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第4章〜悪魔が来たりて口笛を吹く〜⑭
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校舎屋上での死闘(?)が行われた週明けこと――――――。
針本針太朗は、週末に起きた出来事の一部始終を養護教諭に伝えるため、保健室を訪ねた。
「ご苦労さまだったな、針本。キミのことは、ウチの姉からも報告があったぞ」
「はい、安心院先生のお姉さんのアドバイスのおかげで、ボクも、真中さんも、東山先輩も、なんとか無事に危ない場面を切り抜けることができました。ただ、ボクが、もっと早く先生たちに相談していれば、こんなことにはなっていなかったかも知れないんですが……」
保健室の丸椅子に腰掛けた針太朗が、神妙な面持ちでそう語ると、保健医は、軽くため息をつきながら、男子生徒に苦言を呈する。
「そこは、針本に反省してもらわないとな……学院に外部の魔族が侵入したおかげで、その事後処理に、私たちは、おおわらわだ……しかも、相手のオノケリスは、学院の外に逃亡してしまった様だしな……」
「あの……反省してます。本当に申し訳ありません」
そんな、殊勝な態度で謝罪する針太朗のようすに、なにか感じるところがあったのか、幽子の表情は、すぐに柔和なものに切り替わり、
「まぁ、それでも、キミは仁美の危機に駆けつけて、あの娘を助けてくれたんだったな。その点には、教師としても、あの娘を見守る立場としても、あらためて、お礼を言いたい。ありがとう、針本」
そう言って、頭を下げる。そんな養護教諭の言葉に、
「いえ……ボクは、逆にアイちゃん……真中さんに助けてもらったようなモノなので……」
と、恐縮して返事を返すと、保健医は微笑みながら楽しげに語る。
「ほぉ……キミは、あの娘をその愛称で呼ぶようになったか……これは、なかなか興味深い展開だ」
「い、いやいや! 先生が考えてる、そういうことじゃないです」
妖しげな笑みを浮かべる幽子に、針太朗が慌てて返答すると、保健医は男子生徒をからかうように問い返す。
「ふむ……そういうこととは、どういうことなのか……ここは、じっくり聞かせてもらおうじゃないか?」
「ちょ……もう十分ですよね? わかってくださいよ……」
ロサンゼル市警の専任捜査官に無茶振りをされた屋台の店主のように、困惑顔で返答すると、窮地の彼を救うように、ノックもなしに保健室のドアが開いた。
「シンちゃん、あのね! 昨日、ウチに帰ってから、すぐに脚本を改稿したから読んでほしいんだけど!」
息せき切って、あらわれたのは、真中仁美。
針太朗にとっての救世主と思われた来訪者は、まさに、話題の渦中の人物でもあった。
「うむ……ウワサをすれば影がさす、というが……ちょうど、良いところに来たな。それにしても、シンちゃんか……これは、仁美にも、ジックリと話しを聞かせてもらわないとな……」
突然の闖入者である女子生徒の言動を注視していた幽子が、姉の妖子と同じくらい妖しげな笑みでつぶやくと、仁美も、自分の行動が少し軽はずみだったことを自覚したのか、照れ隠しに苦笑しながら、針太朗に問いかける。
「あの……私、なにかしちゃった?」
「あ~……うん、そうだね」
乾いた表情で返答する針太朗に対し、幽子が身を乗り出して、追及を再開しようとすると、
ガラガラガラ――――――
と、ふたたび保健室のドアがノックなし開け放たれ、声がかけられる。
「シンタロー! 保健室に居るって聞いたけど、大丈夫?」
「針太朗くん、その後、ケガはないか?」
二人の新たな来訪者に真っ先に反応した針太朗が返答する。
「ケイコに、奈緒さん! 大丈夫だよ。ケガをして診てもらってるわけじゃないから、心配しないで」
隣のクラスの女子生徒と同様に、息せき切ってあらわれたクラスメートの北川希衣子と東山奈緒をなだめるように、できる限り、落ち着いた口調で答えたのだが……。
「ケイコに、奈緒さん……? シンちゃん、いつの間に、二人とそんなに仲良くなったのかな? 私、脚本のチェックより先に聞きたいことが、できたんだけど……」
あくまで、生徒たちとのコミュニケーションの一環として興味を示していたに過ぎない養護教諭と違い、演劇部の女子生徒の表情は、微笑みを浮かべているようで、その実、まったく目が笑っていない。
「いや、そのそれは……」
思ってもいない方向から追及の手が上がったことに焦る針太朗の肩に手を掛けた仁美は、自転車のブレーキを握るように、徐々に握力を強めていく。
そして、彼の肩に爪が食い込まんばかりに圧力が強まった瞬間、
コンコン――――――
と、丁寧に保健室のドアがノックされ、針太朗のクラスメートの男子生徒があらわれた。
「失礼します! 一年二組の針本は居ますか? 彼を探している生徒が居るんですけど……」
そう言って、ドアから顔を覗かせたのは、放送メディア研究部の部員でもある乾貴志だ。
「あっ、針本! やっぱり、ここに居たか。キミに会いたいっていう女子を連れてきたよ」
そして、彼のあとについて、保健室に、高等部一年と中等部三年の女子生徒が入ってくる。針太朗たちとは隣のクラスに所属する三組の南野楊子と中等部の西田ひかりだ。
さらに、彼女たちに続いて、ニコニコ笑いながら、
「なんだか、面白そうなことが起こりそうだから、見学させてもらって良いですか?」
と、クラスメートにして友人の辰巳良介まであらわれた。
針本針太朗は、週末に起きた出来事の一部始終を養護教諭に伝えるため、保健室を訪ねた。
「ご苦労さまだったな、針本。キミのことは、ウチの姉からも報告があったぞ」
「はい、安心院先生のお姉さんのアドバイスのおかげで、ボクも、真中さんも、東山先輩も、なんとか無事に危ない場面を切り抜けることができました。ただ、ボクが、もっと早く先生たちに相談していれば、こんなことにはなっていなかったかも知れないんですが……」
保健室の丸椅子に腰掛けた針太朗が、神妙な面持ちでそう語ると、保健医は、軽くため息をつきながら、男子生徒に苦言を呈する。
「そこは、針本に反省してもらわないとな……学院に外部の魔族が侵入したおかげで、その事後処理に、私たちは、おおわらわだ……しかも、相手のオノケリスは、学院の外に逃亡してしまった様だしな……」
「あの……反省してます。本当に申し訳ありません」
そんな、殊勝な態度で謝罪する針太朗のようすに、なにか感じるところがあったのか、幽子の表情は、すぐに柔和なものに切り替わり、
「まぁ、それでも、キミは仁美の危機に駆けつけて、あの娘を助けてくれたんだったな。その点には、教師としても、あの娘を見守る立場としても、あらためて、お礼を言いたい。ありがとう、針本」
そう言って、頭を下げる。そんな養護教諭の言葉に、
「いえ……ボクは、逆にアイちゃん……真中さんに助けてもらったようなモノなので……」
と、恐縮して返事を返すと、保健医は微笑みながら楽しげに語る。
「ほぉ……キミは、あの娘をその愛称で呼ぶようになったか……これは、なかなか興味深い展開だ」
「い、いやいや! 先生が考えてる、そういうことじゃないです」
妖しげな笑みを浮かべる幽子に、針太朗が慌てて返答すると、保健医は男子生徒をからかうように問い返す。
「ふむ……そういうこととは、どういうことなのか……ここは、じっくり聞かせてもらおうじゃないか?」
「ちょ……もう十分ですよね? わかってくださいよ……」
ロサンゼル市警の専任捜査官に無茶振りをされた屋台の店主のように、困惑顔で返答すると、窮地の彼を救うように、ノックもなしに保健室のドアが開いた。
「シンちゃん、あのね! 昨日、ウチに帰ってから、すぐに脚本を改稿したから読んでほしいんだけど!」
息せき切って、あらわれたのは、真中仁美。
針太朗にとっての救世主と思われた来訪者は、まさに、話題の渦中の人物でもあった。
「うむ……ウワサをすれば影がさす、というが……ちょうど、良いところに来たな。それにしても、シンちゃんか……これは、仁美にも、ジックリと話しを聞かせてもらわないとな……」
突然の闖入者である女子生徒の言動を注視していた幽子が、姉の妖子と同じくらい妖しげな笑みでつぶやくと、仁美も、自分の行動が少し軽はずみだったことを自覚したのか、照れ隠しに苦笑しながら、針太朗に問いかける。
「あの……私、なにかしちゃった?」
「あ~……うん、そうだね」
乾いた表情で返答する針太朗に対し、幽子が身を乗り出して、追及を再開しようとすると、
ガラガラガラ――――――
と、ふたたび保健室のドアがノックなし開け放たれ、声がかけられる。
「シンタロー! 保健室に居るって聞いたけど、大丈夫?」
「針太朗くん、その後、ケガはないか?」
二人の新たな来訪者に真っ先に反応した針太朗が返答する。
「ケイコに、奈緒さん! 大丈夫だよ。ケガをして診てもらってるわけじゃないから、心配しないで」
隣のクラスの女子生徒と同様に、息せき切ってあらわれたクラスメートの北川希衣子と東山奈緒をなだめるように、できる限り、落ち着いた口調で答えたのだが……。
「ケイコに、奈緒さん……? シンちゃん、いつの間に、二人とそんなに仲良くなったのかな? 私、脚本のチェックより先に聞きたいことが、できたんだけど……」
あくまで、生徒たちとのコミュニケーションの一環として興味を示していたに過ぎない養護教諭と違い、演劇部の女子生徒の表情は、微笑みを浮かべているようで、その実、まったく目が笑っていない。
「いや、そのそれは……」
思ってもいない方向から追及の手が上がったことに焦る針太朗の肩に手を掛けた仁美は、自転車のブレーキを握るように、徐々に握力を強めていく。
そして、彼の肩に爪が食い込まんばかりに圧力が強まった瞬間、
コンコン――――――
と、丁寧に保健室のドアがノックされ、針太朗のクラスメートの男子生徒があらわれた。
「失礼します! 一年二組の針本は居ますか? 彼を探している生徒が居るんですけど……」
そう言って、ドアから顔を覗かせたのは、放送メディア研究部の部員でもある乾貴志だ。
「あっ、針本! やっぱり、ここに居たか。キミに会いたいっていう女子を連れてきたよ」
そして、彼のあとについて、保健室に、高等部一年と中等部三年の女子生徒が入ってくる。針太朗たちとは隣のクラスに所属する三組の南野楊子と中等部の西田ひかりだ。
さらに、彼女たちに続いて、ニコニコ笑いながら、
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