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幕間その2~Not Ready to Make Nice(イイ娘でなんていられない)~後編(上)
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~ルートC・浅倉桃の回想~
中学校に入学早々、ワタシに嫌がらせをしてきた女子たちを放課後に呼び出したものの、反撃されて謝罪させられそうになったところを助けてくれたのは、玄野センパイだった。
三人の女子が事件現場(?)を離れ、周囲に人がいなくなったことを確認してから、しゃがみこんだまま、呆然としているワタシに、彼が近寄ってきた。
そんなセンパイに、ワタシは、いきなり疑問をぶつける。
「く、玄野センパイが、どうして、ここにいるんですか!?」
「ここに来た理由か? さっきも言ったが、リクエストボックスに入ってた投書の件で、ちょっと桜花部長に頼まれてな……」
センパイがそう言ったあと、放送部の上級生に、今回の件を知られてしまったという事実にショックを受け、呆然としていると、彼は、ワタシの髪についた砂を払うように毛を撫でてくれた。
そして、
「良く我慢したな、浅倉……それと、気づくのが遅くなってゴメンな……」
と言って、頭を下げる。
(そんな……センパイが謝ることじゃないのに……)
何も悪くない上級生に謝罪させてしまったことを申し訳なく感じつつも、そのことをどう告げて良いのかわからなかったワタシは、うつむいたまま、センパイにたずねる。
「あの……放送部は、どこまで今日おきたことを把握してるんですか? どうして、道徳の教科書に落書きされたことまで……」
「放送部が事実を把握してるのは、リクエストボックスに投書された紙と、浅倉のクラスメートからお姉さんを通じて桜花部長に伝えられた情報だけだよ。教科書の落書きの件は、完全に部長の推測だけど……あの三人と浅倉の反応を見ると、どうやら、完璧な推理だったみたいだな」
ワタシの表情とは逆に、彼は苦笑しながら答えた。
あいらんど中学の生徒会長にして、放送部の部長でもある荒金桜花センパイのカンの鋭さに、ワタシは驚きを隠せなかった。
そんなワタシと同じことを感じているのだろうか、くろセンパイは、部長さんの口調を真似て、
「状況から察するに、浅倉さんは、教科書か学習用具に、なにかイタズラをされてるハズ……浅倉さんのようすがおかしかったのは、一時間目からのようだから、可能性が高いのは道徳の教科書ね。もし、犯人がシラをきるようだったら、この投書の紙から指紋を取って、被害にあった浅倉さんの持ち物と比較検証する、と伝えてちょうだい」
と、上級生の推理場面を再現してみせた。そして、なかば、あきれたような表情で、
「実際、指紋を取るなんてことが出来るわけないけど、中学生に対する脅し文句としては十分だよな」
と言ったあと、苦笑しながらこう言った。
「桜花先輩と付き合うオトコは、絶ッッッッ対に浮気とかデキねぇな……」
そんな、くろセンパイの表情に、ワタシもつられて、ほおが緩んでしまう。
そして、失礼であることを承知しながら、こんなことを口にしてしまった。
「玄野センパイは、桜花部長どころか、他の女子とも付き合える可能性なんて測定限界値以下ですから、そんな心配しなくても大丈夫ですよ」
一気に言い切ったワタシの言葉を耳にしたセンパイは、目を丸くして、驚いたような表情を見せる。
そして、また苦笑しながら、
「浅倉……自分で言うのもナンだが、助けに来た上級生に、良くそんなことが言えるな……」
と、ため息をついて、つぶやいたあと、彼はこんな提案をしてきた。
「まあ、それでも……さっきも言ったけど、よくがんばったな……だけど、周りのヤツらに振り回されて、ストレスも溜まってるだろう? 周りに誰もいないところで、本音をぶちまけてみないか?」
そう言って、くろセンパイは、ワタシを学校の外に連れ出す。
(どこに行くんだろう?)
