33 / 57
第3章〜運命の人があなたならいいのに 現実はうまくいかない〜④
しおりを挟む
駅前公園から信号を渡り、居酒屋やパチンコ店、ラーメン店や宝飾店が並ぶカオスなアーケード街を過ぎると、二つ目の交差点に差し掛かる。この信号を左折すると、目的のえびす神社に到着する。
交差点に面している信用金庫の店舗沿い歩くと、早くも縁日の屋台が軒を連ねているのが見えてきた。
「あっ、リンゴ飴のお店が出てる! 東京コロッケも!」
そう言って、嬉しそうに小走りになる長洲先輩。
ちなみに、東京コロッケというのは、ジャガイモだけで作られた一口サイズに満たない小ぶりな揚げ物だ。その名に反して、東京には存在しないという不思議な食べ物で、驚くべきことに、我が街には、東京コロッケの専門店(!)があるくらい、オレたちの住む地域で行われる縁日では、比較的おなじみのソウル・フード(?)である。
オレの隣で駆け出そうとする上級生女子に、
「おいおい、あんまりはしゃぐとケガするぞ! 屋台は、お参りをしてから回ろうぜ」
と、後ろから小田先輩の声がかかる。
「は~い、わかってるよ~」
長洲先輩は、同級生の言葉で駆け出すのを止めて、あとからやってくる四人のメンバーを待って、女子たちに語りかける。
「二人は、何を食べるの? 私はね、チーズハットグに、牛タン串に、焼きそば! あと、ベビーカステラは、みんなでシェアしよう!」
相変わらずテンションの高い先輩の勢いにのまれつつも、上坂部は、幼なじみの目を気にしているのか、彼の方にチラチラと目線を向けながら応じる。
「私は、ソース系は、口元に付きそうなので、ちょっと……でも、リンゴ飴は買っておきたいかな……?」
クラスメートの返答を聞きながら、フルーツ飴は、女子の間でマスト・バイな食べ物になっているのだな、と変なところに感心する。オレが、ガキの頃は、縁日のフルーツ飴と言えば、どちらかと言えば、古臭くオシャレな印象などまるでなかった、と思うのだが……。つくづく、SNSの影響は大きいものだ、と感じてしまう。
「リンゴ飴も捨てがたいですけど、チョコバナナも食べたいです」
浦風さんの主張には、長洲先輩が、うんうん、と大きくうなずき、
「だよね! じゃあ、両方、制覇しちゃおう!」
と、大胆に宣言する。
そんな女子たちの会話に、久々知大成が、果敢に切り込む。
「おいおい、屋台と言えば食べ物だけじゃないだろう? 射的に、スマートボールに、金魚すくい。景品付きの店こそ、日頃の腕の見せどころじゃないか? なんなら、全財産クジ引きに突っ込んで、ホントに当たりクジが出るのか、試してみるか?」
「もう~! 大成は、また小学生みたいなこと言って……もっと、お祭りの雰囲気を楽しまないと……」
なんだろう、このオレにとって、現実感の無い会話は……。
こんな光景は、マンガかアニメかゲームの中でしか起こり得ないと思っていたのだが……。
日常的な会話の一コマ一コマが、オレにとっては、どれもドラマチックに感じられる。
(そうか、普通は、みんなこうやって、放課後や休日を楽しんでいるんだよな……)
あらためて、そう考えると、目の前の光景が、急に愛おしく感じるようになってしまった。
思えば、オレの残りの人生で、浴衣姿の女子三人と出かけられるチャンスなんてあるのだろうか?
そのことを考えると、いま、目の前で起こっている出来事を、しっかり、目と胸に刻んでおかなければ……!
いやいや、こんなことを考えているから、オレは、非リアな人間なんじゃないか……と、心の中で自分自身の陰キャラ思考にあきれていると、四人の様子を苦笑しながら眺めていた小田先輩が、彼らに声を掛ける。
「おいおい、おまえら、いくら楽しみにしてたからって、ハシャギ過ぎだろ……立花くんを見習って、もう少し、大人しく楽しめよ」
すみません、先輩。この中で、内心、一番テンションが上がってるのは、オレだと思います。
しかも、なんか気持ち悪いこと考えてて、ホント、すみません。
小田先輩の言葉につられて、苦笑するオレの表情を見た浴衣姿の四人は、「は~い」と、声を揃えて、上級生男子の声に従う。
「それじゃ、お参りの列に並ぼうぜ」
今度は、小田先輩が先導して、オレたちは、茅の輪くぐりの列に並ぶことにした。
はしゃぐ四人をキッチリの手綱をキッチリと握って誘導する上級生の姿を見て、感じることがある。
オレたちを驚かせようと、サプライズを仕掛けたり、集合から神社までの先導を行って、機先を制することに長けた長洲先輩。
グループLANEの連絡事項をまとめたり、今のように後方から、そっと、みんなの様子を見守りつつ、締めるところでは、しっかりと、全員を誘導できる小田先輩。
生徒会のメンバーでもある二人の先輩は、オレのクラスでクラス委員を務める久々知・上坂部のコンビと同等か、それ以上に、集団の中で息が合い、文字どおり、あうんの呼吸で行動できているように感じる。この先輩たちは、オレのクラスメートのように、どちらかが相手を異性として意識している、ということはないのだろうか?
もし、そうだとすれば、この二人のどちらかに想いを寄せている人間がいれば、大変だな――――――と、感じる。
そんなオレの懸念が、この直後に当たってしまうとは、思ってもいなかったのだが……。
交差点に面している信用金庫の店舗沿い歩くと、早くも縁日の屋台が軒を連ねているのが見えてきた。
「あっ、リンゴ飴のお店が出てる! 東京コロッケも!」
そう言って、嬉しそうに小走りになる長洲先輩。
ちなみに、東京コロッケというのは、ジャガイモだけで作られた一口サイズに満たない小ぶりな揚げ物だ。その名に反して、東京には存在しないという不思議な食べ物で、驚くべきことに、我が街には、東京コロッケの専門店(!)があるくらい、オレたちの住む地域で行われる縁日では、比較的おなじみのソウル・フード(?)である。
オレの隣で駆け出そうとする上級生女子に、
「おいおい、あんまりはしゃぐとケガするぞ! 屋台は、お参りをしてから回ろうぜ」
と、後ろから小田先輩の声がかかる。
「は~い、わかってるよ~」
長洲先輩は、同級生の言葉で駆け出すのを止めて、あとからやってくる四人のメンバーを待って、女子たちに語りかける。
「二人は、何を食べるの? 私はね、チーズハットグに、牛タン串に、焼きそば! あと、ベビーカステラは、みんなでシェアしよう!」
相変わらずテンションの高い先輩の勢いにのまれつつも、上坂部は、幼なじみの目を気にしているのか、彼の方にチラチラと目線を向けながら応じる。
「私は、ソース系は、口元に付きそうなので、ちょっと……でも、リンゴ飴は買っておきたいかな……?」
クラスメートの返答を聞きながら、フルーツ飴は、女子の間でマスト・バイな食べ物になっているのだな、と変なところに感心する。オレが、ガキの頃は、縁日のフルーツ飴と言えば、どちらかと言えば、古臭くオシャレな印象などまるでなかった、と思うのだが……。つくづく、SNSの影響は大きいものだ、と感じてしまう。
「リンゴ飴も捨てがたいですけど、チョコバナナも食べたいです」
浦風さんの主張には、長洲先輩が、うんうん、と大きくうなずき、
「だよね! じゃあ、両方、制覇しちゃおう!」
と、大胆に宣言する。
そんな女子たちの会話に、久々知大成が、果敢に切り込む。
「おいおい、屋台と言えば食べ物だけじゃないだろう? 射的に、スマートボールに、金魚すくい。景品付きの店こそ、日頃の腕の見せどころじゃないか? なんなら、全財産クジ引きに突っ込んで、ホントに当たりクジが出るのか、試してみるか?」
「もう~! 大成は、また小学生みたいなこと言って……もっと、お祭りの雰囲気を楽しまないと……」
なんだろう、このオレにとって、現実感の無い会話は……。
こんな光景は、マンガかアニメかゲームの中でしか起こり得ないと思っていたのだが……。
日常的な会話の一コマ一コマが、オレにとっては、どれもドラマチックに感じられる。
(そうか、普通は、みんなこうやって、放課後や休日を楽しんでいるんだよな……)
あらためて、そう考えると、目の前の光景が、急に愛おしく感じるようになってしまった。
思えば、オレの残りの人生で、浴衣姿の女子三人と出かけられるチャンスなんてあるのだろうか?
そのことを考えると、いま、目の前で起こっている出来事を、しっかり、目と胸に刻んでおかなければ……!
いやいや、こんなことを考えているから、オレは、非リアな人間なんじゃないか……と、心の中で自分自身の陰キャラ思考にあきれていると、四人の様子を苦笑しながら眺めていた小田先輩が、彼らに声を掛ける。
「おいおい、おまえら、いくら楽しみにしてたからって、ハシャギ過ぎだろ……立花くんを見習って、もう少し、大人しく楽しめよ」
すみません、先輩。この中で、内心、一番テンションが上がってるのは、オレだと思います。
しかも、なんか気持ち悪いこと考えてて、ホント、すみません。
小田先輩の言葉につられて、苦笑するオレの表情を見た浴衣姿の四人は、「は~い」と、声を揃えて、上級生男子の声に従う。
「それじゃ、お参りの列に並ぼうぜ」
今度は、小田先輩が先導して、オレたちは、茅の輪くぐりの列に並ぶことにした。
はしゃぐ四人をキッチリの手綱をキッチリと握って誘導する上級生の姿を見て、感じることがある。
オレたちを驚かせようと、サプライズを仕掛けたり、集合から神社までの先導を行って、機先を制することに長けた長洲先輩。
グループLANEの連絡事項をまとめたり、今のように後方から、そっと、みんなの様子を見守りつつ、締めるところでは、しっかりと、全員を誘導できる小田先輩。
生徒会のメンバーでもある二人の先輩は、オレのクラスでクラス委員を務める久々知・上坂部のコンビと同等か、それ以上に、集団の中で息が合い、文字どおり、あうんの呼吸で行動できているように感じる。この先輩たちは、オレのクラスメートのように、どちらかが相手を異性として意識している、ということはないのだろうか?
もし、そうだとすれば、この二人のどちらかに想いを寄せている人間がいれば、大変だな――――――と、感じる。
そんなオレの懸念が、この直後に当たってしまうとは、思ってもいなかったのだが……。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
僕のペナントライフ
遊馬友仁
キャラ文芸
〜僕はいかにして心配することを止めてタイガースを愛するようになったか?〜
「なんでやねん!? タイガース……」
頭を抱え続けて15年余り。熱病にとりつかれたファンの人生はかくも辛い。
すべてのスケジュールは試合日程と結果次第。
頭のなかでは、常に自分の精神状態とチームの状態が、こんがらがっている。
ライフプランなんて、とてもじゃないが、立てられたもんじゃない。
このチームを応援し続けるのは、至高の「推し活」か?
それとも、究極の「愚行」なのか?
2023年のペナント・レースを通じて、僕には、その答えが見えてきた――――――。
天才たちとお嬢様
釧路太郎
キャラ文芸
綾乃お嬢様には不思議な力があるのです。
なぜだかわかりませんが、綾乃お嬢様のもとには特別な才能を持った天才が集まってしまうのです。
最初は神山邦弘さんの料理の才能惚れ込んだ綾乃お嬢様でしたが、邦宏さんの息子の将浩さんに秘められた才能に気付いてからは邦宏さんよりも将浩さんに注目しているようです。
様々なタイプの天才の中でもとりわけ気づきにくい才能を持っていた将浩さんと綾乃お嬢様の身の回りで起こる楽しくも不思議な現象はゆっくりと二人の気持ちを変化させていくのでした。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」に投稿しております
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
職業、種付けおじさん
gulu
キャラ文芸
遺伝子治療や改造が当たり前になった世界。
誰もが整った外見となり、病気に少しだけ強く体も丈夫になった。
だがそんな世界の裏側には、遺伝子改造によって誕生した怪物が存在していた。
人権もなく、悪人を法の外から裁く種付けおじさんである。
明日の命すら保障されない彼らは、それでもこの世界で懸命に生きている。
※小説家になろう、カクヨムでも連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる