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第3章〜運命の人があなたならいいのに 現実はうまくいかない〜⑪
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浦風さんを自宅に送り届けたオレは、グループLANEで、彼女が無事に帰り着いたことを報告すると、別の相手にメッセージを送った。
================
夏祭りが終わった……
ちょっと、色々あったので、
時間があれば、話しを聞いてほしい
================
メッセージには、すぐに既読の表示がつき、返信が来た。
================
土曜日だから、いつでも大丈夫!
================
数日前、オレを心配してくれたのに、最後はぞんざいなやり取りをしたにもかかわらず、話しを聞いてくれるというワカ姉に感謝しながら、自宅を目指して自転車を漕ぐ速度を上げる。
家に帰り着くと、すぐに二階の自室に戻ったオレは、クーラーのオンにしたあと、通話アプリを起動する。
発信から十秒もかからず、通話相手は応答してくれた。
「お疲れちゃん! 夏越の祭りは、どうだった?」
――――――色んな意味で、アツくて疲れた。
「そっか~。ってことは、アンタの周りでナニかあったってことだね?」
勘の良いガキは、国家公認の『綴命の錬金術士』に嫌われるらしいが、察しの良い叔母は、こういうときに頼りになる。
オレは、同級生男子を含めた四人が浴衣姿であらわれたこと、小田先輩が女子メンバーにかけた言葉、上級生の二人に息の合った雰囲気を感じたこと、射的でのオレのやらかし、小田先輩が長洲先輩を庇ったこと、直後に下級生が姿を消したこと、オレが彼女を見つけて合流したあとに起こったできごと、夏祭りからの帰りに彼女が語ったこと、などを時系列に沿って、簡単に報告した。
客観的に見れば、取り留めのないであろうオレの話しを、ワカ姉はあきること様子もなく聞いてくれる。
――――――ふむり、ふむり。いや~、青春だね~。
なにかを懐かしむような、あるいは苦笑いをするような口調で語る相手に対して、
「ワカ姉にとっては、子どもっぽい悩みかもしれないけどさ……」
と、つぶやくと、その言葉には答えることなく、彼女は、こんなことを指摘してきた。
――――――で、宗重は、どんな罪悪感を抱えてるの? ここまで聞いた話しじゃ、アンタに責任があるのは、射的のときに、最後の一弾が、先輩ちゃんに向かって飛んでいったくらいじゃない?
「いや、でも……結局、上坂部と久々知の仲が進展することなんてなかったし、オレが、今日の夏祭りの参加を提案しなかったら……射的で、あんな失敗をしなかったら……浦風さんは、あんなに傷つくことはなかったんじゃないか……そう思うと、このまま消え去りたくなるくらい惨めで……」
――――――それは、考えすぎだし、いくらなんでも、先輩ちゃんや後輩ちゃんに失礼ってモンでしょ? 大勢中のメンバーは、アンタと知り合う前から関係性ができあがってたんだし、仮にアンタが関わったことがあるとしても、それは、些細なキッカケに過ぎない。その子たちの関係性は、遅かれ早かれ、今日の結果に収束するよ。
「そう……なのかな……」
――――――そうよ~。アンタが自宅まで送ったっていう後輩ちゃんも、今日のことについて、アンタが責任を感じてるなんて言ったら、かえって恐縮するでしょ。そもそも、彼女の恋愛感情は、彼女自身のモノなんだから、誰かが責任を感じる必要はない。つい、この間まで名前も知らなかった下級生のことまで背負おうとしてたら、身が持たないよ。
「うん、そっか……」
ワカ姉の言うとおり、オレは、今日のできごとを深刻にとらえすぎなのだろうか? 自分には、学内の人間との適切な距離の取り方が、いまだに良くわからないのだ。
――――――まあ、普段は人間関係に無関心を装っているようで、ホントは、お節介なくらい世話焼きなところが、宗重の良いところでもあるけどね。後輩ちゃんのことが気になるなら、彼女の次の恋を応援してあげな。
「そっか……わかった」
オレが、そう答えると、ワカ姉は、それまでの諭すような言葉遣いから、一転して柔らかい口調になる。
――――――それにしても、先輩ちゃんたちは、また幼馴染なのか~。ウチのとこの二人といい、幼馴染の男女ってのは、周囲に無駄な軋轢を生むわね~。
「えっ、ワカ姉の周りでもナニかあったの?」
オレの疑問に対して、叔母は、大学生時代からの友人の男女について語ってくれた。
ワカ姉によれば、彼女の所属していた大学のゼミには、幼い頃から家族ぐるみの付き合いがあった男女二名が居たという。二人は、お互いに恋愛感情を抱くことはなかったと公言し、実際に、それぞれ別の相手と無事に結婚したのだが……男性の家族と幼なじみの女性の距離が近すぎ、男性の結婚相手は、そのことを交際していた頃から気にかけていたようだ。そして、男性の結婚式の当日、育児のために式に参加できなかった女性は、ビデオレターで、結婚相手に対して、
「いままで私が面倒を見てきたから、これからは、あなたが彼を支えてあげてね」
というメッセージを送ったらしい。
式に参列していた、ワカ姉をはじめ、同期のゼミ生は、その内容にドン引きし、式が終わったあと、すぐに、ビデオレターに出演した彼女に電話して、友人一同で説教をしたという。
――――――まあ、こんな風に、いくら友情を強調しても、男女の近すぎる関係ってのは、周りの人間に余計な摩擦を生んだりするのよ。だから、私は、アンタから聞いたクラスメートの話しでも、ちょっと、転校生ちゃんに同情してるんだけどね。
ワカ姉は、そう言って、彼女の見解を締めくくった。
半年分の心のケガレを払いに行ったにもかかわらず、余計なモヤモヤを抱えることになってしまった夏祭りについて、話しを聞いてもらったことで気が楽になったので、彼女には感謝したいのだが……。
「転校生ちゃんに同情してる」
という一言だけは、受け入れられない、と思いながら、オレは礼を言って、ワカ姉との通話を終えた。
そうして、夏祭りが終わったら、プレイしようと考えていた、『ナマガミ』の幼なじみキャラクターである、桜田志穂子のルートを楽しむ気持ちにはなれない自分の気持ちに気づく。そして、その原因が何なのか良くわからず、モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、オレは週末の時間を過ごした。
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夏祭りが終わった……
ちょっと、色々あったので、
時間があれば、話しを聞いてほしい
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メッセージには、すぐに既読の表示がつき、返信が来た。
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土曜日だから、いつでも大丈夫!
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数日前、オレを心配してくれたのに、最後はぞんざいなやり取りをしたにもかかわらず、話しを聞いてくれるというワカ姉に感謝しながら、自宅を目指して自転車を漕ぐ速度を上げる。
家に帰り着くと、すぐに二階の自室に戻ったオレは、クーラーのオンにしたあと、通話アプリを起動する。
発信から十秒もかからず、通話相手は応答してくれた。
「お疲れちゃん! 夏越の祭りは、どうだった?」
――――――色んな意味で、アツくて疲れた。
「そっか~。ってことは、アンタの周りでナニかあったってことだね?」
勘の良いガキは、国家公認の『綴命の錬金術士』に嫌われるらしいが、察しの良い叔母は、こういうときに頼りになる。
オレは、同級生男子を含めた四人が浴衣姿であらわれたこと、小田先輩が女子メンバーにかけた言葉、上級生の二人に息の合った雰囲気を感じたこと、射的でのオレのやらかし、小田先輩が長洲先輩を庇ったこと、直後に下級生が姿を消したこと、オレが彼女を見つけて合流したあとに起こったできごと、夏祭りからの帰りに彼女が語ったこと、などを時系列に沿って、簡単に報告した。
客観的に見れば、取り留めのないであろうオレの話しを、ワカ姉はあきること様子もなく聞いてくれる。
――――――ふむり、ふむり。いや~、青春だね~。
なにかを懐かしむような、あるいは苦笑いをするような口調で語る相手に対して、
「ワカ姉にとっては、子どもっぽい悩みかもしれないけどさ……」
と、つぶやくと、その言葉には答えることなく、彼女は、こんなことを指摘してきた。
――――――で、宗重は、どんな罪悪感を抱えてるの? ここまで聞いた話しじゃ、アンタに責任があるのは、射的のときに、最後の一弾が、先輩ちゃんに向かって飛んでいったくらいじゃない?
