裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を

水ノ灯(ともしび)

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慈善も気まぐれに

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 入り組んだ細い路地を奥へ奥へと進んでいくと、何の看板も出ていない重厚な扉がある。一般人ならまず怪しがって近寄らないだろう。興味本位で開けたとしても結局中に入ることはできずに帰るはずだ。
 涼は慣れた道順を辿って薄暗い路地裏に入ると、重々しい扉を迷いなく開けた。体を滑り込ませるとそこにはもう一枚の扉がある。外の古めかしい扉とは違って近代的で淡白な扉だ。そこにはロックがかかっており、誰もかれもが踏みこめるわけではない。しかし涼が呼び鈴を押すとあっさり鍵の外れた音がし、扉は一人でに開いた。

「いらっしゃい」

 涼の姿を認めて店主はにこやかに声をかける。外見よりも広く見える室内は壁に張り巡らされた金網にいくつもの銃や刃物が並べられていた。カウンターの向こう側は工房のようになっていて、店主は手元の作業を止めて顔を上げた。
 店主は世良せらと言い、丸みのある黒髪は垢抜けない幼さを感じさせた。小柄な体躯と童顔の上にかけた丸眼鏡のせいで、涼より歳上でありながらまるで子供のように見える。

「銃のメンテナンス終わってるよ。涼くんの癖に合わせてみたんだけど」

 世良はそう言って奥を探ると、カウンターに涼が預けていた銃を置いた。涼は早速手に取り、握り心地を確かめる。歪んでいたグリップを直し、何箇所か調整をしてくれたらしい。

「さっすが世良ちゃん」

 ぴったりと手に馴染む銃の冷たさに涼は弾んだ声を出す。世良は照れ臭そうに笑って軽く礼を返した。
 涼くんは重いの好きだよね、と世良は笑う。重たい銃を好んで使っているつもりはなかったのだが、確かに他のメンバーのものよりも大きくて重い銃を選びがちだ。銃床で相手を殴打する時に威力があるからだと適当に言うと、だからグリップが歪むのだと呆れられた。だったら木製の物にするべきだと助言されたが、鉄製の方が見た目が好きなのだから仕方がない。

「あと通信機の修理も終わったよ。思ったよりひどくなかったみたい」

 そう言って世良が出してくれたのは以前の仕事でヨウが壊した通信機器だった。買い替えだろうかと思っていたが、部品の交換で間に合わせてくれたようだ。
 世良は銃器の販売を行っているだけでなく、銃の改造からメンテナンスまでこなしてくれる。その上通信機器や暗殺道具、その他諸々の面倒を見てくれるため何でもできる職人として頼りにしているのだ。
 助かる、と涼は代金の支払いをして品を受け取る。

「試射してく?」

 もし不具合があれば直すと世良が申し出てくれる。ありがたく射撃場に寄って行こうと思った時、不意に外で悲鳴が上がった。
 涼も世良も何事だろうと目を見合わせる。そう治安のいい地域ではないのでいざこざは日常茶飯事だが、甲高い悲鳴は確かに女性のものだった。こんな昼間からよくやるものだ。

「いいや。ちょうど試し撃ちできそうだし」

 涼は手早く銃を掴むとマガジンを外して弾を確かめる。あらかじめ詰めておいてくれたようで、全弾ではないがしっかりと弾は収まっていた。それを確認すると再びマガジンを収め、上着で隠していた脇のホルダーに差し込む。
 通信機器もポケットに突っ込んで立ち去ろうとした時、世良が慌てて引き止めた。

「涼くんこれ、お得意様だからおまけ!」

 世良が渡してくれたのは弾の入った予備のマガジンだった。涼はマガジン片手に礼を言ってすぐに出て行ってしまう。わくわくとした背中を見送ると、世良はいつもの通り業務に戻った。
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