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第二章〜⑤〜
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夏休みの予定を厄介な相手に埋められてしまったことを嘆きつつ、席に着いてからの会話で少し時間が経ったため、ほど良く食べやすい温度になったきつねうどんをすすり続けていると、
「他に聞きたいことはないの?」
アクリル製のパーテーション越しに、小嶋夏海がたずねてきた。
せっかくなので、さっきからの会話で新たに湧いてきた疑問をストレートにぶつける。
「ある! 小嶋は、夏休み中、オレなんかと一緒に居て、周りにウワサされるのとか、本当に気にならないのか?」
「別に……アレコレ言いたい人間や想像する人間には、好きにさせておけば良いんじゃない? どうせ、夏休み中だけのことなんだし」
「夏休みが終わったら、どうするんだよ?」
「『夏休み前は、坂井のことが気になってたけど、やっぱり勘違いだったみたい。フィーリングが合わなかった』とか、適当に言っておけば、納得するでしょ? 心配しなくても、夏休みが終わったら、あの『契約』も期限切れになるから……契約書の最後にも、そう記載してるつもりだし……」
確かに、メッセージアプリの『契約』が記載されている部分には、
・以上の契約期間は、夏休み中を有効期間とする。
との一文が書かれていているが——————。
悪びれる様子もなく、平然と答える彼女の言葉に、
(知らない間に気になる存在にされて、勝手に幻滅されるコッチの都合は無視かよ!)
と、一瞬、憮然としたものの、先週末からの自身の行動を省みる。
(いや、自分も彼女に対して、同じことをしているか……小嶋の素顔を見たいと思って、『コカリナ』の機能を使って……それがバレて、彼女と契約を結ばされたら、勝手に幻滅して——————)
小嶋夏海の性格が、どんなものであれ、いまの状況に陥ってしまった最初の原因は、自分自身にある。
そう考えると、やはり、因果応報というか、自業自得という側面があるわけで、彼女ばかりを恨むというのも筋が違うのだろう、と感じた。
彼女と結んだ『契約』を守ることが、自分の行為の償いになるのかはわからないが、せめて、その『契約』を守ろうとする意志だけは持っておくべきだろう。
乗りかかった船——————という言葉が、この場合に適切なのか定かではないが、
(こうなったら、小嶋の言う『実験』に、徹底的に付き合うか)
と、気持ちを切り替える。
そう考えると、「脅迫まがいの契約で、夏休みを台無しにされるのではないか?」と沈みがちだった気分が少し楽になってきた。
それと同時に、「フッ」と、自嘲とも、緊張のほぐれとも言える笑みがこぼれた。
こちらの表情を観察していたのか、パーテーションの向こうの彼女は、相変わらず辛辣な言葉を吐く。
「なに? 薄ら笑いなんか浮かべて……気味の悪い……」
「いや、小嶋の話しを聞いて、なんとなく自分と似てる部分があるのかと思ってな」
そう答えると、
「ハァ!? なに勝手に一人で納得してるの?キモいんだけど……?」
ニコリともせず、小嶋夏海は、毒を吐いた。
それでも、寛容な気持ちを取り戻していたオレは、紳士的に、彼女にたずねる。
「あぁ、スマン。それより、もう一つ気になることを聞かせてもらって良いか? オレをプールに誘ったのは、何か理由はあるのか? 周りに知り合いがいたら、『コカリナ』は使いにくいだろうし、オレが一緒に行く意味はなくね?」
すると、こちらの質問を予期していたのか、それまでの面白くなさそうな表情が一変し、「フフッ」と不敵な笑みを浮かべて、こう言い放った。
「時間を止める能力まで使って、マスクを外した顔を見ようとする男子なら、私の水着を着た時の姿にも興味を持つんじゃないか、と思っただけよ」
アクリル板の向こうのクラスメートは、美しいウイニング・ショットが決まった、とばかりに勝ち誇った様な表情を見せる。
「他に聞きたいことはないの?」
アクリル製のパーテーション越しに、小嶋夏海がたずねてきた。
せっかくなので、さっきからの会話で新たに湧いてきた疑問をストレートにぶつける。
「ある! 小嶋は、夏休み中、オレなんかと一緒に居て、周りにウワサされるのとか、本当に気にならないのか?」
「別に……アレコレ言いたい人間や想像する人間には、好きにさせておけば良いんじゃない? どうせ、夏休み中だけのことなんだし」
「夏休みが終わったら、どうするんだよ?」
「『夏休み前は、坂井のことが気になってたけど、やっぱり勘違いだったみたい。フィーリングが合わなかった』とか、適当に言っておけば、納得するでしょ? 心配しなくても、夏休みが終わったら、あの『契約』も期限切れになるから……契約書の最後にも、そう記載してるつもりだし……」
確かに、メッセージアプリの『契約』が記載されている部分には、
・以上の契約期間は、夏休み中を有効期間とする。
との一文が書かれていているが——————。
悪びれる様子もなく、平然と答える彼女の言葉に、
(知らない間に気になる存在にされて、勝手に幻滅されるコッチの都合は無視かよ!)
と、一瞬、憮然としたものの、先週末からの自身の行動を省みる。
(いや、自分も彼女に対して、同じことをしているか……小嶋の素顔を見たいと思って、『コカリナ』の機能を使って……それがバレて、彼女と契約を結ばされたら、勝手に幻滅して——————)
小嶋夏海の性格が、どんなものであれ、いまの状況に陥ってしまった最初の原因は、自分自身にある。
そう考えると、やはり、因果応報というか、自業自得という側面があるわけで、彼女ばかりを恨むというのも筋が違うのだろう、と感じた。
彼女と結んだ『契約』を守ることが、自分の行為の償いになるのかはわからないが、せめて、その『契約』を守ろうとする意志だけは持っておくべきだろう。
乗りかかった船——————という言葉が、この場合に適切なのか定かではないが、
(こうなったら、小嶋の言う『実験』に、徹底的に付き合うか)
と、気持ちを切り替える。
そう考えると、「脅迫まがいの契約で、夏休みを台無しにされるのではないか?」と沈みがちだった気分が少し楽になってきた。
それと同時に、「フッ」と、自嘲とも、緊張のほぐれとも言える笑みがこぼれた。
こちらの表情を観察していたのか、パーテーションの向こうの彼女は、相変わらず辛辣な言葉を吐く。
「なに? 薄ら笑いなんか浮かべて……気味の悪い……」
「いや、小嶋の話しを聞いて、なんとなく自分と似てる部分があるのかと思ってな」
そう答えると、
「ハァ!? なに勝手に一人で納得してるの?キモいんだけど……?」
ニコリともせず、小嶋夏海は、毒を吐いた。
それでも、寛容な気持ちを取り戻していたオレは、紳士的に、彼女にたずねる。
「あぁ、スマン。それより、もう一つ気になることを聞かせてもらって良いか? オレをプールに誘ったのは、何か理由はあるのか? 周りに知り合いがいたら、『コカリナ』は使いにくいだろうし、オレが一緒に行く意味はなくね?」
すると、こちらの質問を予期していたのか、それまでの面白くなさそうな表情が一変し、「フフッ」と不敵な笑みを浮かべて、こう言い放った。
「時間を止める能力まで使って、マスクを外した顔を見ようとする男子なら、私の水着を着た時の姿にも興味を持つんじゃないか、と思っただけよ」
アクリル板の向こうのクラスメートは、美しいウイニング・ショットが決まった、とばかりに勝ち誇った様な表情を見せる。
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