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第4章〜What Mad Metaverse(発狂した多元宇宙)〜⑧
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シュヴァルツの両脚を掴んだオレが声を発すると同時に、ゲルブが構えた銃器からは
BOMB!!
という、さっきよりもさらに鈍い発砲音を伴い、弾丸が発射された。
銀河連邦の捜査官との打ち合わせどおりなら、ゲルブの銃から発射された弾丸は実弾ではなく、麻酔弾になっているはずだ。
オレとは異なり、命中弾をくらったシュヴァルツは、銃撃を受けた衝撃と両脚をつかまれている影響で、その場に倒れ込む。
彼の手からは、USBメモリーのような端末機器がこぼれ落ち、屋上フロアの床に着地して、カチリ――――――と、音を立てる。
「玄野雄司、貴様どうして……」
弾丸を受け止めた腹部を押さえながら、片膝をついて、シュヴァルツが問いかける。
「自己欺瞞だと自覚しているんだが、オレは、自分自身を騙すのは得意だからな……それと、アンタが、自分たちのセカイだけが進歩していると思い込んでいたのも原因だ。アンタは、オレが自分たちの認識していない能力を持つアイテムを持っているなんて、考えもしなかっただろう?」
自分と瓜二つの姿の相手に返答しながら、オレは、ブルームから授かった小型の木製楽器の存在を確認する。
ゲルブと話し合って、このコカリナと呼ばれるアイテムのチカラを借りることにしたオレは、銀河連邦の捜査官とともに、拳銃の発射とコカリナによる時間停止能力の発動タイミングを合わせる訓練を時間の許す限り、何度も行った。
実践の場では、実弾を使用する状況になるため、危険を伴うのはわかっていたが、シュヴァルツの警戒心を解きながら、彼の動きを封じる方法をオレは他に思いつかなかったのだ。
彼ら『ラディカル』のメンバーが、オレの脳内に残された記憶や経験を執拗に狙う理由については、いまだにピンと来ないのだが、それでも、オレ自身を囮として使えるなら、どんな手段を使ってでも、シュヴァルツの身柄を確保するために行動しようと考えていた。
ゲルブが銃を発射した瞬間、完璧なタイミングで時間を停止させ、三十秒の短い停止時間の間で、弾丸を射線上から回収したオレは、屋上フロアの地面に横たわった。
途中で、正気を取り戻した桃の騒ぐ声が聞こえてきたときは、内心でかなり焦ったが、ブルームたち捜査官の誰かが、その場を収めてくれたことは幸運だったといえる。
はたして、ゲルブが言ったように、オレの脳内データに固執したシュヴァルツは、目論見どおり、大した警戒心も持たないまま、うつ伏せに倒れたままのオレに、無防備に近づいてきた。
ヤツらの狙いが、オレの脳内に蓄積されたアナログデータのエクスポート(というデジタル用語を使用するのが微笑ましいと感じる)することだと、以前の会話でゲルブから説明してもらったことを思い出す。
「そのデジタル端末で、他人の脳内データをエクスポートできるってことは、反対に誰かのデータをインポートすることもできるのか?」
疑問に思ったことを銀河連邦の捜査官にたずねると、彼は、うなずきながら即答した。
「ボクらが、ユニバーサル・シリアル・ブレインサーキットと呼んでいる小型端末の多くは、エクスポート機能とインポート機能が備わっている。キミの言うとおり、他人の脳内データを自分や第三者にインポートすることも可能だ。ただし―――――」
ゲルブは、そこまで言って、一旦、間を取ったあと、こう付け加えた。
「以前に話したように、ボクらのセカイでは、トリッパーは電脳化という脳の記憶領域などをデジタル化して拡張する施術を受けているので、外部データのインポートを受け入れることも可能だけど……電脳化の手術を受けていない生身の人間が、データをインポートされたら……」
銀河連邦の捜査官は、最後の言葉を濁したが――――――。
もしも、人間の脳の許容量を超える情報を無理やり押し込まれたとしたら……。
彼らのセカイの技術についての知識に乏しいオレにも、その結果は、容易に想像することができた。
そんな会話を思い出しながら、あらためて、自分たちが普通に暮らしていたセカイとゲルブやシュヴァルツたちが暮らしていたセカイの技術力の差に思い至る。
桃を守るため、そして、これまでの自分の行動に対する責任を取る、という考えで頭がいっぱいになっていたため、自覚することができていなかったが、ゲルブやシュヴァルツのセカイに立ち向かおうとしたオレ自身の言動が、彼らにとって、無謀極まりないものと写ったのは当然のことだった。
落ち着きを取り戻し、冷静さを欠いていた自分の考え方を反省しつつ、シュヴァルツが手にしていたユニバーサル・シリアル・ブレインサーキットを回収し、捜査官に預けておこうと、屋上フロアの地面にかがみ込んで、端末に手を伸ばす。
しかし――――――。
オレの動作と同時に、意識が朦朧としているはずだった過激派集団のリーダーが、こちらより先に端末を手にして、殴りかかるようにして拳をオレの首筋に振り下ろしてきた。
その瞬間、首の後ろ側の脊髄の部分に大きな衝撃を受けると同時に、オレの脳内には、これまで自分が経験したこともないような、無数の幻覚が映し出された。
BOMB!!
という、さっきよりもさらに鈍い発砲音を伴い、弾丸が発射された。
銀河連邦の捜査官との打ち合わせどおりなら、ゲルブの銃から発射された弾丸は実弾ではなく、麻酔弾になっているはずだ。
オレとは異なり、命中弾をくらったシュヴァルツは、銃撃を受けた衝撃と両脚をつかまれている影響で、その場に倒れ込む。
彼の手からは、USBメモリーのような端末機器がこぼれ落ち、屋上フロアの床に着地して、カチリ――――――と、音を立てる。
「玄野雄司、貴様どうして……」
弾丸を受け止めた腹部を押さえながら、片膝をついて、シュヴァルツが問いかける。
「自己欺瞞だと自覚しているんだが、オレは、自分自身を騙すのは得意だからな……それと、アンタが、自分たちのセカイだけが進歩していると思い込んでいたのも原因だ。アンタは、オレが自分たちの認識していない能力を持つアイテムを持っているなんて、考えもしなかっただろう?」
自分と瓜二つの姿の相手に返答しながら、オレは、ブルームから授かった小型の木製楽器の存在を確認する。
ゲルブと話し合って、このコカリナと呼ばれるアイテムのチカラを借りることにしたオレは、銀河連邦の捜査官とともに、拳銃の発射とコカリナによる時間停止能力の発動タイミングを合わせる訓練を時間の許す限り、何度も行った。
実践の場では、実弾を使用する状況になるため、危険を伴うのはわかっていたが、シュヴァルツの警戒心を解きながら、彼の動きを封じる方法をオレは他に思いつかなかったのだ。
彼ら『ラディカル』のメンバーが、オレの脳内に残された記憶や経験を執拗に狙う理由については、いまだにピンと来ないのだが、それでも、オレ自身を囮として使えるなら、どんな手段を使ってでも、シュヴァルツの身柄を確保するために行動しようと考えていた。
ゲルブが銃を発射した瞬間、完璧なタイミングで時間を停止させ、三十秒の短い停止時間の間で、弾丸を射線上から回収したオレは、屋上フロアの地面に横たわった。
途中で、正気を取り戻した桃の騒ぐ声が聞こえてきたときは、内心でかなり焦ったが、ブルームたち捜査官の誰かが、その場を収めてくれたことは幸運だったといえる。
はたして、ゲルブが言ったように、オレの脳内データに固執したシュヴァルツは、目論見どおり、大した警戒心も持たないまま、うつ伏せに倒れたままのオレに、無防備に近づいてきた。
ヤツらの狙いが、オレの脳内に蓄積されたアナログデータのエクスポート(というデジタル用語を使用するのが微笑ましいと感じる)することだと、以前の会話でゲルブから説明してもらったことを思い出す。
「そのデジタル端末で、他人の脳内データをエクスポートできるってことは、反対に誰かのデータをインポートすることもできるのか?」
疑問に思ったことを銀河連邦の捜査官にたずねると、彼は、うなずきながら即答した。
「ボクらが、ユニバーサル・シリアル・ブレインサーキットと呼んでいる小型端末の多くは、エクスポート機能とインポート機能が備わっている。キミの言うとおり、他人の脳内データを自分や第三者にインポートすることも可能だ。ただし―――――」
ゲルブは、そこまで言って、一旦、間を取ったあと、こう付け加えた。
「以前に話したように、ボクらのセカイでは、トリッパーは電脳化という脳の記憶領域などをデジタル化して拡張する施術を受けているので、外部データのインポートを受け入れることも可能だけど……電脳化の手術を受けていない生身の人間が、データをインポートされたら……」
銀河連邦の捜査官は、最後の言葉を濁したが――――――。
もしも、人間の脳の許容量を超える情報を無理やり押し込まれたとしたら……。
彼らのセカイの技術についての知識に乏しいオレにも、その結果は、容易に想像することができた。
そんな会話を思い出しながら、あらためて、自分たちが普通に暮らしていたセカイとゲルブやシュヴァルツたちが暮らしていたセカイの技術力の差に思い至る。
桃を守るため、そして、これまでの自分の行動に対する責任を取る、という考えで頭がいっぱいになっていたため、自覚することができていなかったが、ゲルブやシュヴァルツのセカイに立ち向かおうとしたオレ自身の言動が、彼らにとって、無謀極まりないものと写ったのは当然のことだった。
落ち着きを取り戻し、冷静さを欠いていた自分の考え方を反省しつつ、シュヴァルツが手にしていたユニバーサル・シリアル・ブレインサーキットを回収し、捜査官に預けておこうと、屋上フロアの地面にかがみ込んで、端末に手を伸ばす。
しかし――――――。
オレの動作と同時に、意識が朦朧としているはずだった過激派集団のリーダーが、こちらより先に端末を手にして、殴りかかるようにして拳をオレの首筋に振り下ろしてきた。
その瞬間、首の後ろ側の脊髄の部分に大きな衝撃を受けると同時に、オレの脳内には、これまで自分が経験したこともないような、無数の幻覚が映し出された。
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