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最高速で死地を往く
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「要するにバン全部ぶっ飛ばせばいいんだろ?」
涼の所々曖昧な説明を要約すれば、多分そう、と不安になる返事があった。涼もまた幸介から急ぎの指示をもらったのだろう。背景で何が起きているかも相手が何者かも関係ない。ヨウはいつも通り愛銃の準備をし、銃器を使える状態に仕上げていく。報酬が貰えて誰を殺せばいいかが分かれば、仕事の始まりだ。
「一般人を気にせず撃ちあえるポイントがあるんだよね。ご丁寧に交通規制かけてるらしいから」
涼はハンドルを握ったままちらりとカーナビを見やる。とある道が突然工事中となっているらしい。車はいつのまにか高速道路に入っていた。人払いまでして一体何をしているのか、とヨウはいつでも発砲できるようになった愛銃を弄ぶ。
「ふーん……で、バンってのはあれか?」
サイドミラーに映った黒い影にヨウの瞳が細くなる。促されて涼もバックミラーを見れば、黒いバンが数台、列をなして走っていた。いかにも厳つい男達が運転しており、見かければすぐ只事ではないと分かるだろう。
「わお、お早いお着きで」
涼が苦笑したのは、明らかにバンが自分達の車を囲もうとしているのが分かったからだ。追い抜こうとした一台をアクセルを踏み込むことで牽制し、前に割り込ませないように走る。貸切になった道路で突如始まったカーレースに、車内は鋭い空気に変わった。
「こりゃ情報漏れてんな」
この仕事にはよくあることだ。ヨウは冷静に言う。仕事を取ってきた幸介の落ち度ではなく、依頼人側からの漏洩だろう。内部の人間が実は敵と繋がっていたなど、こんなきな臭い依頼を持ってくる輩にはよくあることだ。
ヨウは目を走らせ、バンの数を把握する。真後ろに一台、その後ろにさらに一台。左右に二台ずつ。合わせて六台のバンが自分達を囲もうと無茶な走りをしている。ヨウが窓を開けると、激しい風が入り込んでくる。それに倣って涼も運転席側の窓を全開にした。けたたましい風の音に、どれだけの速度が出ているのか体感させられる。
ヨウの隣を並走しようとしていたバンにチカリと光るものが見えた。ヨウは反射的に銃を構え、一撃で撃ち抜く。運転手の手元から拳銃が弾け飛んだのを見て、相手も自分達を排除するつもりだと確信した。運転の乱れたバンを避けるように涼はさらにアクセルを踏み込む。いくら高速道路とはいえ規制される速度はとうに超えている。
「やるー?」
風に負けないよう張り上げられた涼の声は弾んでいるようだった。ヨウはシートベルトを外すことで応える。涼の操作によって天井の窓が開かれた。相手は早速発砲を始めており、外装に弾が当たる硬い音がする。一般車と違い戦闘用に改造された車がその程度で揺らぐはずもない。
「へったくそ」
ヨウは座席の上に立ち、ニッと笑う。窓から頭を出した瞬間、素早く照準を合わせて一発を放った。
「こうやんだよ」
飛び出した弾丸は迷いなく空を裂き、大きな花を散らした。額の中心を撃ち抜かれてフロントガラスが赤く染まる。涼の隣をうろうろとしていた鬱陶しいバンは、運転手を失って進路を見失ったようだった。その後ろを走っていたバンに追突し、右側の二台が遠く置き去りにされていく。
「ヨウ! 処理しなきゃ!」
涼の声に、ヨウは潜るように頭を下げる。頭上を銃弾が掠めていったような気がするが、向こうの狙撃はヨウの動きに比べて随分と遅い。ヨウは久方ぶりに触れる対戦車用ミサイルを引っ張り出した。ギャグとしか思えない重みに笑って、車上に引っ張り上げる。なんとか追いすがろうとしながらも距離の空いてしまったバンに照準を合わせ、引き金を引いた。
強い反動に危うく腕が持っていかれそうになる。不安定な足場で撃つような代物ではない。ヨウがふらついた瞬間、涼の片腕が足を捕まえてくれたので放り出されずに済んだ。ミサイルはバンの周囲を巻き込んで派手に爆発した。爆風に思わず顔を覆う。削られた道路と跡形もなく吹き飛んだバンに威力の強さがうかがい知れた。
「ヒュウ」
涼が愉快そうに口角を上げる。ヨウも風に髪をいいように遊ばれながら、くつくつと笑ってしまった。手中にある危ない玩具の威力が凄すぎておかしくなってしまう。
涼の所々曖昧な説明を要約すれば、多分そう、と不安になる返事があった。涼もまた幸介から急ぎの指示をもらったのだろう。背景で何が起きているかも相手が何者かも関係ない。ヨウはいつも通り愛銃の準備をし、銃器を使える状態に仕上げていく。報酬が貰えて誰を殺せばいいかが分かれば、仕事の始まりだ。
「一般人を気にせず撃ちあえるポイントがあるんだよね。ご丁寧に交通規制かけてるらしいから」
涼はハンドルを握ったままちらりとカーナビを見やる。とある道が突然工事中となっているらしい。車はいつのまにか高速道路に入っていた。人払いまでして一体何をしているのか、とヨウはいつでも発砲できるようになった愛銃を弄ぶ。
「ふーん……で、バンってのはあれか?」
サイドミラーに映った黒い影にヨウの瞳が細くなる。促されて涼もバックミラーを見れば、黒いバンが数台、列をなして走っていた。いかにも厳つい男達が運転しており、見かければすぐ只事ではないと分かるだろう。
「わお、お早いお着きで」
涼が苦笑したのは、明らかにバンが自分達の車を囲もうとしているのが分かったからだ。追い抜こうとした一台をアクセルを踏み込むことで牽制し、前に割り込ませないように走る。貸切になった道路で突如始まったカーレースに、車内は鋭い空気に変わった。
「こりゃ情報漏れてんな」
この仕事にはよくあることだ。ヨウは冷静に言う。仕事を取ってきた幸介の落ち度ではなく、依頼人側からの漏洩だろう。内部の人間が実は敵と繋がっていたなど、こんなきな臭い依頼を持ってくる輩にはよくあることだ。
ヨウは目を走らせ、バンの数を把握する。真後ろに一台、その後ろにさらに一台。左右に二台ずつ。合わせて六台のバンが自分達を囲もうと無茶な走りをしている。ヨウが窓を開けると、激しい風が入り込んでくる。それに倣って涼も運転席側の窓を全開にした。けたたましい風の音に、どれだけの速度が出ているのか体感させられる。
ヨウの隣を並走しようとしていたバンにチカリと光るものが見えた。ヨウは反射的に銃を構え、一撃で撃ち抜く。運転手の手元から拳銃が弾け飛んだのを見て、相手も自分達を排除するつもりだと確信した。運転の乱れたバンを避けるように涼はさらにアクセルを踏み込む。いくら高速道路とはいえ規制される速度はとうに超えている。
「やるー?」
風に負けないよう張り上げられた涼の声は弾んでいるようだった。ヨウはシートベルトを外すことで応える。涼の操作によって天井の窓が開かれた。相手は早速発砲を始めており、外装に弾が当たる硬い音がする。一般車と違い戦闘用に改造された車がその程度で揺らぐはずもない。
「へったくそ」
ヨウは座席の上に立ち、ニッと笑う。窓から頭を出した瞬間、素早く照準を合わせて一発を放った。
「こうやんだよ」
飛び出した弾丸は迷いなく空を裂き、大きな花を散らした。額の中心を撃ち抜かれてフロントガラスが赤く染まる。涼の隣をうろうろとしていた鬱陶しいバンは、運転手を失って進路を見失ったようだった。その後ろを走っていたバンに追突し、右側の二台が遠く置き去りにされていく。
「ヨウ! 処理しなきゃ!」
涼の声に、ヨウは潜るように頭を下げる。頭上を銃弾が掠めていったような気がするが、向こうの狙撃はヨウの動きに比べて随分と遅い。ヨウは久方ぶりに触れる対戦車用ミサイルを引っ張り出した。ギャグとしか思えない重みに笑って、車上に引っ張り上げる。なんとか追いすがろうとしながらも距離の空いてしまったバンに照準を合わせ、引き金を引いた。
強い反動に危うく腕が持っていかれそうになる。不安定な足場で撃つような代物ではない。ヨウがふらついた瞬間、涼の片腕が足を捕まえてくれたので放り出されずに済んだ。ミサイルはバンの周囲を巻き込んで派手に爆発した。爆風に思わず顔を覆う。削られた道路と跡形もなく吹き飛んだバンに威力の強さがうかがい知れた。
「ヒュウ」
涼が愉快そうに口角を上げる。ヨウも風に髪をいいように遊ばれながら、くつくつと笑ってしまった。手中にある危ない玩具の威力が凄すぎておかしくなってしまう。
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