裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を

水ノ灯(ともしび)

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絶対零度の共振

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 ひたりと据えられた銃口から真っ直ぐに弾が発射され、頭を撃ち抜いた。倉庫の冷たい床にまた一人倒れ伏す。乾いた銃声が何度も続き、混乱した怒声が響き渡っているが統率の取れていない銃弾は積み上げられた遮蔽物に吸われていくばかりだ。
 ヨウは物陰に隠れると弾倉を振り出し、空薬莢を地面に落とした。スピードローダーを使って素早く銃弾の装填を終えると再び射撃をしていく。反対側からはNが狙っており、ヨウに銃を向けた敵は後ろから撃ち抜かれすぐに転がった。正確な挟撃はまるで鴨撃ちだった。
 車でやってきた男達が倉庫に入った途端、突然入り口が封鎖された。それは外に潜んでいたレプリカによるもので、十数人の男達が全員倉庫に踏み入れたことを確認して密室を作り上げたのだ。
 狼狽える男達は的に変わり、ヨウとNによる点取りゲームが始まった。荒事は茶飯事だろうと銃撃戦に慣れていない男達を相手に、こちらは殺しを生業にしている者達だ。圧倒的な人数の差があれど少しも遅れを取らない。
 ヨウはリボルバーという装弾数の少ない上に慣れない銃を使っていたが、それでも隙ができることはなかった。Nという射撃手がいれば装弾する時間を不安に思うこともない。数百メートル先からでも正確に狙い撃つことができるNがこんな相手に一発も無駄にするはずがなかった。
 ヨウの方を狙って構えた男から優先的に撃ち抜いていっているようで、ヨウの元には少しも弾が飛んでこない。誤差すらなく頭の中心を一発で抜かれて転がる男達は、自分が撃たれたことにすら気がついていないだろう。

「あっ、やべえ」

 大して真剣味のないNの声が聞こえた。何事かと目をやれば、立ち向かうだけ無駄だと倉庫から逃げ出そうとしている者達がいる。閉じた扉をこじ開け、必死の形相で逃げ出していった。Nは追いかけるそぶりもなく、まだ攻撃を仕掛ける気概のあるものを一人ずつ倒していっている。必然的に入り口を守るのは近くにいるヨウの役目だった。
 ヨウに追いつかれる前に運良く飛び出した男は、車に駆け込んで逃げ帰るつもりだった。しかし、眼前の光景に信じられないとばかりに立ち尽くす。

「え……?」

 数台停まっていたはずの車はどこにもなかった。慌てて見渡した先、最後の一台がゆっくりと海へ沈んでいく姿が見える。車体がすぐさま飲み込まれ、初めから何もなかったかのように真っさらな水面が広がっているだけだった。
 停まった車を乗っ取って勝手に動かすことくらいわけがない。逃亡の手段すら封じたレプリカは、ひょこりと陰から顔を出す。終わったのかと思って寄っていけば、倉庫から出てきたのがヨウでもNでもないことに気づいてびくりと飛び上がった。
 逃げ出してきた男は咄嗟にレプリカに向けて銃を構える。引き金が引かれる寸前、男の額から銃弾が飛び出してきた。真後ろから撃ち抜かれた男はどさりと倒れ伏せる。後ろからヨウが出てきたのを見て、レプリカはへたりと崩れ落ちた。

「もうちょいで終わるから」

 ヨウは倉庫内から目を離さずにレプリカに告げる。入り口が突破された以上、倉庫内からはNが、外からはヨウが銃を構える挟み撃ちに変わった。中に残れば的確な射撃で殺され、逃げ出せば飛び出したところを撃ち抜かれる。隠れたとしても時間の問題だ。すっかり詰みの状態になってもまだ、手を抜く気はさらさらない。少しも風化しない怒りを瞳に灯し、ヨウはまだ残弾の残るリボルバーに新たな銃弾を込め直した。

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