裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を

水ノ灯(ともしび)

文字の大きさ
上 下
14 / 114
幼きもの

1

しおりを挟む
 各々の食事が終わった後、皆それぞれの時間を過ごしていた。リビングに残っているのはそれぞれゲーム機片手にソファーでくつろいでいる涼と幸介。そしてカーペットに座り込んでテレビに釘付けになっているヨウだ。録画予約はされていたはずだが、放送時間になるとこうして真剣にドラマに見入っている。物語も終盤のようで、役者の演技にも熱が入っていた。
 子役の声がするのでどうやら家族もののようだ。涼はゲーム画面を見たままなんとなく把握する。親と子が引き離される悲痛な声をBGMに画面内でアイテムを拾い集めた。少しわざとらしすぎるな、と今までの流れを知らない涼は冷めた感想しか持てなかったが。

「………ぐすっ」

 随分近いところで聞こえた声に、涼は思わず顔を上げる。音の出所を探して目をやれば、膝を抱えた赤い後ろ頭が鼻をすするたびに揺れていた。日常でほとんど涙を見せることのないヨウは、ドラマや映画に関してはとんと涙腺が緩い。

「ヨウー、もう行くよ?」

 自室から出た友弥がリビングに入ってきて声をかける。ちょうどドラマも終わったようで、次回の予告が流れ始めていた。ヨウは涙声で返事をすると名残惜しそうに立ち上がる。振り返った顔は目尻が赤くなっていてまだ瞳が潤んでいた。

「殺し屋がこんなんで泣くなよな」

 幸介が呆れたように苦笑し、ヨウはうっせえとぶっきらぼうに言う。友弥はきょとんと首を傾げ、テレビに流れている予告を見て納得した。

「仕事大丈夫?」

 友弥は平坦な声で聞く。テレビ画面の中では引き離された家族が再び一緒になろうと奮闘しているようだ。素晴らしき家族愛、涙が出るのも仕方があるまい。ただ彼らは殺しを生業としていて、時には幸せな家族を引き裂かねばならないこともある。例えば今夜の仕事のように。

「別に。仕事は仕事だし」

 ヨウはあっさりとそう言ってのけた。分かった上で聞いていた友弥は、少し頷いて見せただけだ。
 ヨウはテーブルの上に置いたままだった仕事の要項を最終確認する。珍しいことにターゲットは一般家庭の夫婦だった。依頼人は個人的な恨みがあるのだそうだが、それは依頼を受けた幸介だけが知っていればいいことで実行する側には何ら関係はない。
 騒ぎを起こさずに終わらせたいため、主に友弥が仕事をする。ヨウは補佐と、免許を持っていない友弥の代わりの運転手だ。
 家族構成を見れば、息子が一人いると記されていた。10歳。ちょうどドラマの子役と同じくらいの年齢だ。

「子供はどうすんの」

 ヨウが資料をめくって仕事場までの道筋を確認しながら幸介に聞く。

「任せるわ」

 端的な返事に、あーいとヨウは了解の意を示して資料をテーブルに放った。現場の状況に応じて判断しろということだ。友弥はとっくに家の構造からターゲットのプロフィールまで目を通し終えているので改めて確認することもない。仕事に必要な道具を身につけているかだけを確かめて玄関に向かった。

「じゃあいってくるね」
「いってらっしゃーい」

 友弥が振り返りざまに言うと、間延びした幸介と涼の声が揃った。ヨウも車の鍵を手にして友弥の後ろに続く。
 外に出ると夜であっても蒸したような暑さが広がっていて、思わずため息が出た。昼に比べればマシになったがぬるい風が絡みついてくる。

「早く終わらせよーぜ」

 手慰みに車の鍵を弄びながら言うと、元よりそのつもりだと友弥はのんびりと返した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

紅屋のフジコちゃん ― 鬼退治、始めました。 ―

木原あざみ
キャラ文芸
この世界で最も安定し、そして最も危険な職業--それが鬼狩り(特殊公務員)である。 ……か、どうかは定かではありませんが、あたしこと藤子奈々は今春から鬼狩り見習いとして政府公認特A事務所「紅屋」で働くことになりました。 小さい頃から憧れていた「鬼狩り」になるため、誠心誠意がんばります! のはずだったのですが、その事務所にいたのは、癖のある上司ばかりで!? どうなる、あたし。みたいな話です。 お仕事小説&ラブコメ(最終的には)の予定でもあります。 第5回キャラ文芸大賞 奨励賞ありがとうございました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

よんよんまる

如月芳美
キャラ文芸
東のプリンス・大路詩音。西のウルフ・大神響。 音楽界に燦然と輝く若きピアニストと作曲家。 見た目爽やか王子様(実は負けず嫌い)と、 クールなヴィジュアルの一匹狼(実は超弱気)、 イメージ正反対(中身も正反対)の二人で構成するユニット『よんよんまる』。 だが、これからという時に、二人の前にある男が現われる。 お互いやっと見つけた『欠けたピース』を手放さなければならないのか。 ※作中に登場する団体、ホール、店、コンペなどは、全て架空のものです。 ※音楽モノではありますが、音楽はただのスパイスでしかないので音楽知らない人でも大丈夫です! (医者でもないのに医療モノのドラマを見て理解するのと同じ感覚です)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...