裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を

水ノ灯(ともしび)

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共同戦線、異状のみ

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 いたぞ、と叫ぶ声が聞こえてくる。残念ながら手榴弾は品切れだ。ヨウは正確な射撃で数を減らすが弾丸の雨あられを食らっては正面からは戦えない。銃相手ならば接近戦に持ち込む方が有利だが、こちらにはレプリカがいるのだ。彼を放って突っ込んではいけない。どうにか策を巡らせる。どこか安全な場所にレプリカを隠し、あの弾幕を一瞬でも止められれば、と視線を巡らせる。

「あっ……」

 その目が止まった。そして不思議そうにしているレプリカを見ると、天才的発想だとばかりに目が輝く。レプリカは嫌な予感に身を引こうとしたが一瞬先にヨウの手が伸びていた。

「ちょ、なに、うわっ!」

 引っ張られて体勢を崩したかと思えば、荷物のように抱き上げられて狭苦しいところに押し込められていた。何が起きたか分からないままにレプリカが入れられたのは、通路の端に放置されていた清掃用カートだった。白い布で囲まれた空間にモップやブラシと相乗りすることになったレプリカは抜け出すこともできずにもがく。

「いっけーー!」

 ヨウは景気よく叫んだかと思うと思い切り台車の取っ手を蹴り飛ばしていた。足の裏で勢いよく押されたカートは凄まじい速度で敵の塊に吸い込まれていく。

「ギャーーーーー!!」

 視界もはっきりしない中、ジェットコースターのように動き出したカート内ではレプリカの絶叫がほとばしる。急にカートが迫ってきた敵達もたまったものではなく、蜘蛛の子を散らしたようにわたわたと逃げ始めた。それでも狭い通路内では避け切ることができず、派手な衝突音と共に逃げ遅れた一人にぶつかってしまう。レプリカは大きな衝撃とともに急に止まったカートの中でガツンとモップに頭をぶつけていた。
 そんな隙があれば飛び込んでいくには十分だった。ヨウは大慌てする相手を一人一人撃ち殺していく。向けられた銃を蹴り飛ばして額を撃つ。糸が切れたように力を失った体を盾に銃弾を受けた。ぶつけた死体ごと2発続けて食らわせる。背後に迫っていた敵を振り返りざまに回し蹴りで壁にぶつけ、首元を押さえてこめかみから一発撃ち抜いた。噴き出した血が壁に不可思議な模様を描くのも気にせず、すぐに頭を伏せて銃弾を避ける。見上げるような角度で銃弾を撃ち込むとぐらりと男が倒れた。しかしその後ろからまた新たな銃口が覗く。
 なかなか途切れぬ攻撃にヨウに焦りが見えた。もうこれ以上マガジンの換えはない。残弾はたったの2発になっていた。咄嗟に一発を放つ。最後の弾丸もすぐになくなってしまうだろう。またこちらを見据える銃口に気づいて引き金を引く。遂に残弾がなくなるが敵影は消えない。どうする、と冷ややかな感覚が脳を走った。

「ヨウくん!」

 そこに鋭い声が飛び込んでくる。目を走らせれば横倒しになったカートから上半身だけ這い出たレプリカが見えた。こちらに向かって投げられたものを視界に捉え、手を伸ばす。みるみる大きくなった黒い塊はすんなりとヨウの手に馴染んで収まった。投げ渡された銃のセーフティーを外し、すぐに発砲する。数発撃てば遂に立っている者はいなくなり、シンとした静けさが戻った。はあ、とヨウはひとつ肩で息を吐く。

「レプさんナイスタイミング」

 まさかあの土壇場でレプリカの助けがあるとは思わなかった。ヨウは満面の笑みでレプリカに近づいていく。普段から銃を持たないレプリカにはヨウの残弾数など分かるはずもないのに、焦った横顔を見て感じるものがあったのだろうか。そんなことを考えていれば、のそのそとカートから出てきたレプリカにキツく睨みつけられた。

「ちょっと! これすっごく怖かったんだけど!」

 守る気ないでしょ、と不満げに言われてヨウは苦笑する。それだけ悪態がつければ問題はなさそうだ。レプリカが無傷なことを確かめてヨウはやっと銃をしまい込んだ。

「でも無事じゃん」

 あっけらかんと言えばレプリカは信じられないと言うようにため息をついたが、周りの死屍累々を見て溜飲を下げたようだった。

「まあ、一応仕事終わったからいいけど」

 お疲れ様、と労われてヨウは満足げに笑ってみせる。近日中には今日倒された下っ端だけでなく、組織自体が潰されることだろう。大暴れした痕跡は依頼主にうまいこと消してもらおうと全て投げ出して二人は帰路につく。

「送ってこっか? 涼からバイク勝手に借りてきたからさあ。まあ俺今日初めて乗ったんだけど」
「え、俺に死ねって言ってる?」

 ゲームで散々乗っているから大丈夫だという理由でヨウはバイクで駆けつけたらしい。勘がいいのか簡単に乗りこなせたようだが、任務後に帰り道で事故死などあまりに馬鹿らしい。
 だがこの男が乗れというならきっと平気だろうと根拠もなく思ってしまって大型バイクの後ろに跨る。自分よりも細い背中が今夜何度も守ってくれたことを思うと信じて身を預けてしまう。

「あ、二人乗りはマジで初めてだから事故ったらごめん」

 走り出してからそんなことを言うヨウが少しふらついたような気がして今すぐ下ろせと叫ぶことになるのだった。
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