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闇隠れの影
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こちらへ向かってくる足音が大きくなっていく。咄嗟に物陰に身を潜めて息を殺す。自分を探す足音はひとまず遠のいていったが喧騒は消えなかった。友弥は身を縮めてどうしようと逡巡する。
現在の状況は最悪だった。いつものように潜入と暗殺の仕事を請け負った友弥だったが、ターゲットの抹殺が成功したはいいものの警備に勘付かれてしまった。援軍を呼ばれてしまい、脱出経路が塞がれてしまっている。さらに会敵して接近戦になった時に通信機器を壊されてしまい、友弥は仲間に連絡する手段を失っていた。
助けを呼ばずに無理をしたことでひどく怒られてからはなるべく援助を求めるようにしていたのに。これではまた説教をされてしまうと嘆息する。少しでも身軽に動けるようにと武器は最低限しか持ってきていない。斬れ味の悪くなったナイフと、マガジン一つ分しか弾のない銃、そして少しの暗器が友弥の全装備だった。
このまま見つからずに逃げるのは流石の友弥でも難しく、正面突破するには多勢に無勢だ。連絡が滞れば異変に気付いた仲間が助けに来てくれるかもしれないがそれもいつになるかわからない。これがゲームならリセットしてやり直したいくらいの絶体絶命なのだ。
それでもなんとか生き延びなければならないと一番生存率の高いルートを探す。幸いこの建物は高くない。どうにかしてここから脱出してしまえばいくらでも隠れることができると算段を立てる。建物の構造は頭に叩き込んである。脳内に描き出した地図に効果的な警備を展開して敵の位置を予想する。その中で一番手薄になるところを弾き出し、なるべく敵に見つからないルートを導き出す。
どうやっても危ない道のりではあったが、背に腹は変えられない。せめてこれ以上相手の警備が整う前にと物陰を飛び出す。友弥が選んだのは三階から二階に向かう階段の踊り場にある窓からの脱出だった。真下は裏路地になっており、薄暗くて姿が紛れやすいはずだ。
廊下を巡回していた警備の背後を取り、ナイフで素早く首を掻き切った。死体を物陰に引き摺り込んですぐには見つけられないようにする。足音を殺し、身を屈めて歩いているとあちらこちらで自分を探している声がした。神経を張り詰めているせいで四方からはっきりと物音が聞こえてきて焦りが募る。
友弥は階段に誰もいないことを確かめるとできうる限りの速度で窓へと向かった。鍵を外して窓を開け、狭い隙間を通ってなんとか体を外へと出す。冷たい夜風が吹き付けてきて高さと相まってぞわりと体が縮こまった。友弥は窓枠に手をかけ、外壁を伝っていたパイプに足を乗せると元あったように窓を閉める。
「いたか?」
「いや、だがまだ遠くには行ってないはずだ」
頭を引っ込めた瞬間に室内から声が聞こえてくる。ほんの少しでも動作が遅れていたら見つかっていた。綱渡りで繋ぎ止めている命にゾクゾクと腹の底が震える。このスリルがやり甲斐でもあるが、今は恐怖が大きい。これがスニーク系のゲームならだから面白いのだと声高に言うが、実際の命がかかっていれば話は別だ。一度のミスが命取りだと思うと危機感で頭がジンと痺れる。だがそれも慣れた感覚だ。もっと危ない場面も越えてきたはずだと自分を叱咤して手足の感覚をしっかりと保つ。まだ冷静さは失われていない。
暗闇の中で目を凝らして足がかりを探すとなるべく早く、慎重に地面へと向かっていく。まさか外壁を伝っているとは思わないのだろう。壁一枚向こう側からは友弥を必死に探す声がしていた。
パイプ伝いにようやく地面に足がつき、油断が全くなかったとは言えない。外灯のなかったはずの裏路地が突如照らし出され、友弥はびくりと身を硬くする。咄嗟に光の範囲から逃れようと走り出したが数人いた見張りには見つかってしまったようだった。
「いたぞ!」
