息子が悪役令嬢だった件

失われた記憶 その４

　
　その日は食堂に行く前に、畑に寄って材料もついでに持っていこうとしたのがいけなかった。

　両手がふさがった状態で、後ろから来たピンクの髪の毛のご令嬢とぶつかってしまったのだ。

　むしろ、向こうがぶつかってきたように思えたのだが・・・

　ピンクの髪の毛は、学園内では見たことがなくて、はじめは亮がかつらをとったのかと思ったのだが、よく見るとちょっとくすんだピンク色だった。

　そういえば、亮の方がきれいなピンク色の髪の毛をしていて、顔も亮の方が可愛いな、と思ったが、親の欲目かもしれない。

　そのご令嬢謝りもせずに行ってしまった。

　私はしばらく呆然としてしまったが、丁度通りかかった王子一向に会ってしまって、目立たないようにしたのだが、

「大丈夫？」

　と聞かれて、王子が手をさしだした。

　それは丁寧にお断りした。

　とてもじゃないけど恐れ多いと言って自分で立つ。

　私は王子の顔も見ないようにした。

　なるべく目立たないようにしなきゃ・・・

　すると、野菜をお付きの人が拾ってくれた。

「ありがとうございます」

　といって野菜を受け取ってすぐに去っただけだったのに・・・

「野菜がもう一つ落ちてたぞ」

　と届けに来たのが、獣人族のハーフだった。

　聡に攻略対象には関わるなって言われたけれど、落ちた野菜をわざわざ届けに来たのだからとついお礼に食堂の賄いをあげると満面な笑みで、

「ものすごく旨い」

　と言われてしまった。

　この日は新作もあって試食がほうふにあったのと、まかないも重なってとっても豪華な日になってしまった。

　でもしまった・・・と思ったが時遅し。

　なぜか懐かれた。

　これがばれたらさすがに聡にガッツリ怒られるが仕方ない。

　でも常識的に考えてお礼はしなきゃ気が済まないしね。

　あの時はちゃんと食堂のみんながいたし、おまけにたまたま賄いの時間だったから食事もちょっぴり豪華だったけどさ。

　ブルーノはそれから賄いの時間になると現れるようになった。

　食堂のみんなは私が餌付けしたと言ってる。

　ううっ、聡にばれる前になんとかしなきゃと思ってたら速攻でばれた。

　まあ、バレるよね。

　やみちゃんがまずいことになったと思ってすぐに聡にチクったらしい。

　聡にこれまでの経緯を洗いざらい説明するとぶつぶつ言い出した。

「ヤバい、イベントを全部ベルが引き受けはじめた」

「イベント？」

「とにかくこっちでも何とかしてみる」

　難しい顔になったけど、決心したみたいで、

「こうなったら仕方ない、レオンに頼んで、ベルはまたしばらくはレオンの屋敷でお世話になるか」

「えっ？私、レオンの屋敷なんて行ってないけどな・・・」

　でも、どんなお屋敷かわからないからちょっと興味あるな。

「今度は・・・まあ、幸せになってくれ」

　とちょっとわけわからないことをポツリと言われたけど、とりあえずはレオンの屋敷でしばらくはお世話になることになったのだった。