28 / 57
第2章〜ふられたての女ほど おとしやすいものはないんだってね〜⑬
しおりを挟む「フルールさん、あちらにクレープがあってよ!」
「はい、お待ちください。アレクサンドラ様!」
私がパン屋さんで購入したメロンパンを袋に入れてもらっているとアレクサンドラ様が先に出て行ってしまう。もちろんすぐに殿下が追いかけて、その後ろにはエドガー様もいた。いつの間に!
「フルールちゃん、はいよ。本当にお貴族様になったんだねぇ。お友達も上品だよ」
パン屋のおじさんが感心したように頷いた。
「ええ、ありがとう。おじさん」
おじさんが差し出した袋を横からマルセルくんが受け取るとおじさんに向かって頷いた。
「ああ、すまない。ここのメロンパンは有名なのか?」
「へぇ。何年か前にブームになりまして。ただ、ここ最近はあまり人気とはいえないかね」
「どうしたんですか? マルセル様」
「あっいや、よく姉さんがメロンパンのことを知っていたなぁと思ってね」
「確かに! アレクサンドラ様は不思議な方ですよね」
「まぁ、また前の話かもしれないな。さあ、二人に追いつこう」
「はい!」
パン屋からマルセルくんと出たところで話しかけられた。
「フルール!」
「え? あっ」
先生がこちらを驚いたように見ていた。
「あの、すみません。マルセル様、先に行っていただけますか?」
「大丈夫かい? フルール」
マルセルくんはすこし体を私に寄せて囁いた。
「はい。大丈夫です。知り合いですので」
「ふーん。わかったよ。ではフルールあちらで待ってる」
そう言ってマルセルくんは軽く先生に黙礼をすると先に歩いて行ってくれた。
私は先生に駆け寄る。
「先生、この間はありがとうございました。なんだか、私、すみませんでした」
「あぁ、いや、私の方こそ気分を害してしまっただろう。本当に申し訳なかった。みんなもあの後かなり反省していたんだよ」
「そんな、私の方こそ自分のことばかりを考えてました。みんなが怒るのは当たり前です」
そういって肩を落とすと先生が昔のように私の頭を軽く撫でてくれる。
「そう言ってもらえると気が楽になるよ。今日はまたどうしたんだい? さっきの彼は?」
私は顔を上げて笑顔になった。
「あの方はお友達です! 公爵家の方なんですが仲良くしてくれています」
すると先生が少し目をすがめて繰り返した。
「友達かい」
「はい! 私は今の自分の幸運をしっかりと受け止めて貴族として恥ずかしくないように頑張るつもりです。あの方のように仲良くしてくれる方もいます。大丈夫です!!」
私は先生が心配する前に今の状況を前向きに語る。
「そうか、私はフルールが騙されないか心配だったんだよ。でも楽しそうで……よかったよ」
「ありがとうございます。それでは先生もお元気で! みんなにもよろしく伝えてください!」
私は軽く礼を取るとアレクサンドラ様達が待つ広場に向かった。
私の後ろで先生がポツリと「幸せそうだ」と呟いたことには気づかなかった。
その後に「君だけがね……」と言ったことにも……。
先生と別れて直ぐに誰かに手を掴まれた。小走りしていた私はガクンとなって振り返った。
「マルセル様!」
「本当に大丈夫だった?」
「はい、全然平気です。待っていてくれたんですか?」
「それはそうだよ。僕は君をエスコートしているんだ」
「でも、アレクサンドラ様が……」
「姉さんには殿下がついてる。色々不満はあるけど殿下はこと姉さんの安全に関しては信頼できるよ。それよりも君だよ。フルール」
「え? 私ですか?」
「あぁ、君はもう貴族だ。それはわかってるよね」
「はい」
「だったら、もっと警戒してくれ。確かにここに君は住んでいたし、慣れた場所かもしれない。でも、君が貴族になったことで周りの態度が変わるかもしれない。これからは絶対に一人になろうとしないでほしい」
どうやらマルセルくんは私が先に行くように言ったことが無用心だと言っているようだった。