いぶかしげに思いながらも、黙ってついて行くと、彼は高校や大学の施設の前を通り抜け、マリンパークと呼ばれる海沿いの公園施設で立ち止まった。
海に面した公園の欄干の向こうには、ガントリークレーンと呼ばれるコンテナの積み下ろしを行う巨大な機械が、いくつも確認できる。
それは、まるで、サバンナのオアシスに並んで水を飲む、キリンの群れのように見える。
港町に住むワタシたちにとって見慣れた風景ではあるけれど、真っ赤な夕陽と、春の夕暮れに照らされキラキラと輝く水面は、自分の中のモヤモヤした想いを受け入れてくれるような気がした。
その光景を目にして、彼の考えていることは、なんとなく察することができたけど――――――。
ただ、美しい夕焼けを望む絶好のロケーションにもかかわらず、くろセンパイの言うように、なぜか、人通りは少なかったが、それでも、すぐに海に向かって、自分の想いを叫ぶような気持ちにはなれなかった。
そんなワタシのことを察してくれたのかはわからないけれど、隣で欄干に手を掛けていた彼は、
「じゃあ、オレから行くぞ!」
と言ってから、海に向かって、こう叫んだ。
「三葉、見てろよ! オレはやってやるぞ~!!」
この時はまだ、くろセンパイが、その言葉に込めた意味はわからなかったけど……。
それが、彼の心の底からの叫びだと言うことだけは、この時点で、まだ付き合いの浅いのワタシにも理解できた。
中学校に入学早々、ワタシに嫌がらせをしてきた女子たちを放課後に呼び出したものの、反撃されて謝罪させられそうになったところを助けてくれたのは、玄野センパイだった。
三人の女子が事件現場(?)を離れ、周囲に人がいなくなったことを確認してから、しゃがみこんだまま、呆然としているワタシに、彼が近寄ってきた。
そんなセンパイに、ワタシは、いきなり疑問をぶつける。
「く、玄野センパイが、どうして、ここにいるんですか!?」
「ここに来た理由か? さっきも言ったが、リクエストボックスに入ってた投書の件で、ちょっと桜花部長に頼まれてな……」
センパイがそう言ったあと、放送部の上級生に、今回の件を知られてしまったという事実にショックを受け、呆然としていると、彼は、ワタシの髪についた砂を払うように毛を撫でてくれた。
そして、
「良く我慢したな、浅倉……それと、気づくのが遅くなってゴメンな……」
と言って、頭を下げる。
(そんな……センパイが謝ることじゃないのに……)
何も悪くない上級生に謝罪させてしまったことを申し訳なく感じつつも、そのことをどう告げて良いのかわからなかったワタシは、うつむいたまま、センパイにたずねる。
「あの……放送部は、どこまで今日おきたことを把握してるんですか? どうして、道徳の教科書に落書きされたことまで……」
「放送部が事実を把握してるのは、リクエストボックスに投書された紙と、浅倉のクラスメートからお姉さんを通じて桜花部長に伝えられた情報だけだよ。教科書の落書きの件は、完全に部長の推測だけど……あの三人と浅倉の反応を見ると、どうやら、完璧な推理だったみたいだな」
ワタシの表情とは逆に、彼は苦笑しながら答えた。
あいらんど中学の生徒会長にして、放送部の部長でもある荒金桜花センパイのカンの鋭さに、ワタシは驚きを隠せなかった。
そんなワタシと同じことを感じているのだろうか、くろセンパイは、部長さんの口調を真似て、
「状況から察するに、浅倉さんは、教科書か学習用具に、なにかイタズラをされてるハズ……浅倉さんのようすがおかしかったのは、一時間目からのようだから、可能性が高いのは道徳の教科書ね。もし、犯人がシラをきるようだったら、この投書の紙から指紋を取って、被害にあった浅倉さんの持ち物と比較検証する、と伝えてちょうだい」
と、上級生の推理場面を再現してみせた。そして、なかば、あきれたような表情で、
「実際、指紋を取るなんてことが出来るわけないけど、中学生に対する脅し文句としては十分だよな」
と言ったあと、苦笑しながらこう言った。
「桜花先輩と付き合うオトコは、絶ッッッッ対に浮気とかデキねぇな……」
そんな、くろセンパイの表情に、ワタシもつられて、ほおが緩んでしまう。
そして、失礼であることを承知しながら、こんなことを口にしてしまった。
「玄野センパイは、桜花部長どころか、他の女子とも付き合える可能性なんて測定限界値以下ですから、そんな心配しなくても大丈夫ですよ」
一気に言い切ったワタシの言葉を耳にしたセンパイは、目を丸くして、驚いたような表情を見せる。
そして、また苦笑しながら、
「浅倉……自分で言うのもナンだが、助けに来た上級生に、良くそんなことが言えるな……」
と、ため息をついて、つぶやいたあと、彼はこんな提案をしてきた。
「まあ、それでも……さっきも言ったけど、よくがんばったな……だけど、周りのヤツらに振り回されて、ストレスも溜まってるだろう? 周りに誰もいないところで、本音をぶちまけてみないか?」
そう言って、くろセンパイは、ワタシを学校の外に連れ出す。
(どこに行くんだろう?)
いぶかしげに思いながらも、黙ってついて行くと、彼は高校や大学の施設の前を通り抜け、マリンパークと呼ばれる海沿いの公園施設で立ち止まった。
海に面した公園の欄干の向こうには、ガントリークレーンと呼ばれるコンテナの積み下ろしを行う巨大な機械が、いくつも確認できる。
それは、まるで、サバンナのオアシスに並んで水を飲む、キリンの群れのように見える。
港町に住むワタシたちにとって見慣れた風景ではあるけれど、真っ赤な夕陽と、春の夕暮れに照らされキラキラと輝く水面は、自分の中のモヤモヤした想いを受け入れてくれるような気がした。
その光景を目にして、彼の考えていることは、なんとなく察することができたけど――――――。
ただ、美しい夕焼けを望む絶好のロケーションにもかかわらず、くろセンパイの言うように、なぜか、人通りは少なかったが、それでも、すぐに海に向かって、自分の想いを叫ぶような気持ちにはなれなかった。
そんなワタシのことを察してくれたのかはわからないけれど、隣で欄干に手を掛けていた彼は、
「じゃあ、オレから行くぞ!」
と言ってから、海に向かって、こう叫んだ。
「三葉、見てろよ! オレはやってやるぞ~!!」
この時はまだ、くろセンパイが、その言葉に込めた意味はわからなかったけど……。
それが、彼の心の底からの叫びだと言うことだけは、この時点で、まだ付き合いの浅いのワタシにも理解できた。
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