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第8章~フェリスはある朝突然に~④
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「───と、いう訳で、最近、吉野サンと坂野クンの周りにヒトが集まりだして、このままだと、周囲に軋轢が生じかねないので……。高梨先輩、番組内で告知をしたり、何か対策を取れないでしょうか?」
秀明は、文化委員会の会合が行われた翌日、上級生の高梨翼の元へ相談におもむいていた。
「あ~。他のところからも、そんな声が上がってるね~。私達の番組に注目してもらえるのは嬉しいけど、吉野さんと、あきクンのためにも、そろそろ何か考えないと!って思ってたところなんよ~」
三年生が活動を退いたため、名実ともに、放送部と校内放送の責任者になった上級生の言葉に、秀明は胸を撫で下ろした。
「やっぱり、出演者のことを考えていてくれてたんですね!ありがとうございます」
秀明が、感謝の言葉を伝えると、翼は、こんな提案をしてきた。
「有間クンも、吉野さんと、あきクンのために協力してくれるかな~?」
「そうですね、自分に出来ることであれば、ぜひ!」
秀明は即答する。
「ありがとう~。有間クンなら、そう言ってくれると思ってたわ~。じゃあ、収録のある木曜日までに準備をしておくから、あとは、こっちに任せて~」
翼の言葉に安堵した秀明は、
(やっぱり、最後は頼りになる先輩やな)
と、これまでの彼女への印象を改めようと考えた。
しかし、この二日後、自身の見通しの甘さを嘆く羽目になることを、彼は、まだ知らない───。
※
♤「IBC!」
♢「『シネマハウスへようこそ!』」
BGM:ロバート・パーマー『Addicted to Love』
♤「みなさん、こんにちは!『シネマハウスへようこそ』館長のアリマヒデアキです」
♢「ビデオショップ『レンタル・アーカイブス』店長のヨシノアリスです」
♤「十月になって、過ごしやすい季節になりましたね」
♢「ようやく、イヤな暑さがなくなって、嬉しいなと思っていたんですけど……」
♤「紹介しきれないくらいオススメ候補の映画に恵まれていた九月とは反対に、今月は取り上げたい新作映画が極端に少なくなりそうで……(笑)」
♢「ホント、先月は最初に取り上げた『恋人までの距離』に始まって『エドウッド』『乙女の祈り』と小品ながら良い映画がたくさんあったんだけど……」
♤「あと、ツッコミを入れまくって紹介した『ジャッジ・ドレッド』とか、語りたい作品が多かっただったんですけどね~」
♢「他にも、大ヒット中で評価の高い『マディソン郡の橋』も!」
♤「いや、あの映画の内容は、この校内放送では取り上げにくい(笑)と言う訳で、今月は紹介したい映画が、『クリムゾン・タイド』と『ブレイブハート』くらいしか無いので、レンタルビデオの方にチカラを入れたいと考えています!」
BGM:デヴィッド・デクスターD『Oh la la Tequila』
♢「IBC『シネマハウスへようこそ』は、映画の最新情報を放送室から、お送りしています!」
※
♢「レンタル・アーカイブス!」
BGM:スティーブン・ライト『And now Little Green Bag』
♤「久々ですね、このジングルも。レンタル・ビデオの紹介です。アリス店長、今週は、どんな作品を取り上げてくれるんでしょう?」
♢「今回、紹介したいのは、ジョン・ヒューズ監督の『フェリスはある朝突然に』です!」
♤「来た!ジョン・ヒューズ作品を取り上げるのは、二回目かな?」
♢「そうですね。『レンタル・アーカイブス』の最初の回で紹介させてもらった『ブレックファスト・クラブ』に続いて、ジョン・ヒューズ監督の作品を取り上げるのは、二回目です」
♤「それだけ、注目したい映画監督であると?」
♢「そう!ジョン・ヒューズは、プロデュース作品を含めると、高校生を主人公にした映画をこれまで六本撮影しているんだけど、どれも素晴らしい作品なんです」
♤「ボクが、アリス店長にレンタルしたことを暴露された『恋しくて』も、ジョン・ヒューズのプロデュース作品なんですよね~。あの映画は、邦題のセンスが悪いわ!原題の『サム・カインド・オブ・ワンダフル』のまま公開してくれてたら、あの時も、あんな恥ずかしい想いをしなくてすんだのに(笑)」
♢「アリマ館長は、あの映画お気に入りだもんね(笑)私に代わって、紹介してみる?」
♤「いや、このコーナーは、アリス店長の担当なので、つつしんで辞退します」
♢「遠慮しなくてもイイのに(笑)今回は、前回の『ブレックファスト・クラブ』の紹介の時に話せなかったジョン・ヒューズ監督の経歴についても、少し触れてみようかな、と思います」
♤「はいはい」
♢「高校を卒業後、大学を中退したジョン・ヒューズは、シカゴの広告代理店でコピーライターとして生計を立てながら、雑誌に記事や小説などを寄稿していたそうです。その実力が認められて、『ナショナル・ランプーン/パニック同窓会』で脚本家として映画デビュー。翌々年には、『プリティ・イン・ピンク』で映画監督としてもキャリアをスタートさせます」
♤「『シネマハウスにようこそ』で、取り上げたいのは、ここからの作品なんですよね~」
♢「そうそう!この『プリティ・イン・ピンク』から『ブレックファスト・クラブ』『ときめきサイエンス』『フェリスはある朝突然に』『素敵な片想い』『恋しくて』の監督もしくは制作を担当した八〇年代に作られた六本の映画が、青春映画、とくに高校を舞台にした学園モノ映画として支持を集めている作品です」
♤「でも、悲しいかな、この辺りの作品は、日本ではあまり注目されていない……(笑)」
♢「本国アメリカでも、ジョン・ヒューズに注目が集まるのは、九〇年代になってからだから……。その後、『ホーム・アローン』や『ベートーベン』シリーズなどで、一気に映画界の有名プロデューサーに!来年は、ディズニーアニメの『101匹ワンちゃん』の実写化も手掛けるみたい」
♤「また、ファミリー映画か!?まあ、『ホーム・アローン』は、この放送を聞いてくれている皆さんの中に、映画を観たとかファンのヒトも多いと思うけど……」
♢「この番組として、注目したいのは、彼が八〇年代に制作に携わった作品なので……!今回は、その中でも、『ブレックファスト・クラブ』と並んで、人気の高い『フェリスはある朝突然に』をご紹介します」
♤「よろしくお願いします!」
♢「それでは、映画のあらすじを……。マシュー・ブロデリック演じる主人公のフェリス・ビューラーは、高校三年生。ある朝、熱はないにもかかわらず、『胃が痛い』と両親に訴えます。彼は、この学期で九回目の仮病で学校を休むことに決めたんです」
♤「そんで、フェリスは、『今度、だます時は吐血が必要だ』みたいなことを言うねんな(笑)」
♢「そうそう!フェリスの細かなセリフが、どれも笑わせてくれて楽しいの!フェリスの妹のジーニーだけは、兄の仮病に気付いているけど、それを両親に訴えても信じてもらえなくて……。フェリスは、この後、本当に具合が悪くて学校を休んでいる友人のキャメロンと、すでに学校に登校している恋人のスローアンを誘い出して、キャメロンの父親が所有するスポーツカーで、シカゴの街へと繰り出します。フェリスとキャメロン、スローアンは、どんな一日を過ごすのか?これが、この映画の主なストーリーです!」
♤「はい!この映画ね、学校をズル休みする話しやから、『マディソン郡の橋』とは違う意味で、校内放送ではオススメしにくいな、と思ってたんですけどね(笑)思い切ったね?アリス店長」
♢「まあ、別に学校をサボタージュすることが、この映画のテーマではないと思うから(笑)シカゴの街に飛び出したフェリスたちは、シアーズ・タワー、先物商品取引所、野球場、シカゴ美術館、さらに、ミシガン湖とシカゴ各地の名所を巡ります」
♤「フェリスたちが野球観戦するシカゴ・カブスの本拠地リグレー・フィールドは、この当時ナイター設備がなかったから、学校の授業のある平日の昼間でも試合が開催されてるですよね~」
♢「そして、この名所巡りのクライマックスは、市街地で行われるパレードに飛び入り参加するフェリス!ここで、マシュー・ブロデリックがビートルズの『ツイスト・アンド・シャウト』を熱唱するシーンは、青春映画史に残る屈指の名シーンだから、ぜひ観てほしいな!」
♤「青春映画史というモノがあるのかはワカランけど……。確かに、素晴らしいシーンやね!ちょっと、話しはそれるけど、クラス内で非主流派の人間って、『普段は目立たない自分が、学園祭でバンド出演して超絶ギター技(テク)もしくは、美声のボーカルを披露して人気者になる』って、妄想を抱きがちじゃないですか?フェリスは、そういう日陰者の『こうありたい!』って、願望の具現化とも言えるかも」
♢「アリマくん、そんな願望があるの(笑)?」
♤「いや、あくまで一般論ですよ、一般論!」
♢「どこの世界の一般論なのか、わからないんだけど(笑)とにかく、映画の前半は、あり得ないくらい偶然が重なるフェリスの活躍と彼がカメラに向かって語る名言を存分に楽しんでください!」
♤「あと、この映画の面白さの半分は、フェリスが観客に向かって語りかけるセリフにあるから……。字幕では追いきれないこともあるし、ビデオを借りる時は、日本語吹替え版の方が良いかも知れないね」
♢「確かに、それは言えるかも!でも、この映画の見所は、フェリスの含蓄のあるセリフだけじゃないんだ。これは、以前にアリマ館長と話したことがあるんだけど……。この映画のフェリスって、他のヒューズ作品の登場人物と違って、思春期特有の悩みや葛藤と無縁なんだよね。『ブレックファスト・クラブ』を紹介した時にも話した様に、クラスの中でのハミ出し者だけじゃなくて、中心的人物の体育会系男子や流行に敏感な女子にも、それぞれ悩みはある!って描写が、ヒューズ作品の特長なのに……」
♤「そうそう!映画を観たヒトが共感する存在じゃなくて、さっきも、言った様に『あんな風に自由に生きられたらな』って考えるキャラクターの理想像って感じやね」
♢「うん、ある意味で、フェリス・ビューラーは、おとぎ話や神話に出てくるトリック・スター的な感じかな」
♤「真面目チャンの妹から見たら、フェリスは、いたずら者で不真面目なのに人気があるから、『ムカつく』対象って感じやろうし(笑)」
♢「だから、モラルや道徳を守って、他の人間にもルールを守らせようとするタイプのヒトは、この映画を観る時に、少し気を付けて下さい。主人公のフェリスのことが好きになれないかも知れないから……」
♤「でも、この映画は、フェリスに振り回される周りの人間にも、キチンとご褒美が用意されているので、フェリスの言動が気に要らないヒト達も、その視点で観てくれると良いかも!」
♢「そうそう、この映画の本当の主人公は、フェリスの友人のキャメロンと妹のジーニーなんじゃないかな?学校をズル休みしたり、成績を改竄したり、やりたい放題のフェリスに、『あいつは特別だから……』って、ふさぎ込んだり、『どうして、兄貴だけ贔屓されるの……』って、嫉妬したり。でも、そんな二人がラストで自分自身のことについて、前向きになれるところが良いな、って感じるんだ」
♤「フェリスの友人キャメロンとフェリスの妹は、観ていて共感しやすいキャラクターですしね~」
♢「うん!そして、フェリスが語る『人生は、何をするかではなく、何をしないかだ』という言葉が、この映画の最大のテーマになんじゃないかと思うの」
♤「あ、それ、お気に入りのセリフやわ!」
♢「前にも、話してくれたよね(笑)人間が、自分の人生を振り返る時に思うことって、『あの時、あんな事をしなければ良かった』ってことよりも、『あの時、ああしておけば良かった、こうしておけば良かった』って言う後悔なんじゃないかな、って思うんだ。キャメロンは、ふさぎ込んだ性格だけど、それは、将来の進路を勝手に決める父親に遠慮して、自分自身を抑え込んでいるからだと気付いて……。だから、最後にキャメロンが自分を抑圧する父親と対決する、と決意する場面は、胸が熱くなるんだ……」
♤「先月の『恋人までの距離(ディスタンス)』のボクの時よりも、熱心に語ってる(笑)アリス店長、この映画のことになると、熱くなるからね~」
♢「思わず、熱く語っちゃった……」
♤「じゃあ、店長が落ち着くまで少し話しをさせてもらいましょうか(笑)ジョン・ヒューズの映画は、若者の気持ちに寄り添いながら、『でも、キミ達、今のままでイイのか?』って疑問も常に観客に投げ掛けていて、この問い掛けは、『フェリス~』の一つ前の監督作品でもある『ときめきサイエンス』でも共通したテーマだったかも。この映画のフェリス・ビューラーは、とても十七歳とは思えない発言が目立つけど、それは、かつて十七歳だったジョン・ヒューズ監督から十代の人間へのメッセージだと思うので、そういう点にも注目して観てもらえると良いかと思います、はい。では、落ち着いたみたいなので、アリス店長、締めくくって下さい」
♢「なんだか、言おうとしたことを、言われてしまった気もするんだけど……(笑)ジョン・ヒューズが携わった八〇年代の作品は、どれも楽しくて、だけど、どこか哀しさも感じさせる映画なんだよね。それは、彼の映画を観たヒトが、どこかで自分の青春時代にウソをついているから、ホロ苦くて哀しく感じられるんじゃないかなって思うんです。もし、この放送がきっかけで、ジョン・ヒューズ作品を観て、なにかを感じてくれたヒトがいたら……。自分の心の中から聞こえて来る、その想いを大切にしてほしいな、と思います。以上、『レンタル・アーカイブス』のコーナーでした!」
秀明は、文化委員会の会合が行われた翌日、上級生の高梨翼の元へ相談におもむいていた。
「あ~。他のところからも、そんな声が上がってるね~。私達の番組に注目してもらえるのは嬉しいけど、吉野さんと、あきクンのためにも、そろそろ何か考えないと!って思ってたところなんよ~」
三年生が活動を退いたため、名実ともに、放送部と校内放送の責任者になった上級生の言葉に、秀明は胸を撫で下ろした。
「やっぱり、出演者のことを考えていてくれてたんですね!ありがとうございます」
秀明が、感謝の言葉を伝えると、翼は、こんな提案をしてきた。
「有間クンも、吉野さんと、あきクンのために協力してくれるかな~?」
「そうですね、自分に出来ることであれば、ぜひ!」
秀明は即答する。
「ありがとう~。有間クンなら、そう言ってくれると思ってたわ~。じゃあ、収録のある木曜日までに準備をしておくから、あとは、こっちに任せて~」
翼の言葉に安堵した秀明は、
(やっぱり、最後は頼りになる先輩やな)
と、これまでの彼女への印象を改めようと考えた。
しかし、この二日後、自身の見通しの甘さを嘆く羽目になることを、彼は、まだ知らない───。
※
♤「IBC!」
♢「『シネマハウスへようこそ!』」
BGM:ロバート・パーマー『Addicted to Love』
♤「みなさん、こんにちは!『シネマハウスへようこそ』館長のアリマヒデアキです」
♢「ビデオショップ『レンタル・アーカイブス』店長のヨシノアリスです」
♤「十月になって、過ごしやすい季節になりましたね」
♢「ようやく、イヤな暑さがなくなって、嬉しいなと思っていたんですけど……」
♤「紹介しきれないくらいオススメ候補の映画に恵まれていた九月とは反対に、今月は取り上げたい新作映画が極端に少なくなりそうで……(笑)」
♢「ホント、先月は最初に取り上げた『恋人までの距離』に始まって『エドウッド』『乙女の祈り』と小品ながら良い映画がたくさんあったんだけど……」
♤「あと、ツッコミを入れまくって紹介した『ジャッジ・ドレッド』とか、語りたい作品が多かっただったんですけどね~」
♢「他にも、大ヒット中で評価の高い『マディソン郡の橋』も!」
♤「いや、あの映画の内容は、この校内放送では取り上げにくい(笑)と言う訳で、今月は紹介したい映画が、『クリムゾン・タイド』と『ブレイブハート』くらいしか無いので、レンタルビデオの方にチカラを入れたいと考えています!」
BGM:デヴィッド・デクスターD『Oh la la Tequila』
♢「IBC『シネマハウスへようこそ』は、映画の最新情報を放送室から、お送りしています!」
※
♢「レンタル・アーカイブス!」
BGM:スティーブン・ライト『And now Little Green Bag』
♤「久々ですね、このジングルも。レンタル・ビデオの紹介です。アリス店長、今週は、どんな作品を取り上げてくれるんでしょう?」
♢「今回、紹介したいのは、ジョン・ヒューズ監督の『フェリスはある朝突然に』です!」
♤「来た!ジョン・ヒューズ作品を取り上げるのは、二回目かな?」
♢「そうですね。『レンタル・アーカイブス』の最初の回で紹介させてもらった『ブレックファスト・クラブ』に続いて、ジョン・ヒューズ監督の作品を取り上げるのは、二回目です」
♤「それだけ、注目したい映画監督であると?」
♢「そう!ジョン・ヒューズは、プロデュース作品を含めると、高校生を主人公にした映画をこれまで六本撮影しているんだけど、どれも素晴らしい作品なんです」
♤「ボクが、アリス店長にレンタルしたことを暴露された『恋しくて』も、ジョン・ヒューズのプロデュース作品なんですよね~。あの映画は、邦題のセンスが悪いわ!原題の『サム・カインド・オブ・ワンダフル』のまま公開してくれてたら、あの時も、あんな恥ずかしい想いをしなくてすんだのに(笑)」
♢「アリマ館長は、あの映画お気に入りだもんね(笑)私に代わって、紹介してみる?」
♤「いや、このコーナーは、アリス店長の担当なので、つつしんで辞退します」
♢「遠慮しなくてもイイのに(笑)今回は、前回の『ブレックファスト・クラブ』の紹介の時に話せなかったジョン・ヒューズ監督の経歴についても、少し触れてみようかな、と思います」
♤「はいはい」
♢「高校を卒業後、大学を中退したジョン・ヒューズは、シカゴの広告代理店でコピーライターとして生計を立てながら、雑誌に記事や小説などを寄稿していたそうです。その実力が認められて、『ナショナル・ランプーン/パニック同窓会』で脚本家として映画デビュー。翌々年には、『プリティ・イン・ピンク』で映画監督としてもキャリアをスタートさせます」
♤「『シネマハウスにようこそ』で、取り上げたいのは、ここからの作品なんですよね~」
♢「そうそう!この『プリティ・イン・ピンク』から『ブレックファスト・クラブ』『ときめきサイエンス』『フェリスはある朝突然に』『素敵な片想い』『恋しくて』の監督もしくは制作を担当した八〇年代に作られた六本の映画が、青春映画、とくに高校を舞台にした学園モノ映画として支持を集めている作品です」
♤「でも、悲しいかな、この辺りの作品は、日本ではあまり注目されていない……(笑)」
♢「本国アメリカでも、ジョン・ヒューズに注目が集まるのは、九〇年代になってからだから……。その後、『ホーム・アローン』や『ベートーベン』シリーズなどで、一気に映画界の有名プロデューサーに!来年は、ディズニーアニメの『101匹ワンちゃん』の実写化も手掛けるみたい」
♤「また、ファミリー映画か!?まあ、『ホーム・アローン』は、この放送を聞いてくれている皆さんの中に、映画を観たとかファンのヒトも多いと思うけど……」
♢「この番組として、注目したいのは、彼が八〇年代に制作に携わった作品なので……!今回は、その中でも、『ブレックファスト・クラブ』と並んで、人気の高い『フェリスはある朝突然に』をご紹介します」
♤「よろしくお願いします!」
♢「それでは、映画のあらすじを……。マシュー・ブロデリック演じる主人公のフェリス・ビューラーは、高校三年生。ある朝、熱はないにもかかわらず、『胃が痛い』と両親に訴えます。彼は、この学期で九回目の仮病で学校を休むことに決めたんです」
♤「そんで、フェリスは、『今度、だます時は吐血が必要だ』みたいなことを言うねんな(笑)」
♢「そうそう!フェリスの細かなセリフが、どれも笑わせてくれて楽しいの!フェリスの妹のジーニーだけは、兄の仮病に気付いているけど、それを両親に訴えても信じてもらえなくて……。フェリスは、この後、本当に具合が悪くて学校を休んでいる友人のキャメロンと、すでに学校に登校している恋人のスローアンを誘い出して、キャメロンの父親が所有するスポーツカーで、シカゴの街へと繰り出します。フェリスとキャメロン、スローアンは、どんな一日を過ごすのか?これが、この映画の主なストーリーです!」
♤「はい!この映画ね、学校をズル休みする話しやから、『マディソン郡の橋』とは違う意味で、校内放送ではオススメしにくいな、と思ってたんですけどね(笑)思い切ったね?アリス店長」
♢「まあ、別に学校をサボタージュすることが、この映画のテーマではないと思うから(笑)シカゴの街に飛び出したフェリスたちは、シアーズ・タワー、先物商品取引所、野球場、シカゴ美術館、さらに、ミシガン湖とシカゴ各地の名所を巡ります」
♤「フェリスたちが野球観戦するシカゴ・カブスの本拠地リグレー・フィールドは、この当時ナイター設備がなかったから、学校の授業のある平日の昼間でも試合が開催されてるですよね~」
♢「そして、この名所巡りのクライマックスは、市街地で行われるパレードに飛び入り参加するフェリス!ここで、マシュー・ブロデリックがビートルズの『ツイスト・アンド・シャウト』を熱唱するシーンは、青春映画史に残る屈指の名シーンだから、ぜひ観てほしいな!」
♤「青春映画史というモノがあるのかはワカランけど……。確かに、素晴らしいシーンやね!ちょっと、話しはそれるけど、クラス内で非主流派の人間って、『普段は目立たない自分が、学園祭でバンド出演して超絶ギター技(テク)もしくは、美声のボーカルを披露して人気者になる』って、妄想を抱きがちじゃないですか?フェリスは、そういう日陰者の『こうありたい!』って、願望の具現化とも言えるかも」
♢「アリマくん、そんな願望があるの(笑)?」
♤「いや、あくまで一般論ですよ、一般論!」
♢「どこの世界の一般論なのか、わからないんだけど(笑)とにかく、映画の前半は、あり得ないくらい偶然が重なるフェリスの活躍と彼がカメラに向かって語る名言を存分に楽しんでください!」
♤「あと、この映画の面白さの半分は、フェリスが観客に向かって語りかけるセリフにあるから……。字幕では追いきれないこともあるし、ビデオを借りる時は、日本語吹替え版の方が良いかも知れないね」
♢「確かに、それは言えるかも!でも、この映画の見所は、フェリスの含蓄のあるセリフだけじゃないんだ。これは、以前にアリマ館長と話したことがあるんだけど……。この映画のフェリスって、他のヒューズ作品の登場人物と違って、思春期特有の悩みや葛藤と無縁なんだよね。『ブレックファスト・クラブ』を紹介した時にも話した様に、クラスの中でのハミ出し者だけじゃなくて、中心的人物の体育会系男子や流行に敏感な女子にも、それぞれ悩みはある!って描写が、ヒューズ作品の特長なのに……」
♤「そうそう!映画を観たヒトが共感する存在じゃなくて、さっきも、言った様に『あんな風に自由に生きられたらな』って考えるキャラクターの理想像って感じやね」
♢「うん、ある意味で、フェリス・ビューラーは、おとぎ話や神話に出てくるトリック・スター的な感じかな」
♤「真面目チャンの妹から見たら、フェリスは、いたずら者で不真面目なのに人気があるから、『ムカつく』対象って感じやろうし(笑)」
♢「だから、モラルや道徳を守って、他の人間にもルールを守らせようとするタイプのヒトは、この映画を観る時に、少し気を付けて下さい。主人公のフェリスのことが好きになれないかも知れないから……」
♤「でも、この映画は、フェリスに振り回される周りの人間にも、キチンとご褒美が用意されているので、フェリスの言動が気に要らないヒト達も、その視点で観てくれると良いかも!」
♢「そうそう、この映画の本当の主人公は、フェリスの友人のキャメロンと妹のジーニーなんじゃないかな?学校をズル休みしたり、成績を改竄したり、やりたい放題のフェリスに、『あいつは特別だから……』って、ふさぎ込んだり、『どうして、兄貴だけ贔屓されるの……』って、嫉妬したり。でも、そんな二人がラストで自分自身のことについて、前向きになれるところが良いな、って感じるんだ」
♤「フェリスの友人キャメロンとフェリスの妹は、観ていて共感しやすいキャラクターですしね~」
♢「うん!そして、フェリスが語る『人生は、何をするかではなく、何をしないかだ』という言葉が、この映画の最大のテーマになんじゃないかと思うの」
♤「あ、それ、お気に入りのセリフやわ!」
♢「前にも、話してくれたよね(笑)人間が、自分の人生を振り返る時に思うことって、『あの時、あんな事をしなければ良かった』ってことよりも、『あの時、ああしておけば良かった、こうしておけば良かった』って言う後悔なんじゃないかな、って思うんだ。キャメロンは、ふさぎ込んだ性格だけど、それは、将来の進路を勝手に決める父親に遠慮して、自分自身を抑え込んでいるからだと気付いて……。だから、最後にキャメロンが自分を抑圧する父親と対決する、と決意する場面は、胸が熱くなるんだ……」
♤「先月の『恋人までの距離(ディスタンス)』のボクの時よりも、熱心に語ってる(笑)アリス店長、この映画のことになると、熱くなるからね~」
♢「思わず、熱く語っちゃった……」
♤「じゃあ、店長が落ち着くまで少し話しをさせてもらいましょうか(笑)ジョン・ヒューズの映画は、若者の気持ちに寄り添いながら、『でも、キミ達、今のままでイイのか?』って疑問も常に観客に投げ掛けていて、この問い掛けは、『フェリス~』の一つ前の監督作品でもある『ときめきサイエンス』でも共通したテーマだったかも。この映画のフェリス・ビューラーは、とても十七歳とは思えない発言が目立つけど、それは、かつて十七歳だったジョン・ヒューズ監督から十代の人間へのメッセージだと思うので、そういう点にも注目して観てもらえると良いかと思います、はい。では、落ち着いたみたいなので、アリス店長、締めくくって下さい」
♢「なんだか、言おうとしたことを、言われてしまった気もするんだけど……(笑)ジョン・ヒューズが携わった八〇年代の作品は、どれも楽しくて、だけど、どこか哀しさも感じさせる映画なんだよね。それは、彼の映画を観たヒトが、どこかで自分の青春時代にウソをついているから、ホロ苦くて哀しく感じられるんじゃないかなって思うんです。もし、この放送がきっかけで、ジョン・ヒューズ作品を観て、なにかを感じてくれたヒトがいたら……。自分の心の中から聞こえて来る、その想いを大切にしてほしいな、と思います。以上、『レンタル・アーカイブス』のコーナーでした!」
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