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なんでもない話
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殺し屋稼業に営業時間などあってないようなもので、事務所の電話は不定期に鳴っている。時間外ならば幸介の携帯にかかるようになっているため実際事務所で電話番などそうそうやらなくてもいいのだ。幸介は大体事務所で情報整理や依頼の吟味などをしているが、今夜は早々に仕事を切り上げてリビングでのんびりとしていた。もちろん他の仲間も手伝わないわけではないが、幸介の勤勉さにはとても敵わない。
今日もヨウと涼はゲームで対戦をしているらしい。楽しげな様子で盛り上がっている二人を尻目に友弥はソファーでうつらうつらとしている。
「はい俺の勝ち!」
ヨウは満面の笑顔でコントローラーを振り上げる。どうやらパーティーゲームを二人でやっていたらしい。せっかく四人いるのになぜ二人で遊んでいるのか。幸介は友人とメッセージのやり取りをしているし、友弥はほとんど夢の中だ。ヨウの誘いに乗り気になったのが涼だけだったということだろう。
「ヨウってこういうゲーム好きだよな」
時々ゲーム画面を見ていた幸介が口を挟む。結果発表前に負けを分かっていた涼はあまり騒ぐこともなく、だが悔しそうな顔でヨウを見る。
「確かに。一人でやっても楽しそうだし」
ボードゲームをコンピューター相手に一人でやるのは寂しかろうと思うのだが、不思議なことにヨウは時々遊んでいるらしい。ヨウは大抵のミニゲームが得意だからだろうか、となんとなく涼は思う。
「あー……やっぱデジタルだから?」
ヨウはゲーム画面をタイトルに戻しながら首を傾げる。その答えに涼と幸介も遅れて首を傾げた。どういう意味だかうまく掴みきれない。アナログゲームとしてボードゲームで遊んだことはあるが、ヨウはやはり強かった印象がある。
特に何かを賭けて遊ぶと負けたのを見たことがない気がした。それはカードゲームでも麻雀でも同じことだ。
「ヨウって本当にゲーム強いし運もいいよね」
涼が羨ましそうに言う。ここぞという時の引きがヨウはあまりに強いのだ。涼はだったらカードで勝負だと言われてヨウに勝った記憶がなかった。時たま勝つこともあるが、それは何も賭ける物がない遊びの時ばかりのような気がする。
「子供の頃はテレビゲームなんてやんなかったしなあ。楽しいわ」
ヨウはカチカチとコントローラーを操作する。その横顔はゲームに夢中になっている子供そのものだ。
「あ、俺ヨウの昔の話とか聞いたことないかも」
もう寝てしまったのだろうかと思っていた友弥が不意に口を開いた。眠たげな目をする友弥の方を三人とも振り返る。
「俺も」
「俺もだ」
幸介と涼も重ねた。過去の話など掘り返すことでもないからと今まで聞いたことはなかった。大抵殺し屋になる奴の過去など聞かない方が無難だろう。もう何年もの付き合いになるからこそあっさりと聞くことができた。
「昔? 普通に幸せに育ったけど」
ヨウは怪訝な顔つきで言う。友弥や幸介のように虐げられて育ったわけでもなければ、涼のように歪んで育ったわけでもない。至って普通にここまで来たのだとヨウは別に話すこともなさそうに言う。それが話をはぐらかそうとしているわけではなく何の含みもない言葉だったので涼は興味深そうにねだる。
「普通に育ったのに殺し屋になるわけないじゃんー」
むしろその方が怖いと呆れてみせればヨウは困ったように眉根を寄せた。さて何を話せばいいやらと思っているのだろう。そして自分の話をする気恥ずかしさと面倒さも同時に感じているようだった。
しかし期待するような目に導かれて仕方なさそうにテレビの電源を落とす。無音になってしまって余計に気まずくなったのか、ヨウはソファーに体を預けて意識的に軽い口調で話し始めた。
今日もヨウと涼はゲームで対戦をしているらしい。楽しげな様子で盛り上がっている二人を尻目に友弥はソファーでうつらうつらとしている。
「はい俺の勝ち!」
ヨウは満面の笑顔でコントローラーを振り上げる。どうやらパーティーゲームを二人でやっていたらしい。せっかく四人いるのになぜ二人で遊んでいるのか。幸介は友人とメッセージのやり取りをしているし、友弥はほとんど夢の中だ。ヨウの誘いに乗り気になったのが涼だけだったということだろう。
「ヨウってこういうゲーム好きだよな」
時々ゲーム画面を見ていた幸介が口を挟む。結果発表前に負けを分かっていた涼はあまり騒ぐこともなく、だが悔しそうな顔でヨウを見る。
「確かに。一人でやっても楽しそうだし」
ボードゲームをコンピューター相手に一人でやるのは寂しかろうと思うのだが、不思議なことにヨウは時々遊んでいるらしい。ヨウは大抵のミニゲームが得意だからだろうか、となんとなく涼は思う。
「あー……やっぱデジタルだから?」
ヨウはゲーム画面をタイトルに戻しながら首を傾げる。その答えに涼と幸介も遅れて首を傾げた。どういう意味だかうまく掴みきれない。アナログゲームとしてボードゲームで遊んだことはあるが、ヨウはやはり強かった印象がある。
特に何かを賭けて遊ぶと負けたのを見たことがない気がした。それはカードゲームでも麻雀でも同じことだ。
「ヨウって本当にゲーム強いし運もいいよね」
涼が羨ましそうに言う。ここぞという時の引きがヨウはあまりに強いのだ。涼はだったらカードで勝負だと言われてヨウに勝った記憶がなかった。時たま勝つこともあるが、それは何も賭ける物がない遊びの時ばかりのような気がする。
「子供の頃はテレビゲームなんてやんなかったしなあ。楽しいわ」
ヨウはカチカチとコントローラーを操作する。その横顔はゲームに夢中になっている子供そのものだ。
「あ、俺ヨウの昔の話とか聞いたことないかも」
もう寝てしまったのだろうかと思っていた友弥が不意に口を開いた。眠たげな目をする友弥の方を三人とも振り返る。
「俺も」
「俺もだ」
幸介と涼も重ねた。過去の話など掘り返すことでもないからと今まで聞いたことはなかった。大抵殺し屋になる奴の過去など聞かない方が無難だろう。もう何年もの付き合いになるからこそあっさりと聞くことができた。
「昔? 普通に幸せに育ったけど」
ヨウは怪訝な顔つきで言う。友弥や幸介のように虐げられて育ったわけでもなければ、涼のように歪んで育ったわけでもない。至って普通にここまで来たのだとヨウは別に話すこともなさそうに言う。それが話をはぐらかそうとしているわけではなく何の含みもない言葉だったので涼は興味深そうにねだる。
「普通に育ったのに殺し屋になるわけないじゃんー」
むしろその方が怖いと呆れてみせればヨウは困ったように眉根を寄せた。さて何を話せばいいやらと思っているのだろう。そして自分の話をする気恥ずかしさと面倒さも同時に感じているようだった。
しかし期待するような目に導かれて仕方なさそうにテレビの電源を落とす。無音になってしまって余計に気まずくなったのか、ヨウはソファーに体を預けて意識的に軽い口調で話し始めた。
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