裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を

水ノ灯(ともしび)

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最高速で死地を往く

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 常人であれば素性から絶対に探し当てられぬような場所で、密かに集まっている男達がいた。密会場所の家主であるのは、盗み出せぬものはないと言われる手腕から怪盗の名で知られているレプリカ。骨まで残さぬ闇金融である安居事務所の一人であり、潜入捜査から情報屋までこなす佐々木。影に潜み確実な暗殺を行うがゆえに忍者と呼ばれるN。そして小さな面倒事から組織の壊滅まで請け負う殺し屋、友幸商事の一人であるヨウ。
 錚々たるメンバーが集まり、四人で顔を突き合わせていた。彼らが集えば街の暗がりで生きている者達も震え上がるだろうという組み合わせだ。真剣な表情で向き合う彼らが囲んでいるのは潜入場所の地図でも銃器でもなく、買ったばかりのアナログゲームだった。

「今のアウトでしょ!?」

 レプリカが不満げに言うが、ヨウはヘラヘラと笑いながらそんなことはないと首を振る。佐々木もNもどちらにつくか考えあぐねているのは、曖昧なゲームのルールのせいであった。ウィットに富んだカード内容は飲み込むのが難しい。そもそもテストプレイがされていないこのゲームが悪いのだ。
 仕方がないからとその場を流して次のカードを引こうとした時、エンジン音が聞こえた。外から聞こえる車の音は真っ直ぐにこちらへ近づいてきている。そう簡単に迷いこむようなところではないはずだ。職業柄四人に緊張が走る。出来すぎた偶然だと思うよりは、何者かの襲撃であると警戒するのが常だ。
 戦う力のないレプリカを自然に庇うようにし、Nが懐から銃を抜く。窓に近づき様子を見に行く背中にヨウもついていった。佐々木はレプリカと共に息を殺して二人を見据える。そっと開けたカーテンの隙間からNとヨウは外を伺う。車のライトが一瞬眩しく照ったかと思えば、堂々と窓の真下に車が停められた。
 車のドアが開く瞬間、警戒心が膨れ上がる。いつでも応戦できるようにとセーフティーを外した銃に指をかける。運転席から出てきた人影は、迷いなく真っ直ぐにこちらを見上げた。
 目が合った瞬間、空気がしぼむように力が抜ける。ヨウとNは同時に銃を下げ溜め息を吐いた。車から出てきたのが見慣れた涼の姿で、警戒して損をしたと言わんばかりだ。

「ヨウー! 俺とデートしよ!」

 下からではほとんど見えないはずだが、カーテンの僅かな隙間から覗いているのが分かっているようで、こちらに呼びかけてくる。その声で来訪者の正体が分かり、佐々木とレプリカはヨウに目を向けた。二人ともなんだ涼か、と言いたげだ。

「はー……仕事かよ……」

 わざわざ車で迎えに来たのはデート、もとい仕事の誘いだったらしい。端末を見れば少し前に涼から迎えにいくとだけメッセージが入っていた。

「悪りぃ、行くわ」

 身支度を整えるヨウに、皆思い思いに声をかけて送り出す。急な仕事というものは少なくない。人が営みを続けている限り、今でなくてはならない事象はままあることだ。

「涼くんによろしくー」

 レプリカの間延びした声に了解と返してヨウは靴に足を押し込んだ。
 階段を一段飛ばしに降りていくと、車に寄りかかっていた涼が顔を上げた。わざと嫌そうにしてやると、へらりとした笑みが向けられる。

「みんなで集まってたのにごめん。幸介も友弥も別の仕事入っててさ」
「いーよ。急ぎなんだろ」

 ヨウは助手席に乗り込むと強く扉を閉めた。必要以上に大きな音は拗ねた仕草に見えたが、実際ヨウがそれ程気にしていないことを涼も分かっているようだ。涼だけで済む仕事ならばわざわざ来ないだろうし、二人で取り掛かるべき案件なのだろう。

「…………おいおい、相手は軍隊か?」

 ヨウはバックミラーに映った物を見て苦笑した。振り向いた先、後部座席には所狭しと銃器が積み込まれている。対戦車用ミサイルが天井につっかえている様子など笑ってしまいそうだ。笑い飛ばすには物騒すぎる光景なのだが。

「似たようなもんだよ。車に乗りながらの戦闘になりそう」

 涼はそう言うとアクセルを踏んで車を発進させた。どうりで見知らぬ車だと思った、とヨウは頬杖をついて前に目をやる。スモークの貼られた窓ガラスはいかにも怪しいが、こんな隠す気もない武器を積んでいたら当然だ。車の天井に窓が付いているのも、車内から狙撃ができるようにするためだろう。
 涼は仕事の説明をしながらハンドルを切っていく。目的地に向かいながら情報を詰め込むこともそう珍しくはない。いつだって現場は待ってくれない。刻一刻とぶつかるべき相手は動いている。
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