裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を

水ノ灯(ともしび)

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二河白道を塞ぐ

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 表通りから伸びた細い道の先、ひっそりと佇む扉があった。外灯のほとんどない奥まった道にはそぐわぬ西洋風の扉はまるで異世界に誘ってくれそうな洒落た雰囲気を感じさせる。少し塗装の剥げた茶の色合いがアンティーク風であった。周囲には何の看板もなく、扉の上にこれまた西洋風のランプが付いているだけである。一見飾りのように見える扉であったが、ノブにかけられたOPENの札だけが何かの店のようだと示していた。
 乾は夕方の街を歩き、迷路のような路地を通ってこの扉の前までやってきた。偶然見つけたとしても再度探せるかどうか分からないような場所だったが、足取りに迷いはない。扉の前に数秒佇んでいたが、やがてノブに手をかけて中へと入った。
 扉の内側は所狭しと物が溢れている。黴臭いような独特の匂いがしており、並べられた物の古さを感じさせられた。存外広い室内ではあったが、大きなものから小さなものまで詰め込まれて人間が歩ける場所はやけに少ない。天井からも物が吊り下げられており、乾ほどの長身だと頭をぶつけてしまいそうで注意する必要があった。
 一体何の扉かとわくわくして入ってきた人間は、なんだアンティークショップであったかと納得することだろう。実際、並んでいるものは古いものばかりではない。博物館にありそうな壺や絵画といったものから、雑貨や書籍なども揃えられている。最近入ってきたのか、やけに新しい型のゲーム機などもあった。
 さて、この店の主人は一体どこにいるのだろう。物影を縫うように奥へ歩きながら目当ての人物を探す。奥のカウンターにいるのだろうかと進んでいくと、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「捨てる神あれば拾う神ありって言いますもんねえ」

 落ち着いた低い声は、この一風変わった店の主人その人のものだった。こんな奥まった場所では大して客も望めないだろうに、珍しく来客が重なったらしい。

「それじゃまたご贔屓に」

 柔らかい声が言うと、足音が近づいてくるのが聞こえた。棚の反対側を人が通っていく。物影で向こうは見えなかっただろうが、乾からは若い女性が出ていくのが見えていた。大切そうに持っていたのは懐中時計だろうか。どうやら彼女のお眼鏡にかなったらしい。

「こんにちはぁ」

 乾が再び歩き出しながら声をかければ、果たして目当ての男はひょいと顔を覗かせた。古い物の多い店内に不思議と馴染む着物姿。眼鏡の奥の瞳が親しげに緩み、糸のように細まった。

「あれえ、わんこさん。久しぶりじゃないですか。なんか売りに来たんです?」

 にこやかにそう話した秋森こそ、この店の主人であった。この店は立地も悪く宣伝もなしに物好きな店主が経営しているリサイクルショップである。誘われるように入った客が隠れ家的な雰囲気を好んで常連になり、時折口コミでいい店を見つけたと噂になってちらほらと客が増えることもあると言う。
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