3 / 75
第1章〜ヒロインたちが並行世界で待っているようですよ〜①
しおりを挟む
「雄司、起きて。遅刻しちゃうよ……」
ぼんやりとした意識のなかで、聞きなじみのある声がする。
続いて、掛け布団をゆするような感触を覚えた直後、
「ほら、もうこんな時間だよ!」
と言って、三葉が、スマホの待ち受け画面のデジタル時計を指し示す。
ディスプレイには、AM 7:40という文字列が表示されていた。
たしかに、今すぐにでも布団から出ないと始業時間には間に合わないのだが……。
「う~ん……三葉……あと、5分……」
羽毛布団と毛布という完全な耐寒装備にくるまりながら返事をすると、彼女は、
「な~に、ベタなこと言ってるの!?」
と応じたあと、
「いい加減、起っきろ~~~!!」
と、我が愛しの防寒具を思い切り剥ぎ取りやがった。
「うお~~~~寒い~~~~」
絶叫するオレに向かって、幼なじみにて交際相手である女子生徒は、満面の笑みで宣言する。
「どう? 目が醒めたでしょ? 起きたら、さっさと支度する!」
十五分後――――――。
2分で着替えを終えて、5分で身支度を整え、8分で朝食の準備と摂取を完遂すると、リビングのソファで母親と談笑している三葉に、「お待たせ」と声をかけると、彼女の代わりに母が返事を返してくる。
「雄司! 三葉《みつば》ちゃんを待たせるなんて、ホント、あんたって子は……」
「いえいえ、司サン。彼のこういうところには、もう慣れましたから」
母の小言に対して、三葉《みつば》が穏やかな笑みを浮かべながら、オレの代わりに返答した。
(ちなみに、我が家の母親は、オレの友人や知人に対して、司さん、と名前で呼ぶことを求めている)
「はぁ~……なんて、いい子なんだろう……ホント、うちの子にはもったいない……三葉《みつば》ちゃん、不甲斐ない息子だけど、今日もよろしくね」
小学生からの付き合いである女子生徒の言葉に感激する母親の姿を少々うとましく感じながら、声をかける。
「それじゃ、そろそろ行くわ」
時刻は、午前8時前――――――。
やや早足で学校に向かえば、十分、始業のチャイムに間に合う時間だ。
「まったく……親の前では猫を被りやがって……」
玄関を出てから、隣を歩く幼なじみの横顔に視線を送りながら語りかけると、彼女は素知らぬ顔で返答する。
「なに言ってるの? 『母親と親しく話せる彼女は金のワラジを履いてでも探せ』って、昔から良く言うでしょ? 雄司は、もっと、わたしに感謝すべきじゃない?」
「その感謝すべき相手に、真冬の朝に布団を引っ剥がされてもか? あと、金の草鞋を履いて探すのは、『年上の女房』だ!」
いけしゃあしゃあと、良くわからない持論を展開する彼女には、秒でツッコミを入れておく。
「あれ? そうだっけ? ま、なんにしても、雄司の感謝が足りていないことに変わりはないでしょ? 幼なじみのとびきり可愛い美少女が、ベッドまで起こしに来るなんて……こんな、サービス滅多にないんだからね?」
「いつの時代のアニメのセリフだよ!?」
オレが、再び反射的に発した言葉にクスクスと笑いながら、「兄さん、相変わらずツッコミが上手いですな~」と語る彼女の表情は、この時間を心から楽しんでいるように感じられた。
そして、なにより――――――。
やや早足で隣を歩く三葉《みつば》に対して、悪態をつきながらツッコミを入れているかく言うオレも、こうして彼女と過ごせる幸せを噛み締めていた。
三葉《みつば》とこんな風に会話を交わしながら登校できるなんて、半年前までは考えられなかった。
今から、六ヶ月前の夏休み直前のこと――――――。
オレはとある出来事がキッカケで事故に遭い、入院を余儀なくされた。
数日間、(と言っても昏睡状態だったため、個人の体感的には一瞬の出来事だったのだが)意識不明だった状態から目が醒めると、オレには不思議な能力が備わっていた。
事故のときに真っ先に地面に叩きつけられたと思われる後頭部のあたりをさすると、意識が宇宙空間のような場所に飛び、目の前には、巨大な青い惑星が浮かんでいたのだ!
病室であることも忘れ、思わず叫び声をあげながら、地球そのものに見える巨大な球体を振り払おうとして右手を大きく動かすと、球体は勢いよく回り始めた。
さらに、パニックになったオレは、タッチスクリーンのような手触りの透明の壁のあらゆる場所を無造作にタッチすると、タブレットやスマホのアプリケーションのように、画面を閉じるアイコンに触れたのか、目の前のスクリーンは一瞬でかき消え、三人部屋の病室の光景が広がった。
突然の出来事に驚いて呼吸が荒くなり、肩で息をするオレのようすを見守っているのは、主治医の岡田先生と、うちの母親、そして、見舞いに来てくれていたという、後輩の浅倉桃だった。
ベッドの上で急に取り乱すようすを見せたオレの言動は、医者にも家族にも見舞い人にも、事故に遭ったショックが原因と見られたようだ。
その後、脳や身体全体の精密検査などが行われたが、特に異常は見られなかったということで、すんなりと退院が認められた。そして、翌日から夏季休暇に突入するという時期的な幸運もあって、オレは、高校二年の貴重な夏休みを目一杯つかって、病室で起こった不思議な現象を究明することにした。
ぼんやりとした意識のなかで、聞きなじみのある声がする。
続いて、掛け布団をゆするような感触を覚えた直後、
「ほら、もうこんな時間だよ!」
と言って、三葉が、スマホの待ち受け画面のデジタル時計を指し示す。
ディスプレイには、AM 7:40という文字列が表示されていた。
たしかに、今すぐにでも布団から出ないと始業時間には間に合わないのだが……。
「う~ん……三葉……あと、5分……」
羽毛布団と毛布という完全な耐寒装備にくるまりながら返事をすると、彼女は、
「な~に、ベタなこと言ってるの!?」
と応じたあと、
「いい加減、起っきろ~~~!!」
と、我が愛しの防寒具を思い切り剥ぎ取りやがった。
「うお~~~~寒い~~~~」
絶叫するオレに向かって、幼なじみにて交際相手である女子生徒は、満面の笑みで宣言する。
「どう? 目が醒めたでしょ? 起きたら、さっさと支度する!」
十五分後――――――。
2分で着替えを終えて、5分で身支度を整え、8分で朝食の準備と摂取を完遂すると、リビングのソファで母親と談笑している三葉に、「お待たせ」と声をかけると、彼女の代わりに母が返事を返してくる。
「雄司! 三葉《みつば》ちゃんを待たせるなんて、ホント、あんたって子は……」
「いえいえ、司サン。彼のこういうところには、もう慣れましたから」
母の小言に対して、三葉《みつば》が穏やかな笑みを浮かべながら、オレの代わりに返答した。
(ちなみに、我が家の母親は、オレの友人や知人に対して、司さん、と名前で呼ぶことを求めている)
「はぁ~……なんて、いい子なんだろう……ホント、うちの子にはもったいない……三葉《みつば》ちゃん、不甲斐ない息子だけど、今日もよろしくね」
小学生からの付き合いである女子生徒の言葉に感激する母親の姿を少々うとましく感じながら、声をかける。
「それじゃ、そろそろ行くわ」
時刻は、午前8時前――――――。
やや早足で学校に向かえば、十分、始業のチャイムに間に合う時間だ。
「まったく……親の前では猫を被りやがって……」
玄関を出てから、隣を歩く幼なじみの横顔に視線を送りながら語りかけると、彼女は素知らぬ顔で返答する。
「なに言ってるの? 『母親と親しく話せる彼女は金のワラジを履いてでも探せ』って、昔から良く言うでしょ? 雄司は、もっと、わたしに感謝すべきじゃない?」
「その感謝すべき相手に、真冬の朝に布団を引っ剥がされてもか? あと、金の草鞋を履いて探すのは、『年上の女房』だ!」
いけしゃあしゃあと、良くわからない持論を展開する彼女には、秒でツッコミを入れておく。
「あれ? そうだっけ? ま、なんにしても、雄司の感謝が足りていないことに変わりはないでしょ? 幼なじみのとびきり可愛い美少女が、ベッドまで起こしに来るなんて……こんな、サービス滅多にないんだからね?」
「いつの時代のアニメのセリフだよ!?」
オレが、再び反射的に発した言葉にクスクスと笑いながら、「兄さん、相変わらずツッコミが上手いですな~」と語る彼女の表情は、この時間を心から楽しんでいるように感じられた。
そして、なにより――――――。
やや早足で隣を歩く三葉《みつば》に対して、悪態をつきながらツッコミを入れているかく言うオレも、こうして彼女と過ごせる幸せを噛み締めていた。
三葉《みつば》とこんな風に会話を交わしながら登校できるなんて、半年前までは考えられなかった。
今から、六ヶ月前の夏休み直前のこと――――――。
オレはとある出来事がキッカケで事故に遭い、入院を余儀なくされた。
数日間、(と言っても昏睡状態だったため、個人の体感的には一瞬の出来事だったのだが)意識不明だった状態から目が醒めると、オレには不思議な能力が備わっていた。
事故のときに真っ先に地面に叩きつけられたと思われる後頭部のあたりをさすると、意識が宇宙空間のような場所に飛び、目の前には、巨大な青い惑星が浮かんでいたのだ!
病室であることも忘れ、思わず叫び声をあげながら、地球そのものに見える巨大な球体を振り払おうとして右手を大きく動かすと、球体は勢いよく回り始めた。
さらに、パニックになったオレは、タッチスクリーンのような手触りの透明の壁のあらゆる場所を無造作にタッチすると、タブレットやスマホのアプリケーションのように、画面を閉じるアイコンに触れたのか、目の前のスクリーンは一瞬でかき消え、三人部屋の病室の光景が広がった。
突然の出来事に驚いて呼吸が荒くなり、肩で息をするオレのようすを見守っているのは、主治医の岡田先生と、うちの母親、そして、見舞いに来てくれていたという、後輩の浅倉桃だった。
ベッドの上で急に取り乱すようすを見せたオレの言動は、医者にも家族にも見舞い人にも、事故に遭ったショックが原因と見られたようだ。
その後、脳や身体全体の精密検査などが行われたが、特に異常は見られなかったということで、すんなりと退院が認められた。そして、翌日から夏季休暇に突入するという時期的な幸運もあって、オレは、高校二年の貴重な夏休みを目一杯つかって、病室で起こった不思議な現象を究明することにした。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
女ハッカーのコードネームは @takashi
一宮 沙耶
大衆娯楽
男の子に、子宮と女性の生殖器を移植するとどうなるのか?
その後、かっこよく生きる女性ハッカーの物語です。
守護霊がよく喋るので、聞いてみてください。
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる