裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を

水ノ灯(ともしび)

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危うきに近寄る

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 夕闇が迫り、薄暗い街をヨウと幸介は歩いていた。治安の悪くごたごたとしたこの街を夜歩く者は少ない。繁華街の方は平日だろうと随分賑やかだが彼らが住んでいる場所は特に人通りが少なかった。
 二人は繁華街から自宅へとぶらぶらと向かっている。ちょっとした仕事を片付けてきたのだ。車を出すほどの距離でもなかったので徒歩で通勤したというところだろうか。基本的に彼らの仕事は事務所に直接来てもらって依頼を受けているが、時々今日のようにこちらから出向いて話を聞く時もある。幸介は交渉人でヨウはボディーガードと言ったところか。
 実際ヨウはソファーに座ることなく、部屋の隅から相手の動向に気を配っていた。幸い怪しい動きは何もなく話はまとまった。今幸介のパーカーのポケットの中には前金の詰まった封筒が入っている。

「あいつら飯どうするって?」

 幸介は歩きながらスマートフォンをいじっているヨウに問う。事務所の電話番を頼んだ友弥と涼から返信はあっただろうか。んー、とヨウは指を動かしながら緩く返事をする。

「友弥が鍋作ってるらしいって」

 涼から返事が来ていた。今日は少し冷える。鍋はさぞ美味しいことだろう。ヨウは上機嫌にスタンプを返した。いいねえ、と幸介も笑みを見せる。外食やデリバリーで食事を済ませることが多いが、時々友弥や幸介が料理をするのが四人の楽しみであった。
 だったら早く帰ろうと足取りが軽くなったところでふと視線を感じて二人ともそちらに目を投げる。道の先、進行方向に明らかに素行の悪そうな服装をした三人組が睨みを利かせていた。しっかりと目が合ってしまったことにヨウはげんなりとする。こういった輩が口を開けば言うことは決まっているのだ。

「何見てんだてめぇ、ここ通りたきゃ有り金全部置いてけ」

 教科書通りの台詞と威圧的な視線だ。ヤンキーとか怖いし、と嘯いてヨウはさりげなく幸介の陰に入る。三人分のギラついた視線はそれだけで暴力的だ。髪色派手にしてればかっこいいと思ってんじゃねえよと赤髪の自分を棚上げしてヨウは早々に戦線を離脱した。
 歩いてくる三人を幸介はやれやれと言った具合で見やる。じろじろと品定めするように睨みつけながら不良達は大股で迫ってくる。幸介は怯えることも後ずさることもなくただその視線を受けていた。

「悪いけど通してくんない? 喧嘩とかする気ないから」

 幸介は普段通り親しみのある口調で言うが、不良達には通らなかったようだった。むしろ圧倒的に不利な状況で何を言っているのかと嘲笑が返ってくる。喧嘩をするしないを決められる立場にないだろうとニヤついた顔を見せられると幸介も不愉快そうに片眉を上げる。

「おいニイちゃん、痛い目見たくなかったらさっさと金出しな」

 不良の視線は膨らんだパーカーのポケットに向けられる。まさかその中に札束が入っているとは思わないのだろう。幸介もそれがおかしかったのかフッと笑みを零した。ここでぽんと百万ほど渡してやったら全員唖然とすることだろう。しかし不良達はその笑いを馬鹿にされているととったらしい。

「てめえ舐めてんじゃねえぞ」

 ずいっと幸介に近づき、目を剥いて威嚇してくる。こういった不良にとって舐められないのは何よりも大切なことのようだ。幸介が怯まないのを見て更に表情を険しくして詰め寄ってくる。幸介は相変わらず呆れたような目を向けるだけだ。

「いいからどいてくんない?」

 ため息混じりの言葉についに先頭にいた男が耐えられなくなったようだった。てめえ、と怒号をあげて殴りかかってくる。振りかぶった拳が宙を裂き、思い切り幸介の左頬に吸い込まれていった。勢いのままに幸介の首は飛ばされそうなほど逆方向に弾かれた。ぐらりと体も揺れ、その場でたたらを踏む。
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