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第3章〜ピンチ・DE・デート〜⑨
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「そっか……クラスの雰囲気を明るくするのにも、人しれない苦労があるんだね……」
少しだけ寂しげな表情を見せた希衣子に対して、針太朗が応じると、彼女はまた表情を明るく切り替えて答える。
「まぁ、それでも、アタシの気持ちを理解してくれるヒトも居るしね~」
「そうなんだ……そういう相手は大事にしないとね」
彼女の前向きな返答に、針太朗が軽く笑顔でそう返すと、クラスメートは、
「そうそう、たとえば、辛いモノが苦手だけど、アタシの好みに合わせて、『一緒にヤンニョム・チーズチキンを食べに行こう!』って言ってくれる男子とかね」
と、少しだけイタズラっぽい表情で答える。
「えっ!? それって……」
自身の返答に対して、面食らったように言葉を失う針太朗の顔色を楽しむように眺めながら、希衣子は、心の底からの喜びを伝えるようにつぶやく。
「さっき、ハリモトにそう言ってもらえて嬉しかったんだ~。いつメンと話すのは、もちろん楽しいんだけど……苦手なモノでも、アタシと食べに行きたいって言ってくれるヒトなんて、初めてだったからさ~。やっぱり、アタシがニオイに惹かれたのは、間違ってなかったんだって、あらためて思ってるとこ」
「そ、そうなんだ……そう思ってもらえると、嬉しいな……」
思ってもいない自身の発言を肯定的に受け入れてもらえたことで、気恥ずかしい想いを抱えながら彼が答えると、希衣子は、おなじみのニパッとした笑顔で、「うん!」と応じて、自分自身のことから、話題を変えるようにうながした。
「アタシのことは聞いてもらったからさ、今度は、ハリモトのことを聞かせてよ。好きなモノとか苦手なこととかさ……」
「ボクのことを聞きたいの……?」
たずね返す針太朗に、彼女は、「うん! すごく興味あるし」と笑顔でうなずく。
「う~ん……ケイコほど面白い話しができるわけじゃないけど……」
そう前置きしたあと、彼は、ここまで話した相手なら、包み隠さず自分のことを話しておこうと考えて答えた。
「好きなこと……というか、趣味は読書全般。苦手なことは……辛い食べ物と高い場所、あと、女子との会話かな?」
針太朗の答えに、希衣子は苦笑いを浮かべながら、
「あ~、読書か~。アタシの苦手な分野だわ~」
と、つぶやいたあと、
「でもさ、ハリモト……女子との会話が苦手とか、絶対ウソじゃん!」
そう言ってから、ジト目で目の前の男子生徒を軽く睨みつけた。
その希衣子の意外な反応に慌てた針太朗は、自身の中学生時代を振り返りながら答える。
「いやいやいや、マジだって! 中学校のときは、女子と会話したするなんて、週に1回か2回あるくらいだったし……」
「いやいや、それは、大げさでしょ? ハリモトの通ってた中学って普通に男女共学でしょ? あり得ないって! それとも、女子と話すことが苦手になるキッカケでもあったの?」
自分の言葉に対して、信じられない……という様子のクラスメートの反応を見ながら、
(これは、具体的なエピソードを語るしかないか……)
そう観念した針太朗は、
「中学の時、こんなことがあってさ……」
と切り出して、他校の生徒との会合で、相手の女子から、京都のたい焼き屋のエピソードを聞かされたときの自分の失態について語る。
身振り手振りに加えて、覚えている限り女子のトーク内容や口調を真似て語った失敗談を、希衣子は興味深そうに聞いてくれた。
ただし――――――。
「あ~、それは、ハリモトが悪いよ、ハリモトが~。女子は、共感がほしい生き物なんだからさ~」
と、笑いながらダメ出しをするのも忘れなかったが……。
