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第2章〜Everything Everyone All At Once〜④
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「セカイ中が朝から大混乱だけど、雄司の周りも同じくらい、ホットな状況みたいだね」
今朝のニュースで報道されていた内容だけでなく、大小の差はあるものの、オレたち以外でも、それぞれの置かれた立場や人間関係に認識の差があるようで、通学路を歩く生徒の顔色は、一様に困惑したものが浮かんでいた。
それでも、律儀に登校したり、勤め先に出勤する人間が多いのは、日本人の生真面目さをあらわしていると言えるのだろうか?
そんな中でも、親友の冬馬は、いつもどおり、いや、いつも以上に飄々とした雰囲気を崩さず、多かれ少なかれ戸惑っているようすの他の生徒や大人たちのようすを観察しながら、この状況を楽しんでいるようにすら見える。
そんな親友に対して、ある意味で尊敬の念を抱きながら、返答する。
「オレたちだけじゃなく、みんな、どこかオロオロしているようすなのに、冬馬は、エラく余裕じゃねぇか」
「ボクの知る限りじゃ、こんなことは滅多に起こらないからね。いまの状況を良く観察して、楽しまなきゃ損だろう?」
「冬馬は、良くそんな余裕を持ってられるな……まあ、それでも普通に登校できたり、出勤できたりするのは、他の国と違って、オレたちの国は、政治や社会の混乱が少ないからかも知れないけど……」
ニコニコと笑いながら答える神経の図太さに感心しつつ、返事を返すと、親友は冷笑的な笑みを浮かべながら、
「政治の安定ねぇ……それは、政権基盤がしっかりしているからって言うより、どこのセカイでも変わらず、野党がだらしないからか、国民全体の政治意識の低さが原因かも知れないよ。ま、汚職事件や税金の使われ方よりも、海外に行ったプロ野球選手の動向の方が大事だと考える人間が多い国民性なら、それも、仕方がないことかも知れないけどさ」
などと、どの立場から語ってるんだ……と、ツッコミを入れたくなるような高校生離れした返答をよこす。
なにかにつけて、醒めた意見を語ることの多い冬馬だが、今日はいつも以上に、達観しているというか、ものごとを俯瞰して見ているような口ぶりだ。
そんな、泰然自若とした雰囲気で笑顔を崩さない友人を少し羨ましく思いつつ、校門の前まで来ると、自宅から一緒に登校してきた幼なじみやクラス委員と親しい生徒が校舎の近くで待っているのがわかった。
「良かった! やっと、三葉ちゃんと会えたべ……」
嬉しそうな表情で、幼なじみの女子生徒に駆け寄ってきたのは、一年生の宮尾雪野。
中学校の卒業と同時に、オレたちの住む人工島に引っ越してきた関係で、高校からは新しく人間関係をこうちくしなくてはならなかったらしいが、以前からファンだったという白井三葉が上級生だったということもあって、慣れない学校にも早く馴染めたことから、特に三葉を慕っている。
一方、一年の宮尾と同じくらいの背丈で、メガネを掛けた女子生徒が、安堵するような表情で、静かにクラス委員のもとに歩み寄ってきた。
「マーちゃん、いつもより遅かったから心配したよ……」
河野《こうの》に声をかけたのは、彼女の親友の山竹碧。
文芸部の部員にして、オレたちのクラスの図書委員を務める典型的な文学少女といった雰囲気を持つ同級生だ。
それぞれ、校内で親しくしている生徒から声をかけられたためか、三葉も河野も、ホッとしたような表情を浮かべ、お互いの相手と談笑している。
今朝から起きている奇妙な現象に、どれだけ自分が関わっているのかはわからないのだが――――――。
三葉たちがそれぞれ主張しているオレとの関係性については、その関係構築の過程において、オレ自身に十分すぎるほどの自覚があるだけに、彼女たちが、安心して話せる相手が存在している、ということがわかっただけでも、安心できる材料ではあった。
「セカイ中で、おかしなことが起こっていても、とりあえず、仲の良い生徒と会えると安心するよね」
三葉たちが談笑するのを眺めながら、冬馬がそう言うと、そばにいた桃も、
「そうですね……」
と、静かにうなずく。
たしかに、オレ自身も桃や三葉、河野に対して、この状況をどう説明しようかと頭を抱えそうになったときに、冬馬に声をかけられ、いつものように、他愛ない世間話しができただけでも、かなり心の余裕ができた、というか、落ち着きを取り戻すことができた。
もちろん、それは、普段から……いや、今日はいつも以上に冷静な言動が目立つ親友の平静さに要因があるのかも知れないが……。
そんなことを考えていると、その親友は、
「みんな落ち着きを取り戻したみたいだし、これなら、なんとか放課後まで落ち着いて過ごせそうだね」
と、つぶやくように言ったあと、オレに対して、こんな提案をしてきた。
「ねぇ、雄司……雄司は、朝から頭の中が混乱しっぱなしだろう? ブル……いや、桜花部長が、個別に話しをしたいみたいだから、放課後、いっしょに部室に行こうよ?」
三学期になって、部活を引退しているとは言え、先代の部長の提案は絶対に受けるべきだろう。
卒業間近の先輩に、部室までご足労いただくことを申し訳なく思いつつも、オレは頼りになる先代部長に感謝しながら、放課後を待つことにした。
今朝のニュースで報道されていた内容だけでなく、大小の差はあるものの、オレたち以外でも、それぞれの置かれた立場や人間関係に認識の差があるようで、通学路を歩く生徒の顔色は、一様に困惑したものが浮かんでいた。
それでも、律儀に登校したり、勤め先に出勤する人間が多いのは、日本人の生真面目さをあらわしていると言えるのだろうか?
