パラレル to LOVEる〜多元世界でハーレム生活を堪能していたら彼女たちがひとつの世界線に集まってきました〜

遊馬友仁

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第3章〜逆転世界の電波少女〜⑥

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 ほおを刺すような冷たい夜風を感じ、頭の中のモヤを振り払うように、顔を小刻みに振るうと、近くで

「あっ、起きた」

という聞き慣れた声がした。

 いつの間にか座っていたベンチからあたりを見回すと、金属製の欄干らんかんの向こうには、真っ黒な夜の海が見える。

 真冬の海風に潮の香りと冷たさを感じながら、まだ少し朦朧としている頭で、

(たしか、三葉みつばとカフェで話していて……その後、どうしたんだっけ……)
 
と、思い出そうとしていると、隣に腰掛けていたオレが良く知る幼なじみが、声をかけてきた。

「ゴメンね、こんな寒い夜に付き合ってもらって」

「いや、それは別に良いけど……オレたち、さっきまで、あいらんどセンターの駅前に居なかったか? いつの間に、こんな所まで歩いて来たんだ……」

 周りの風景は、見覚えがある場所だった。
 ここは、あいらんどセンター駅の隣にある、マリンパーク駅の先に作られた海を見渡せる公園だ。

 オレたちの通っている、あいらんど高校からもほど近い場所にあり、夕陽や湾内を航行する大型船、さらに付近の空港に離発着する飛行機を眺めるために訪れることが多い。

 色々な風景が楽しめる日中は、三葉みつばももと一緒に何度か来たこともあるのだが……。

 かすかに見える対岸の夜景以外は見所の少ない夜の時間帯に、しかも、寒風吹きすさぶ真冬に好んで訪れるような場所ではない。

 まだ、頭の中に霧が掛かっているような状態ながら、無意識とは言え、人気ひとけの無い場所に女子を連れてきてしまったことを申し訳なく思い、三葉みつばに謝罪の言葉をかける。

「こちらこそ、こんな所まで歩いてきて済まない。冷えてきたし、そろそろ、家に戻るか?」

 そう言って、感覚の鈍っているヒザをさすって立ち上がろうとすると、幼なじみは、表情を変えることなく、予想もしていなかった言葉を返してきた。

「わたしは、まだ帰りたくないんだけどな……」

「帰りたくないって……この寒さだし、もう、そろそろ十時になるんじゃないか?」

 自宅から徒歩でも十五分ほどの場所なので、律儀に都道府県条例を守るほどの必要はないかも知れないが、人気ひとけの少ない場所で女子生徒と長居するのは、決して褒められたことではないだろう。
 おまけに、まだ春は遠い季節だ。

 コートのポケットからスマホを取り出して、

 22:10

というデジタル表示を確認したオレは、

「海を眺めるなら、もう少し暖かくなってから、また昼間に来ようぜ」

と、三葉みつばに提案する。

 しかし、彼女は、首を横に振って不敵に笑いながら、オレの予想に反する言葉を口にした。

「もう、その必要はないかな……」

 そう言い放った幼なじみの意図が読み取れず、オレは間髪を入れず聞き返す。

「ん? 必要ないってどういうことだよ……?」

 その問いかけに、三葉みつばは、少し面倒くさそうに、

「わたしは、もうアナタと会う必要が無いってこと」

と言い放った。
 その突き放したような口ぶりに、少なからずショックを受ける。
 今夜、通話をしていたときも、さっき、カファで話していたときも、今までと変わらず、いや、今まで以上に良い雰囲気で話しが出来ていたというのは、オレの一方的な勘違いだったのか?

 内心で焦りながら、頭に浮かぶ疑問をそのまま彼女にぶつけてしまう。

「会う必要が無いって……それは、オレと別れる……関係を解消するってことか……? なんで……なんで急にそんなこと……」

 すると、幼なじみの姿をした彼女は、オレの質問をあざ笑うように、冷たく言い返してきた。

「どうしてって……そもそも、わたしと雄司ゆうじは、でしょう?」

 その一言は、オレの心を折るのに十分なインパクトを持っていた。

 オレと三葉みつばは、――――――。

 それは、オレ自身が、目を逸らし認めようとしていなかったことでもある。

 そして、そのことを三葉みつば本人から突きつけられたという事実に衝撃を受け、オレは二の句を継げないでいた。

「どうして、わたしが、わざわざこんなことを言うのか、理解できていないって表情かおね。とりあえず、現状を認識するために、T・J・M = トリッパー・ジャッジメント・マシンで、わたしを照射してみたら? 捜査官から、デバイスを受け取ってるんでしょう?」

 続けて放たれた彼女の言葉で、我に返り、あわててゲルブから譲り受けた小型端末を取り出す。
 震える手でスイッチを押し、レーザーポインタを彼女に向けると、薄い青色のレーザー光線が射出され、程なくして、その色は、レーザーが赤い光に変化した。

「このスイッチを押すと、薄い青色のレーザーのような光線が射出されるんだけど、この特殊な波長は対象者の脳波を読み取って、セカイをトリップした経験のある場合は、レーザーが赤い光に変わるんだ」

 オレに、T・J・Mの使い方を教えてくれた銀河連邦捜査官の言葉を性格に思い出しながら、オレは、さっきよりも、さらに手の震えが大きくなっていることに気がつく。

三葉みつばも、トリッパーだったのか……?」

 目の前の現実を受け入れたくないという想いを抱えながら、問いかけると、彼女はフフッと微笑んで、こう答えるのだった。

「それは、このセカイでのわたしの呼び名ね。こっちのセカイでは、みんな、わたしのことをクリーブラットと呼んでいるわ」
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