負けヒロインに花束を!

遊馬友仁

文字の大きさ
上 下
42 / 57

第3章〜運命の人があなたならいいのに 現実はうまくいかない〜⑬

しおりを挟む
「あっ、ムネリン!」

 教室に戻ると、オレの姿を見つけた塚口つかぐちマコトが、声をかけてきた。いつも、くだらないことを話しかけてくる後方の席のクラスメートは、今日も今日とて、どうでも良い話題をオレに振ってくる。
 マコトは、自分のスマホの画面をコチラにかざしながら、したり顔で解説をはじめた。

「ねぇねぇ、ムネリンは、白草四葉しろくさよつばちゃんの配信動画って見てる? その動画でさ、この前、恋愛のお悩み相談のコーナーをしてたんだけど、その時の相談の内容が、ボクたちのクラスで起こった出来事とそっくりなんだ! それでね……」

 つい先ほど、名和立夏めいわりっかから聞いた、「私たちのクラスの女子の中で」出回っている話しは、ついに男子生徒の耳にも入ったようだ。根拠のないウワサ話の駆け巡るスピードは、直線コースを駆けるカルストンライトオくらい速いということは認識していたが、まさか、ここまでとは……。
 マコトの口からその話しが出たということは、クラスでも、それなりの人数の生徒が、すでに、稿上坂部葉月かみさかべはづきの関係を疑っているということだ。

 だが、それならそれで、逆に都合が良い――――――。

 オレは、ある決意を固めて、教室前方の教壇に向かう。

「まこりんペン、ちょっと、ついて来てくれ!」

 塚口マコトに、そう声をかけると、

「も~、その呼び方はヤメてって言ってるじゃないか~!」

と、言いながらも、クラスメートは律儀にオレの後を追って来て、教壇に立ったオレの隣で、登校してきている生徒に顔を見渡している。

「き、今日は、に聞いてほしいことが!」

 普段、大きな声を出し慣れていないので、第一声は、な上に語尾も怪しくなってしまったが、気にせずに語り続ける。

「いま、塚口からも、話しを振られたんだが、この前の白草四葉ちゃんの『クローバー・フィールド』で取り上げられたお悩み相談について、オレから、みんなに伝えたいことがあるんだ!」

 第一声で声を張った効果があったのか、今度は、セリフを噛まずに、最後までハッキリと言い切ることができた。その直後、クラスの視線は、一気に前方に集中し、教室内は喧騒に包まれる。 
 普段、クラスでは完全な空気キャラである立花宗重が、朝のショート・ホーム・ルーム直前の教室が最も騒がしい時間帯に、何事かを叫びだしたのだから、それも当然のことだろう。

「なんだよ~、立花! いきなりデカい声を出して!」

「おまえ、白草四葉の動画とか見てるのかよ、似合わね~! ちょっとは、自分のキャラを考えろよ?」

 男子生徒の水堂みずどう御園みそのが、教壇のオレに向かって、ツッコミを入れてくる。
 だが、これくらいは、この場でカミングアウトをすると、覚悟を決めたときから想定していたことだ。

「あぁ、まったく似合わないことを前提で、あらためて聞いてほしい!」

 ここで、一拍、間をおいたオレは、スマホを取り出して、あらかじめ準備していた画面を表示させ、そこに記された文面を読み上げる。

「『相談したいのは、クラスメートのことです』『自分のクラスには、幼なじみで良い雰囲気の男女が居るのですが・・・』『この春、転入生が転校してきて、男子の方が、その転入生と付き合い始めてしまいました』『自分としては思うところがあって、幼なじみ同士の二人を応援したい気持ちがあります』『彼女がデキてしまった男子と付き合うための方法があれば教えてもらえないでしょうか?』」

 そうして、先日の投稿内容の文面を読み終えたあと、クラス中を見渡しながら、宣言する。

「こんな内容で、四葉ちゃんにお悩み相談をしたのは、なにを隠そう、このオレだ!」

 オレが、そう断言し終えると、一瞬、静寂に覆われた教室から、盛大な笑い声の渦が巻き起こる。

「うわ~、ナニ考えてんだ、コイツ! キメェ~」

「ヤバッ……ただの陰キャだと思ってたら、そんな危ないヤツだったのかよ……」
 
 そんな声が大半を占める喧騒の中、ふたたび、口を開いたオレが、

「ちなみに、この内容は、100パーセント、オレの創作なので……もし、なにか、誤解をしてる人間がいたり、誤解を受けたりしてるヒトがいたら、この場で謝っておく。本当に申し訳ない」

と言ってから、教壇を前にして頭を下げると、これまで発言していた男子生徒だけでなく、女子からも声が上がった。

「ちょw ないわ~、どうやったら、そんなキモい内容、考えられるの?」

 隣に目を向ければ、オレが教室に戻ってきたとき、楽しげに話しかけてきたクラスメートも、さすがに、ドン引きした様子で、オレにたずねてくる。

「ね、ねぇ、ムネリン……なんで、こんな内容で、四葉ちゃんに相談しようと思ったの? なにか、事情があったとか?」

「事情……か? 特別な事情と言えば、以前から四葉ちゃんが、幼なじみに強い関心を示していたからかな? 登校する内容に、そのフレーズを入れれば、動画で取り上げてくれる可能性が高いと思ったんだよ」

「へ、へぇ~……そうなんだ」

 今度こそ、完全にオレの発言に幻滅した、という感じで、マコトの表情から色が失われていく。
 後方の席のクラスメートの顔色が変化していくのを見ていると、

(これで、、明日からは空気キャラ以上の過酷な日々が始まるのか……)

と、感情が胸の奥から、モクモクと湧き上がってくる。
 大半は、自分の行いが招いた結果とは言え、夏休み前の最高の時期を暗澹たる気持ちで過ごさなければならないことを思いながら、心の中でため息をついた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

僕のペナントライフ

遊馬友仁
キャラ文芸
〜僕はいかにして心配することを止めてタイガースを愛するようになったか?〜 「なんでやねん!? タイガース……」 頭を抱え続けて15年余り。熱病にとりつかれたファンの人生はかくも辛い。 すべてのスケジュールは試合日程と結果次第。 頭のなかでは、常に自分の精神状態とチームの状態が、こんがらがっている。 ライフプランなんて、とてもじゃないが、立てられたもんじゃない。 このチームを応援し続けるのは、至高の「推し活」か? それとも、究極の「愚行」なのか? 2023年のペナント・レースを通じて、僕には、その答えが見えてきた――――――。

天才たちとお嬢様

釧路太郎
キャラ文芸
綾乃お嬢様には不思議な力があるのです。 なぜだかわかりませんが、綾乃お嬢様のもとには特別な才能を持った天才が集まってしまうのです。 最初は神山邦弘さんの料理の才能惚れ込んだ綾乃お嬢様でしたが、邦宏さんの息子の将浩さんに秘められた才能に気付いてからは邦宏さんよりも将浩さんに注目しているようです。 様々なタイプの天才の中でもとりわけ気づきにくい才能を持っていた将浩さんと綾乃お嬢様の身の回りで起こる楽しくも不思議な現象はゆっくりと二人の気持ちを変化させていくのでした。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」に投稿しております

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

処理中です...