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第一章〜⑧〜
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結論から言おう。
午後の六時限目の授業までフル活用したにもかかわらず(つまり、教師の言葉は全く耳に入っていなかったことになる)、オレに知恵の女神は降臨してくれなかった。
来週以降は、午後の授業がない夏季休暇前の短縮授業期間になるため、昼休みと午後の授業がある今日までより、さらに我がミッションの達成は難しくなる。
せっかく、祖父さんが授けてくれた『お宝』も、適切に使えるタイミングがなければ、文字通り『宝の持ち腐れ』だ。
夏休み開始までの残された時間が短くなっていく焦燥感と、素晴らしいアイデアを思いついたにもかかわらず、問題をくりあできなかったために、なんの収穫もなかった本日の成果に落胆する想いを抱えながら、下校前の終礼も上の空で聞いていたオレは、担任教師・七尾の注意喚起も、聞き逃していた。
終礼が終了し、バレー部の部活に向かう哲夫とは生徒昇降口で別れ、同じ帰宅部の康之とともに、校門を目指し、『帰宅』という名の部活動に精を出す準備をする。
徒歩による校門までの準備運動を終えて、いよいよ帰宅の活動本番を迎えるところで、康之が、独り言のように、ボソリと言った。
「はぁ~、進路選択の提出、マジでだりぃ……月曜までに、親の同意を取って出せとか、考えただけで気が滅入るわ」
いつもなら、康之の愚痴に「あぁ、そうだな」と同意しておくのだが、ここ二日ほど、様々な理由から教室内では注意散漫になっていたオレは、
「『進路選択の提出』って、なんだっけソレ?」
と、素直に疑問を口にする。その一言に、隣を歩く悪友は、
「はぁ? おまえ、昨日と今日の終礼で、七尾ちゃんの話し聞いてなかったのかよ!? 昨日、ショート・ホームルームで配られたプリントに希望する進路を書いて、月曜に提出するんだよ!」
「説明的ツッコミお見事! 友人キャラ特有のスキルを披露してもらえて助かる。康之、おまえ、案外イイやつなんだな」
冷静さを装って、返答すると、康之はあきれたという口調で、言葉を返す。
「オレをツッコミ役に回らせるとか、おまえ、相当の大物だわ……」
「まぁ、この帰宅部の活動にかけちゃ、マスコミから『十年に一人の逸材』と言われたオトコだからな、オレは」
真顔で、言い返すと、
「表情変えずにボケても、ツッコミ待ちがバレバレなんだよ! とっとプリント取りに戻れ! オレは、先に帰らせてもらうからな」
と、言って康之は帰宅の途につこうとする。
自分の完全なる失態で、わざわざ戻るのを待ってもらうのも悪いので、こちらも、「あぁ、スマンな」と言って悪友に下校を促した。残念ながら、帰宅部ダブルスも、今日は、即座に解散だ。
(すまない、ヤスユキ……おまえとなら、世界を目指せると思っていたのに……)
ツッコミ役不在のままの小ボケをココロの中で楽しみつつ、オレは校門で踵を返し、昇降口で上履きに履き替えて、我がクラスの二年一組の教室に向かうことにした。
二年生の教室がある校舎の三階に移動するまで、何人かの生徒とすれ違ったが、この時間に、階段で上の階を目指しているのは自分くらいだった。終礼から三十分と経っていないにもかかわらず、三階の廊下は人気が少なく、ガランとしている。
上ってきた階段からは一番遠い場所にある一組の教室に向かう途中では誰ともすれ違わなかったので、このフロアには、もう生徒が居ないのだろうと思いながら、一組の教室のドアを開けた瞬間、声を出してしまいそうになるくらい驚いた。
窓際の席に小嶋夏海が座っていたからだ——————。
午後の六時限目の授業までフル活用したにもかかわらず(つまり、教師の言葉は全く耳に入っていなかったことになる)、オレに知恵の女神は降臨してくれなかった。
来週以降は、午後の授業がない夏季休暇前の短縮授業期間になるため、昼休みと午後の授業がある今日までより、さらに我がミッションの達成は難しくなる。
せっかく、祖父さんが授けてくれた『お宝』も、適切に使えるタイミングがなければ、文字通り『宝の持ち腐れ』だ。
夏休み開始までの残された時間が短くなっていく焦燥感と、素晴らしいアイデアを思いついたにもかかわらず、問題をくりあできなかったために、なんの収穫もなかった本日の成果に落胆する想いを抱えながら、下校前の終礼も上の空で聞いていたオレは、担任教師・七尾の注意喚起も、聞き逃していた。
終礼が終了し、バレー部の部活に向かう哲夫とは生徒昇降口で別れ、同じ帰宅部の康之とともに、校門を目指し、『帰宅』という名の部活動に精を出す準備をする。
徒歩による校門までの準備運動を終えて、いよいよ帰宅の活動本番を迎えるところで、康之が、独り言のように、ボソリと言った。
「はぁ~、進路選択の提出、マジでだりぃ……月曜までに、親の同意を取って出せとか、考えただけで気が滅入るわ」
いつもなら、康之の愚痴に「あぁ、そうだな」と同意しておくのだが、ここ二日ほど、様々な理由から教室内では注意散漫になっていたオレは、
「『進路選択の提出』って、なんだっけソレ?」
と、素直に疑問を口にする。その一言に、隣を歩く悪友は、
「はぁ? おまえ、昨日と今日の終礼で、七尾ちゃんの話し聞いてなかったのかよ!? 昨日、ショート・ホームルームで配られたプリントに希望する進路を書いて、月曜に提出するんだよ!」
「説明的ツッコミお見事! 友人キャラ特有のスキルを披露してもらえて助かる。康之、おまえ、案外イイやつなんだな」
冷静さを装って、返答すると、康之はあきれたという口調で、言葉を返す。
「オレをツッコミ役に回らせるとか、おまえ、相当の大物だわ……」
「まぁ、この帰宅部の活動にかけちゃ、マスコミから『十年に一人の逸材』と言われたオトコだからな、オレは」
真顔で、言い返すと、
「表情変えずにボケても、ツッコミ待ちがバレバレなんだよ! とっとプリント取りに戻れ! オレは、先に帰らせてもらうからな」
と、言って康之は帰宅の途につこうとする。
自分の完全なる失態で、わざわざ戻るのを待ってもらうのも悪いので、こちらも、「あぁ、スマンな」と言って悪友に下校を促した。残念ながら、帰宅部ダブルスも、今日は、即座に解散だ。
(すまない、ヤスユキ……おまえとなら、世界を目指せると思っていたのに……)
ツッコミ役不在のままの小ボケをココロの中で楽しみつつ、オレは校門で踵を返し、昇降口で上履きに履き替えて、我がクラスの二年一組の教室に向かうことにした。
二年生の教室がある校舎の三階に移動するまで、何人かの生徒とすれ違ったが、この時間に、階段で上の階を目指しているのは自分くらいだった。終礼から三十分と経っていないにもかかわらず、三階の廊下は人気が少なく、ガランとしている。
上ってきた階段からは一番遠い場所にある一組の教室に向かう途中では誰ともすれ違わなかったので、このフロアには、もう生徒が居ないのだろうと思いながら、一組の教室のドアを開けた瞬間、声を出してしまいそうになるくらい驚いた。
窓際の席に小嶋夏海が座っていたからだ——————。
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