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第1章〜初恋の味は少し苦くて、とびきり甘い〜⑬
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あまりにも多くのイベントが重なった日の翌日――――――。
針本針太朗は、朝から慌ただしい時間を過ごしていた。
登校した直後、教室内でクラスメートの北川希衣子に、手紙をくれたことのお礼と放課後に、人目に付きにくい校舎裏に来てほしいことを告げたあと、すぐに生徒会室に移動して朝の事務作業をこなしていた生徒会長の東山奈緒に同じ内容を伝える。
昼休みには、中等部の校舎に出向いて、三年生の西田ひかりのクラスを聞き出して、放課後の予定をたずねてから同様のお知らせを行い、最後に高等部の校舎に戻って、隣のクラスで、南野楊子に他の女子生徒に告げたこのと同じ中身の言伝てを行ってから、午後の授業を迎えた。
(とりあえず、みんなへの連絡が終わって良かった……)
ぐったりとしながら机に突っ伏す針太朗の元に、二人の男子生徒が近寄って話しかけて来たが、これまでの肉体的疲労と、放課後に、精神的負荷の掛かるイベントが待ち受けていることから、友人になりつつある乾貴志と辰巳良介の言葉も、彼の耳には、その内容がまともに入って来ることはなかった。
(あとは、真中さんがお願いしたとおりに行動してくれれば、この危機からも逃れられる……)
そんな緊張と重圧から開放されるという期待から、はやる気持ちを抑えることができず、この日から始まった、高校最初の午後の授業は、(幸運にも、初日ということで学習に重要な中身に触れられることはなかったが)その内容は、ほとんど頭に残っていない。
そうして、いよいよ、彼の(精神的)生死が掛かった、運命の放課後を迎える。
◆
放課後、事前に真中仁美からアドバイスをもらっていたとおり、封筒を手渡してきた女子生徒全員を人気の少ない校舎裏の駐車場に呼び出した針太朗は、真っ先にその場所に到着して、彼女たちの到着を待っていた。
「ハリモト~、クラスが一緒なんだから、ここまで一緒に来てくれたら良かったのに~」
同じクラスの北川希衣子は、冗談めかした口調ながら、周りの女子たちに見せつけるように、針太朗の腕に、自分の腕を絡ませてくる。
「いや、他のクラスの女子もいるからね……」
一堂に会した他の女子生徒の目を気にしながら答える男子生徒に対し、希衣子とは、反対の側から、中等部の西田ひかりが腕を絡ませる。
「そうですよね~、針太朗お兄ちゃんは、ひかりの運命のヒトなんですから、他の女子と来るなんてあり得ないですよね~」
「いや、西田さん……とりあえず、みんなと一緒に、ボクの話しを聞いてくれない?」
針太朗が、下級生に対して、やんわりとクギを刺すと、
「そうそう! 中等部のお子様は、お呼びじゃないって!」
と、希衣子が、ひかりを牽制する。
「まあ、私が目をかけた男子だ……他にも、針本のことを狙う女子が居ることは想像できたが……まさか、四人一緒に呼び出されるとは思わなかったな」
生徒会長の東山奈緒は、周囲の面々と針太朗を見渡しながら語る。
一方、図書館で彼と運命的……もとい、作為的な出会いを演出した南野楊子は、居心地が悪いのか、所在無さげに、無言のまま立っているだけだ。
反応が表に出ないだけに、考えが読めず、そのことが、より彼女のミステリアスな雰囲気に拍車を掛けている気もするが……。
針太朗としては、いまは、そうしたことに気を取られている場合ではない。
彼は、二人の女子生徒が絡ませていた腕をやんわりとほどいたあと、意を決して口を開いた。
「え~と……今日は、放課後に集まってもらってありがとうございます」
年長者の奈緒がメンバーに含まれていることから、針太朗は丁重な言葉で語り始める。
「見てもらってわかるとおり、ボクは昨日、四人の女子から直筆のお手紙をもらいました」
彼の一言に、女子生徒たちは、あらためてお互いを見渡す。
「本当なら、一人ずつ、キッチリとお礼を言ったうえで、ボクの返答を聞いてもらわないといけないんだろうけど……みんなにも、ボクのことを知ってもらいたいと思って、集まってもらいました」
そして、針太朗は、一呼吸おいてから、協力者を呼び出す。
「ヒトミちゃん!」
「なぁに、シンちゃん! 放課後に、こんな場所に呼び出して」
そう言いながら、あらわれたのは、保健室で彼にリリム対策の協力を申し出た1年1組のクラス委員を務める真中仁美だった。
「あ~、そっか……このヒトたちが、シンちゃんに手紙を渡してきたヒトたちかぁ」
仁美の口調は、入学初日に自分を校舎に案内してくれたときや、前日、保健室やメッセージアプリの通話機能で打ち合わせを行ったときに比べて、心なしか、やや軽薄な印象を与える話し方だと針太朗は、感じた。
さらに、彼の協力者は、その口調のまま、四人の女子生徒たちを見渡しながら語る。
「でも、ゴメンナサイ……シンちゃんは、みんなの想いには応えられません!」
真中仁美は、キッパリと否定的な言葉を口にした。
そして、タップリと間を取りながら、
「な・ぜ・な・ら……」
と、ここで、彼女は、一拍の間を置いたあと、針太朗の腕に手を絡ませ、堂々と宣言する。
「シンちゃんは……私とお付き合いしているからで~す!」
その瞬間、針太朗は、校舎裏の駐車場の空気が、ピリリと凍りつくのを感じた。
針本針太朗は、朝から慌ただしい時間を過ごしていた。
登校した直後、教室内でクラスメートの北川希衣子に、手紙をくれたことのお礼と放課後に、人目に付きにくい校舎裏に来てほしいことを告げたあと、すぐに生徒会室に移動して朝の事務作業をこなしていた生徒会長の東山奈緒に同じ内容を伝える。
昼休みには、中等部の校舎に出向いて、三年生の西田ひかりのクラスを聞き出して、放課後の予定をたずねてから同様のお知らせを行い、最後に高等部の校舎に戻って、隣のクラスで、南野楊子に他の女子生徒に告げたこのと同じ中身の言伝てを行ってから、午後の授業を迎えた。
(とりあえず、みんなへの連絡が終わって良かった……)
ぐったりとしながら机に突っ伏す針太朗の元に、二人の男子生徒が近寄って話しかけて来たが、これまでの肉体的疲労と、放課後に、精神的負荷の掛かるイベントが待ち受けていることから、友人になりつつある乾貴志と辰巳良介の言葉も、彼の耳には、その内容がまともに入って来ることはなかった。
(あとは、真中さんがお願いしたとおりに行動してくれれば、この危機からも逃れられる……)
そんな緊張と重圧から開放されるという期待から、はやる気持ちを抑えることができず、この日から始まった、高校最初の午後の授業は、(幸運にも、初日ということで学習に重要な中身に触れられることはなかったが)その内容は、ほとんど頭に残っていない。
そうして、いよいよ、彼の(精神的)生死が掛かった、運命の放課後を迎える。
◆
放課後、事前に真中仁美からアドバイスをもらっていたとおり、封筒を手渡してきた女子生徒全員を人気の少ない校舎裏の駐車場に呼び出した針太朗は、真っ先にその場所に到着して、彼女たちの到着を待っていた。
「ハリモト~、クラスが一緒なんだから、ここまで一緒に来てくれたら良かったのに~」
同じクラスの北川希衣子は、冗談めかした口調ながら、周りの女子たちに見せつけるように、針太朗の腕に、自分の腕を絡ませてくる。
「いや、他のクラスの女子もいるからね……」
一堂に会した他の女子生徒の目を気にしながら答える男子生徒に対し、希衣子とは、反対の側から、中等部の西田ひかりが腕を絡ませる。
「そうですよね~、針太朗お兄ちゃんは、ひかりの運命のヒトなんですから、他の女子と来るなんてあり得ないですよね~」
「いや、西田さん……とりあえず、みんなと一緒に、ボクの話しを聞いてくれない?」
針太朗が、下級生に対して、やんわりとクギを刺すと、
「そうそう! 中等部のお子様は、お呼びじゃないって!」
と、希衣子が、ひかりを牽制する。
「まあ、私が目をかけた男子だ……他にも、針本のことを狙う女子が居ることは想像できたが……まさか、四人一緒に呼び出されるとは思わなかったな」
生徒会長の東山奈緒は、周囲の面々と針太朗を見渡しながら語る。
一方、図書館で彼と運命的……もとい、作為的な出会いを演出した南野楊子は、居心地が悪いのか、所在無さげに、無言のまま立っているだけだ。
反応が表に出ないだけに、考えが読めず、そのことが、より彼女のミステリアスな雰囲気に拍車を掛けている気もするが……。
針太朗としては、いまは、そうしたことに気を取られている場合ではない。
彼は、二人の女子生徒が絡ませていた腕をやんわりとほどいたあと、意を決して口を開いた。
「え~と……今日は、放課後に集まってもらってありがとうございます」
年長者の奈緒がメンバーに含まれていることから、針太朗は丁重な言葉で語り始める。
「見てもらってわかるとおり、ボクは昨日、四人の女子から直筆のお手紙をもらいました」
彼の一言に、女子生徒たちは、あらためてお互いを見渡す。
「本当なら、一人ずつ、キッチリとお礼を言ったうえで、ボクの返答を聞いてもらわないといけないんだろうけど……みんなにも、ボクのことを知ってもらいたいと思って、集まってもらいました」
そして、針太朗は、一呼吸おいてから、協力者を呼び出す。
「ヒトミちゃん!」
「なぁに、シンちゃん! 放課後に、こんな場所に呼び出して」
そう言いながら、あらわれたのは、保健室で彼にリリム対策の協力を申し出た1年1組のクラス委員を務める真中仁美だった。
「あ~、そっか……このヒトたちが、シンちゃんに手紙を渡してきたヒトたちかぁ」
仁美の口調は、入学初日に自分を校舎に案内してくれたときや、前日、保健室やメッセージアプリの通話機能で打ち合わせを行ったときに比べて、心なしか、やや軽薄な印象を与える話し方だと針太朗は、感じた。
さらに、彼の協力者は、その口調のまま、四人の女子生徒たちを見渡しながら語る。
「でも、ゴメンナサイ……シンちゃんは、みんなの想いには応えられません!」
真中仁美は、キッパリと否定的な言葉を口にした。
そして、タップリと間を取りながら、
「な・ぜ・な・ら……」
と、ここで、彼女は、一拍の間を置いたあと、針太朗の腕に手を絡ませ、堂々と宣言する。
「シンちゃんは……私とお付き合いしているからで~す!」
その瞬間、針太朗は、校舎裏の駐車場の空気が、ピリリと凍りつくのを感じた。
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