シネマハウスへようこそ

遊馬友仁

文字の大きさ
上 下
76 / 114

第12章~(ハル)~①

しおりを挟む
秀明が、自宅に帰り着くと、時刻は、午後七時を十五分ほど過ぎていた。
帰宅後の手洗い時に、涙が伝った顔も洗い流した秀明だったが、リビングに入り、

「ただいま。遅くなってゴメン」

と声を掛けられた母・千明の返答は、

「おかえり。まあ!目も顔も真っ赤にして!!外は寒かったやろ?」

というものだった。

「ああ、寒くて顔がヒリヒリしてたわ」

そう返す秀明に、母はさらにたずねる。

「大丈夫やった?電話の時の声も、何かこもって聞こえてたけど……」
「あ~、友達のお父さんに携帯電話を借りて電話させてもらったからかな?」

秀明が答えると、

「まあ、えらいハイカラなモノを借りて!ちゃんと、お礼は言うた?」

と、母は、いつもの調子で返してきた。
すでに社会人などに普及し始めていた携帯電話を『ハイカラなモノ』と称する母親に思わず笑みがこぼれる。

「使い方も教えてもらったから、ちゃんとお礼を言ってきたで」

答える秀明に、

「ん、そしたら、チャッチャッと座り!ピザもチキンも、もう温まるから」

母は着席を促す。
ダイニングテーブルには、夕方に母親が作っていたトマトサラダとフライドポテトが並んでいる。
秀明が席に着くと、父親の秀幸が

「友達のところに行ってたんか?」

と声を掛けてきた。

「ああ、遅くなってゴメン。ちょっと、進路のことで、ご両親と話し合いが必要になったみたいで……。その子の相談に乗ってたから、自分も、その場に参加させてもらった」

答える秀明に、

「友達は、上手く話し出来たんか?」

と再びたずねる父・秀幸。

「まあ、何とか自分の考えは伝えられたって感じなんかな?今日は、これから家族会議やって」

秀明が返答すると、キッチンから母が現れて、

「はい、お待たせ!ピザもチキンも温かくなったで」

と、今夜のメインディッシュを運んできてくれた。

「そしたら、いただこうか」

と言う父の声に、秀明も、
「いただきます!」

と手を合わせてから、ピザに手を伸ばす。
有間家のクリスマス・イブの団らんが始まったところで、秀明は、両親にたずねてみた。

「今日、家に行かせてもらった友達の話しを聞いてて思ったんやけど……。今すぐじゃなくても、もし高校を卒業して、オレが『海外に行きたい』って言ったら、二人はどう思う?」

母・千明は、

「あんた、英語しゃべれるん?まずは、ちゃんとコミュニケーションを取れる様にしてから考えたら?」

あっけらかんと言い放つ。
一方、父・秀幸は、

「何か海外で、やりたい事があるんか?」

と少し真面目な表情で聞き直してきた。

「いや、例え話やから具体的に何かやりたい事があるとかじゃないんやけど……。二人は、どんな風に思うかな、って聞いてみたかっただけ」

秀明が、そう返答すると、

「そうか……。真剣に何かやりたい事があって、それが海外でしか出来ない事なら、反対せんけどな。友達に影響されてとか、目的も無いまま、外国に行きたいと言うだけなら、賛成は出来へんな」

父が言うと、母は続けて

「そうそう。日本で出来ることも、たくさんあるやろう?野茂さんみたいに、メジャーリーグに入るなら、ともかく……。あっ、でも秀明がメジャーリーグに入ったら、年俸はたくさんもらえるか?そしたら、ウチの家計も助かるわ」

と笑いながら答える。

「なんで、野球部にも入ってない息子が、メジャーを目指す話しになるねん!」

秀明も、即座にツッコミを入れた。
しかも、やや天然キャラの母親は、『メジャーリーグ』をアメリカの野球機構ではなく、チーム名だと思っている様だ。
母と息子のやり取りを見ながら、父は

「まあ、将来やりたい事があるなら、いつでも話しは聞くから。気持ちが固まったら、早めに相談に来い」

と付け加える。
仁川からの帰り道、寂しさと悲しさで胸が締め付けられる様な想いを経験した秀明だったが、父の言葉と母の明るさに少し救われた気持ちになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

思い出の第二ボタン

古紫汐桜
青春
娘の結婚を機に物置部屋を整理していたら、独身時代に大切にしていた箱を見つけ出す。 それはまるでタイムカプセルのように、懐かしい思い出を甦らせる。

個性派JK☆勢揃いっ!【完結済み】

M・A・J・O
青春
【第5回&第6回カクヨムWeb小説コンテスト、中間選考突破!】 【第2回ファミ通文庫大賞、中間選考突破!】 庇護欲をそそる人見知りJK、女子力の高い姐御肌JK、ちょっぴりドジな優等生JK……などなど。 様々な個性を持ったJKたちが集う、私立の聖タピオカ女子高等学校。 小高い丘の上に建てられた校舎の中で、JKたちはどう過ごしていくのか。 カトリック系の女子校という秘密の花園(?)で、JKたちの個性が炸裂する! 青春!日常!学園!ガールズコメディー!ここに開幕――ッッ! ☆ ☆ ☆ 人見知りコミュ障の美久里は、最高の青春を送ろうと意気込み。 面倒見がいいサバサバした性格の朔良は、あっという間に友だちができ。 背が小さくて頭のいい萌花は、テストをもらった際にちょっとしたドジを踏み。 絵を描くのが得意でマイペースな紫乃は、描き途中の絵を見られるのが恥ずかしいようで。 プロ作家の葉奈は、勉強も運動もだめだめ。 たくさんの恋人がいるあざとい瑠衣は、何やら闇を抱えているらしい。 そんな彼女らの青春は、まだ始まったばかり―― ※視点人物がころころ変わる。 ※だいたい一話完結。 ※サブタイトル後のカッコ内は視点人物。 ・表紙絵は秀和様(@Lv9o5)より。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