そんな中でも、親友の冬馬は、いつもどおり、いや、いつも以上に飄々とした雰囲気を崩さず、多かれ少なかれ戸惑っているようすの他の生徒や大人たちのようすを観察しながら、この状況を楽しんでいるようにすら見える。
そんな親友に対して、ある意味で尊敬の念を抱きながら、返答する。
「オレたちだけじゃなく、みんな、どこかオロオロしているようすなのに、冬馬は、エラく余裕じゃねぇか」
「ボクの知る限りじゃ、こんなことは滅多に起こらないからね。いまの状況を良く観察して、楽しまなきゃ損だろう?」
「冬馬は、良くそんな余裕を持ってられるな……まあ、それでも普通に登校できたり、出勤できたりするのは、他の国と違って、オレたちの国は、政治や社会の混乱が少ないからかも知れないけど……」
ニコニコと笑いながら答える神経の図太さに感心しつつ、返事を返すと、親友は冷笑的な笑みを浮かべながら、
「政治の安定ねぇ……それは、政権基盤がしっかりしているからって言うより、どこのセカイでも変わらず、野党がだらしないからか、国民全体の政治意識の低さが原因かも知れないよ。ま、汚職事件や税金の使われ方よりも、海外に行ったプロ野球選手の動向の方が大事だと考える人間が多い国民性なら、それも、仕方がないことかも知れないけどさ」
などと、どの立場から語ってるんだ……と、ツッコミを入れたくなるような高校生離れした返答をよこす。
なにかにつけて、醒めた意見を語ることの多い冬馬だが、今日はいつも以上に、達観しているというか、ものごとを俯瞰して見ているような口ぶりだ。
そんな、泰然自若とした雰囲気で笑顔を崩さない友人を少し羨ましく思いつつ、校門の前まで来ると、自宅から一緒に登校してきた幼なじみやクラス委員と親しい生徒が校舎の近くで待っているのがわかった。
「良かった! やっと、三葉ちゃんと会えたべ……」
嬉しそうな表情で、幼なじみの女子生徒に駆け寄ってきたのは、一年生の宮尾雪野。
中学校の卒業と同時に、オレたちの住む人工島に引っ越してきた関係で、高校からは新しく人間関係をこうちくしなくてはならなかったらしいが、以前からファンだったという白井三葉が上級生だったということもあって、慣れない学校にも早く馴染めたことから、特に三葉を慕っている。
一方、一年の宮尾と同じくらいの背丈で、メガネを掛けた女子生徒が、安堵するような表情で、静かにクラス委員のもとに歩み寄ってきた。
「マーちゃん、いつもより遅かったから心配したよ……」
河野《こうの》に声をかけたのは、彼女の親友の山竹碧。
文芸部の部員にして、オレたちのクラスの図書委員を務める典型的な文学少女といった雰囲気を持つ同級生だ。
それぞれ、校内で親しくしている生徒から声をかけられたためか、三葉も河野も、ホッとしたような表情を浮かべ、お互いの相手と談笑している。
今朝から起きている奇妙な現象に、どれだけ自分が関わっているのかはわからないのだが――――――。
三葉たちがそれぞれ主張しているオレとの関係性については、その関係構築の過程において、オレ自身に十分すぎるほどの自覚があるだけに、彼女たちが、安心して話せる相手が存在している、ということがわかっただけでも、安心できる材料ではあった。
「セカイ中で、おかしなことが起こっていても、とりあえず、仲の良い生徒と会えると安心するよね」
三葉たちが談笑するのを眺めながら、冬馬がそう言うと、そばにいた桃も、
「そうですね……」
と、静かにうなずく。
たしかに、オレ自身も桃や三葉、河野に対して、この状況をどう説明しようかと頭を抱えそうになったときに、冬馬に声をかけられ、いつものように、他愛ない世間話しができただけでも、かなり心の余裕ができた、というか、落ち着きを取り戻すことができた。
もちろん、それは、普段から……いや、今日はいつも以上に冷静な言動が目立つ親友の平静さに要因があるのかも知れないが……。
そんなことを考えていると、その親友は、
「みんな落ち着きを取り戻したみたいだし、これなら、なんとか放課後まで落ち着いて過ごせそうだね」
と、つぶやくように言ったあと、オレに対して、こんな提案をしてきた。
「ねぇ、雄司……雄司は、朝から頭の中が混乱しっぱなしだろう? ブル……いや、桜花部長が、個別に話しをしたいみたいだから、放課後、いっしょに部室に行こうよ?」
三学期になって、部活を引退しているとは言え、先代の部長の提案は絶対に受けるべきだろう。
卒業間近の先輩に、部室までご足労いただくことを申し訳なく思いつつも、オレは頼りになる先代部長に感謝しながら、放課後を待つことにした。
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