「あの、もしかして、マルセル様が殿下をお誘いしたのは……」
「僕は一人で二人を守れるほど自惚れていないよ」
マルセルくんは私の手をしっかりと掴むと歩き出す。その背中が初めて大きく感じた。
マルセルくんの心配はアレクサンドラ様だけではなく、私にも向いていたという事実に心臓がバクバクと高鳴る。
「……はい、ありがとうございます」
小さな私の声に前を歩くマルセルくんは私の手をキュッと握りしめたのだった。
「フルールさーん! マルセール!」
広場に着くとアレクサンドラ様がブンブン手を振っているのが見えた。
「全く、全然忍んでないなぁ。姉さんは」
ブツブツいいながらも、いつものマルセルくんに戻っていた。
「さあ、行こう。フルール」
「はい!」
「遅かったじゃない。どうしたの?」
「あっ私が知り合い会ってしまって」
「そうなの? よかったわですわね。さぁ、マルセルそのメロンパンを寄こしなさい」
「え? まだ食べるのかお前。クレープを食べたばかりじゃないか?」
「わたくしはこのメロンパンを食べるためにここにいますのよ! 殿下はすっこんでらっしゃい」
「すっこんで……」
驚愕という殿下を見て
「しょうがないですねぇ」
マルセルくんは私の手を離してアレクサンドラ様に近づいてメロンパンを手渡した。
「まぁ、大きいのね。懐かしいわ」
アレクサンドラ様が大きな口を開けてパクリとメロンパンを食べる姿を見つめつつ私はさっきまで私の手を掴んでいたマルセルのことを考えていた。
(手を離されて……寂しい)
私は今浮かんだ考えをフルフルと打ち消した。
「ア、アレクサンドラ様。メロンパンはいかがですか?」
「とっても美味しいわ!」
幸せそうなアレクサンドラ様に抱いた感情は嫉妬だった。
「はい、お待ちください。アレクサンドラ様!」
私がパン屋さんで購入したメロンパンを袋に入れてもらっているとアレクサンドラ様が先に出て行ってしまう。もちろんすぐに殿下が追いかけて、その後ろにはエドガー様もいた。いつの間に!
「フルールちゃん、はいよ。本当にお貴族様になったんだねぇ。お友達も上品だよ」
パン屋のおじさんが感心したように頷いた。
「ええ、ありがとう。おじさん」
おじさんが差し出した袋を横からマルセルくんが受け取るとおじさんに向かって頷いた。
「ああ、すまない。ここのメロンパンは有名なのか?」
「へぇ。何年か前にブームになりまして。ただ、ここ最近はあまり人気とはいえないかね」
「どうしたんですか? マルセル様」
「あっいや、よく姉さんがメロンパンのことを知っていたなぁと思ってね」
「確かに! アレクサンドラ様は不思議な方ですよね」
「まぁ、また前の話かもしれないな。さあ、二人に追いつこう」
「はい!」
パン屋からマルセルくんと出たところで話しかけられた。
「フルール!」
「え? あっ」
先生がこちらを驚いたように見ていた。
「あの、すみません。マルセル様、先に行っていただけますか?」
「大丈夫かい? フルール」
マルセルくんはすこし体を私に寄せて囁いた。
「はい。大丈夫です。知り合いですので」
「ふーん。わかったよ。ではフルールあちらで待ってる」
そう言ってマルセルくんは軽く先生に黙礼をすると先に歩いて行ってくれた。
私は先生に駆け寄る。
「先生、この間はありがとうございました。なんだか、私、すみませんでした」
「あぁ、いや、私の方こそ気分を害してしまっただろう。本当に申し訳なかった。みんなもあの後かなり反省していたんだよ」
「そんな、私の方こそ自分のことばかりを考えてました。みんなが怒るのは当たり前です」
そういって肩を落とすと先生が昔のように私の頭を軽く撫でてくれる。
「そう言ってもらえると気が楽になるよ。今日はまたどうしたんだい? さっきの彼は?」
私は顔を上げて笑顔になった。
「あの方はお友達です! 公爵家の方なんですが仲良くしてくれています」
すると先生が少し目をすがめて繰り返した。
「友達かい」
