54 / 114
絢爛の宴
2
しおりを挟む
元気にやってんの、と口々に聞きながら彼女達は末っ子の来訪が嬉しくて仕方がない様子だ。オーナーも交えて昔話に花も咲く。
「あ、あの……さっきのショー、すごかったです!」
見習いなのか、まだ若い女が飲み物を配っている最中に涼へと憧憬の視線を寄越す。新しく冷えたグラスを取りながら涼はありがとうと笑んでみせた。それだけで頬を紅潮させる彼女に年長者から冷やかしが入る。同じく周囲の女性達も彼女にとっては憧れの対象なのだろう。ベテラン達の注目を浴びて気恥ずかしそうにしている。
「ポールダンサーさんなんですか?」
先程舞台で披露した演目をホールで給仕をしながら見ていたのだろう。んー、と涼は過去に想いを馳せて視線を巡らせる。
今夜は偶然ポールダンスの演目の穴埋めをしただけにすぎない。まだ若いというより幼く、知識だろうが技術だろうがいくらでも伸び代があった時期に涼はたくさんのことを教わった。同い年が計算式や歴史を頭に詰め込んでいる時に涼は性技やこういったパフォーマンスを磨いていたというだけの話だ。
「こいつは何でもできるよ、あたし達が直々に教えたからね」
隣の黒髪が自信たっぷりに言うので涼は照れ笑う。手塩にかけて育てたのだと胸を張るほど立派な人間にはなっていないが、こと技巧に関してはそれなりのものが身についているはずだ。
「男の女王様でトップ取ったのなんてこの子くらいでしょうよ」
オーナーもまたパイプをふかして誇らしげだ。この街で涼の名を知らぬ者はいないほどに人気のあった時期もあった。奴隷の調教からショーまでなんでもやっていた時もあったなあと涼は懐かしく思う。その割に誰とでも寝るせいで品格が落ちると苦言を呈されたのも今では笑い話だ。
すごい、と目を輝かせる若い女を仕事に追い払った後もまだ姦しく話は続く。そんな人気者があっさりと店を辞め、殺し屋になったというのだから聞きたいことは尽きないのだ。相変わらず夜遊びは続けているしこうして手伝いをすることもあるが、あくまで本業は変わらない。彼女達からしたらかわいい弟分を嫁に出したような気持ちなのだろう。
店に面倒を見てもらってはいたものの元々春を売っていたこともあってふらふらとしていた涼が一応足を洗って組織に所属しているというのだ。それももう何年も辞めていないというのだから興味は尽きない。涼の纏う雰囲気もだいぶ変わったのだ、一体どんな相手か聞かせろという話になる。
「こんな仕事してて怒られないの?」
短髪の女性があっさりとグラスを干して問う。下品だの下賤だのとはよく言われる職業ではある。しかし殺し屋に比べればなんと高貴な職業だろうと涼は笑い飛ばした。軽んじられるような生半可な仕事でないことなどここにいる全員が知っている。
「違う、束縛されたりしないわけ?」
見当違いだと低く笑って短髪は甘い香りのする煙草を咥えた。涼はテーブルに無造作に置かれていたライターで火をつける。軽く口が寄せられ、小さく火が灯った。
「もしかして俺が捕まってると思ってる? 好きにやらせてもらってるよぉ」
首輪でもつけられているんじゃないかと疑われているのが分かって涼はおかしそうに笑った。そんなに自分がひとところに留まるのが珍しいと思われているのだと思うと面白い。
確かに出会ったばかりの頃に詮索されたり引き止められたりしていたら今あの場所にはいなかったかもしれないと思う。初め、彼らとは仕事こそ共にしていたが生活はバラバラで口出しなどしてこなかった。その距離感が心地よくて一緒にいるうちに次第に帰る場所へと変わっていったのだ。今日も詳しいことは聞かずにいってらっしゃいと送り出してくれたのを思い出してふふっと笑いを漏らす。
涼があまりに柔和な表情を浮かべるので一同に驚きが走った。昔に比べてだいぶ雰囲気が変わったと感じていたが、見たことのない顔つきをするようになった。
