裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を

水ノ灯(ともしび)

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共同戦線、異状のみ

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「そっち右、その次は左ね」

 レプリカは道順を指示しながらヨウをセキュリティールームに誘導した。ヨウは周囲を警戒しながらその通りに進んでいく。数度見張りに遭遇したが、ヨウは発砲することもなく殴りつけて気絶させてしまった。レプリカは距離をとって眺めながら倒れた男達の体を跨いで進んでいく。
 やがてセキュリティールームに再び辿り着くことができた。見張りは二人いたが、ヨウはその長い足で側頭部を蹴り抜いたかと思うと銃底を叩きつけて数秒でどちらも倒してしまった。手慣れているなあと思いながらレプリカはロックを解除する。

「下がってて」

 ヨウは珍しく真剣な顔つきでレプリカを物陰に隠すと、扉を開けた。その瞬間侵入者を排除しようと一斉に銃口が向けられる。レプリカからは中の人数が見えなかったが、何事か叫ぶ声と銃を構える重々しい音が鳴った。ヨウは今度は迷わず引き金を引く。銃の反動によってヨウの腕が何度か揺れるのが見える。室内から発砲されたのかヨウの背後で銃弾が壁に当たって火花が散った。どさどさと重たい音が鳴り、発砲が止む。ヨウは室内に入り、生き残りがいないことを確認したようだった。

「終わったよ」

 ヨウは何食わぬ顔をしてレプリカを呼ぶ。セキュリティールームに踏み込めば武装した男達が折り重なるように倒れていた。どの男も一発で額を撃ち抜かれて絶命している。
 レプリカはいくつものモニターに監視カメラの映像を映し出している巨大な機械に向き合う。内ポケットから USBを取り出すと挿入口に差し込んだ。これで簡単にハッキングが行われている筈だ。
 これは天才と名高い世良印の発明品だ。銃だけでなく、こうした発明品も彼の得意とするところだった。詳しい仕組みはレプリカにはよく分からないのだが。

「扉の前に2、3……東の通路に1……」

 移り変わる監視カメラの映像を見ながらヨウは真剣な目つきで呟いている。どうやら見張りの数を確認しているようだった。同時に複数のモニターを確認しつつ、手元では慣れた仕草でマガジンを入れ替えている。ジャキッとマガジンが入った音と同時に、セキュリティールームの権限がレプリカへと移った。
 レプリカは無数に並んだボタンを操作して厳重だったセキュリティーを無効にしてしまう。資料がある部屋のキーは一部の上役しか持っていないため複製できなかったのだ。しかしそのロック自体を無効にしてしまえば何の意味もない。
 ヨウはレプリカの行こうとしている部屋への道筋を素早く確認する。レプリカがいくつかシャッターを下ろして分断したおかげで敵の数が減った。これならレプリカを庇いながらでも一人で捌けそうだ。
 レプリカはUSBを抜き取るとヨウを見る。準備は終わったと示したのが伝わったようで、ヨウは外の安全を確認すると先を歩き出した。ヨウが道を切り開いてくれるのでレプリカはただ後ろをついていけばいい。一度銃声を出してしまったからか、ヨウは目当ての扉の前にいる見張り達をあっさりと撃ち抜いて部屋に入った。中には誰もいなかったようで合図を受けてレプリカも後に続く。
 パソコンの電源を入れ、USBによってパスワードを突破した。あとは情報の入ったファイルを探し出して抜き出すだけだ。ヨウが入り口で警備をし、レプリカは右へ左へと視線を動かしてファイルを探す。膨大に並んだファイルはどれもタイトルが暗号化されているようでなかなか目当てのものに辿り着けない。もどかしい思いをしていると、ヨウがひりついた空気を放った。

「……レプさん、急いで」

 低く言われた言葉尻に被って足音が向かってくるのが聞こえる。完璧に分断したはずだったにも関わらず、こちらに向かってくる数は1や2では済まない。援軍が来たのかと冷や汗が流れる。
 レプリカはファイルを探すのを諦めて全てのデータをコピーすることを選んだ。1%。データの読み込みが始まる。銃声が鳴り、ヨウの銃口が光った。扉に身を隠しながらヨウは迫り来る相手を牽制するように銃弾をばら撒く。

「ねぇー!めっちゃ数多いんだけど!」

 先程までの落ち着いた様子はどこにいったのか、ヨウは声を荒げてレプリカに文句を言ってくる。焦った様子でパソコンを見つめるレプリカの瞳に画面が映り込んでいた。ようやく20%に達したところだ。まだ終わりそうにはないがヨウ一人でいつまで持ちこたえられるのだろう。

「がんばって!」

 レプリカが背後で無責任に声援を送ると、もおー!と拗ねた様子を見せる。盾にした扉に銃弾の雨が注がれているようだった。少しずつ減ってはいるのだろうが、それでも数で押されてしまえばいくらヨウでも危険だ。

「あとどんくらい!?」

 ヨウの声にも焦燥が感じられる。

「半分!」
「ばかーーーっ!」

 正直に答えれば、子供のような罵倒が返ってきた。そうは言ってもレプリカにはどうしようもない。がんばれがんばれとパソコンとヨウを応援することしかできないのだから。せめてこの状況を突破する案を出そうとするが、あいにくこの部屋には他に扉どころか窓もない。ヨウがやられてしまえばレプリカには逃げ場すらないということだ。
 ヨウは手早くマガジンを交換する。先程は回収していたマガジンも、今は取り外したものを床に捨てる程には余裕がないようだった。データの読み込みは80%まできている。あとちょっと、とレプリカが声をかけるがヨウからは返事がない。かなり近くまで迫られているのか切羽詰まった横顔だった。早く、と念じながら1mmずつ読み込みバーが伸びていくのを見守る。98、99、100、とついに伸びきった。間髪入れずにUSBを引き抜く。

「終わった!」

 レプリカの声を背中に受けてヨウは安堵の表情を浮かべる。言いはしなかったがもう30秒遅ければ危ないところだったのだ。

「走れーーーっ!」

 ヨウの声に呼ばれてレプリカは駆け出す。ヨウが相手の足元に転がしたものが目に入る。瞬間、駆ける足がさらに早くなった。全力で退避した二人の後ろでカッと光が炸裂する。二人同時に思い切り前へ跳んだ。背中を押し出すようにして爆風が舞う。倒れ込んだ体の上をブワッと熱が撫でていった。
 レプリカに覆い被さるように頭を押さえつけていた手を離し、ヨウは振り返る。背後ではなかなか凄惨な光景が広がっており、立っているものは誰もいなかった。あの規模ならばパソコンも木っ端微塵になってしまっただろう。手榴弾を持っていたはいいものの、守るものがあったせいで使うことができずに困らされていたのだ。

「いったぁ……」

 ヨウに引き倒されて地に伏せたレプリカがギシギシと立ち上がる。ヨウが盾になったお陰で爆風の影響はなかったが、思い切りぶつけた額が赤くなっていた。

「やるなら言ってよ!」
「そんな余裕なかったの!」

 ムスッとした表情で睨み上げるレプリカに、ヨウも言い返す。子供じみた言い合いをしている後ろから嫌な音が聞こえ、二人はそろーっとそちらに首を向けた。ドカドカと響く音は新たな追っ手を示していた。ひぇ、とレプリカが弱い悲鳴を漏らす。ヨウはひとつ舌打ちをして銃を構えた。
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