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第3章〜逆転世界の電波少女〜⑭
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桃の発案で始まったVTuberによる広報・宣伝企画は、当初の予定通り、その後も、美術部やコンピューター・クラブのメンバーを巻き込みながら、順調に進んでいった。
放送・新聞部の代表となった冬馬と文芸部部長の山竹碧が言ったとおり、キャラクターに名前と性格付けがなされたことで、おぼろげな存在でしかなかったVTuberのキャラが、島内四片という存在として、グッと具体的に感じられるようになった。
そのことが、美術部とコンピューター・クラブとの交渉を円滑に進めることができた要因になったのは間違いないと思う。
島内四片の名付け親と言っても良い山竹のアイデアで、アジサイの花にちなんだキャラクター・デザインにしてほしいという要望は、美術部の創作意欲を刺激したようで、オレたちも参加させてもらった彼らの選考会は力作が揃っていて、デザイン選考を大いに楽しませてもらった。
選定されたデザインを持って挑んだコンピューター・クラブとの交渉では、
「このデザインで、中の人は、浅倉さんなんだよね……? デュフフ……引き受けましょう」
と、積極的に取り組んでくれる約束を取り付けることができた。
さらに、中学時代に、『あいらんど中学のカナリア』と呼ばれた桃が、彼女の特技を発揮して、島内四片の発声テストを行ったときには、
「水色デザインのクール毒舌モードと、薄紅色デザインの甘口モードのギャップがタマリマセンなぁ……」
という彼らの感想を耳にして背筋に悪寒が走りかけたが、モーション・キャプチャーのソフトを使いこなす力量を見せられると、ここでも、コンピューター・クラブに協力をあおいだことに間違いなかったことが実感できた。
桃がオレにアイデアを語った日から、わずか1ヶ月たらずで、放送・新聞部のキャラクターは、校内の一部の生徒から注目を集める存在になっていった。
その実感があるのか、朝の時間帯には、まだ冬の寒さが残る季節であるにもかかわらず、同居人であり、部活の後輩でもある彼女は、このところ、目に見えて寝起きの機嫌が良くなっている。
「朝から味わって飲むコーヒーは格別だね。これが、カフェラテなら、さらに言うことないんだけど……」
基本的に不機嫌な朝イチの時間帯には、こんな余裕たっぷりの発言をすることなどなかった桃が、朝食時に冗談とも本気ともつかない洒落っ気のあることを言い出すほど、ここ最近の彼女は、心身ともに充実した時期を迎えているようだ。
そんなこともあって、オレは、このところずっと、ゲルブたちが言うところのNo.223620679 = 『ルートC』のセカイに入り浸っていた。
3月になっても、なかなか気温が上がらず厳しい寒さに耐えなければいけないのは、オレが元いたセカイでも、桃が、クラブ活動に打ち込んでいる『ルートC』のセカイでも変わらなかったが……。
日々、放送・新聞部発案のキャラクター・島内四片の存在感が増していくのを見ていると、新しい学年を迎え、彼女を全校生の前でお披露目するときの期待感で胸が熱くなり、現実の気温の低さも忘れるほどだ。
それは、桃にしても同じようで、彼女は、今日も、自身が演じるVTuberのキャラ作りのため、コンピューター・クラブから貸し出されたノートPCを利用して、熱心に島内四片のデモテストを行っている。
「今日は、あいらんど高校のクラブ活動紹介ということで、放送・新聞部の部室にお邪魔していま~す」
PCのディスプレイ上部に取り付けられたカメラに向かって語りかけた桃が、手を振ると、モニターの中の薄紅色が特徴的なキャラクターが連動して、笑顔でこちらに手を振る仕草をする。
《薄紅色デザインの甘口モード》
と、コンピューター・クラブの部員が言ったように、文芸部によるキャラクター付けで、島内四片・暖色バージョンは、可愛らしい口調で話すのが特長だ。
「それでは、さっそく、部員の方に、お話しをうかがってみましょう。放送・新聞部は、どんな活動をするクラブなんですか?」
デモンストレーションのようすを眺めていたオレに、島内四片もとい……浅倉桃が、急に話しを振ってきたので、突然のことに面食らいながら、応答する。
「あっ! 自分たち放送・新聞部は、校内のイベントや他のクラブ活動に同行して、学校の内外に対して、さまざまな活動をPRする広報活動を行っています。興味があれば、一度、部室に遊びに来てください」
セリフを噛むことなく、なんとか、一言アピールをすることに成功したと思ったのだが……。
桃は、小指でPCのコントロールキーを抑えながら、同時に人差し指でスペースキーをタップする。
すると、モニターの中の少女キャラクターの配色が水色に切り替わり、さっきとは打って変わって、クールな口調で語り始めた。
「いきなり、『あっ!』から始まる宣伝って、製薬会社のコマーシャルですか? 放送・新聞部の部員さんなら、タイミングを間違えずに、話し初めてください。あと、ワタシたち放送・新聞部は、ただでさえ人手不足なんですから、もっと積極的に勧誘アピールをしてくださいね!」
《水色デザインのクール毒舌モード》
同じく、コンピューター・クラブの面々が評したように、島内四片・寒色バージョンは、普段の桃の性格と同じように丁寧な口調で厳しい指摘をする毒舌仕様になっている。