「いや、でも……結局、上坂部と久々知の仲が進展することなんてなかったし、オレが、今日の夏祭りの参加を提案しなかったら……射的で、あんな失敗をしなかったら……浦風さんは、あんなに傷つくことはなかったんじゃないか……そう思うと、このまま消え去りたくなるくらい惨めで……」
――――――それは、考えすぎだし、いくらなんでも、先輩ちゃんや後輩ちゃんに失礼ってモンでしょ? 大勢中のメンバーは、アンタと知り合う前から関係性ができあがってたんだし、仮にアンタが関わったことがあるとしても、それは、些細なキッカケに過ぎない。その子たちの関係性は、遅かれ早かれ、今日の結果に収束するよ。
「そう……なのかな……」
――――――そうよ~。アンタが自宅まで送ったっていう後輩ちゃんも、今日のことについて、アンタが責任を感じてるなんて言ったら、かえって恐縮するでしょ。そもそも、彼女の恋愛感情は、彼女自身のモノなんだから、誰かが責任を感じる必要はない。つい、この間まで名前も知らなかった下級生のことまで背負おうとしてたら、身が持たないよ。
「うん、そっか……」
ワカ姉の言うとおり、オレは、今日のできごとを深刻にとらえすぎなのだろうか? 自分には、学内の人間との適切な距離の取り方が、いまだに良くわからないのだ。
――――――まあ、普段は人間関係に無関心を装っているようで、ホントは、お節介なくらい世話焼きなところが、宗重の良いところでもあるけどね。後輩ちゃんのことが気になるなら、彼女の次の恋を応援してあげな。
「そっか……わかった」
オレが、そう答えると、ワカ姉は、それまでの諭すような言葉遣いから、一転して柔らかい口調になる。
――――――それにしても、先輩ちゃんたちは、また幼馴染なのか~。ウチのとこの二人といい、幼馴染の男女ってのは、周囲に無駄な軋轢を生むわね~。
「えっ、ワカ姉の周りでもナニかあったの?」
オレの疑問に対して、叔母は、大学生時代からの友人の男女について語ってくれた。
ワカ姉によれば、彼女の所属していた大学のゼミには、幼い頃から家族ぐるみの付き合いがあった男女二名が居たという。二人は、お互いに恋愛感情を抱くことはなかったと公言し、実際に、それぞれ別の相手と無事に結婚したのだが……男性の家族と幼なじみの女性の距離が近すぎ、男性の結婚相手は、そのことを交際していた頃から気にかけていたようだ。そして、男性の結婚式の当日、育児のために式に参加できなかった女性は、ビデオレターで、結婚相手に対して、
「いままで私が面倒を見てきたから、これからは、あなたが彼を支えてあげてね」
というメッセージを送ったらしい。
式に参列していた、ワカ姉をはじめ、同期のゼミ生は、その内容にドン引きし、式が終わったあと、すぐに、ビデオレターに出演した彼女に電話して、友人一同で説教をしたという。
――――――まあ、こんな風に、いくら友情を強調しても、男女の近すぎる関係ってのは、周りの人間に余計な摩擦を生んだりするのよ。だから、私は、アンタから聞いたクラスメートの話しでも、ちょっと、転校生ちゃんに同情してるんだけどね。
ワカ姉は、そう言って、彼女の見解を締めくくった。
半年分の心のケガレを払いに行ったにもかかわらず、余計なモヤモヤを抱えることになってしまった夏祭りについて、話しを聞いてもらったことで気が楽になったので、彼女には感謝したいのだが……。
「転校生ちゃんに同情してる」
という一言だけは、受け入れられない、と思いながら、オレは礼を言って、ワカ姉との通話を終えた。
そうして、夏祭りが終わったら、プレイしようと考えていた、『ナマガミ』の幼なじみキャラクターである、桜田志穂子のルートを楽しむ気持ちにはなれない自分の気持ちに気づく。そして、その原因が何なのか良くわからず、モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、オレは週末の時間を過ごした。
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