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第一章〜⑱〜
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「なぁ、小嶋……金曜から今日まで、何回くらい、その機能を使った?」
「何回って、正確には覚えてないけど……今日みたいに、連続で使ったこともあるから、三~四十回くらいかな?」
小嶋夏海は、悪びれることなく、あっさりと答える。その返答に、
「っ—————————!?」
言葉にならない声を挙げそうになった、こちらの表情を察したのか、彼女も心配そうに、
「なに!? そんなにマズいことなの?」
と、たずねてくる。
彼女の問いと、ほぼ同時に、オレは、
「小嶋、その木製細工の裏側にあるカウンターを見せてくれ!」
勢い余って、ついボリュームが大きくなることも厭わず、声をあげてしまった。
こちらの声に、驚いた様子で、彼女は、小窓のカウンターが見えるようにして、手に持った木製細工をこちらにかざした。
カウンターの数値は、『45』。
悪い予感が外れて、ホッと一息ついたオレの様子を観察していたのか、
「ちょっと! なに一人で焦ったり、安心したりしてるの!?」
小嶋夏海は、「自分にも、その理由を説明しろ!」と、言外に匂わせながら、質問をぶつけてくる。
ここまで来たら、お互いに情報共有をしておいた方が良いだろうと、判断したオレは、
「オレが、吹き口から息を吹き込んで時間が止まったときは、その小窓から見えるカウンターの数値が一回ずつ減っていってるみたいなんだよ。今は、『45』って、数字になってるだろ? それは、時間停止が可能な残りの回数じゃないかと予想してるんだ。もし、小嶋の使い方でもカウンターの数値が減ってるなら、もう、使用可能な回数が残り少なくなってしまったんじゃないかと……それで、かなり焦ったんだよ」
そう言って、先ほど少し取り乱した態度になった理由を説明した。
こちらの言葉に、
「そうだったんだ——————勝手に色々と使ってしまって、ゴメン……」
彼女は、素直に謝罪の言葉を口にする。
いつも、強気な態度だった小嶋夏海が、殊勝な態度を取ったことに、少し拍子抜けしたオレは、
「いや、別にイイって……知らなかったのなら、仕方ないし、結果的に問題はなかったみたいだしな。あと、オレが、最後に記憶しているのは『47』の数字だったから。金曜の放課後に自分で時間停止の機能を二回使ったのを含めると、小嶋の使い方なら、カウンターの数値は減らない、と考えるとツジツマは合う。また、新しくわかったことが増えて良かったんじゃね?」
と、ガラにもなく——————いや、いつもの紳士らしい態度で、フォローを入れてみた。
すると、彼女は、
「そっか……ありがとう」
と、今度は、感謝の言葉を口にした。
他人(特に異性)を寄せ付けない冷ややかな雰囲気を醸し出している普段とは異なるクラスメートの様子に、調子が狂いそうになりながらも、オレは、これまでの会話の中で、ある種の手応えのようなモノも感じていた。
二人の会話の重要なカギである木製細工が相手の手元にある以上、受け身にならざるを得ない——————。
そう考えていた事前の予測よりも、自分にも分があるように感じて、オレは、小嶋夏海に、こちらの要望を伝えてみることにした。
「なぁ、小嶋。金曜の放課後に、小嶋を驚かせてしまったことは、自分にも反省すべきところはあるし、その点については、謝るから……祖父さんが授けてくれた、その木製細工は、オレに返してくれないか?」
こちらから、そう切り出すと、
「そうだね……坂井に、そういう事情があるなら、私がこのまま持っていて良いモノでもなさそうだし……」
彼女は、そう言って、こちらの気持ちをくみ取ってくれた、と感じたのだが——————。
「これは、坂井に返すから、私の方の要望も聞いてくれない? 一つ目は、金曜日の放課後に、坂井は何をしようとしていたのか、正直に答えてほしい。二つ目は、もし、坂井がイヤでなければ、このアイテムの能力を使うときは、私も一緒に、それを体験させてほしい。——————ダメ、かな?」
最後は、小声になりながらも、小嶋夏海は、シッカリと、こちらに交渉の条件を突きつけてきた。
そして、それは、オレが、これまでの会話の中で、なんとか穏便に済ませようと、避けてきた問題にもキッチリと触れている。
「その……やっぱり、金曜のことは、キチンと説明すべきだよな——————」
