夢の記憶

VARAK

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二日目

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思念の空間にて。
「……これってもしかして」
『そうだよ、その通り。思念の空間へようこそ。待っていたよ』
「待っていたって、あれで終わりじゃぁ無かったの?」
『まさか。それに最後に言ったでしょ?また会える日を待っているって』
「そういや、そうだったね。今回もまたあの時と同じように語るのかい?」
『当然だよ。なんたって、思念の空間。考える場所だからね』
「そうかい。で、今回は何について考えるの?」
『今日はね、ちょっと面白い話をしよう。神話についてね』
「へぇ、確かにちょっと面白そうだね」
『でしょ?じゃぁ、まずは神話の話。君はどれくらい神話を知ってる?』
「あんまり。ギリシャ神話とかぐらいしか分からない」
『なるほど、オリンポス十二神とかだね。それだけでなく、他にも、北欧神話、中国神話、ほら、キリスト教や仏教もまた神話だよ』
「思い出した。北欧神話はオーディンとかロキが出てくる神話だ」
『正解。まぁそう言った神話。これってさ、だれが作ったと思う?』
「誰って……分からないよ。何世紀も前の人だろう?」
『おや?じゃぁ君は神話は人が考えたものだと思っているのかい?』
「え?あ、いや、そうじゃないよ。神話は神様のしたことなんだから」
『ふーん、じゃぁなぜ人間はそれを知っているの?』
「それは、なにか、神様が下界に残した記録を人間が読み取って……」
『なんでわざわざ下界に記録したの?それに、それをなぜ人間が読めたの?』
「それは……」
『ね、答えられないでしょ。何でだと思う?……それは、神話が神によって作られたものでなく、人間によって創られたものだからだよ』
「信じられない。じゃぁ神様はいないって言うの?」
『いるかいないかは、実に曖昧なんだ。いると‟信じている”人からするといるし、‟信じていない”人からするといない』
「それは、なんかおかしくない?人の考え方によって存在が変わるなんて」
『確かに、おかしいように聞こえるかもね。でも、おかしくはない。なぜなら、神だけでなく、妖怪も、人が信じたことによって生れるんだから』
「どういういこと?」
『人間は自分たちでは説明のできない現象を、例えば、流行り病、災害、等々、それらを神や妖怪の仕業として語った。それは、歴史の中にも表れている。例えば、昔の日本では流行り病を妖怪、邪鬼の仕業として語った。だから、祈祷師がお祓いをしたりしていた。そういう絵が残ってる。また、町に起こる災害などを神の怒りだと語り、生贄を捧げるという習慣がある村もあった』
「実際にその通りじゃないの?」
『その通りではなく、その通りになったんだ。当時の人々はそうと信じて疑わなかった。だから、その存在は、在ると同じになってしまった。無から有を生み出したんだ。元は存在しなかったんだよ』
「じゃぁ、世界は誰が創ったの?」
『創ったんじゃない。元から有って、その世界の上で様々なことが起こっているだけさ。それに、人間が勝手に理由をつけて生み出されたものが創造主なるものだ。人間は理由もないことを恐れるからね』
「僕には信じられないな」
『そうだね。君はそういう文化の中で生きてきたから。まぁ、仕方がない話だね。じゃぁ、この世界を神様が創ったとして、その神様はどこから来たの?どこにいたの?』
「それは、神様が僕たちと同じ空間にいるわけないよ。住む次元が違う」
『それは違うね。確かに神様はボク達とは異なる次元にいるだろう。でも、それもこの世界だ。この世界の中の、二次元、三次元、四次元、五次元という空間だ。次元は異なっても世界は同じだよ』
「そうなのかい?じゃぁ違う世界から来たんだ」
『それでも疑問は残るよね。何で、自分の世界だけじゃなくて、別世界に来たの?』
「そうだなぁ、自分の世界だけでなく、他の世界も支配したかった……?」
『なるほど、傲慢な神様だね。でも説明はつく。じゃぁそうだとしよう。じゃぁ、その世界を支配していた神様。それはどこから生まれたの?』
「……それじゃぁ無限ループじゃないか。いつまでたっても終わらない。と、いうことは証明できてないね」
『うん。何故だと思う?』
「意地悪な聴き方をするね。まるで誘導尋問だ。……人間が作ったものだからって言わせたいんだろ」
『そうだよ。人間が作り出した。だから神が創ったという線で考えて、突き詰めていくと必ずどこかで矛盾が生じて、それ以上追求できなくなる。まぁ、完全にいないと決めつけるのもあれだけど、ボクはボクの主張を張り通してるだから』
「その通りなんだけど……あ、でも、その神様のいた世界では、皆が凄い力を持っているとしたら、矛盾は生じないんじゃない?そんな世界があってもおかしくはない」
『なんと。君も考えるようになったね。確かにそうだ。それだったら十分説明がつく。でも、もう一つの疑問。何故下界に記録を残した?』
「人間に自分の存在を知らしめるためかな。いくら好きに支配していようと、知られていなかったら意味がない」
『……これはまいった、こんなにも早く君に論破されるとはね。それが君の実力か。全て知っているとはいえ、やはり驚きを隠し得ないね。この調子なら、一年後にはどうなっていることやら』
「何をぼそぼそ言っているんだい?もしかして反論できない?だったら僕の勝ちだ。でも、こことは別の世界があるという前提で考えているから、そんな世界はないと思っている人たちからの賛同は得られないかも」
『そうだね。でも、いいんじゃない?全員から賛同してもらう必要なんてないからね。それに、前回話したような、宇宙の可能性のように、世界という存在そのものにも幾つもの可能性が秘められている。例えば、世界はここ以外にも存在するという可能性、とかね』
「うん。でも、対になる結果は同時には存在しえない。実際にはどうなんだろう」
『それが分かる人間は、いないと思うよ』
「そうだね、その通りだ。実際に存在していたとしても、人間には感知できない。逆もまた然り」
『にしても、この会話はいつもお互いの納得で終了するよね』
「じゃないと、無限に続くじゃないか。互いが自分の意見を譲らないと、ただの水の掛け合いでしかない」
『まぁそうだけど』
「それに、話の中でいつもそれぞれの意見があるという前提で、つまり、あくまで自分の意見を語っているに過ぎない」
『それをあっさりと受け入れる君もなかなかのものだと思うよ。全員がそういうわけじゃないけど、自分の意見が最も正しいと信じ込んでいる人もいるからね』
「でも、その人たちのことを悪く言うことはできない、でしょ?」
『そうさ。よっぽど、そのことで人に実害を及ぼさない限りは』
「今でも、古風な考え方をして奥さん、または旦那さん、そして、子供たちに自分のやり方を強制する人もいるみたいだからね。僕はあまりお金持ちってのにはなりたくないなぁ」
『それは、お金持ちの人に失礼だよ。全ての人がそうなわけじゃない』
「まぁそうだけど。……できることなら、そうやって実害を受けている人たちを助けてあげたい思うけど、僕には何の力もない。ただの一般市民だからなぁ」
『そうとは限らない。それを変えていくことだってできる。君の才能をもってすればね』
「僕の才能?なんだい、それ」
『教えることはできない。それは、自分で気づかないとダメなんだ。ボクにできるのは導くことだけさ』
「何に?って聞いても、きっと答えてくれないんだろうからやめとくよ」
『さすが、理解が早いね。そう、それも自分で答えを見つけるんだ』
「はいはい。いづれ分かるんなら今すぐには追求しないよ」
『どうする?まだ話すかい?まだ話すことはたくさんあるよ』
「そうだな、そういや、どれくらい話してたの?」
『この空間に時間という概念はない。けど、外ではすでに三十分が経過してるよ』
「そんなに!?やばい、早く起きないと!」
『そうかい。じゃぁ、今日の所はさようなら』

 ふと、肩をつつかれ、顔を上げた。
 隣を見ると、隣の席に座っている女子が真顔で手を振っていた。
 彼女の名前は神無月彩夏。美人で、声も綺麗、気が強くて、男子と言い合いをすることでは、無敗を誇る。
「おはよう、また寝てたよ。毎日ちゃんと寝てるの?」
「……ちゃんと、寝てはいるんだけどねぇ」
 僕が答えると、神無月さんは呆れたように首を振った。
「じゃぁ何でそんなに寝てるのかしら?あなた、運動部ってわけでもないでしょ」
 ホントのことを言いたいけど、言ってもきっと信じてくれないだろうなぁ。まぁ、神無月さんと話せてるだけで充分いいか。
 彼女はとても口数が少ない。普段は本を読むか、外の景色を見ている。
 決して、彼女に友達がいないわけではない。むしろその逆で、彼女は同学年のほとんどの女子と仲がいいし、上級生にも下級生にも何人も知り合いがいるらしい。
 もちろん、多くの男子にモテるわけだが、彼女はそれらのすべてを断っている。今のところ、彼女と付き合えた人間はいない。だとすると、当然ながら、僕にもチャンスが回ってくることなんてないだろう。まぁ、僕はみんなよりはるか昔に諦めたけどね。
「さぁ、なんでだろうね。まぁ、でも今日は神無月さんが早く起こしてくれたおかげで、先生にも怒られずにすんだよ。どうもありがとう」
「……ん。もっかい寝たりしたらもう知らないからね」
「了解です」
 なんて、変わらない日常が、実は一番楽しいものだ。変わらないからこそ、美しいものだってある。
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