61 / 75
第4章〜What Mad Metaverse(発狂した多元宇宙)〜③
しおりを挟む
屋上フロアの出入り口となっているドアを勢いよく開くと、そこには、オレの予想したとおりの光景がひろがっていた。
フロアに確認できる人影は、三つ。
放送・新聞部の後輩である浅倉桃。
吹奏楽部の顧問であり音楽専科の教師である桜木高大――――――いや、それは、オレたちのセカイの人物のなまえであり、桃を監視するように見つめている彼は、ひと月ほど前に、この校舎屋上から逃亡したキルシュブリーテだろう。
そして、もうひとり――――――。
毎朝、鏡で見慣れた姿がそこにある。
ただ、初めて目にするその相手は、黒髪のオレとは違い、金色に近い明るい髪の色が印象的だった。
ドアが開く音に気づいたのか、三つの人影のうち、二つの顔がこちらを向いた。
「フン……プフィルズィッヒいや……こっちのセカイでは、浅倉桃と言ったか……その端末で、貴様を呼び出してやろうと考えていたところだが……ちょうどイイ……手間が省けた」
ヤツが、彼女のことを聞き慣れない横文字で呼ぶのを耳にして、
(やっぱり、桃と似た存在が向こうのセカイに居るのか……)
と感じつつ、意識をふたたび、対峙すべき相手に向けて、オレは答える。
「名前の割に、ハデな髪色の相手に、大切な後輩を任せておくわけにはいかないからな……悪いが、アンタたちの計画が終わる前に桃は返してもらうぞ!」
語学に堪能な人間、もしくは、中二病をこじらせた経験のあるヤツには説明の必要は無いだろうが、シュヴァルツとは、日本語で「クロ」を意味するドイツ語圏の単語だ。
ゲルブたちの会話で、なんとなく自分に近しい人間が関わっているのではないかと察していたが、自分の周辺で、「クロ」を意味する名前を持った人間は、オレの他にいなかった。
並行世界を統合しようという中学生が考えそうな誇大妄想に近い計画を遂行しようという人物なら、その名に相応しく、全身を黒づくめで統一してほしかったが……。
どうやら、シュヴァルツとオレ自身の思想・信条は、相容れないモノがあるらしい。
「浅倉桃を返してもらう? ククク……そういう強気なセリフは、有利な状況にある者が語るモノだと思っていたが……どうやら、並行世界の住人には、我々の一般常識は通用しないらしい……これもまた、多様な価値観とやらの弊害だな」
オレの姿をした金色の髪の男子学生風の人物がそう言うと、彼のかたわらに立つ教師風の相手は、一言一句に同意するといった感じで、どう見ても年下にしか見えない発言主の言葉を完全に肯定する。
「シュヴァルツの仰るとおりかと……我々のセカイ統合論の正しさが、また証明されましたね」
年端のいかない男子生徒に対して、腰巾着なような態度を取る教職員というのは、オレの価値観を根本的に揺るがすモノだが、彼らのセカイでは、一般的なことなのだろうか?
自分自身の経験則とは決して相容れないモノではあるが、年齢によらないのであれば、どんな要素が序列を決めているのか、彼らのセカイの価値観に、少しだけ興味を覚える。
ただ、いまは彼らの独特な考え方や世界観に好奇心を抱いている場合ではない。
どんな価値観を持っているのであれ、女子生徒を人質に取るようなヤツらの行動を見すごす理由はない。
「河野に続いて、桃まで……女子をタテにするような人間たちの理屈で進む計画を黙って見てはいられねぇな……もうすぐ、応援の捜査官たちが駆けつけてくる。この前のキルシュブリーテのように、桃を解放して、ここから逃げ出したらどうだ?」
挑発的に発したオレの一言に、前回、ブルームとオレの前から逃亡を図ったキルシュブリーテの表情が微かに歪むのが、離れた位置からでもわかった。
一方、シュヴァルツは、相変わらず不遜な表情を崩さず、尊大な態度で言い放つ。
「口数の減らんヤツだな……ただ、我々とて、自分たちのメンバーが侮辱されたとあれば、相応の報いというもの受けてもらわねば、組織の沽券に関わるからな……立場をわきまえない生意気な相手には、わからせという行動も必要だろう」
そう言うと、髪の色以外は、オレとそっくり同じ姿をしている相手は、懐から長さ十数センチはあろうかという銃火器のように見える物体を取り出したかと思うと、少ないモーションで、引き金を引いた。
「危ないっ!」
すぐそばで起こった叫び声に反応するより早く、ゲルブが、オレを押し倒すようにして、身体ごと伸し掛かってきた。
彼のとっさの判断が功を奏したのか、倒れ込んだオレたちの数十センチ上の空間をを赤く伸びたレーザー光線のような粒子が切り裂く。
その粒子の短い帯は、そのまま屋上フロアの出入り口付近の校舎を照射し、一瞬の沈黙のあと、鈍い音とともに、コンクリートの破片を周囲に四散させた。
「こんな場面で挑発的言動はマズいって……ほとんど丸腰なのに、良くあんな態度が取れるね」
立場は違えど、どうやら、ゲルブもオレの言動が、現状に相応しいモノではないという考えにおいては、シュヴァルツと同じ意見のようだ。
フロアに確認できる人影は、三つ。
放送・新聞部の後輩である浅倉桃。
吹奏楽部の顧問であり音楽専科の教師である桜木高大――――――いや、それは、オレたちのセカイの人物のなまえであり、桃を監視するように見つめている彼は、ひと月ほど前に、この校舎屋上から逃亡したキルシュブリーテだろう。
そして、もうひとり――――――。
毎朝、鏡で見慣れた姿がそこにある。
ただ、初めて目にするその相手は、黒髪のオレとは違い、金色に近い明るい髪の色が印象的だった。
ドアが開く音に気づいたのか、三つの人影のうち、二つの顔がこちらを向いた。
「フン……プフィルズィッヒいや……こっちのセカイでは、浅倉桃と言ったか……その端末で、貴様を呼び出してやろうと考えていたところだが……ちょうどイイ……手間が省けた」
ヤツが、彼女のことを聞き慣れない横文字で呼ぶのを耳にして、
(やっぱり、桃と似た存在が向こうのセカイに居るのか……)
と感じつつ、意識をふたたび、対峙すべき相手に向けて、オレは答える。
「名前の割に、ハデな髪色の相手に、大切な後輩を任せておくわけにはいかないからな……悪いが、アンタたちの計画が終わる前に桃は返してもらうぞ!」
語学に堪能な人間、もしくは、中二病をこじらせた経験のあるヤツには説明の必要は無いだろうが、シュヴァルツとは、日本語で「クロ」を意味するドイツ語圏の単語だ。
ゲルブたちの会話で、なんとなく自分に近しい人間が関わっているのではないかと察していたが、自分の周辺で、「クロ」を意味する名前を持った人間は、オレの他にいなかった。
並行世界を統合しようという中学生が考えそうな誇大妄想に近い計画を遂行しようという人物なら、その名に相応しく、全身を黒づくめで統一してほしかったが……。
どうやら、シュヴァルツとオレ自身の思想・信条は、相容れないモノがあるらしい。
「浅倉桃を返してもらう? ククク……そういう強気なセリフは、有利な状況にある者が語るモノだと思っていたが……どうやら、並行世界の住人には、我々の一般常識は通用しないらしい……これもまた、多様な価値観とやらの弊害だな」
オレの姿をした金色の髪の男子学生風の人物がそう言うと、彼のかたわらに立つ教師風の相手は、一言一句に同意するといった感じで、どう見ても年下にしか見えない発言主の言葉を完全に肯定する。
「シュヴァルツの仰るとおりかと……我々のセカイ統合論の正しさが、また証明されましたね」
年端のいかない男子生徒に対して、腰巾着なような態度を取る教職員というのは、オレの価値観を根本的に揺るがすモノだが、彼らのセカイでは、一般的なことなのだろうか?
自分自身の経験則とは決して相容れないモノではあるが、年齢によらないのであれば、どんな要素が序列を決めているのか、彼らのセカイの価値観に、少しだけ興味を覚える。
ただ、いまは彼らの独特な考え方や世界観に好奇心を抱いている場合ではない。
どんな価値観を持っているのであれ、女子生徒を人質に取るようなヤツらの行動を見すごす理由はない。
「河野に続いて、桃まで……女子をタテにするような人間たちの理屈で進む計画を黙って見てはいられねぇな……もうすぐ、応援の捜査官たちが駆けつけてくる。この前のキルシュブリーテのように、桃を解放して、ここから逃げ出したらどうだ?」
挑発的に発したオレの一言に、前回、ブルームとオレの前から逃亡を図ったキルシュブリーテの表情が微かに歪むのが、離れた位置からでもわかった。
一方、シュヴァルツは、相変わらず不遜な表情を崩さず、尊大な態度で言い放つ。
「口数の減らんヤツだな……ただ、我々とて、自分たちのメンバーが侮辱されたとあれば、相応の報いというもの受けてもらわねば、組織の沽券に関わるからな……立場をわきまえない生意気な相手には、わからせという行動も必要だろう」
そう言うと、髪の色以外は、オレとそっくり同じ姿をしている相手は、懐から長さ十数センチはあろうかという銃火器のように見える物体を取り出したかと思うと、少ないモーションで、引き金を引いた。
「危ないっ!」
すぐそばで起こった叫び声に反応するより早く、ゲルブが、オレを押し倒すようにして、身体ごと伸し掛かってきた。
彼のとっさの判断が功を奏したのか、倒れ込んだオレたちの数十センチ上の空間をを赤く伸びたレーザー光線のような粒子が切り裂く。
その粒子の短い帯は、そのまま屋上フロアの出入り口付近の校舎を照射し、一瞬の沈黙のあと、鈍い音とともに、コンクリートの破片を周囲に四散させた。
「こんな場面で挑発的言動はマズいって……ほとんど丸腰なのに、良くあんな態度が取れるね」
立場は違えど、どうやら、ゲルブもオレの言動が、現状に相応しいモノではないという考えにおいては、シュヴァルツと同じ意見のようだ。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
女ハッカーのコードネームは @takashi
一宮 沙耶
大衆娯楽
男の子に、子宮と女性の生殖器を移植するとどうなるのか?
その後、かっこよく生きる女性ハッカーの物語です。
守護霊がよく喋るので、聞いてみてください。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる