ジェノサイド

水ノ灯(ともしび)

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pervert 5

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ずきん、と右目が痛んで城谷は車内からホテルの窓を見上げた。眼帯の上から押さえて顔をしかめる。

龍崎が出て行ってから一時間は経っている。いつものようにまた遊んでいるのかと思えば頭まで鈍痛がしてきた。

零級は能力が高い割りに扱いが面倒で、およそ同じ人間だとは思えない。殺人に快楽を見出す彼らは監察官など関係なく殺したとしてもおかしくはない。

龍崎は気まぐれで城谷を生かしているが気が変われば運転中にでも銃を向けられることがあるだろう。手綱を握っているはずの監察官が綱渡りをさせられているなど異常な話だ。

異常しかここにはない。

あの日以来、ずっとこの国は異常だった。

城谷はずるずるとハンドルに体を預けた。温かくこもった空気が息苦しいが、外の冷気を入れる気にもならず不健康な呼吸を繰り返す。

ガチャ、と不意に扉が開いて何事もなかったかのように龍崎が助手席に戻ってきた。

「ごめん、お祈りの最中だった?」

暑いね、と言ってモッズコートを脱いで後部座席に投げる龍崎を横目で捉え、城谷は上体を起こした。

「あいにく俺は神を信じてない。仕事は?」

聞かずともわかっていた。龍崎から漂ってくる濃厚で不浄な香り。殺しちゃった、と龍崎は軽く言い、城谷は報告書をどうしようかとまた頭を悩ませる。

「可愛かったよ。射精したくないって泣きながらイって死んじゃった」

あはは、と明るく笑う龍崎を軽蔑の眼差しで睨めつける。城谷は心底龍崎のこの性質を憎んでいた。

犯されながら死んでいった女児がいかに柔らかく小さかったか、必死な顔で自分を犯していた男がいかに醜悪で愚かしかったか。龍崎は親しい友人の昔話でもするように事細かに、楽しそうによく語って聞かせた。

悔い改めてるよ、なんて神妙な顔で言っておきながら次の瞬間には殺しがしたいと言うのだから歯車が狂っているに違いない。

「理解できないな」

冷たく言って城谷は窓を開けた。寒い、と龍崎が驚いたように非難してくる。不快な匂いが車内に満ちていた。吐き気がする。

「なんで? 死んじゃったらその人がどんなセックスするかも知らないままなんだよ? もったいないじゃん」

龍崎は座席に後ろ向きに乗り上げると上着を探って煙草を取り出した。チャリ、とドッグタグの金属音がする。

煙草とライターを手に座り直した龍崎は城谷が蔑むような目を向けてくるのに気づいて煙草を取り出そうとした手を止めた。

不意に、ぐいっと手を引かれて城谷は龍崎の方へとつんのめる。

顎を取られ、はっと目を見開けば唇の触れそうな距離に龍崎の顔があった。

振りほどくこともできず、城谷の瞳は焦燥と恐怖に揺れる。龍崎はしっかりと城谷の左目を捉え、艶っぽく微笑した。

「俺が天国見せてあげようか?」

低めた声が冷風の吹き込む車内で城谷の耳に届く。真剣味を帯びた龍崎の瞳を直視してしまって動くことができない。

硬直した城谷に龍崎はふっと大人びた笑みを見せて手を離した。

「なーんてね。びっくりした?」

手を広げていつも通りへらっと笑ってみせると城谷は慌てたように身を引いた。

俯いてしまって表情が見えず、怒らせたかな、と少し心配になって覗き込む。

「地獄へ落ちろ!」

怒りのこもった声とともに拳が飛んできて龍崎は反応することができずに頬を撃ち抜かれた。

勢いのまま助手席に崩れると城谷はさっさとシートベルトをつけてアクセルを踏み込む。

痛い、と拗ねたように言って龍崎は座席を限界まで倒し、シートベルトもつけないまま咥えた煙草に火をつけた。

いつもより荒っぽい運転で車は帰路へとつく。じんじんと痛む頬を押さえて、龍崎は煙草の煙がネオンの街に溶けていくのを眺めていた。
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