間になりゲート前にいた人々が次々と園内に吸い込まれていく。スムーズに入場手続きを終えたオレたちは、ロッカールームに近い『トリトンの噴水』と案内図に書かれた場所で待ち合わせすることを約束して、それぞれの更衣室に向かった。
十分足らずで着替えを終えたオレたち男子三人組は、強烈な陽射しの中、一定期間ごとに強烈に吹き上がる噴水を浴びながら、女子の到着を待つ。本来なら、チビっ子たち向けの場所なのだろうが、開園直後の時間帯ということもあってか、周りに小さな子どもの姿は、ほとんど見られなかった。
時おり吹き上げてくる噴水と戯れている友人に、
「入場早々、テンションが高いな康之!」
と、声を掛けると、
「当たり前だ! 今日は、オレの中で夏休み二大イベントのうちの一つだからな!」
そんな答えが返ってくる。
「二大イベント? 他にも、今日と同じくらい楽しみなことがあるのか?」
その中身が気になったので、聞いてみると、
「あぁ、ココだけの話しだがな……」
と、声を潜めたので、そばにいた哲夫も、「お、なんだなんだ!?」と、近寄ってきて耳をそばだてる。
そして、鳩首凝議よろしく集ったオレたちを相手に、康之はささやいた。
「来月末、数年ぶりに『トキを止められる男は実在した』のDVDが発売されるんだ……これを待望と言わずして、ナニを待望と言うのか!?」
頭がクラクラした。容赦なく照りつける太陽の陽射しのせいだけでは、モチロンない。その発言のあまりのアホらしさに、めまいを覚える。それでも、すかさず哲夫がツッコミを入れるの聞き、安堵しかけたのだが……。
「はぁ……ナニを言い出すかと思えば……。康之、あのテのビデオは、九十九パーセントがヤラセなんだぞ!ちゃんと、ホンモノを見極めてるだんろうな?」
石川哲夫よ、オマエもか――――――。
あまりに低レベルな会話に、卒倒しそうになりながら、ツッコミを入れる。
「オマエら、イイ加減にしろ! 時間を止められる人間なんて、存在するわけねぇだろ!?」
そして、あまりに無知蒙昧な悪友二名に、真実を教えてやることにした。
「時間を止めてるのは、あのオッサンじゃなくて、近くで動き回ってる犬の方だ!!」
「「な、なんだって~~~~~!!!!!」」
康之と哲夫が、揃って声をあげる。
「驚いたぜ……あのオッサンが時間を止める能力使いだと思いこんでいた」
と、康之。
「しかし、時間停止の能力を持っているのは、あの犬の方だったと?」
哲夫の言葉が続く。
「ああ……オッサンの方は、自分の能力だと勘違いしているようだがナ」
オレは、冷徹に彼らに現実を叩きつけた。
「だが、犬には能力があっても、人間を動かすことが出来ない。だから、あのオッサンを選んだのか……」
哲夫は、冷静に分析する。
「しかし、肝心のオッサンは、オンナに手を出すことしかしませんでしたってことか?」
康之も、理解が追いついたようだ。
二人の教養のなさには呆れるばかりだが、洞察力や頭の回転の速さには、一定の敬意を表したい。
悪友二名が素直にうなずくのを眺めながら、世の中の《真理》を伝えることができた喜びに浸っていると、康之の口から、こんな質問が投げかけられた。
「ナツキ! いや、センセイと呼ばせてもらおう! 時間停止系ビデオについて、もう一つ気になっていることを聞きたいんだが……」
「ン? どんなことだ?」
調子を合わせて返答する。
「時間停止している最中に蓄積された快感が、停止解除された途端にまとめて襲ってくる現象は、実際にあり得るのか?」
「そ、それは……学会でも見解が別れているらしい――――――今後のさらなる研究と観察が待たれるところだ……」
「そ、そうか……世の中には、まだまだ解明されていない謎があるんだな」
康之がつぶやき、哲夫もウンウンとうなずきながら、
「ナツキ、また何か新しいことが判ったら、教えてくれ」
と、言葉を続けた。
そんな男子にしか出来ない哲学的かつ高尚な会話を終えたあと、ふと、
(康之の疑問を解くための実証実験を申し出たとしたら、小嶋夏海は、どんな反応を示すだろうか?)
と、想像してみた――――――。
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