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最高速で死地を往く
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涼がヨウの足を離し、オーディオのつまみを回す。突如流れてきた激しい重低音が血を沸騰させる。再び座席に沈んだヨウが愉快そうに涼を見やれば、涼もまたヨウを見て得意げに目を輝かせる。悪童二人の笑みが重なり、互いの興奮が混じり合った。
左側から詰め寄ってきた車に、涼は思い切りハンドルを切る。車ごと勢いよく体当たりをかまし、激しい衝突が起きた。
「あ、揺れるよ?」
後部座席では銃器がぶつかり合って凄まじい音を立てている。今更悪びれもなく言う涼に、ヨウは声を上げて笑った。涼の瞳孔が開いた瞬間、対ショック体勢は取っていた。長年の付き合いだ、呼吸を読むなど自然とできる。
「いいもんあんじゃん」
荒れに荒れた後部座席から、ヨウはグレネードを取り上げる。暴発の心配など全くせずに積み上げられた銃器はとんでもない火薬庫になっているが、武器より先に二人に火がついてしまった。今更そんな心配などするはずもなく、ヨウは軽い手つきでグレネードを放った。
地面で数度跳ねたグレネードは激しい爆発を引き起こし、左側を走っていた二台を吹き飛ばした。当然その爆発は自分達にも伝わり、車体の左側が跳ね上がる。
「あ、跳ぶぜ?」
ヨウが同じように言い返してやれば、涼の笑い声が愉快そうに裏返る。横転して火を上げている二台のバンのようにあわや倒れてしまうかと思ったが、涼が勢いよく左側に体重をかけハンドルを捌く。浮いていたタイヤが叩きつけられ、車は何度か跳ねて地面に戻ってくる。
ギャリギャリギャリとアスファルトを削るようにタイヤが擦れ、激しく蛇行して車は走りを取り戻した。凄まじい速度が出ているのだから小回りなどもう効きはしない。暴れ馬のように全速力で駆け続ける車の手綱を握り、涼は興奮気味に唇を舐めた。
「ははっ! 最高!」
まるでアトラクションのような無茶苦茶な運転にヨウは子供のようにはしゃいだ声を上げる。爆煙の混じった豪風から潮の香りが漂ってくる。暗くて見えはしないが、昼間なら海の見える気持ちのいいドライブコースなのだろう。
「でも最悪のお知らせです! タイヤやられたっぽい!」
さらに強くなった風に負けぬよう、涼は声を張って返す。がくんと車体が落ち、速度が保てなくなった車は悲鳴をあげるように右に左に震え出す。全身で押さえつけるようにハンドルを調節し、なんとか真っ直ぐ走れているような状態だ。背後を付け狙う二台のバンに撃ち抜かれたのだろう。ヨウが身を乗り出して見れば、タイヤから火が出ている。このままでは遅かれ早かれエンジンに引火するだろう。
ドウッと強い衝撃があり、車がつんのめるように揺さぶられた。背中を蹴り飛ばされたような揺れに、ヨウは強かに頭をぶつける。一瞬目の前に火花が散ったが、視線を戻すと車の後部が抉られたようだった。
「ハンドルがっ……!」
涼の頬に汗が伝う。操作が効かなくなったのか、どれほど回しても車が言うことを聞かない。しかしアクセルを緩めればたちまち追いつかれて左右から挟み撃ちを食らうだろう。涼が焦った瞳で見た眼前には、緩やかなカーブが続いている。このまま曲がることができなければ、ガードレールに突っ込んでしまう。
ヨウは一度目を伏せ、再び開く。現れた瞳は諦念に満ちたものではなく、強い意志を込めたものだった。
「なあ涼」
絶体絶命の状況でありながら落ち着いた声に涼はヨウを見る。ヨウは普段仕事で見せるものと変わらない、静かに燃えるような目をしていた。
「俺と一緒に死んでくれるか?」
不敵な笑みが涼に向けられる。心臓に火がつけられたように、興奮が戻ってくるのが分かった。真っ青になっていた顔が紅潮していく。涼はようやく思い出した。死神の鎌が喉元に迫るほど、自分達の命は燃え上がる。逆境でこそ、笑みを浮かべて踊るのだ。