それでも、針太朗にとっての異性との会話におけるトラウマの1つを理解した彼女は、
「他にも、なにかエピソードはないの?」
と、興味深そうに続きをうながす。好奇心旺盛な希衣子の反応に押されるように、彼は、つい最近まで忘れていた小学校に入学する前の幼稚園時代の思い出話しを語りだした。
◆
幼稚園に通っていたころ――――――。
ボクには、園で良く話す仲の良い女の子がいた。
相手のフルネームどころか、もう苗字も思い出せなくなっているけど、ボクは、彼女のことをアイちゃんと呼び、彼女が、ボクの名前をシンちゃんと呼んでいたことだけは覚えている。
外で他の園児たちと遊ぶよりも、室内で絵本を読むことが好きだったボクは、年長組になって、平仮名をスムーズに読めるようになったこともあって、園に置かれていた外国の児童文学『エルマーのぼうけん』を少しずつ読み進めるのが楽しみのひとつになっていた。
そして、その幼い読書のパートナーになっていたのが、アイちゃんだった。
ボクは、彼女と『エルマーのぼうけん』を広げ、物語を語る地の文をボクが、カギカッコ付きのセリフの部分をアイちゃんが読むのが、二人のなかでの自然な役割分担になっていた。
文字を読むのは、ボクの方が少しだけ、上手かった。
だけど、セリフの部分を読むのは、アイちゃんの方が断然、上手だったからだ。
「アイちゃんはね、大きくなったら、お芝居をする、やくしゃさんになりたいの!」
彼女は、お誕生日会のときのインタビューなどで、そんな将来の夢を語っていたことを覚えている。
やくしゃさんというのが、どんな仕事をするのか、そのときのボクは、良くわかっていなかったように思うけど、アイちゃんの夢が叶うと良いな、と子ども心ながらに感じていたように思う。
物語を1章ずつ読み進めるボクと彼女の二人だけの読書会は毎日続き、ついには、『エルマーのぼうけん』『エルマーとりゅう』『エルマーと16ぴきのりゅう』のシリーズ三部作を読み終える直前まで迫っていた。
幼稚園で小さな事件が起こったのは、そのころだった――――――。
少しだけ寂しげな表情を見せた希衣子に対して、針太朗が応じると、彼女はまた表情を明るく切り替えて答える。
「まぁ、それでも、アタシの気持ちを理解してくれるヒトも居るしね~」
「そうなんだ……そういう相手は大事にしないとね」
彼女の前向きな返答に、針太朗が軽く笑顔でそう返すと、クラスメートは、
「そうそう、たとえば、辛いモノが苦手だけど、アタシの好みに合わせて、『一緒にヤンニョム・チーズチキンを食べに行こう!』って言ってくれる男子とかね」
と、少しだけイタズラっぽい表情で答える。
「えっ!? それって……」
自身の返答に対して、面食らったように言葉を失う針太朗の顔色を楽しむように眺めながら、希衣子は、心の底からの喜びを伝えるようにつぶやく。
「さっき、ハリモトにそう言ってもらえて嬉しかったんだ~。いつメンと話すのは、もちろん楽しいんだけど……苦手なモノでも、アタシと食べに行きたいって言ってくれるヒトなんて、初めてだったからさ~。やっぱり、アタシがニオイに惹かれたのは、間違ってなかったんだって、あらためて思ってるとこ」
「そ、そうなんだ……そう思ってもらえると、嬉しいな……」
思ってもいない自身の発言を肯定的に受け入れてもらえたことで、気恥ずかしい想いを抱えながら彼が答えると、希衣子は、おなじみのニパッとした笑顔で、「うん!」と応じて、自分自身のことから、話題を変えるようにうながした。
「アタシのことは聞いてもらったからさ、今度は、ハリモトのことを聞かせてよ。好きなモノとか苦手なこととかさ……」
「ボクのことを聞きたいの……?」
たずね返す針太朗に、彼女は、「うん! すごく興味あるし」と笑顔でうなずく。
「う~ん……ケイコほど面白い話しができるわけじゃないけど……」
そう前置きしたあと、彼は、ここまで話した相手なら、包み隠さず自分のことを話しておこうと考えて答えた。
「好きなこと……というか、趣味は読書全般。苦手なことは……辛い食べ物と高い場所、あと、女子との会話かな?」
針太朗の答えに、希衣子は苦笑いを浮かべながら、
「あ~、読書か~。アタシの苦手な分野だわ~」
と、つぶやいたあと、
「でもさ、ハリモト……女子との会話が苦手とか、絶対ウソじゃん!」
そう言ってから、ジト目で目の前の男子生徒を軽く睨みつけた。
その希衣子の意外な反応に慌てた針太朗は、自身の中学生時代を振り返りながら答える。
「いやいやいや、マジだって! 中学校のときは、女子と会話したするなんて、週に1回か2回あるくらいだったし……」
「いやいや、それは、大げさでしょ? ハリモトの通ってた中学って普通に男女共学でしょ? あり得ないって! それとも、女子と話すことが苦手になるキッカケでもあったの?」
自分の言葉に対して、信じられない……という様子のクラスメートの反応を見ながら、
(これは、具体的なエピソードを語るしかないか……)
そう観念した針太朗は、
「中学の時、こんなことがあってさ……」
と切り出して、他校の生徒との会合で、相手の女子から、京都のたい焼き屋のエピソードを聞かされたときの自分の失態について語る。
身振り手振りに加えて、覚えている限り女子のトーク内容や口調を真似て語った失敗談を、希衣子は興味深そうに聞いてくれた。
ただし――――――。
「あ~、それは、ハリモトが悪いよ、ハリモトが~。女子は、共感がほしい生き物なんだからさ~」
と、笑いながらダメ出しをするのも忘れなかったが……。
それでも、針太朗にとっての異性との会話におけるトラウマの1つを理解した彼女は、
「他にも、なにかエピソードはないの?」
と、興味深そうに続きをうながす。好奇心旺盛な希衣子の反応に押されるように、彼は、つい最近まで忘れていた小学校に入学する前の幼稚園時代の思い出話しを語りだした。
◆
幼稚園に通っていたころ――――――。
ボクには、園で良く話す仲の良い女の子がいた。
相手のフルネームどころか、もう苗字も思い出せなくなっているけど、ボクは、彼女のことをアイちゃんと呼び、彼女が、ボクの名前をシンちゃんと呼んでいたことだけは覚えている。
外で他の園児たちと遊ぶよりも、室内で絵本を読むことが好きだったボクは、年長組になって、平仮名をスムーズに読めるようになったこともあって、園に置かれていた外国の児童文学『エルマーのぼうけん』を少しずつ読み進めるのが楽しみのひとつになっていた。
そして、その幼い読書のパートナーになっていたのが、アイちゃんだった。
ボクは、彼女と『エルマーのぼうけん』を広げ、物語を語る地の文をボクが、カギカッコ付きのセリフの部分をアイちゃんが読むのが、二人のなかでの自然な役割分担になっていた。
文字を読むのは、ボクの方が少しだけ、上手かった。
だけど、セリフの部分を読むのは、アイちゃんの方が断然、上手だったからだ。
「アイちゃんはね、大きくなったら、お芝居をする、やくしゃさんになりたいの!」
彼女は、お誕生日会のときのインタビューなどで、そんな将来の夢を語っていたことを覚えている。
やくしゃさんというのが、どんな仕事をするのか、そのときのボクは、良くわかっていなかったように思うけど、アイちゃんの夢が叶うと良いな、と子ども心ながらに感じていたように思う。
物語を1章ずつ読み進めるボクと彼女の二人だけの読書会は毎日続き、ついには、『エルマーのぼうけん』『エルマーとりゅう』『エルマーと16ぴきのりゅう』のシリーズ三部作を読み終える直前まで迫っていた。
幼稚園で小さな事件が起こったのは、そのころだった――――――。
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