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プロローグ~イノセントワールド~④
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本日、二度目の沈黙の後、
「あっ、ゴメンね。つい、感情的になって」
「いえいえ。熱いシーンだったと思うのは、ボクも同じですから」
とフォローを入れる。
さらに続けて、
「そう言えば、ジョン・ヒューズ作品は、出演した女優や俳優が、作品を通じてブレイクしていくと言う先見の明があると思うんですけど、『フェリス~』のラストで、妹のジーニーが、薬物使用で収監されているチャーリー・シーンとイイ雰囲気になる場面を観て思ったんですよ。九〇年代になって、薬物中毒になってしまったチャーリー・シーンの将来を見据えているとは、
『この方面でも、先見の明あり過ぎだろ、ジョン・ヒューズ!』
って……」
そう口にすると……。
プッ、ハハハハハハ、と彼女は声を挙げて笑い、
「キミ、なかなかヒドいコト言うね」
と言いながら、軽く目尻に人差し指を当てる。
「まあ、関西人ですから。あと、最近、聞き始めたラジオの影響かも知れません」
と秀明は返答しつつ、
(ハァ、ウケて良かった)
と胸を撫で下ろしていた。
そんな風に会話が一段落した頃、ちょうど店舗の自動ドアが開き、男性客が入店して来た。
気がつけば雨も上がり、ガラス張りのウィンドウ越しに、店内からでも空が明るくなり始めているのが見てとれる。
「いらっしゃいませ!」
と客に声を掛け、秀明にも、
「じゃあ、仕事にもどるね」
と付け加える。
自分も、お暇するべきか、とベンチから腰を上げた秀明が、ウーロン茶と雨宿りのお礼に
「お話しできて楽しかったです!雨宿りの上に、お茶までいただき、ありがとうございました」
と一礼すると、カウンターに戻った彼女は、店内の防犯カメラの映像を確認しながら、
「あっ、もう一つだけ!『恋しくて』は、『フェリス~』のキャメロンに共感してくれたなら、絶対に面白いと思うよ!もし、次に会う機会があったら、また感想を聞かせて!」
「わかりました」
と、微笑んでうなづく秀明。
さらに、仕事に戻ったハズの彼女が続ける。
「あと、『素敵な片想い』も『プリティ・イン・ピンク』も、良い映画だから、機会があれば、女の子の気持ちになって見直してみて!それに、『ときめきサイエンス』もオタッキー少年に都合が良いだけの映画じゃないと思うから、また見直してみてね」
リクエストまで求める言葉に、
(いやいや、一言だけじゃないんかい(笑)それに、オレの感想にダメ出し!?)
などと感じたものの、口には出さず。
「了解しました。機会があれば是非」
と苦笑しながら、答える。
「長い時間、本当にありがとうございました」
と付け加えると、
「こちらこそ、お付き合いありがとうね。またのご来店をお待ちしております。あっ、見終わったビデオは巻き戻しておいてね。有間秀明クン!」
と告げて、本来の仕事に戻った店員は、丁寧にお辞儀をしてくれた。
ショップから出た秀明は帰途に着くべく、ブライアン号で、住宅街の中の緩やかな坂を下りながら、
(ビデオを借りに来て、映画の感想を求められるとは……)
(しかも、持論を展開した上に、最後はコッチの感想のダメ出しかい!)
(会員証を見たのか、名前まで把握されてるし)
(変わったショップやったな)
(───でも、まあ……。面白かったけど───)
と、数十分の間に起きた事を回想し、頭の中を整理していた。
※
有間家の両親は、それぞれ公務員と看護師の仕事に就く共働きであった。
帰宅の遅い両親に代わり、夕食の支度をするのが、夏休みに入ってからの秀明の日課となっていた。
この日は、夕方までビデオ探索に出る予定を立てていたので、あらかじめ午前中に、夕食用のパスタソースを作り、冷蔵庫に入れて保存しておいた。
帰宅して、準備していたパスタを食べたあと、記念すべき500本目のタイトルである『恋しくて』を観賞し終えた秀明は、
(面白い!これぞ、ジョン・ヒューズの学園モノの集大成だ!!)
(ストーンズの『Miss Amanda Jones 』が流れるシーンは良かったな~)
(確かに、『フェリス~』のキャメロンと、この映画の主人公キースを通して描かれるテーマは同じだ!)
(でも、何と言っても幼馴染みのワッツを選ぶラストが最高!やっぱり、最後に選ばれるのは、幼馴染みでしょう!)
などと感じたことを作品の基本データとともに、映画の感想をまとめたキャンパスノートに綴った。
※
翌日、秀明が昨日借りたビデオテープを『ビデオ・アーカイブス仁川店』に返却しに行くと、カウンターには、中年と思われる男性が立っていた。
(昨日のお姉さんは、今日は休みなのかな?)
思いきってカウンターに立つ男性に、昨日会話を交わした女性店員についてたずねようかとも考えたが、不審がられるか、とも思い、事務的な返却作業をしてもらった後は、昨日と同じ様に家路に着いた。
その後、何度かこのレンタル店の近くに立ち寄った時に店内を覗いたものの、彼女らしき人物が店番をしているのを見ることはなかった───。
「あっ、ゴメンね。つい、感情的になって」
「いえいえ。熱いシーンだったと思うのは、ボクも同じですから」
とフォローを入れる。
さらに続けて、
「そう言えば、ジョン・ヒューズ作品は、出演した女優や俳優が、作品を通じてブレイクしていくと言う先見の明があると思うんですけど、『フェリス~』のラストで、妹のジーニーが、薬物使用で収監されているチャーリー・シーンとイイ雰囲気になる場面を観て思ったんですよ。九〇年代になって、薬物中毒になってしまったチャーリー・シーンの将来を見据えているとは、
『この方面でも、先見の明あり過ぎだろ、ジョン・ヒューズ!』
って……」
そう口にすると……。
プッ、ハハハハハハ、と彼女は声を挙げて笑い、
「キミ、なかなかヒドいコト言うね」
と言いながら、軽く目尻に人差し指を当てる。
「まあ、関西人ですから。あと、最近、聞き始めたラジオの影響かも知れません」
と秀明は返答しつつ、
(ハァ、ウケて良かった)
と胸を撫で下ろしていた。
そんな風に会話が一段落した頃、ちょうど店舗の自動ドアが開き、男性客が入店して来た。
気がつけば雨も上がり、ガラス張りのウィンドウ越しに、店内からでも空が明るくなり始めているのが見てとれる。
「いらっしゃいませ!」
と客に声を掛け、秀明にも、
「じゃあ、仕事にもどるね」
と付け加える。
自分も、お暇するべきか、とベンチから腰を上げた秀明が、ウーロン茶と雨宿りのお礼に
「お話しできて楽しかったです!雨宿りの上に、お茶までいただき、ありがとうございました」
と一礼すると、カウンターに戻った彼女は、店内の防犯カメラの映像を確認しながら、
「あっ、もう一つだけ!『恋しくて』は、『フェリス~』のキャメロンに共感してくれたなら、絶対に面白いと思うよ!もし、次に会う機会があったら、また感想を聞かせて!」
「わかりました」
と、微笑んでうなづく秀明。
さらに、仕事に戻ったハズの彼女が続ける。
「あと、『素敵な片想い』も『プリティ・イン・ピンク』も、良い映画だから、機会があれば、女の子の気持ちになって見直してみて!それに、『ときめきサイエンス』もオタッキー少年に都合が良いだけの映画じゃないと思うから、また見直してみてね」
リクエストまで求める言葉に、
(いやいや、一言だけじゃないんかい(笑)それに、オレの感想にダメ出し!?)
などと感じたものの、口には出さず。
「了解しました。機会があれば是非」
と苦笑しながら、答える。
「長い時間、本当にありがとうございました」
と付け加えると、
「こちらこそ、お付き合いありがとうね。またのご来店をお待ちしております。あっ、見終わったビデオは巻き戻しておいてね。有間秀明クン!」
と告げて、本来の仕事に戻った店員は、丁寧にお辞儀をしてくれた。
ショップから出た秀明は帰途に着くべく、ブライアン号で、住宅街の中の緩やかな坂を下りながら、
(ビデオを借りに来て、映画の感想を求められるとは……)
(しかも、持論を展開した上に、最後はコッチの感想のダメ出しかい!)
(会員証を見たのか、名前まで把握されてるし)
(変わったショップやったな)
(───でも、まあ……。面白かったけど───)
と、数十分の間に起きた事を回想し、頭の中を整理していた。
※
有間家の両親は、それぞれ公務員と看護師の仕事に就く共働きであった。
帰宅の遅い両親に代わり、夕食の支度をするのが、夏休みに入ってからの秀明の日課となっていた。
この日は、夕方までビデオ探索に出る予定を立てていたので、あらかじめ午前中に、夕食用のパスタソースを作り、冷蔵庫に入れて保存しておいた。
帰宅して、準備していたパスタを食べたあと、記念すべき500本目のタイトルである『恋しくて』を観賞し終えた秀明は、
(面白い!これぞ、ジョン・ヒューズの学園モノの集大成だ!!)
(ストーンズの『Miss Amanda Jones 』が流れるシーンは良かったな~)
(確かに、『フェリス~』のキャメロンと、この映画の主人公キースを通して描かれるテーマは同じだ!)
(でも、何と言っても幼馴染みのワッツを選ぶラストが最高!やっぱり、最後に選ばれるのは、幼馴染みでしょう!)
などと感じたことを作品の基本データとともに、映画の感想をまとめたキャンパスノートに綴った。
※
翌日、秀明が昨日借りたビデオテープを『ビデオ・アーカイブス仁川店』に返却しに行くと、カウンターには、中年と思われる男性が立っていた。
(昨日のお姉さんは、今日は休みなのかな?)
思いきってカウンターに立つ男性に、昨日会話を交わした女性店員についてたずねようかとも考えたが、不審がられるか、とも思い、事務的な返却作業をしてもらった後は、昨日と同じ様に家路に着いた。
その後、何度かこのレンタル店の近くに立ち寄った時に店内を覗いたものの、彼女らしき人物が店番をしているのを見ることはなかった───。
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