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無垢な時間

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 目が覚めて柔らかさに包まれていたから、まだ隣にいるんだと分かった。安堵にまた意識がまどろんだ。広いベッドを狭くしている犯人は、案外くっついて眠りたがる。昔から生意気が可愛げだと思っていたから甘ったるい部分に驚いた。
 どちらも小さいとは言えない体を寄せ合って、隙間を埋める。初めは慣れなくて寝づらいと思っていたが、今は会えない日があると物足りなく思える。お気に入りの毛布を取り上げられたみたいに、心細い気持ちで枕を抱いてみる時もある。
 だけど、淳一の形じゃないとだめなのだ。気付けば吸い付くように哲也に絡む体温。首筋にあたる髪のこそばゆさ。時折肌にかかる穏やかな寝息。全身が淳一の匂いを覚えている。
 大人二人がベッドに入ればどうしても性の気配がするものだと思っていた。愛情の副作用みたいに。淳一と眠っているとそんなこと忘れてしまうから、こうしている間は子供二人なのかもしれない。実際は暑いくらいだが、まるで暖を取るみたいに抱き合っている。
 時々淳一が手を繋ぎたがるのも、触れたいという欲望の気配は薄かった。人混みではぐれないようにしているみたいだ。そんな時、淳一はいたずら盛りの面倒を見ている兄みたいなやり方で指を伸ばしてくる。そうしていないと哲也が勝手に迷子になってしまうようで、少しおかしい。
 淳一も一人で眠れなくなったと言っていた。寂しくなっちゃう。珍しく素直な言葉の出し方をして、照れ隠しみたいに笑っていた。哲也の隣がどこよりも安心する場所になったのだ。誰かの特別になることは、生きているうちに巡り合う一番の幸福かもしれない。
 淳一はぐっすりと眠っている。世界の怖さを知らない雛のように身を委ねていた。見慣れた空っぽの寝顔に心が休まる。つられてゆっくりと目を閉じた。暗闇の中にいても、自分と見分けがつかないくらいにくっついた淳一の気配がある。ほっと解けた心を眠気が攫っていく。
 この部屋の朝はまだ遠い。力の抜けた手がいつまでも重なり合っていた。
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