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嵐の中で

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 窓がガタガタと揺れ、およそ雨ともつかないような音が鳴っている。明はカーテンに遮られた窓を見ていた。吹き荒ぶ風の音に混じるのはしとしとでもざんざんでもない水の音だ。

「台風来ちゃったね」

 毅が声をかける。雷が何処かで落ちた。二人はベッドに並び、だらだらと過ごしていた。体を重ねるわけでもなく、風呂上がりの温かな体を寄せ合っている。ベッドランプが柔らかく灯っていた。明は外の音が気になっているのか、落ち着かない様子だ。

「物飛んできてガラス割れたりしねぇよな…」

 ぽつん、と言ってじっとカーテンを見ている。テレビで割れた窓の光景でも見てしまったのだろうか。ここまで物が飛んでくるような強風なら家の一軒くらい飛ばせるのではないかと思ってしまう。毅は明に体を寄せると腹に手を回した。

「考えすぎだよ。明後日には晴れるって」

 だって今回のは過去最大だって、などと言って明が口を尖らせている。明がこんな風に心配していれば、毅が続く雨に沈んでいる暇もない。へーきへーき、と軽く言えば明はころりとこちらを向いた。目があった瞬間に、あ、と気づいて思いきり抱き締めてやる。足を絡ませ、髪が乱れるほどに頭を撫でてやり、額に頬に口付ける。

「ばかだなあ」

 毅がくすくすと柔らかく笑うと、明はぎゅうっと毅の体を抱き締めた。そんな口実がなくたっていくらでも甘やかしてやるのに。明は照れ臭そうに笑う。
 ぴたりと寄せた体から伝わる体温に安心する。風呂上りの体は同じ香りを纏っていた。シーツに熱が移り、毛布の内側は少し暑いくらいだ。突然、激しい雷鳴がして二人の体がビクンっと跳ねた。抱き合った腕に力がこもる。部屋が眩しく照らし出され、二人はそおっと視線を合わせた。

「……近かったね」
「……近かった」

 バツが悪そうにそう言い合うと、ケラケラと笑った。同じような反応をしてしまったのがおかしい。ああびっくりした、と毅があっけらかんと言う。明も頷いて、ずれた毛布を引き上げた。手を伸ばして毅の背後にあるランプの光量を落とす。このまま話でもしながら眠ってしまえればいいと思っていた。
 ふあ、と毅が胸元であくびをしたので、軽く頭を撫でてやる。つられてあくびをして、明は目を閉じた。明確な眠気があるわけではないが、少し目は疲れている。明が寝るのだろうと思って、毅も目を閉じた。明は毅を腕に閉じ込めるようにして抱いていた。抱き枕よろしくおとなしく収まってやり、明の背を軽く叩く。

「だぁめだって……眠くなるだろお……」

 文句を言う口調がすっかり眠気に蕩けていて、毅はおかしくなってしまう。明の体温に埋れて、毅も眠くなってしまっていた。うーん、と適当に返して体の力を抜いた。
 明の胸元に近いせいで、心臓の音がよく聞こえる。落ち着いた拍動に呼応するように毅の呼吸は深く、ゆったりとしていった。明はいつの間に眠ってしまったのか静かに寝息を立てている。毅も気づけば眠りに落ちていた。
 部屋には先ほどと変わらぬうるさい雨風の音が満ちている。ベッドの中はまるで台風の目のように穏やかだった。
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