背後から声がして数人が集まってくる。センサー式の外灯があったのか、と後悔しても遅い。地図は覚えたがあまり土地勘のない場所を友弥は走っていく。狭い路地裏で大人数に囲まれてしまえばそれこそどうしようもできない。
現在の状況は最悪だった。いつものように潜入と暗殺の仕事を請け負った友弥だったが、ターゲットの抹殺が成功したはいいものの警備に勘付かれてしまった。援軍を呼ばれてしまい、脱出経路が塞がれてしまっている。さらに会敵して接近戦になった時に通信機器を壊されてしまい、友弥は仲間に連絡する手段を失っていた。
助けを呼ばずに無理をしたことでひどく怒られてからはなるべく援助を求めるようにしていたのに。これではまた説教をされてしまうと嘆息する。少しでも身軽に動けるようにと武器は最低限しか持ってきていない。斬れ味の悪くなったナイフと、マガジン一つ分しか弾のない銃、そして少しの暗器が友弥の全装備だった。
このまま見つからずに逃げるのは流石の友弥でも難しく、正面突破するには多勢に無勢だ。連絡が滞れば異変に気付いた仲間が助けに来てくれるかもしれないがそれもいつになるかわからない。これがゲームならリセットしてやり直したいくらいの絶体絶命なのだ。
それでもなんとか生き延びなければならないと一番生存率の高いルートを探す。幸いこの建物は高くない。どうにかしてここから脱出してしまえばいくらでも隠れることができると算段を立てる。建物の構造は頭に叩き込んである。脳内に描き出した地図に効果的な警備を展開して敵の位置を予想する。その中で一番手薄になるところを弾き出し、なるべく敵に見つからないルートを導き出す。
どうやっても危ない道のりではあったが、背に腹は変えられない。せめてこれ以上相手の警備が整う前にと物陰を飛び出す。友弥が選んだのは三階から二階に向かう階段の踊り場にある窓からの脱出だった。真下は裏路地になっており、薄暗くて姿が紛れやすいはずだ。
廊下を巡回していた警備の背後を取り、ナイフで素早く首を掻き切った。死体を物陰に引き摺り込んですぐには見つけられないようにする。足音を殺し、身を屈めて歩いているとあちらこちらで自分を探している声がした。神経を張り詰めているせいで四方からはっきりと物音が聞こえてきて焦りが募る。
友弥は階段に誰もいないことを確かめるとできうる限りの速度で窓へと向かった。鍵を外して窓を開け、狭い隙間を通ってなんとか体を外へと出す。冷たい夜風が吹き付けてきて高さと相まってぞわりと体が縮こまった。友弥は窓枠に手をかけ、外壁を伝っていたパイプに足を乗せると元あったように窓を閉める。
「いたか?」
「いや、だがまだ遠くには行ってないはずだ」
頭を引っ込めた瞬間に室内から声が聞こえてくる。ほんの少しでも動作が遅れていたら見つかっていた。綱渡りで繋ぎ止めている命にゾクゾクと腹の底が震える。このスリルがやり甲斐でもあるが、今は恐怖が大きい。これがスニーク系のゲームならだから面白いのだと声高に言うが、実際の命がかかっていれば話は別だ。一度のミスが命取りだと思うと危機感で頭がジンと痺れる。だがそれも慣れた感覚だ。もっと危ない場面も越えてきたはずだと自分を叱咤して手足の感覚をしっかりと保つ。まだ冷静さは失われていない。
暗闇の中で目を凝らして足がかりを探すとなるべく早く、慎重に地面へと向かっていく。まさか外壁を伝っているとは思わないのだろう。壁一枚向こう側からは友弥を必死に探す声がしていた。
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「いたぞ!」
背後から声がして数人が集まってくる。センサー式の外灯があったのか、と後悔しても遅い。地図は覚えたがあまり土地勘のない場所を友弥は走っていく。狭い路地裏で大人数に囲まれてしまえばそれこそどうしようもできない。
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