「はい! 私は今の自分の幸運をしっかりと受け止めて貴族として恥ずかしくないように頑張るつもりです。あの方のように仲良くしてくれる方もいます。大丈夫です!!」
私は先生が心配する前に今の状況を前向きに語る。
「そうか、私はフルールが騙されないか心配だったんだよ。でも楽しそうで……よかったよ」
「ありがとうございます。それでは先生もお元気で! みんなにもよろしく伝えてください!」
私は軽く礼を取るとアレクサンドラ様達が待つ広場に向かった。
私の後ろで先生がポツリと「幸せそうだ」と呟いたことには気づかなかった。
その後に「君だけがね……」と言ったことにも……。
先生と別れて直ぐに誰かに手を掴まれた。小走りしていた私はガクンとなって振り返った。
「マルセル様!」
「本当に大丈夫だった?」
「はい、全然平気です。待っていてくれたんですか?」
「それはそうだよ。僕は君をエスコートしているんだ」
「でも、アレクサンドラ様が……」
「姉さんには殿下がついてる。色々不満はあるけど殿下はこと姉さんの安全に関しては信頼できるよ。それよりも君だよ。フルール」
「え? 私ですか?」
「あぁ、君はもう貴族だ。それはわかってるよね」
「はい」
「だったら、もっと警戒してくれ。確かにここに君は住んでいたし、慣れた場所かもしれない。でも、君が貴族になったことで周りの態度が変わるかもしれない。これからは絶対に一人になろうとしないでほしい」
どうやらマルセルくんは私が先に行くように言ったことが無用心だと言っているようだった。
「あの、もしかして、マルセル様が殿下をお誘いしたのは……」
「僕は一人で二人を守れるほど自惚れていないよ」
マルセルくんは私の手をしっかりと掴むと歩き出す。その背中が初めて大きく感じた。
マルセルくんの心配はアレクサンドラ様だけではなく、私にも向いていたという事実に心臓がバクバクと高鳴る。
「……はい、ありがとうございます」
小さな私の声に前を歩くマルセルくんは私の手をキュッと握りしめたのだった。
「フルールさーん! マルセール!」
広場に着くとアレクサンドラ様がブンブン手を振っているのが見えた。
「全く、全然忍んでないなぁ。姉さんは」
ブツブツいいながらも、いつものマルセルくんに戻っていた。
「さあ、行こう。フルール」
「はい!」
「遅かったじゃない。どうしたの?」
「あっ私が知り合い会ってしまって」
「そうなの? よかったわですわね。さぁ、マルセルそのメロンパンを寄こしなさい」
「え? まだ食べるのかお前。クレープを食べたばかりじゃないか?」
「わたくしはこのメロンパンを食べるためにここにいますのよ! 殿下はすっこんでらっしゃい」
「すっこんで……」
驚愕という殿下を見て
「しょうがないですねぇ」
マルセルくんは私の手を離してアレクサンドラ様に近づいてメロンパンを手渡した。
「まぁ、大きいのね。懐かしいわ」
アレクサンドラ様が大きな口を開けてパクリとメロンパンを食べる姿を見つめつつ私はさっきまで私の手を掴んでいたマルセルのことを考えていた。
(手を離されて……寂しい)
私は今浮かんだ考えをフルフルと打ち消した。
「ア、アレクサンドラ様。メロンパンはいかがですか?」
「とっても美味しいわ!」
幸せそうなアレクサンドラ様に抱いた感情は嫉妬だった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
千紫万紅の街
海月
キャラ文芸
―「此処に産まれなければって幾度も思った。でも、屹度、此処に居ないと貴女とは出逢えなかったんだね。」
外の世界を知らずに育った、悪魔の子と呼ばれた、大切なものを奪われた。
今も多様な事情を担う少女達が、枯れそうな花々に水を与え続けている。
“普通のハズレ側”に居る少女達が、普通や幸せを取り繕う物語。決して甘くない彼女達の過去も。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる