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第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑧
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坂瀬川駅前のショッピングセンター・アペアの1階にある喫茶店・珈琲専科ロアロアに入店し、案内された席について注文を行うと、真中仁美は、真っ先に口を開いた。
「針本くん! あなたは、いま自分の身が危険にさらされている、っていう自覚はあるの?」
喫茶店のテーブルをはさみ、前のめりになりながら問うてくる彼女の迫力に押されながら、針太朗は、
「う、うん……」
と、うなずく。
彼の曖昧な返答に対して、仁美は訝しげな視線を向けたあと、
「じゃあ、さっきの観光客っぽい外国人のお姉さんに向けていた視線は、なんなのかな?」
今度は、ニコリと作り笑いでたずねる。
もちろん、笑顔に見えるのは表情のみで、その瞳は、笑っていない。
そんな、同学年の女子の様子から、言い知れない感情を読み取った針太朗は、
「ごめんなさい……せっかく、真中さんが協力してくれているのに……」
と、うなだれながら、謝罪する。
それでも、彼女の真剣な眼差しを見据えたあと、縮こまるようにうつむくその姿に、なにか感じるところがあったのか、
「ま、まぁ、ちゃんとわかってるなら、良いけど……」
と、仁美は、とりあえず、怒りのホコを収めたようだ。
「うん……今後は、気をつけるようにするよ……」
いったい、ナニに気をつければよいのか――――――?
リリムをはじめとした魔族に関する知識を持ち合わせていない彼に意識して取れる策など、ほとんどないのだが、彼女を失望させたくない一心で、針太朗は、そう応える。
ただ、具体性をともなわない返答であったとしても、彼の殊勝な態度から、自身の教育的指導に一定の効果があったと認識したのだろう、真中仁美は、フゥ~と、息を吐いたあと、男子生徒への追及を脇において、気になることを語った。
「こんなことを言うと、鬱陶しい女子だと思われるかも知れないけど……でも、なんだか、あの女の人からは、イヤな雰囲気がしたんだよね……上手く言葉にできないんだけど……」
「えっ……イヤな雰囲気って言うと……?」
意味深長な彼女の言葉に、針太朗も思わず聞き返す。
すると、仁美は、少し困ったような表情で、
「う~ん……うまく言えないんだけど……」
と、前置きしたあと、
「なんだか、私や東山会長を値踏みする目付きだったというか、あのヒトに品定めされている感じがしたんだよね……」
ポツリと、そんなことを言う。
「そう……なんだ……でも、さっきのヒトって、サングラスをかけてなかった? 真中さん、良くあのヒトが、どんな目線を送っているか、わかったね?」
針太朗としては、しごく当然に感じる疑問を口にしただけなのだが……。
「そ、それは……雰囲気というか、そういうオーラ? みたいなモノを感じただけだから!」
なぜか、仁美は、やや焦ったような口調で返答する。
それでも、針太朗は、彼女の少し慌てた様子を気にするでもなく、
(女性同士には、なにか感じるモノがあるのかもな……)
と、受け流して、「そっか……」と、短く応えるのみだった。
そして、彼が、自身の動揺について言及しなかったことに安心したのか、仁美は、続けて感想をつぶやいた。
「最初は、ウチの学院の女子みたいに、シンちゃ……ううん、針本くんのことが気になって、私や東山会長に敵意を向けてるのかな、とも思ったんだけど……どうも、そうじゃなくて、針本くんのことは関係なしに、私たちを直接、意識してるような感じだったんだよね?」
彼女の言葉を受けて、さすがに、針太朗も不思議に感じる。
(ボクとは関係ナシに、真中さんや生徒会長に敵意を向ける? いったい、どうして……)
養護教諭の安心院幽子によれば、リリムたちの誘惑を退けるには、特定の交際相手を見つけるか、彼女たちを自分に惚れさせることの他に、妖魔を狩る者に討伐を依頼する方法があるらしい。
ただ、そんなハンターが身近に居るとしても、リリムであることがほぼ確定している生徒会長の東山奈緒をターゲットにするならともかく、一般人の真中仁美を意識する理由がわからない。
「やっぱり、ボクたちで考えてわからないことは、安心院先生に聞いてみるしかないかなぁ……」
自分でも頼りないことではあると実感するが、現状で自分たちの手に負えないことは、この方面の知識が豊富な者を頼るしかない。
なかば、ため息をつくように返答する針太朗に対して、仁美も、嘆息をもらすような口調で、ボソリとつぶやく。
「そうだねぇ……針本くんのことを気に入る女性が、そうポンポンとあらわれる訳もないし……」
「うんうん……ボクが、そんなに女性にモテるわけないもんね……」
真理を突いた仁美の言葉に、思わず同意してうなずく針太朗だったが……。
「――――――って! ちょっと、待って! いまのは、さすがに言い過ぎじゃない!?」
バラエティ番組のひな壇芸人ばりに、喫茶店の座席を立ちあがりながら反論すると、目の前の同学年の女子は、
「おぉ~! ノリツッコミが上手いですな~。針本くんって、面白い人だね」
と、おどけた口調で返答する。その笑顔に、針太朗の気持ちは、一瞬で落ち着きを取り戻した。
「いや、正直なところ、ボクは、女子と話すのは苦手な方なんだけど……なぜか、真中さんとは話しやすい感じがするんだ……ちょっと、恥ずかしけど、こんなに話しやすい女子は、幼稚園のときに同じクラスだったアイちゃん以来だ……」
普通に考えれば、相手にドン引きされるような彼のそんな発言であったが――――――。
喫茶店のテーブルを挟んだ針太朗と同じ学年の女子生徒は、彼の一言に目を見開いた。
「針本くん! あなたは、いま自分の身が危険にさらされている、っていう自覚はあるの?」
喫茶店のテーブルをはさみ、前のめりになりながら問うてくる彼女の迫力に押されながら、針太朗は、
「う、うん……」
と、うなずく。
彼の曖昧な返答に対して、仁美は訝しげな視線を向けたあと、
「じゃあ、さっきの観光客っぽい外国人のお姉さんに向けていた視線は、なんなのかな?」
今度は、ニコリと作り笑いでたずねる。
もちろん、笑顔に見えるのは表情のみで、その瞳は、笑っていない。
そんな、同学年の女子の様子から、言い知れない感情を読み取った針太朗は、
「ごめんなさい……せっかく、真中さんが協力してくれているのに……」
と、うなだれながら、謝罪する。
それでも、彼女の真剣な眼差しを見据えたあと、縮こまるようにうつむくその姿に、なにか感じるところがあったのか、
「ま、まぁ、ちゃんとわかってるなら、良いけど……」
と、仁美は、とりあえず、怒りのホコを収めたようだ。
「うん……今後は、気をつけるようにするよ……」
いったい、ナニに気をつければよいのか――――――?
リリムをはじめとした魔族に関する知識を持ち合わせていない彼に意識して取れる策など、ほとんどないのだが、彼女を失望させたくない一心で、針太朗は、そう応える。
ただ、具体性をともなわない返答であったとしても、彼の殊勝な態度から、自身の教育的指導に一定の効果があったと認識したのだろう、真中仁美は、フゥ~と、息を吐いたあと、男子生徒への追及を脇において、気になることを語った。
「こんなことを言うと、鬱陶しい女子だと思われるかも知れないけど……でも、なんだか、あの女の人からは、イヤな雰囲気がしたんだよね……上手く言葉にできないんだけど……」
「えっ……イヤな雰囲気って言うと……?」
意味深長な彼女の言葉に、針太朗も思わず聞き返す。
すると、仁美は、少し困ったような表情で、
「う~ん……うまく言えないんだけど……」
と、前置きしたあと、
「なんだか、私や東山会長を値踏みする目付きだったというか、あのヒトに品定めされている感じがしたんだよね……」
ポツリと、そんなことを言う。
「そう……なんだ……でも、さっきのヒトって、サングラスをかけてなかった? 真中さん、良くあのヒトが、どんな目線を送っているか、わかったね?」
針太朗としては、しごく当然に感じる疑問を口にしただけなのだが……。
「そ、それは……雰囲気というか、そういうオーラ? みたいなモノを感じただけだから!」
なぜか、仁美は、やや焦ったような口調で返答する。
それでも、針太朗は、彼女の少し慌てた様子を気にするでもなく、
(女性同士には、なにか感じるモノがあるのかもな……)
と、受け流して、「そっか……」と、短く応えるのみだった。
そして、彼が、自身の動揺について言及しなかったことに安心したのか、仁美は、続けて感想をつぶやいた。
「最初は、ウチの学院の女子みたいに、シンちゃ……ううん、針本くんのことが気になって、私や東山会長に敵意を向けてるのかな、とも思ったんだけど……どうも、そうじゃなくて、針本くんのことは関係なしに、私たちを直接、意識してるような感じだったんだよね?」
彼女の言葉を受けて、さすがに、針太朗も不思議に感じる。
(ボクとは関係ナシに、真中さんや生徒会長に敵意を向ける? いったい、どうして……)
養護教諭の安心院幽子によれば、リリムたちの誘惑を退けるには、特定の交際相手を見つけるか、彼女たちを自分に惚れさせることの他に、妖魔を狩る者に討伐を依頼する方法があるらしい。
ただ、そんなハンターが身近に居るとしても、リリムであることがほぼ確定している生徒会長の東山奈緒をターゲットにするならともかく、一般人の真中仁美を意識する理由がわからない。
「やっぱり、ボクたちで考えてわからないことは、安心院先生に聞いてみるしかないかなぁ……」
自分でも頼りないことではあると実感するが、現状で自分たちの手に負えないことは、この方面の知識が豊富な者を頼るしかない。
なかば、ため息をつくように返答する針太朗に対して、仁美も、嘆息をもらすような口調で、ボソリとつぶやく。
「そうだねぇ……針本くんのことを気に入る女性が、そうポンポンとあらわれる訳もないし……」
「うんうん……ボクが、そんなに女性にモテるわけないもんね……」
真理を突いた仁美の言葉に、思わず同意してうなずく針太朗だったが……。
「――――――って! ちょっと、待って! いまのは、さすがに言い過ぎじゃない!?」
バラエティ番組のひな壇芸人ばりに、喫茶店の座席を立ちあがりながら反論すると、目の前の同学年の女子は、
「おぉ~! ノリツッコミが上手いですな~。針本くんって、面白い人だね」
と、おどけた口調で返答する。その笑顔に、針太朗の気持ちは、一瞬で落ち着きを取り戻した。
「いや、正直なところ、ボクは、女子と話すのは苦手な方なんだけど……なぜか、真中さんとは話しやすい感じがするんだ……ちょっと、恥ずかしけど、こんなに話しやすい女子は、幼稚園のときに同じクラスだったアイちゃん以来だ……」
普通に考えれば、相手にドン引きされるような彼のそんな発言であったが――――――。
喫茶店のテーブルを挟んだ針太朗と同じ学年の女子生徒は、彼の一言に目を見開いた。
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