ショートカット・キーの操作ひとつで、暖色と寒色のふたつのバージョンを切り替えるようにしてくれたコンピューター・クラブの配慮とスキルに感謝しつつ、オレは、校内のさまざまな生徒の協力によって新しく生まれたキャラクターに手応えを感じていた。
放送・新聞部の代表となった冬馬と文芸部部長の山竹碧が言ったとおり、キャラクターに名前と性格付けがなされたことで、おぼろげな存在でしかなかったVTuberのキャラが、島内四片という存在として、グッと具体的に感じられるようになった。
そのことが、美術部とコンピューター・クラブとの交渉を円滑に進めることができた要因になったのは間違いないと思う。
島内四片の名付け親と言っても良い山竹のアイデアで、アジサイの花にちなんだキャラクター・デザインにしてほしいという要望は、美術部の創作意欲を刺激したようで、オレたちも参加させてもらった彼らの選考会は力作が揃っていて、デザイン選考を大いに楽しませてもらった。
選定されたデザインを持って挑んだコンピューター・クラブとの交渉では、
「このデザインで、中の人は、浅倉さんなんだよね……? デュフフ……引き受けましょう」
と、積極的に取り組んでくれる約束を取り付けることができた。
さらに、中学時代に、『あいらんど中学のカナリア』と呼ばれた桃が、彼女の特技を発揮して、島内四片の発声テストを行ったときには、
「水色デザインのクール毒舌モードと、薄紅色デザインの甘口モードのギャップがタマリマセンなぁ……」
という彼らの感想を耳にして背筋に悪寒が走りかけたが、モーション・キャプチャーのソフトを使いこなす力量を見せられると、ここでも、コンピューター・クラブに協力をあおいだことに間違いなかったことが実感できた。
桃がオレにアイデアを語った日から、わずか1ヶ月たらずで、放送・新聞部のキャラクターは、校内の一部の生徒から注目を集める存在になっていった。
その実感があるのか、朝の時間帯には、まだ冬の寒さが残る季節であるにもかかわらず、同居人であり、部活の後輩でもある彼女は、このところ、目に見えて寝起きの機嫌が良くなっている。
「朝から味わって飲むコーヒーは格別だね。これが、カフェラテなら、さらに言うことないんだけど……」
基本的に不機嫌な朝イチの時間帯には、こんな余裕たっぷりの発言をすることなどなかった桃が、朝食時に冗談とも本気ともつかない洒落っ気のあることを言い出すほど、ここ最近の彼女は、心身ともに充実した時期を迎えているようだ。
そんなこともあって、オレは、このところずっと、ゲルブたちが言うところのNo.223620679 = 『ルートC』のセカイに入り浸っていた。
3月になっても、なかなか気温が上がらず厳しい寒さに耐えなければいけないのは、オレが元いたセカイでも、桃が、クラブ活動に打ち込んでいる『ルートC』のセカイでも変わらなかったが……。
日々、放送・新聞部発案のキャラクター・島内四片の存在感が増していくのを見ていると、新しい学年を迎え、彼女を全校生の前でお披露目するときの期待感で胸が熱くなり、現実の気温の低さも忘れるほどだ。
それは、桃にしても同じようで、彼女は、今日も、自身が演じるVTuberのキャラ作りのため、コンピューター・クラブから貸し出されたノートPCを利用して、熱心に島内四片のデモテストを行っている。
「今日は、あいらんど高校のクラブ活動紹介ということで、放送・新聞部の部室にお邪魔していま~す」
PCのディスプレイ上部に取り付けられたカメラに向かって語りかけた桃が、手を振ると、モニターの中の薄紅色が特徴的なキャラクターが連動して、笑顔でこちらに手を振る仕草をする。
《薄紅色デザインの甘口モード》
と、コンピューター・クラブの部員が言ったように、文芸部によるキャラクター付けで、島内四片・暖色バージョンは、可愛らしい口調で話すのが特長だ。
「それでは、さっそく、部員の方に、お話しをうかがってみましょう。放送・新聞部は、どんな活動をするクラブなんですか?」
デモンストレーションのようすを眺めていたオレに、島内四片もとい……浅倉桃が、急に話しを振ってきたので、突然のことに面食らいながら、応答する。
「あっ! 自分たち放送・新聞部は、校内のイベントや他のクラブ活動に同行して、学校の内外に対して、さまざまな活動をPRする広報活動を行っています。興味があれば、一度、部室に遊びに来てください」
セリフを噛むことなく、なんとか、一言アピールをすることに成功したと思ったのだが……。
桃は、小指でPCのコントロールキーを抑えながら、同時に人差し指でスペースキーをタップする。
すると、モニターの中の少女キャラクターの配色が水色に切り替わり、さっきとは打って変わって、クールな口調で語り始めた。
「いきなり、『あっ!』から始まる宣伝って、製薬会社のコマーシャルですか? 放送・新聞部の部員さんなら、タイミングを間違えずに、話し初めてください。あと、ワタシたち放送・新聞部は、ただでさえ人手不足なんですから、もっと積極的に勧誘アピールをしてくださいね!」
《水色デザインのクール毒舌モード》
同じく、コンピューター・クラブの面々が評したように、島内四片・寒色バージョンは、普段の桃の性格と同じように丁寧な口調で厳しい指摘をする毒舌仕様になっている。
ショートカット・キーの操作ひとつで、暖色と寒色のふたつのバージョンを切り替えるようにしてくれたコンピューター・クラブの配慮とスキルに感謝しつつ、オレは、校内のさまざまな生徒の協力によって新しく生まれたキャラクターに手応えを感じていた。
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