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幼きもの
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各々の食事が終わった後、皆それぞれの時間を過ごしていた。リビングに残っているのはそれぞれゲーム機片手にソファーでくつろいでいる涼と幸介。そしてカーペットに座り込んでテレビに釘付けになっているヨウだ。録画予約はされていたはずだが、放送時間になるとこうして真剣にドラマに見入っている。物語も終盤のようで、役者の演技にも熱が入っていた。
子役の声がするのでどうやら家族もののようだ。涼はゲーム画面を見たままなんとなく把握する。親と子が引き離される悲痛な声をBGMに画面内でアイテムを拾い集めた。少しわざとらしすぎるな、と今までの流れを知らない涼は冷めた感想しか持てなかったが。
「………ぐすっ」
随分近いところで聞こえた声に、涼は思わず顔を上げる。音の出所を探して目をやれば、膝を抱えた赤い後ろ頭が鼻をすするたびに揺れていた。日常でほとんど涙を見せることのないヨウは、ドラマや映画に関してはとんと涙腺が緩い。
「ヨウー、もう行くよ?」
自室から出た友弥がリビングに入ってきて声をかける。ちょうどドラマも終わったようで、次回の予告が流れ始めていた。ヨウは涙声で返事をすると名残惜しそうに立ち上がる。振り返った顔は目尻が赤くなっていてまだ瞳が潤んでいた。
「殺し屋がこんなんで泣くなよな」
幸介が呆れたように苦笑し、ヨウはうっせえとぶっきらぼうに言う。友弥はきょとんと首を傾げ、テレビに流れている予告を見て納得した。
「仕事大丈夫?」
友弥は平坦な声で聞く。テレビ画面の中では引き離された家族が再び一緒になろうと奮闘しているようだ。素晴らしき家族愛、涙が出るのも仕方があるまい。ただ彼らは殺しを生業としていて、時には幸せな家族を引き裂かねばならないこともある。例えば今夜の仕事のように。
「別に。仕事は仕事だし」
ヨウはあっさりとそう言ってのけた。分かった上で聞いていた友弥は、少し頷いて見せただけだ。
ヨウはテーブルの上に置いたままだった仕事の要項を最終確認する。珍しいことにターゲットは一般家庭の夫婦だった。依頼人は個人的な恨みがあるのだそうだが、それは依頼を受けた幸介だけが知っていればいいことで実行する側には何ら関係はない。
騒ぎを起こさずに終わらせたいため、主に友弥が仕事をする。ヨウは補佐と、免許を持っていない友弥の代わりの運転手だ。
家族構成を見れば、息子が一人いると記されていた。10歳。ちょうどドラマの子役と同じくらいの年齢だ。
「子供はどうすんの」
ヨウが資料をめくって仕事場までの道筋を確認しながら幸介に聞く。
「任せるわ」
端的な返事に、あーいとヨウは了解の意を示して資料をテーブルに放った。現場の状況に応じて判断しろということだ。友弥はとっくに家の構造からターゲットのプロフィールまで目を通し終えているので改めて確認することもない。仕事に必要な道具を身につけているかだけを確かめて玄関に向かった。
「じゃあいってくるね」
「いってらっしゃーい」
友弥が振り返りざまに言うと、間延びした幸介と涼の声が揃った。ヨウも車の鍵を手にして友弥の後ろに続く。
外に出ると夜であっても蒸したような暑さが広がっていて、思わずため息が出た。昼に比べればマシになったがぬるい風が絡みついてくる。
「早く終わらせよーぜ」
手慰みに車の鍵を弄びながら言うと、元よりそのつもりだと友弥はのんびりと返した。
子役の声がするのでどうやら家族もののようだ。涼はゲーム画面を見たままなんとなく把握する。親と子が引き離される悲痛な声をBGMに画面内でアイテムを拾い集めた。少しわざとらしすぎるな、と今までの流れを知らない涼は冷めた感想しか持てなかったが。
「………ぐすっ」
随分近いところで聞こえた声に、涼は思わず顔を上げる。音の出所を探して目をやれば、膝を抱えた赤い後ろ頭が鼻をすするたびに揺れていた。日常でほとんど涙を見せることのないヨウは、ドラマや映画に関してはとんと涙腺が緩い。
「ヨウー、もう行くよ?」
自室から出た友弥がリビングに入ってきて声をかける。ちょうどドラマも終わったようで、次回の予告が流れ始めていた。ヨウは涙声で返事をすると名残惜しそうに立ち上がる。振り返った顔は目尻が赤くなっていてまだ瞳が潤んでいた。
「殺し屋がこんなんで泣くなよな」
幸介が呆れたように苦笑し、ヨウはうっせえとぶっきらぼうに言う。友弥はきょとんと首を傾げ、テレビに流れている予告を見て納得した。
「仕事大丈夫?」
友弥は平坦な声で聞く。テレビ画面の中では引き離された家族が再び一緒になろうと奮闘しているようだ。素晴らしき家族愛、涙が出るのも仕方があるまい。ただ彼らは殺しを生業としていて、時には幸せな家族を引き裂かねばならないこともある。例えば今夜の仕事のように。
「別に。仕事は仕事だし」
ヨウはあっさりとそう言ってのけた。分かった上で聞いていた友弥は、少し頷いて見せただけだ。
ヨウはテーブルの上に置いたままだった仕事の要項を最終確認する。珍しいことにターゲットは一般家庭の夫婦だった。依頼人は個人的な恨みがあるのだそうだが、それは依頼を受けた幸介だけが知っていればいいことで実行する側には何ら関係はない。
騒ぎを起こさずに終わらせたいため、主に友弥が仕事をする。ヨウは補佐と、免許を持っていない友弥の代わりの運転手だ。
家族構成を見れば、息子が一人いると記されていた。10歳。ちょうどドラマの子役と同じくらいの年齢だ。
「子供はどうすんの」
ヨウが資料をめくって仕事場までの道筋を確認しながら幸介に聞く。
「任せるわ」
端的な返事に、あーいとヨウは了解の意を示して資料をテーブルに放った。現場の状況に応じて判断しろということだ。友弥はとっくに家の構造からターゲットのプロフィールまで目を通し終えているので改めて確認することもない。仕事に必要な道具を身につけているかだけを確かめて玄関に向かった。
「じゃあいってくるね」
「いってらっしゃーい」
友弥が振り返りざまに言うと、間延びした幸介と涼の声が揃った。ヨウも車の鍵を手にして友弥の後ろに続く。
外に出ると夜であっても蒸したような暑さが広がっていて、思わずため息が出た。昼に比べればマシになったがぬるい風が絡みついてくる。
「早く終わらせよーぜ」
手慰みに車の鍵を弄びながら言うと、元よりそのつもりだと友弥はのんびりと返した。
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