「あ、あの……さっきのショー、すごかったです!」
見習いなのか、まだ若い女が飲み物を配っている最中に涼へと憧憬の視線を寄越す。新しく冷えたグラスを取りながら涼はありがとうと笑んでみせた。それだけで頬を紅潮させる彼女に年長者から冷やかしが入る。同じく周囲の女性達も彼女にとっては憧れの対象なのだろう。ベテラン達の注目を浴びて気恥ずかしそうにしている。
「ポールダンサーさんなんですか?」
先程舞台で披露した演目をホールで給仕をしながら見ていたのだろう。んー、と涼は過去に想いを馳せて視線を巡らせる。
今夜は偶然ポールダンスの演目の穴埋めをしただけにすぎない。まだ若いというより幼く、知識だろうが技術だろうがいくらでも伸び代があった時期に涼はたくさんのことを教わった。同い年が計算式や歴史を頭に詰め込んでいる時に涼は性技やこういったパフォーマンスを磨いていたというだけの話だ。
「こいつは何でもできるよ、あたし達が直々に教えたからね」
隣の黒髪が自信たっぷりに言うので涼は照れ笑う。手塩にかけて育てたのだと胸を張るほど立派な人間にはなっていないが、こと技巧に関してはそれなりのものが身についているはずだ。
「男の女王様でトップ取ったのなんてこの子くらいでしょうよ」
オーナーもまたパイプをふかして誇らしげだ。この街で涼の名を知らぬ者はいないほどに人気のあった時期もあった。奴隷の調教からショーまでなんでもやっていた時もあったなあと涼は懐かしく思う。その割に誰とでも寝るせいで品格が落ちると苦言を呈されたのも今では笑い話だ。
すごい、と目を輝かせる若い女を仕事に追い払った後もまだ姦しく話は続く。そんな人気者があっさりと店を辞め、殺し屋になったというのだから聞きたいことは尽きないのだ。相変わらず夜遊びは続けているしこうして手伝いをすることもあるが、あくまで本業は変わらない。彼女達からしたらかわいい弟分を嫁に出したような気持ちなのだろう。
店に面倒を見てもらってはいたものの元々春を売っていたこともあってふらふらとしていた涼が一応足を洗って組織に所属しているというのだ。それももう何年も辞めていないというのだから興味は尽きない。涼の纏う雰囲気もだいぶ変わったのだ、一体どんな相手か聞かせろという話になる。
「こんな仕事してて怒られないの?」
短髪の女性があっさりとグラスを干して問う。下品だの下賤だのとはよく言われる職業ではある。しかし殺し屋に比べればなんと高貴な職業だろうと涼は笑い飛ばした。軽んじられるような生半可な仕事でないことなどここにいる全員が知っている。
「違う、束縛されたりしないわけ?」
見当違いだと低く笑って短髪は甘い香りのする煙草を咥えた。涼はテーブルに無造作に置かれていたライターで火をつける。軽く口が寄せられ、小さく火が灯った。
「もしかして俺が捕まってると思ってる? 好きにやらせてもらってるよぉ」
首輪でもつけられているんじゃないかと疑われているのが分かって涼はおかしそうに笑った。そんなに自分がひとところに留まるのが珍しいと思われているのだと思うと面白い。
確かに出会ったばかりの頃に詮索されたり引き止められたりしていたら今あの場所にはいなかったかもしれないと思う。初め、彼らとは仕事こそ共にしていたが生活はバラバラで口出しなどしてこなかった。その距離感が心地よくて一緒にいるうちに次第に帰る場所へと変わっていったのだ。今日も詳しいことは聞かずにいってらっしゃいと送り出してくれたのを思い出してふふっと笑いを漏らす。
涼があまりに柔和な表情を浮かべるので一同に驚きが走った。昔に比べてだいぶ雰囲気が変わったと感じていたが、見たことのない顔つきをするようになった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる