裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を

水ノ灯(ともしび)

文字の大きさ
上 下
100 / 114
生死一如の生業に

2

しおりを挟む
「無事に帰って来てよ? NさんがUNOやりたいって言ってんだから」

 詮索はせず、ヨウは軽い口調で言ってやる。今回仕事として手を組んだ友幸商事とはまた別に、遊び仲間であるNとレプリカの名を出した。気の合う四人はしばしば集まってくだらないことでいつまでも笑い合っている。無事に帰って来たらまたレプリカの家にでも押しかけて、一晩中遊んでやろう。

「またUNOかよぉ」

 銃を持つ緊張感が消え、佐々木は普段の柔さでけらけらと笑った。もういいよ、と言いながら佐々木は愉快そうだ。ヨウもつられて笑う。
 過酷な状況で生き延びるのに、次の約束は大切だ。数えきれない危機を切り抜けて来たヨウはそのことをよく知っていた。些細なやりとりに生かされた経験は数えきれない。
 帰って来たらなんて話をするせいでまるで帰ってこれないみたいじゃないかと佐々木は嫌がったが。縁起でもないことを言うなとヨウは一蹴する。これでも佐々木の実力はよく知っているつもりだ。ヨウと出会う前から佐々木はこうして生き延びてきた。そう簡単に失敗をして捕まるような男ならここには立っていないはずだ。

「でもサッキー下手だね。全然当たんないじゃん」

 六発撃って当たったのはせいぜい半分だ。それも中心ではなく、隅を掠めている程度だった。情報屋としての腕は確かでもこれでは殺し屋としてはやってはいけそうにない。うるせえ、と佐々木は口を尖らせる。
 引っ張り出してきたらしい銃も随分長いこと使っていなかったようで、ヨウが整備し直してやったものだ。試しにヨウが撃ってみればしっかりと中心に当たったので、銃のせいではなく持ち主の腕次第と言ったところか。

「肩の力抜いて、肘もうちょい曲げて」

 銃を構えた佐々木の後ろに立ち、ヨウは真剣みを帯びた声を出す。両肩に手を置いて促せば、固まっていた筋肉が意識的に脱力するのが感じられた。上がりすぎていた両肩が自然な形になる。銃を持つ手も軽く直してやれば、立ち姿は様になっているように見えた。
 いつの日かこうして自分も教えてもらったことを思い出して懐かしい気持ちになる。涼など初めて銃を触った時に射撃場の電球を割って暫く銃を持たせてもらえなかった。ひとつひとつ体を銃に合わせていく佐々木が過去の自分を思い出させる。
 佐々木は唇を真一文字に結び、真っ直ぐに的を見据えている。ゆったりとした呼吸は視線の先に集中しているのが感じられた。ヨウは静かに距離を取り、佐々木から離れていく。撃鉄が上がった。背中を見ているだけで次は当たるという確信があった。引き金にかけた指にゆっくりと力が込められていく。
 鋭い銃声が部屋に反響する。銃口は微かに跳ね上がり、煙を吐いていた。撃ち終えた腕がゆっくりと下りていく。細めた瞳が捉えた先、人型の的は中心にほど近く新たな穴を開けて佇んでいた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ひきこもり瑞祥妃は黒龍帝の寵愛を受ける

緋村燐
キャラ文芸
天に御座す黄龍帝が創りし中つ国には、白、黒、赤、青の四龍が治める国がある。 中でも特に広く豊かな大地を持つ龍湖国は、白黒対の龍が治める国だ。 龍帝と婚姻し地上に恵みをもたらす瑞祥の娘として生まれた李紅玉は、その力を抑えるためまじないを掛けた状態で入宮する。 だが事情を知らぬ白龍帝は呪われていると言い紅玉を下級妃とした。 それから二年が経ちまじないが消えたが、すっかり白龍帝の皇后になる気を無くしてしまった紅玉は他の方法で使命を果たそうと行動を起こす。 そう、この国には白龍帝の対となる黒龍帝もいるのだ。 黒龍帝の皇后となるため、位を上げるよう奮闘する中で紅玉は自身にまじないを掛けた道士の名を聞く。 道士と龍帝、瑞祥の娘の因果が絡み合う!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

処理中です...