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第3章〜運命の人があなたならいいのに 現実はうまくいかない〜③
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「おまえらも、ヒトが悪いな~。浴衣で来るなら、先にそう言っておいてくれよ~。立花くんと、『昨日までの流れだと、女子は浴衣を着てこない……みたいなノリ』だったって、話してたんだぜ?」
小田先輩が、気心がしている感じの長洲先輩に語りかけると、フッフッフと笑みを浮かべた彼女は、サラリと答える。
「やっぱり、サプライズって必要でしょ? 『せっかくの男子の要望には応えないとね』って、女子メンバーで話し合ったんだ。弥生ちゃんも、『小田先輩が、浴衣がイイと思ってくれるなら……』って言ってたし、健気だね~。まあ、家が隣同士の葉月は、大成くんに隠し通せなかったらしいけどさ」
そうか……そういうことだったのか……と、長洲先輩の言葉に納得しつつも、彼女の言葉の中ほどにスルーできない一言があったような気がしてならない。
浦風さん、『小田先輩が、浴衣がイイと思ってくれるなら……』って、やっぱ、そう言うことなのか?
心なしか、小田先輩の視線を気にしている様子で、モジモジしているようにも見える下級生にそれとなく視線を送っていると、商店街のビル群に隠れそうな夕陽よりも眩しい笑顔で、ふたたび上級生が口を開いた。
「ほらほら、浴衣姿の美少女が三人も揃ってるんだよ! 男子は、なにか言うことがあるでしょ? ちなみに、大成くんには、バスに乗る前に、キッチリとこの流れをこなしてもらったから」
長洲先輩がそう言うと、久々知は、ビシッと親指を立て、オレと小田先輩に笑顔を向ける。
なんて言うか、ホントにノリが良いよな、この同中メンバー……。
上級生女子の言葉に、小田先輩と無言で目を見合わせると、先輩男子は、観念したようにため息をついたあと、言葉を発する。
「三人とも、スゴく似合ってるな。上坂部は、涼し気な感じで夏祭りにピッタリだし、浦風は、可愛らしいイメージでおまえの雰囲気にバッチリ似合ってるぞ。そして、さつきは――――――」
小田先輩は、同学年の女子について言及する段階に及んで、たっぷりと間を置いて、
「上手く化けたな……」
と、発言する。その直後、
「そうそう、これで周りのオトコたちの視線を釘付けにして……って、それが、女子に対する褒め言葉か!」
手刀を同級生男子の脳天に振り下ろす、長洲先輩のノリツッコミが見事に決まった。
絶妙なテンポで繰り出されるボケとツッコミに、一瞬で場は笑いに包まれる。
「ハァ……栄一にナニかを期待した私が間違ってたわ……それじゃ、タッチー、このバカに女の子に対する誉め言葉の見本を見せてあげて」
「えっ……!? タッチーって、オレのことですか?」
オレの質問に、満面の笑みで首をタテに振る長洲先輩。
その表情からは、この場の空気を変えることに期待とともに、下手なことを言うと「生徒会権限で社会的に抹殺する」という殺意の波動が感じられる。
その霊圧に圧され、とんでもないプレッシャーを感じながらも、オレは、口を開いた。
「あの……みんなが浴衣で来るとは思ってなかったので……四人がバスから降りてきたとき、メチャクチャ驚きました! 三人とも、浴衣姿が似合っていて、なんというか……スゴくスゴいです」
最後は、名前をNTRというありがたくない省略のされ方をする栗毛色のウ◯娘のような発言になってしまった。
すかさず、クラスメートの男子が、ツッコミを入れてくる。
「おいおい、立花! 語彙力! それと、オレの浴衣は、コメント無しかよ?」
「あっ……いや、久々知も何ていうか、浴衣を着慣れてる感があって、スゴく似合ってるよ! 祭りには、良く浴衣を着ていくのか?」
クラス委員のツッコミに焦りながらも言葉を返すと、彼は、少し照れたように、返答する。
「まあ、花火を観に行くときに着たりすることはあるからな。けど、言ってもこの帯もマジックテープのワンタッチ式だぜ? 簡単に着れるから、興味があるなら、あとでLANEにサイトのURL送るわ」
「そ、そうか……助かる」
久々知の言葉に、相づちを打つと、オレたちのやり取りを眺めていた長洲先輩が、口を開いた。
「は~、いいじゃないか こういうのでいいんだよ、こういうので」
孤独にグルメを愛するビジネスマンのような言葉を発した彼女は続けて、オレに向かって語りかける。
「たしかに、語彙は、ちょ~っと、アレだったけど……私たちのサプライズが成功したことがわかったし、なにより、一生懸命、誉めてくれようとしていることが伝わったからね」
「あ、ありがとうございます」
ふたたび、彼女の迫力に気圧されるように、オレがお礼の言葉を述べると、長洲先輩は、ニカッと笑って、今度は、小田先輩の方に向き直ってから、
「栄一も、ホント、そういうところだぞ?」
と言ってから、
「じゃあ、神社に行こうか?」
と、オレたちを先導する。
彼女のそばに居たオレは、自然と長洲先輩と肩を並べて歩くことになる。
上級生の女子生徒は、後方のメンバーの様子を気にしつつ、
「タッチー、今日のお祭りに来ることは、キミが提案してくれたんだってね……ありがとう」
と、口にする。
「いえ、オレはナニも……連絡やメンバーの取りまとめは、全部、小田先輩がやってくれましたから……」
そう、答えると、長洲先輩は、なぜか、少しだけ寂しそうな笑顔で、
「それでも、だよ……三年になると、夏休みは、受験勉強モードになっちゃうし……期末テストが終わった、今の時期が、最後の息抜きの時間だから。それに……私たちは、付き合いが長い分、なかなか素直に自分のしたいことを言えないから……」
と、つぶやく。
普段は、明るく快活な印象のある先輩の、その物憂げな表情が、なぜか、ひどく印象に残った。
小田先輩が、気心がしている感じの長洲先輩に語りかけると、フッフッフと笑みを浮かべた彼女は、サラリと答える。
「やっぱり、サプライズって必要でしょ? 『せっかくの男子の要望には応えないとね』って、女子メンバーで話し合ったんだ。弥生ちゃんも、『小田先輩が、浴衣がイイと思ってくれるなら……』って言ってたし、健気だね~。まあ、家が隣同士の葉月は、大成くんに隠し通せなかったらしいけどさ」
そうか……そういうことだったのか……と、長洲先輩の言葉に納得しつつも、彼女の言葉の中ほどにスルーできない一言があったような気がしてならない。
浦風さん、『小田先輩が、浴衣がイイと思ってくれるなら……』って、やっぱ、そう言うことなのか?
心なしか、小田先輩の視線を気にしている様子で、モジモジしているようにも見える下級生にそれとなく視線を送っていると、商店街のビル群に隠れそうな夕陽よりも眩しい笑顔で、ふたたび上級生が口を開いた。
「ほらほら、浴衣姿の美少女が三人も揃ってるんだよ! 男子は、なにか言うことがあるでしょ? ちなみに、大成くんには、バスに乗る前に、キッチリとこの流れをこなしてもらったから」
長洲先輩がそう言うと、久々知は、ビシッと親指を立て、オレと小田先輩に笑顔を向ける。
なんて言うか、ホントにノリが良いよな、この同中メンバー……。
上級生女子の言葉に、小田先輩と無言で目を見合わせると、先輩男子は、観念したようにため息をついたあと、言葉を発する。
「三人とも、スゴく似合ってるな。上坂部は、涼し気な感じで夏祭りにピッタリだし、浦風は、可愛らしいイメージでおまえの雰囲気にバッチリ似合ってるぞ。そして、さつきは――――――」
小田先輩は、同学年の女子について言及する段階に及んで、たっぷりと間を置いて、
「上手く化けたな……」
と、発言する。その直後、
「そうそう、これで周りのオトコたちの視線を釘付けにして……って、それが、女子に対する褒め言葉か!」
手刀を同級生男子の脳天に振り下ろす、長洲先輩のノリツッコミが見事に決まった。
絶妙なテンポで繰り出されるボケとツッコミに、一瞬で場は笑いに包まれる。
「ハァ……栄一にナニかを期待した私が間違ってたわ……それじゃ、タッチー、このバカに女の子に対する誉め言葉の見本を見せてあげて」
「えっ……!? タッチーって、オレのことですか?」
オレの質問に、満面の笑みで首をタテに振る長洲先輩。
その表情からは、この場の空気を変えることに期待とともに、下手なことを言うと「生徒会権限で社会的に抹殺する」という殺意の波動が感じられる。
その霊圧に圧され、とんでもないプレッシャーを感じながらも、オレは、口を開いた。
「あの……みんなが浴衣で来るとは思ってなかったので……四人がバスから降りてきたとき、メチャクチャ驚きました! 三人とも、浴衣姿が似合っていて、なんというか……スゴくスゴいです」
最後は、名前をNTRというありがたくない省略のされ方をする栗毛色のウ◯娘のような発言になってしまった。
すかさず、クラスメートの男子が、ツッコミを入れてくる。
「おいおい、立花! 語彙力! それと、オレの浴衣は、コメント無しかよ?」
「あっ……いや、久々知も何ていうか、浴衣を着慣れてる感があって、スゴく似合ってるよ! 祭りには、良く浴衣を着ていくのか?」
クラス委員のツッコミに焦りながらも言葉を返すと、彼は、少し照れたように、返答する。
「まあ、花火を観に行くときに着たりすることはあるからな。けど、言ってもこの帯もマジックテープのワンタッチ式だぜ? 簡単に着れるから、興味があるなら、あとでLANEにサイトのURL送るわ」
「そ、そうか……助かる」
久々知の言葉に、相づちを打つと、オレたちのやり取りを眺めていた長洲先輩が、口を開いた。
「は~、いいじゃないか こういうのでいいんだよ、こういうので」
孤独にグルメを愛するビジネスマンのような言葉を発した彼女は続けて、オレに向かって語りかける。
「たしかに、語彙は、ちょ~っと、アレだったけど……私たちのサプライズが成功したことがわかったし、なにより、一生懸命、誉めてくれようとしていることが伝わったからね」
「あ、ありがとうございます」
ふたたび、彼女の迫力に気圧されるように、オレがお礼の言葉を述べると、長洲先輩は、ニカッと笑って、今度は、小田先輩の方に向き直ってから、
「栄一も、ホント、そういうところだぞ?」
と言ってから、
「じゃあ、神社に行こうか?」
と、オレたちを先導する。
彼女のそばに居たオレは、自然と長洲先輩と肩を並べて歩くことになる。
上級生の女子生徒は、後方のメンバーの様子を気にしつつ、
「タッチー、今日のお祭りに来ることは、キミが提案してくれたんだってね……ありがとう」
と、口にする。
「いえ、オレはナニも……連絡やメンバーの取りまとめは、全部、小田先輩がやってくれましたから……」
そう、答えると、長洲先輩は、なぜか、少しだけ寂しそうな笑顔で、
「それでも、だよ……三年になると、夏休みは、受験勉強モードになっちゃうし……期末テストが終わった、今の時期が、最後の息抜きの時間だから。それに……私たちは、付き合いが長い分、なかなか素直に自分のしたいことを言えないから……」
と、つぶやく。
普段は、明るく快活な印象のある先輩の、その物憂げな表情が、なぜか、ひどく印象に残った。
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