オレは、覚悟を決めて、金曜日の放課後、自分が何をしようとしていたのかについて、彼女に打ち明けることにした。
「何回って、正確には覚えてないけど……今日みたいに、連続で使ったこともあるから、三~四十回くらいかな?」
小嶋夏海は、悪びれることなく、あっさりと答える。その返答に、
「っ—————————!?」
言葉にならない声を挙げそうになった、こちらの表情を察したのか、彼女も心配そうに、
「なに!? そんなにマズいことなの?」
と、たずねてくる。
彼女の問いと、ほぼ同時に、オレは、
「小嶋、その木製細工の裏側にあるカウンターを見せてくれ!」
勢い余って、ついボリュームが大きくなることも厭わず、声をあげてしまった。
こちらの声に、驚いた様子で、彼女は、小窓のカウンターが見えるようにして、手に持った木製細工をこちらにかざした。
カウンターの数値は、『45』。
悪い予感が外れて、ホッと一息ついたオレの様子を観察していたのか、
「ちょっと! なに一人で焦ったり、安心したりしてるの!?」
小嶋夏海は、「自分にも、その理由を説明しろ!」と、言外に匂わせながら、質問をぶつけてくる。
ここまで来たら、お互いに情報共有をしておいた方が良いだろうと、判断したオレは、
「オレが、吹き口から息を吹き込んで時間が止まったときは、その小窓から見えるカウンターの数値が一回ずつ減っていってるみたいなんだよ。今は、『45』って、数字になってるだろ? それは、時間停止が可能な残りの回数じゃないかと予想してるんだ。もし、小嶋の使い方でもカウンターの数値が減ってるなら、もう、使用可能な回数が残り少なくなってしまったんじゃないかと……それで、かなり焦ったんだよ」
そう言って、先ほど少し取り乱した態度になった理由を説明した。
こちらの言葉に、
「そうだったんだ——————勝手に色々と使ってしまって、ゴメン……」
彼女は、素直に謝罪の言葉を口にする。
いつも、強気な態度だった小嶋夏海が、殊勝な態度を取ったことに、少し拍子抜けしたオレは、
「いや、別にイイって……知らなかったのなら、仕方ないし、結果的に問題はなかったみたいだしな。あと、オレが、最後に記憶しているのは『47』の数字だったから。金曜の放課後に自分で時間停止の機能を二回使ったのを含めると、小嶋の使い方なら、カウンターの数値は減らない、と考えるとツジツマは合う。また、新しくわかったことが増えて良かったんじゃね?」
と、ガラにもなく——————いや、いつもの紳士らしい態度で、フォローを入れてみた。
すると、彼女は、
「そっか……ありがとう」
と、今度は、感謝の言葉を口にした。
他人(特に異性)を寄せ付けない冷ややかな雰囲気を醸し出している普段とは異なるクラスメートの様子に、調子が狂いそうになりながらも、オレは、これまでの会話の中で、ある種の手応えのようなモノも感じていた。
二人の会話の重要なカギである木製細工が相手の手元にある以上、受け身にならざるを得ない——————。
そう考えていた事前の予測よりも、自分にも分があるように感じて、オレは、小嶋夏海に、こちらの要望を伝えてみることにした。
「なぁ、小嶋。金曜の放課後に、小嶋を驚かせてしまったことは、自分にも反省すべきところはあるし、その点については、謝るから……祖父さんが授けてくれた、その木製細工は、オレに返してくれないか?」
こちらから、そう切り出すと、
「そうだね……坂井に、そういう事情があるなら、私がこのまま持っていて良いモノでもなさそうだし……」
彼女は、そう言って、こちらの気持ちをくみ取ってくれた、と感じたのだが——————。
「これは、坂井に返すから、私の方の要望も聞いてくれない? 一つ目は、金曜日の放課後に、坂井は何をしようとしていたのか、正直に答えてほしい。二つ目は、もし、坂井がイヤでなければ、このアイテムの能力を使うときは、私も一緒に、それを体験させてほしい。——————ダメ、かな?」
最後は、小声になりながらも、小嶋夏海は、シッカリと、こちらに交渉の条件を突きつけてきた。
そして、それは、オレが、これまでの会話の中で、なんとか穏便に済ませようと、避けてきた問題にもキッチリと触れている。
「その……やっぱり、金曜のことは、キチンと説明すべきだよな——————」
オレは、覚悟を決めて、金曜日の放課後、自分が何をしようとしていたのかについて、彼女に打ち明けることにした。
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