「もちろん。出会った時から決めてたよ」
ヨウを見返した涼の目に、迷いはなかった。
左側から詰め寄ってきた車に、涼は思い切りハンドルを切る。車ごと勢いよく体当たりをかまし、激しい衝突が起きた。
「あ、揺れるよ?」
後部座席では銃器がぶつかり合って凄まじい音を立てている。今更悪びれもなく言う涼に、ヨウは声を上げて笑った。涼の瞳孔が開いた瞬間、対ショック体勢は取っていた。長年の付き合いだ、呼吸を読むなど自然とできる。
「いいもんあんじゃん」
荒れに荒れた後部座席から、ヨウはグレネードを取り上げる。暴発の心配など全くせずに積み上げられた銃器はとんでもない火薬庫になっているが、武器より先に二人に火がついてしまった。今更そんな心配などするはずもなく、ヨウは軽い手つきでグレネードを放った。
地面で数度跳ねたグレネードは激しい爆発を引き起こし、左側を走っていた二台を吹き飛ばした。当然その爆発は自分達にも伝わり、車体の左側が跳ね上がる。
「あ、跳ぶぜ?」
ヨウが同じように言い返してやれば、涼の笑い声が愉快そうに裏返る。横転して火を上げている二台のバンのようにあわや倒れてしまうかと思ったが、涼が勢いよく左側に体重をかけハンドルを捌く。浮いていたタイヤが叩きつけられ、車は何度か跳ねて地面に戻ってくる。
ギャリギャリギャリとアスファルトを削るようにタイヤが擦れ、激しく蛇行して車は走りを取り戻した。凄まじい速度が出ているのだから小回りなどもう効きはしない。暴れ馬のように全速力で駆け続ける車の手綱を握り、涼は興奮気味に唇を舐めた。
「ははっ! 最高!」
まるでアトラクションのような無茶苦茶な運転にヨウは子供のようにはしゃいだ声を上げる。爆煙の混じった豪風から潮の香りが漂ってくる。暗くて見えはしないが、昼間なら海の見える気持ちのいいドライブコースなのだろう。
「でも最悪のお知らせです! タイヤやられたっぽい!」
さらに強くなった風に負けぬよう、涼は声を張って返す。がくんと車体が落ち、速度が保てなくなった車は悲鳴をあげるように右に左に震え出す。全身で押さえつけるようにハンドルを調節し、なんとか真っ直ぐ走れているような状態だ。背後を付け狙う二台のバンに撃ち抜かれたのだろう。ヨウが身を乗り出して見れば、タイヤから火が出ている。このままでは遅かれ早かれエンジンに引火するだろう。
ドウッと強い衝撃があり、車がつんのめるように揺さぶられた。背中を蹴り飛ばされたような揺れに、ヨウは強かに頭をぶつける。一瞬目の前に火花が散ったが、視線を戻すと車の後部が抉られたようだった。
「ハンドルがっ……!」
涼の頬に汗が伝う。操作が効かなくなったのか、どれほど回しても車が言うことを聞かない。しかしアクセルを緩めればたちまち追いつかれて左右から挟み撃ちを食らうだろう。涼が焦った瞳で見た眼前には、緩やかなカーブが続いている。このまま曲がることができなければ、ガードレールに突っ込んでしまう。
ヨウは一度目を伏せ、再び開く。現れた瞳は諦念に満ちたものではなく、強い意志を込めたものだった。
「なあ涼」
絶体絶命の状況でありながら落ち着いた声に涼はヨウを見る。ヨウは普段仕事で見せるものと変わらない、静かに燃えるような目をしていた。
「俺と一緒に死んでくれるか?」
不敵な笑みが涼に向けられる。心臓に火がつけられたように、興奮が戻ってくるのが分かった。真っ青になっていた顔が紅潮していく。涼はようやく思い出した。死神の鎌が喉元に迫るほど、自分達の命は燃え上がる。逆境でこそ、笑みを浮かべて踊るのだ。
「もちろん。出会った時から決めてたよ」
ヨウを見返した涼の目に、迷いはなかった。
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