同居離婚はじめました

仲村來夢
恋愛
大好きだった夫の優斗と離婚した。それなのに、世間体を保つためにあたし達はまだ一緒にいる。このことは、親にさえ内緒。 なりゆきで一夜を過ごした職場の後輩の佐伯悠登に「離婚して俺と再婚してくれ」と猛アタックされて…!? 二人の「ゆうと」に悩まされ、更に職場のイケメン上司にも迫られてしまった未央の恋の行方は… 性描写はありますが、R指定を付けるほど多くはありません。性描写があるところは※を付けています。

【完結】幻のような君を僕だけはずっと憶えている

猪本夜
青春
病気の兄を亡くした経験を持つコウは、余命一年のサヤと出会う。 そんなサヤに少しだけ振り回されるけれど、 いつもの毎日に彼女が入り込んで、だんだんと彼女が気になりだしていく。 明るい彼女だけど、余命以外にも謎めいた背景を抱えていて、 悲しい願いを望んでいることを知る。 そんな『幻』の彼女と過ごした僕の高校二年生の記憶――。 ※9万字超ほどで完結予定。 ※もしや、と思う地域や場所があるかもしれませんが、実在のものとは関係ありません。 ※青春小説ボカロPカップにエントリー中。応援よろしくお願い致します。

俺の学園生活は絶対に間違った方向へと進んでいる妖だ

ネコまっしぐら。
青春
この春から、府立『淀ノ方高校』に通う事になった鞍馬 天狗(くらま てんく)は、小さい時からの知り合いで、同じ学校に通う野前 玉藻(のまえ たまも)に想いを寄せているが、素直になれず、自分に自信も無い。 しかし、高校生になった事をキッカケに少しずつだが、二人の関係は進展をみせる… …おかしな方向に。 鞍馬の幼馴染、童子 伊吹(どうじ いぶき)も巻き込んで、やたらと起きる怪現象に振り回されながらも、主人公の甘酸っぱい高校生活を見守るお話です。 ※一話3〜4000文字程度の勢いで書く作品です。 まったり描きますが、それでも良ければ、ご覧下さい。 感想、アドバイスお願いしますm(__)m 他サイト様掲載中です。

キミと僕との7日間

五味
青春
始めは、小学生の時。 5年も通い続けた小学校。特に何か問題があったわけではない、ただ主人公は、やけに疲れを感じて唐突に田舎に、祖父母の家に行きたいと、そう思ってしまった。 4月の終わり、五月の連休、両親は仕事もあり何が家族で出かける予定もない。 そこで、一人で、これまで貯めていたお小遣いを使って、どうにか祖父母の家にたどり着く。 そこで何をするでもなく、数日を過ごし、家に帰る。 そんなことを繰り返すようになった主人公は、高校に入学した一年目、その夏も、同じようにふらりと祖父母の家に訪れた。 そこで、いつものようにふらふらと過ごす、そんな中、一人の少女に出会う。 近くにある小高い丘、そこに天体望遠鏡を持って、夜を過ごす少女。 そんな君と僕との7日間の話。

【絶対攻略不可?】~隣の席のクール系美少女を好きになったらなぜか『魔王』を倒すことになった件。でも本当に攻略するのは君の方だったようです。~

夕姫
青春
主人公の霧ヶ谷颯太(きりがたにそうた)は高校1年生。今年の春から一人暮らしをして、東京の私立高校に通っている。  そして入学早々、運命的な出逢いを果たす。隣の席の柊咲夜(ひいらぎさくや)に一目惚れをする。淡い初恋。声をかけることもできずただ見てるだけ。  ただその関係は突然一変する。なんと賃貸の二重契約により咲夜と共に暮らすことになった。しかしそんな彼女には秘密があって……。 「もしかしてこれは大天使スカーレット=ナイト様のお導きなの?この先はさすがにソロでは厳しいと言うことかしら……。」 「え?大天使スカーレット=ナイト?」 「魔王を倒すまではあなたとパーティーを組んであげますよ。足だけは引っ張らないでくださいね?」 「あの柊さん?ゲームのやりすぎじゃ……。」  そう咲夜は学校でのクール系美少女には程遠い、いわゆる中二病なのだ。そんな咲夜の発言や行動に振り回されていく颯太。  この物語は、主人公の霧ヶ谷颯太が、クール系美少女の柊咲夜と共に魔王(学校生活)をパーティー(同居)を組んで攻略しながら、咲夜を攻略(お付き合い)するために奮闘する新感覚ショートラブコメです。

処理中です...