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第4章〜こっち向いてほしいけれど あきらめることも私なりのファイトでもある〜①
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朝のショート・ホーム・ルームを前に、一大演説(?)を行ったあと、予想どおり、クラス内で空気以下の存在になったオレは、そのまま、放課後を迎え、足取りも重く、教室をあとにする。
期末テストも終わり、授業は午前中のみの短縮授業に切り替わっていた。
先週末まで考えていた予定では、放課後はサッサと帰宅して、自宅近くのヨネダ珈琲・武甲之荘店で、アイスコーヒーとボリューム満点のランチを楽しみながら、『ナマガミ』の志穂子ルートをたっぷりと堪能するハズだったのだが……。
前日と同じく、いや、それ以上に気持ちがふさぎ、ゲームをプレイする気にはなれない。
また、このまま、下校して喫茶店その他の飲食店に行く気も起きず、帰宅部のくせに校内を徘徊していたオレは、気がつくと、校舎北館の展望フロアに続く昇降階段の前に来ていた。
(外から校内を見渡せば、少しは、気分転換にもなるか……?)
そう考えたオレは、展望フロアに出てみることにする。
重い鉄製の扉を開けると、朝のニュースで、「最高気温は35℃に達する」と言っていた熱気が、身体全体にまとわりついてきた。
もはや、初夏を通り越して、真夏と言っても良い陽射しを放射する太陽を見上げたあと、グラウンドに目を向けると、野球部が練習を行っていた。県内では、すでに夏の大会の予選が始まっていて、我が校も二日後に初戦となる2回戦を迎えるらしい。
「過去に例のない危険な暑さが予測され、人の健康に係る重大な被害が生じるおそれがあります」
などと、連日のニュースで報じられているにもかかわらず、いつまで、真夏の真っ昼間の炎天下で、運動を行うという酔狂な光景が繰り広げられるのだろう……などと、体育会系の人間からすれば、余計なお世話であろう心配をしながら、暑さに慣れていない身体では、こんな場所に長時間いられない、と判断して校舎内に戻ろう、と屋上フロアの出入り口になっている扉に向かう。
すると、おもむろに鉄製の扉が開き、その向こうから、一緒に夏祭りに参加した、見知った女子生徒が声をかけてきた。
「ようやく、見つけた! キミのこと探してんだよ、タッチー!」
「長洲先輩! どうして、こんなところに?」
上級生の突然の登場におどろいたオレが問いかけると、先輩は快活な表情で、
「それは、こっちのセリフだって! タッチーに報告したいことがあるから、放課後、ずっと探してたんだよ! まったく……炎天下に屋上に出るなんて、キミ、どうかしてるじゃないの?」
最後の言葉は、同じ環境の屋外で練習に勤しむ、すべての部活動者と管理者に言ってあげてほしい、と思いつつ、やや困惑しながら返答する。
「オレに報告したいことって、なんですか?」
「まあ、その話しは、屋内でしよう。とりあえず、こんな5分で干からびそうな環境じゃ、どんな話しだって、まともに聞いてもらえないでしょ?」
そう言った彼女は、手招きをして、オレを校舎内に呼び込み、スタスタと階段を降りていく。
無言でその後ろついて行くオレに、先輩が、案内した場所は生徒会室だった。
「今日は、もう他のメンバーも部活に行くか、下校しちゃったから、遠慮なく椅子に掛けて」
クーラーのスイッチを入れながら話す先輩の言葉に甘えて、パイプ椅子に腰を下ろすと、斜め前の椅子に腰掛けた彼女は、ほおをかきながら、語りはじめた。
「え~と、タッチーに報告したいこと、というのは、一昨日の夏祭りでキミたちと別れたあとのことなんだ」
それは、オレも気になっていたことなので、たしかに、聞きたいことではある。関心を示すように、おおきくうなずくと、彼女は、さらに、はにかむ様な表情を見せたあと、意を決するように口をひらく。
「このたび、わたくし、長洲さつきは、かねてより、想っていた相手である、小田栄一くんと、お付き合いすることになりました」
そう言って、上級生女子は頭を下げる。
彼女の報告内容は、なかば予想しできていたことではあったが、あらためて、本人の口から直接的に告げられると、驚くとともに、祝福したいという気持ちが、こみ上げてくる。
「それは……おめでとうございます……いや、おめでとう、ってオレの立場で言うのも変かも知れませんが……」
長洲先輩の照れたような表情を見ながら、苦笑しつつ、そう返答すると、彼女は、小さくうなずいて、
「うん……ありがとうね、立花くん」
と、これまでの独特の相性呼びから、オレの名前をくん付けに変えて呼んで笑顔を見せてくれた。
「あのあと、弥生のフォローまでしてもらって……私たちとしては、本当に、お礼のしようもないくらいだと思ってるんだ」
そう言って、真面目な表情になる上級生に対し、やや戸惑いながら返答する。
「いや、オレは、そんなに大したことは……」
「ううん……キミがいなきゃ、一昨日の夏祭りで、栄一が私に想いを告げてくれることなんて、絶対に無かったと思うから……それに、弥生のことまで押し付けちゃって……」
真摯な表情で語る先輩と向き合いながら、オレは、「いやいや、そんな……」と曖昧な返事をすることしかできない。そんな、要領を得ない返答をしてしまう、こちらの表情をうかがいながら、生徒会役員の女子生徒は、より、真剣さを帯びた表情で、オレに語りかけてきた。
「ねぇ、立花くん。キミは、いま、悩んでいることはない? もし、悩み事や困っていることがあったら、私に聞かせてくれないかな?」
期末テストも終わり、授業は午前中のみの短縮授業に切り替わっていた。
先週末まで考えていた予定では、放課後はサッサと帰宅して、自宅近くのヨネダ珈琲・武甲之荘店で、アイスコーヒーとボリューム満点のランチを楽しみながら、『ナマガミ』の志穂子ルートをたっぷりと堪能するハズだったのだが……。
前日と同じく、いや、それ以上に気持ちがふさぎ、ゲームをプレイする気にはなれない。
また、このまま、下校して喫茶店その他の飲食店に行く気も起きず、帰宅部のくせに校内を徘徊していたオレは、気がつくと、校舎北館の展望フロアに続く昇降階段の前に来ていた。
(外から校内を見渡せば、少しは、気分転換にもなるか……?)
そう考えたオレは、展望フロアに出てみることにする。
重い鉄製の扉を開けると、朝のニュースで、「最高気温は35℃に達する」と言っていた熱気が、身体全体にまとわりついてきた。
もはや、初夏を通り越して、真夏と言っても良い陽射しを放射する太陽を見上げたあと、グラウンドに目を向けると、野球部が練習を行っていた。県内では、すでに夏の大会の予選が始まっていて、我が校も二日後に初戦となる2回戦を迎えるらしい。
「過去に例のない危険な暑さが予測され、人の健康に係る重大な被害が生じるおそれがあります」
などと、連日のニュースで報じられているにもかかわらず、いつまで、真夏の真っ昼間の炎天下で、運動を行うという酔狂な光景が繰り広げられるのだろう……などと、体育会系の人間からすれば、余計なお世話であろう心配をしながら、暑さに慣れていない身体では、こんな場所に長時間いられない、と判断して校舎内に戻ろう、と屋上フロアの出入り口になっている扉に向かう。
すると、おもむろに鉄製の扉が開き、その向こうから、一緒に夏祭りに参加した、見知った女子生徒が声をかけてきた。
「ようやく、見つけた! キミのこと探してんだよ、タッチー!」
「長洲先輩! どうして、こんなところに?」
上級生の突然の登場におどろいたオレが問いかけると、先輩は快活な表情で、
「それは、こっちのセリフだって! タッチーに報告したいことがあるから、放課後、ずっと探してたんだよ! まったく……炎天下に屋上に出るなんて、キミ、どうかしてるじゃないの?」
最後の言葉は、同じ環境の屋外で練習に勤しむ、すべての部活動者と管理者に言ってあげてほしい、と思いつつ、やや困惑しながら返答する。
「オレに報告したいことって、なんですか?」
「まあ、その話しは、屋内でしよう。とりあえず、こんな5分で干からびそうな環境じゃ、どんな話しだって、まともに聞いてもらえないでしょ?」
そう言った彼女は、手招きをして、オレを校舎内に呼び込み、スタスタと階段を降りていく。
無言でその後ろついて行くオレに、先輩が、案内した場所は生徒会室だった。
「今日は、もう他のメンバーも部活に行くか、下校しちゃったから、遠慮なく椅子に掛けて」
クーラーのスイッチを入れながら話す先輩の言葉に甘えて、パイプ椅子に腰を下ろすと、斜め前の椅子に腰掛けた彼女は、ほおをかきながら、語りはじめた。
「え~と、タッチーに報告したいこと、というのは、一昨日の夏祭りでキミたちと別れたあとのことなんだ」
それは、オレも気になっていたことなので、たしかに、聞きたいことではある。関心を示すように、おおきくうなずくと、彼女は、さらに、はにかむ様な表情を見せたあと、意を決するように口をひらく。
「このたび、わたくし、長洲さつきは、かねてより、想っていた相手である、小田栄一くんと、お付き合いすることになりました」
そう言って、上級生女子は頭を下げる。
彼女の報告内容は、なかば予想しできていたことではあったが、あらためて、本人の口から直接的に告げられると、驚くとともに、祝福したいという気持ちが、こみ上げてくる。
「それは……おめでとうございます……いや、おめでとう、ってオレの立場で言うのも変かも知れませんが……」
長洲先輩の照れたような表情を見ながら、苦笑しつつ、そう返答すると、彼女は、小さくうなずいて、
「うん……ありがとうね、立花くん」
と、これまでの独特の相性呼びから、オレの名前をくん付けに変えて呼んで笑顔を見せてくれた。
「あのあと、弥生のフォローまでしてもらって……私たちとしては、本当に、お礼のしようもないくらいだと思ってるんだ」
そう言って、真面目な表情になる上級生に対し、やや戸惑いながら返答する。
「いや、オレは、そんなに大したことは……」
「ううん……キミがいなきゃ、一昨日の夏祭りで、栄一が私に想いを告げてくれることなんて、絶対に無かったと思うから……それに、弥生のことまで押し付けちゃって……」
真摯な表情で語る先輩と向き合いながら、オレは、「いやいや、そんな……」と曖昧な返事をすることしかできない。そんな、要領を得ない返答をしてしまう、こちらの表情をうかがいながら、生徒会役員の女子生徒は、より、真剣さを帯びた表情で、オレに語りかけてきた。
「ねぇ、立花くん。キミは、いま、悩んでいることはない? もし、悩み事や困っていることがあったら、私に聞かせてくれないかな?」
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