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第5章~耳をすませば~④
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秀明たちの二回目の打ち合わせから、さらに十日が過ぎ、初回の『シネマハウスへようこそ』の放送から一ヵ月が経過した六月末。
今回の企画の立案者であり、番組プロデューサーを自認する高梨翼は、今月の放送内容の一覧表を眺めながら思案していた。
六月二日『ショーシャンクの空に』
六月九日『フォレスト・ガンプ~一期一会~』
六月十六日『ブレックファスト・クラブ』
六月二十三日『アメリカングラフィティ』
六月三十日『恋人たちの食卓』
(有間クン、吉野さん、あきクンのトークの中身に不満はないけど……)
(取り上げている作品が地味なのかな?もう少し、聴き手の印象に残る内容にしてほしい……)
出演者の達成感や自己満足の感覚とは異なり、放送の制作にたずさわる者として、
「観たいと思っていた映画の話しを観る前に聞けて良かった!」
「放送を聞いて、もっと興味が出てきた!」
といった反響が、あまり伝わってこないことに、やや不満を感じていたのだ。
(やっぱり、認知度&注目度の高い映画を取り上げてもらわないと、ちゃんと聞いてもらえない)
(自分たち制作側からも、取り上げてもらいたい映画を推薦してみるか……)
そう考えて、夏休み前の最後の機会となる七月七日の放送では、初回と同様に放送部から、取り上げる作品を指定することにした。
※
月が変わり、七月最初の土曜日は、隔週の学校週五日制により、登校する日に当たっていた。
この日の体育の授業時、秀明はボンクラーズの面々に前日の昼休みに放送された『シネマハウスへようこそ』の感想を聞いてみた。
「昨日の放送で話した『恋人たちの食卓』は観てみたい、と思った?」
「う~ん、良くわからへん。何か地味な映画?」
「今までの放送も聞かしてもらったけどさ。何か話しを聞く前から『観てみたい!』って思う映画が取り上げられたことがないから、どう思ったのか、感想を聞かれても困るわ」
「タイトルを知ってる映画の時でも、『フォレスト・ガンプ』を取り上げると、思ったら、何かアカデミー賞作品にケチを付け始めるし……」
「いや、あれは、二人の意見が一致してしまったから……」
「新作の方は、まだ『観に行きたい!』って興味の湧く映画はないけど、吉野さんのオススメしてるレンタルビデオの方は、ちょっと観てみたいかな(笑)?」
「オレの新作映画紹介は、どうでもイイんかい!?」
「そう言うなら、もうちょっと、みんなが興味ある映画を取り上げろ!」
「はいはい、わかりましたよ!まあ、夏休み前最後の放送は、期待しといて」
※
放送部直々の指名と、彼らによる応募ハガキ攻勢の甲斐もあり、秀明と亜莉寿が参加する二度目の試写会は、この年公開のスタジオ・ジブリ制作『耳をすませば』となった。
事前の期待度に違わぬ映画の出来映えに感心しつつ、ようやく『シネマハウスへようこそ』で注目度の高い作品を取り上げられることに感謝しながらも、秀明は、映画後半のとあるシーンで、隣の席に座る亜莉寿が、感極まって涙する姿を
(彼女にとって、そんなに胸に迫るシーンなのか……?)
と意外な想いで横目で眺めていた。
ただ、彼は、恒例となっている放送内容の打ち合わせの時にも、彼女に、そのことを問わないまま、収録日を迎え、放送用音源の収録を終えた。
今回の企画の立案者であり、番組プロデューサーを自認する高梨翼は、今月の放送内容の一覧表を眺めながら思案していた。
六月二日『ショーシャンクの空に』
六月九日『フォレスト・ガンプ~一期一会~』
六月十六日『ブレックファスト・クラブ』
六月二十三日『アメリカングラフィティ』
六月三十日『恋人たちの食卓』
(有間クン、吉野さん、あきクンのトークの中身に不満はないけど……)
(取り上げている作品が地味なのかな?もう少し、聴き手の印象に残る内容にしてほしい……)
出演者の達成感や自己満足の感覚とは異なり、放送の制作にたずさわる者として、
「観たいと思っていた映画の話しを観る前に聞けて良かった!」
「放送を聞いて、もっと興味が出てきた!」
といった反響が、あまり伝わってこないことに、やや不満を感じていたのだ。
(やっぱり、認知度&注目度の高い映画を取り上げてもらわないと、ちゃんと聞いてもらえない)
(自分たち制作側からも、取り上げてもらいたい映画を推薦してみるか……)
そう考えて、夏休み前の最後の機会となる七月七日の放送では、初回と同様に放送部から、取り上げる作品を指定することにした。
※
月が変わり、七月最初の土曜日は、隔週の学校週五日制により、登校する日に当たっていた。
この日の体育の授業時、秀明はボンクラーズの面々に前日の昼休みに放送された『シネマハウスへようこそ』の感想を聞いてみた。
「昨日の放送で話した『恋人たちの食卓』は観てみたい、と思った?」
「う~ん、良くわからへん。何か地味な映画?」
「今までの放送も聞かしてもらったけどさ。何か話しを聞く前から『観てみたい!』って思う映画が取り上げられたことがないから、どう思ったのか、感想を聞かれても困るわ」
「タイトルを知ってる映画の時でも、『フォレスト・ガンプ』を取り上げると、思ったら、何かアカデミー賞作品にケチを付け始めるし……」
「いや、あれは、二人の意見が一致してしまったから……」
「新作の方は、まだ『観に行きたい!』って興味の湧く映画はないけど、吉野さんのオススメしてるレンタルビデオの方は、ちょっと観てみたいかな(笑)?」
「オレの新作映画紹介は、どうでもイイんかい!?」
「そう言うなら、もうちょっと、みんなが興味ある映画を取り上げろ!」
「はいはい、わかりましたよ!まあ、夏休み前最後の放送は、期待しといて」
※
放送部直々の指名と、彼らによる応募ハガキ攻勢の甲斐もあり、秀明と亜莉寿が参加する二度目の試写会は、この年公開のスタジオ・ジブリ制作『耳をすませば』となった。
事前の期待度に違わぬ映画の出来映えに感心しつつ、ようやく『シネマハウスへようこそ』で注目度の高い作品を取り上げられることに感謝しながらも、秀明は、映画後半のとあるシーンで、隣の席に座る亜莉寿が、感極まって涙する姿を
(彼女にとって、そんなに胸に迫るシーンなのか……?)
と意外な想いで横目で眺めていた。
ただ、彼は、恒例となっている放送内容の打ち合わせの時にも、彼女に、そのことを問わないまま、収録日を迎え、放送用音源の収録を終えた。
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